ノームのいる森
ルーカスの愛称をルークとしました。
二つの小さな影が砂漠をゆっくり動いている。
太陽の光が遮る物のない砂漠に容赦なく降り注いでいる。
砂だらけの地面は太陽の光に照らされてキラキラと輝いている。
幻想的ですらある光景だが、ここを越えようとする生き物にとってはただの地獄でしかない場所だ。
しかしこの二つの影には影響がないように見えた。
影の下には少年と少女がいた。
この影が太陽の光を遮っているのだろう。
さらに影からはミストシャワーが出ているようで影の下には小さな虹が出ていた。
影はまるで小さな雨雲のようだった。
★☆★☆★☆★☆
エミリー達はノームに会うためにエミリーの御神体のある森に行くことになった。
ただ歩いて行くには時間ががかかりすぎる事がわかった。
普通に一か月程度はかかるらしい。
ちなみにここから一番近い他の人々の村まではさらに一か月くらいかかるそうだ。
ここの村はある意味秘密の村なので村人達はここから出て行くことは滅多になく、逆にこの森に入ってくる人もいなかった。
魔石の効力が失われていたので訪ねてくる意味がなかったのだろう。
しかしこれからはまた人々が訪れるかもしれない。
魔法が復活したし、オームはもともと聖地だったのだから。
昨日の夜、森から戻ったエミリー達はジェシカ、サクヤ、イワナガにポーション作りのために各地に旅に出る事を伝えた。
目的地までの行き方が問題になったが、ここはゲートを開いて移動することにした。
ゲートは一度行った場所同士ならジェシカとサクヤが開く事ができる。
この移動手段なら基本的にベースキャンプはイワナガのお屋敷にする事が出来るので大変便利だった。
ゲートを開くのには条件がある。
レベル100到達と大神様の試験に合格することだ。
カーラは試験を受けていないため、まだ開く事ができなかった。
「ちょっと戻ってアランからジジィに試験受けれるよーに頼んでもらってくるぜ。」
ジェシカはとても簡単そうに言った。
「ちょっとジェシカ、試験ってそんなに簡単なものじゃないでしょう?」
「エミリー、試験を受けるにはレベル100到達以外にもう一つ条件があるんだ。カーラは今その条件を満たしたから問題ねーのさ!」
「お姉様、条件って何?私いつのまに満たしたの?」
「試験を受ける条件は加護を持つ者と一緒に行動できる事さ!試験は2人で受けるんだ!」
「え、じゃあ、ライアンのナイト授与は私にとっても大事な事だったのね!」
「そうよ、でもこんな強い絆を持つことは珍しいの。しかもパートナーが人間なんてここ最近の試験ではなかったわ。私のパートナーは精霊だったものね。」
サクヤはそう言って微笑んだ。
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二つの影は森に入ると消えて、その下にいた少年と少女の姿が露わになった。
少年は周りを見回すと右手を上げ、呪文を唱えた。
「光の精よ、我が声に応え聖なる光で我等を照らし守り給え、ホーリーライト!」
2人の上に光の玉が現れ、薄暗い森は少し明るくなった。
入り口からの道は森の奥に続いているようだった。
2人は顔を合わすと頷いて、しっかりした足取りで奥へと進んでいった。
しばらく行くと少しひらけた場所に出た。
広場には何もなかったが、所々凹んでいたり焦げた跡があった。
「比較的最近出来たのものみたいだよ。」
少女は広場を観察しながら言った。
「そうみたいだ。魔獣と戦った跡かな?もしそうなら倒してくれてればいいけど。」
少年が腰のナイフに手を置きながら言った。
「多分魔獣相手じゃないよ。きっと攻撃魔法の練習をしていたんじゃないかな?」
「何でわかる?」
「別に。何となくだよ。ただ凄い魔力を持った2人だね。風と火の魔法の痕跡がまだ残ってる。」
「凄い割には跡が小さくないか?」
「これは意識的にコントロールしているんだよ!ちょっとライトを消してみてよ。うまく行くかわからないけど、前から試したかった事があるんだ!」
ライトが消えると辺りは薄暗くなった。
「この地に集まる精霊達よ、ここに残る魔法の記憶を呼び戻し、その痕跡を示したまえ、トレース・オブ・マジック!」
少女が右手を前に出すと、白い煙のような影が二つ現れ、ユラユラと動き出した。
初めはゆっくりだったが次第に動きは早くなっていった。
白い影はその早い動きに耐えられなくなりやがて霧散して消えてしまった。
「うーん、まだまだ魔力も術もこれからみたいね。もっと練習が必要だわ。うん、ありがとう、ルーク。先に進みましょうか。」
「そうしよう、キャンディ。魔石の反応がこれまで以上強くなってる。きっと後少しのはずだ。」
ルーカスはまたホーリーライトを唱えると、キャンディと歩き出した。
2人が去った後、広場はキラキラした光で満たされていた。
その中で少女の姿の二つの光が縦横無尽に駆け回り、的とおぼしき光の玉を次々に弾けさせていった。
『すごいね!すごい子が来たね!』
『うん、すごい子達だね!男の子は契約もしていないのにホーリーライトを使うよ!』
『女の子は才能が溢れているよ!もしかしたら気に入られるかもしれないよ!』
『そうだね、気に入られるかもしれないね!』
『気に入られるといいね!』
『契約できるといいね!』
光はだんだん小さくなって、2人を追いかけるように流れていった。
★☆★☆★☆★☆
「エミリー、御神体に魔法使いが近づいてるって森の精霊から報告があったです。」
エミリーの肩に不意に茶白が現れた。
「ねこさんだー。」
カーラが見つけて声を出した。
「あ、ネコさんだー。」
続いてリーが声を出した。
「お、元気か、ネコサンダー。」
ライアンは声をかけると頭を撫でようとした。
「シャー!」
右手が空を掻くと雷撃がライアンを直撃した。
サクヤがライアンに回復魔法をかけている。
「この子が昨日言ってた風の精霊シルフね。ところでねこさんだーって何?」
「サクヤ姫、そのままの意味なの。猫さん見つけたって言う。語呂がいいから。でもシルフは気に入ってないから、油断すると雷撃を食らっちゃうから気をつけてね。」
「風の精霊なのに雷とか意味わかんないです!イメージがそのまま魔法になるなんて無茶苦茶です!」
シルフは怒ったようにサクヤに訴えた。
「でもエミリーさんは魔法神だからイメージが強いのはしょうがないの。でもあなたはマシな方よ!私が精霊と契約した時は、相手を空飛ぶクジラにしちゃって怒られたわね、せめてイルカにして欲しかったって!」
「そのクジラのウンディーネがよろしく言ってたです。」
「あらあなた一緒にいたのね。あの子は元気にしてる?」
「元気です。サクヤのことをいう時、引きつっていたのはこういう事だったですか。道理で一緒に来なかった訳です。」
「え?サクヤ姫、水の精霊の契約者だったの?だったら水の魔法使いもいらないんじゃ?」
「うふふ、精霊ウンディーネが来ないって事は私よりいい人が他にいるってことよ。それにあなたが成長できないわ。昨日の計画通り、進めていってごらんなさい。」
「そうなの?わかりました。頑張って美味しいポーションを作ってみるわ!」
「エミリー、ポーションもいいけど、今は魔法神の仕事をするです!」
シルフが口を挟んだ。
ジェシカが御神体の祠に繋がるゲートを作った。
「でも運がいいわね。ちょうどいいタイミングで御神体を見つけてくれるなんて。」
「ちょっとあんた、何いってるの。お姉様の力に決まってるじゃないの!」
「え!そうなの、ジェシカ?」
「うん、まあそうだな。エミリー自身の運ももちろんあるけど・・・8割くらいあたいの力だな。」
「すごいですね、ジェシカ様の力って。」
ライアンが感心したようにジェシカを見た。
「ライアン!あんまりお姉様ばっかり見ちゃダメよ!」
「カーラ、あんまり独占欲が強いと逃げられるわよ、ねえ、リーさん。」
「そうですよ、カーラ様。押し付けすぎてはいけませんよ。」
「うー、じゃあ、お姉様とリー姉さんはいいわ。でもエミリーの事は見ちゃダメだからね!」
カーラはエミリーをキッと見てそう言った。
「あら大変、ライアンと仲良くできないと彼の魔力が上がらないかもしれないわ。そうするといつまでたってもカーラとキス出来ないわ。でもしょうがないわね。愛しのカーラの頼みですもの。」
そう言ってチラッと仲良く並んでいる2人を見る。
「お姉様がいるから大丈夫よ!幸福神の力は伊達じゃないわ!」
カーラがどうよとばかりにこっちを見た。
「おい、カーラ。あたいはこの旅は一緒に行かねーぞ。あたいとサクヤは部外者だから極力協力しねーって決めてんだ。お前達の評価が下がっちまうからな。しばらくゲートを開いてやるくらいさ。あたいがいないって事はこれからはうまくいくことばかりじゃねーからな。だから仲良くしなきゃダメだぞ。」
ジェシカの言葉にカーラは少し呆然としたようだった。
「エミリー様、どうか私が一人前の魔法騎士になれるようお力をお貸しください。カーラ様を守るために必要な力なのです。」
ライアンはエミリーの前に来ると丁寧に頭を下げた。
「もちろん喜んで協力するわ。でもあなたの恋人は許してくれるのかしら?」
「ちょっとだけ、待ってくれますか?直ぐ許してもらいます!」
ライアンはカーラを連れて少し離れた。
「カーラ!君からも頼んでおくれ。ジェシカ様の言うように我々は仲良くしなければならない。私が強くなることは君の為だということはわかっているだろう?」
ライアンは2人だけになるとカーラに話しかけた。
カーラはムーっとした顔をしてライアンを見ていた。
「ねえ、あなたは強くなりたいの?それとも・・・き、キスがしたいの?」
「どちらも大事な事だから・・・君を守るためにはもっと強くならねばならない!キスは・・・本当は直ぐにでもしたいよ。カーラ!」
ライアンはカーラの手をぎゅっと握った。
「ねえライアン、早く強くなっていっぱいキスしてくれる?」
カーラはライアンをまっすぐ見てからハグをした。
「・・・私も直ぐにキスしてほしい。だから早く強くなって!約束よ!」
「も、も、もちろんだ!約束しよう!」
ライアンはカーラに回した手に力を込めて答えた。
2人は戻ってくると真っ赤な顔で改めてエミリーにお願いをした。
「さあ、準備はいい?エミリーさんは訪問者を迎えたら、どんな子なのかしっかり見極めて加護をあげてね。うまくいけばポーションチームの新しい仲間になるかもしれないわ。」
「そうなったら、そのまま精霊ノームを訪ねてみるといい。夕方またゲートを開くからな。」
「行ってくるわ!」
エミリー達はゲートをくぐった。
新しい世界を担うであろう最初の魔法使いに会うために。
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しばらく歩くと洞窟があった。
魔石を見るとふるふると震えている。
ここが目的の場所で間違いなさそうだ。
2人は念のためステータスボードを見た。
ーーー<ルーカス・ミラー>ーーー
種族:人間
称号:光の魔法使い
レベル:10
HP:F(100/200)
MP:D(50/300)
力:F
魔法力:D
防御:F
速さ:F
運:D
スキル:ホーリーライト
ーーー<キャンディ・スミス>ーーー
種族:人間
称号:水の魔法使い
レベル:10
HP:F(100/200)
MP:D(35/300)
力:F
魔法力:D
防御:F
速さ:F
運:E
スキル:魔力感知
「MPが少ないけど洞窟からは女神様の魔力しか感じないから大丈夫だと思う。」
キャンディが洞窟を見ながら言う。
「念のためホーリーライトを出しておくか?」
「もっと明るい方が安心よ。この中は普通の明かりでいきましょう。」
「じゃあ、普通の光で行くか。」
「精霊よ、光を発して我らの周りを明るく照らし給え、ライト・ライク・サンシャイン!」
洞窟の中は電気がついたように明るくなった。
「やり過ぎよ。」
キャンディは少し呆れたように言った。
「だって女神様に会うんだぜ!ちゃんと見てもらいたいじゃないか!魔法がショボいと思われてガッカリされたら嫌だろう。」
「そうね、私もさっき魔法を使わなかったらよかったわ。そうすれば美味しいコーヒーをご馳走できたのに!この魔力じゃ甘いお茶くらいしか出せないよ。もう薬草もないのよね?」
「ああ、砂漠越えに全部使っちゃったからなぁ。」
「女神様はどんな方かな?優しいといいな。いっぱい魔法を教えてくれるかな?」
「きっと素晴らしいに決まってるさ!お告げの声はそれはそれは神々しかったよ。そうだろう?それにチラッと見えたイメージでは俺たちとあまり変わらない歳だったぜ!」
★☆★☆★☆★☆
エミリー達は祠の後ろに隠れて精霊から送られてくる情報をシルフの魔法を通して見ていた。
「エミリー、この魔法使い達・・・やばくない?」
カーラのこの直感は正しい。
魔法スペックがすでにやばい。加護を与えるとカーラのスペックを超えてしまうのだ。
エミリーにしてもスペックこそカーラより上だか実力はほとんど変わらないのは誰もが知るところなのだ。
「ど、ど、ど、どうしよう?シルフ何かいい方法はない?あの子達にガッカリされない方法!」
「エミリーは困ったマスターです。安心するです。風の精霊シルフの名に於いて断言するです!エミリーこそ世界一の魔法使いなのです!少々魔法が使えるくらいでその座が揺らぐことなどないのです!エミリーはドンと構えていればいいのです!」
「うん、わかったよぉ。ドンとしているから、あとは任せたからね!」
エミリーは藁にもすがる思いでシルフの言葉に答えた。
「任されたデス!」
語尾の妙なテンションが気になるエミリーであった。




