水と風の精霊
薬草探索の4人、すなわちエミリー、カーラ、リー、ライアンは森を探索していた。
探索は午前8時に出発して午後3時に帰ってくるように行い、今日は3日目だ。
宴の次の日から始める予定だったが、出発したのは4日目の朝だった。
宴の後、カーラとライアンはいろんなところに挨拶に回ることになり、エミリーはすっかり人気が出てしまい歩けばすぐに囲まれて簡単な魔法を教えたり、派手めな魔法を披露したりする羽目になっていたからだった。
「やっと落ち着いてきたわね。リーさん。」
「そうですね、エミリー様。」
2人は少し後ろで手を繋いで歩いているカーラとライアンを見ながらため息混じりにそう言った。
探索初日はあまりに2人がイチャイチャするので森に入ってしばらくしたら、エミリーとリーによる節度ある交際についての特別講義を開く必要があったほどだ。
今日は森の奥まで行く予定なので、ライアンにもしっかり護衛をしてもらう必要があったが、まだしばらくは手を繋いでいてもいいだろう。
「森の奥に行くとやっぱり危険な魔獣なんかが出てくるのかしら?」
「正直なところ、エミリー様やカーラ様にとって危険な魔獣はまだ出てきませんね。」
「そうなんだ、それって私達が強いって事?それとも魔獣が弱いの?」
「魔獣は決して弱くありませんけど、エミリー様達の身体スペックが普通じゃないんですよ。」
そう言ってリーは苦笑いをする。
「そうなの?でも私もカーラもまだまだだと思うけどなあ?」
「ライアン!ちょっとこっちに来なさい!」
リーがライアンを呼んだ。
「エミリー様に見せてごらんなさい。」
リーはそう言って魔石を取り出した。
ライアンが魔石に触れるとステータスが現れた。
ーーー<ライアン ダールマ>ーーー
種族:人間
称号:カーラのナイト、ダールマ家当主
レベル:5
HP:E
MP:F
力:E
魔法力:F
防御:E
速さ:E
運:C
恩恵:黒闇天の加護
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「ライアンは人間ではなかなか強い方です。お館様に認められて剣を習っているのですから。半年でレベル5まで上がるのは大したものなんですよ。」
「じゃあ、普通はどれくらいなの?」
「普通の人間はほとんどの項目がFで、レベルもせいぜい3くらいなものですね。」
「ライアン、頑張ったのね!」
「そうさ!カーラのナイトになる為に頑張ったんだ!」
「嬉しい!大好きよ!」
「「はいそこ!イチャイチャしない!」」
確かにステータスのほとんどがC以上の女神は地上ではオーバースペックなのだろう。
「ねえ、リーさん。もしかしてステータスがオールCってすごいの?平均かと思ってたんだけど。」
「エミリー様、ステータスボードはサクヤ様監修ですよね。多分神様の中では平均なのだと思いますよ。」
「それなら私達は地上にいる時はポーションとかいらないんじゃない?そんなピンチってなさそうな気がするわ。リーさん、もしかして私すごく面倒な事頼んじゃってない?」
エミリーは余計な仕事を増やしてしまったのではないかと思い尋ねた。
「エミリー様は優しいですね。でも良質なポーションは私達にこそ必要になるはずです。だからむしろこの機会を与えてくださって感謝していますし、一緒に手伝ってくださるなんて身に余る光栄なんです。だからもっと何でもおっしゃってください。私もしっかり働きますから!ライアン!あなたもよ!」
リーはそう言ってライアンを見た。
ライアンはカーラに向けていた視線をこっちに向けて元気よく「はい!」と返事をした。
「光栄だなんて。リーさん、はじめは嫌そうな顔してじゃない。付いてくるの?みたいな。」
「そ、それは、まだエミリー様の事がよくわかってなかったから・・・でも今は社交辞令じゃなくて本当なんです。すみません。」
リーは恐縮したのか小さく答えた。
「冗談よ!そんなに恐縮しないで。でもあなた達の方がポーションが必要になるってどうゆう事?何かあるの?」
「いえいえ、まだこれからの話ですよ。ただお館様は魔法の恩恵は人間だけのものじゃないって言うんです。動物や植物にも影響が出るだろうって。その中には強い魔力を持つものもきっと現れる。そんな魔物を相手にする時に良質なポーションや他の魔法薬が必要になるって言うんです。」
「あぁ、確かに!そういう事は全然考えなかったわ。これじゃ魔法神としてダメね、しっかりしなくちゃいけないわ。」
「エミリー様、まずは美味しいポーションです!森や魔法薬の勉強になりますし、精霊に会えれば魔獣や魔草の情報も伝えてもらえますよ!」
「精霊?精霊って魔法を使うのに力を貸してもらうものだって聞いているわ?空気みたいな目に見えないものだと思っていたけど会うことが出来るの?」
「もちろん出来るわ!」
カーラはエミリーを見ながら得意そうに答えた。
「あなたは精霊に会ったことがあるの?」
「あるわ!お姉様は精霊と話しが出来るの!精霊はどこにでもいて、その場所に詳しいからお姉様は情報を聞きたい時、よく呼び出していたのよ!」
「カーラ、それはジェシカが妖精だからできたんじゃないのなぁ?」
「そ,それはよくわかんないけど、精霊に会うことができるのは確かなのよ、ねえ?リー姉さん。」
「リー姉さん?」
「ライアンがリー姉さんは姉貴分だって言うから!ライアンの姉さんなら私の姉さんになるでしょ!」
え?そうなの?と思っていたら
「じゃあ、姉さんの言うことはちゃんと聞くのですよ!」
「はい!リー姉さん!」
あっさり馴染んでいた。
なんか上手くいきそうな感じだからまあいいか。
「ちなみにジェシカはどんなことを聞いていたの?」
「うーん、お姉様は初めての場所に来ると、そこの精霊の長に美味しいお酒とつまみを聞いていたわ。一度来た場所だと精霊の方が寄ってきて新しいお酒やつまみを教えてくれていたわ。」
「お酒ばっかりじゃないの・・・」
「いいえ、エミリー様。精霊の長に会えるなんてさすがジェシカ様です!しかも初めて訪ねた場所で!魔力が強い者なら精霊を見ることができますけど、精霊は相手を認めないと決して近寄っては来ないんですよ。
普通は好奇心の強い精霊がたまたま寄って来てくれて初めて関係が生まれるんです。そこから信頼関係を築いて強い絆ができるとやっと長に会えるんです!」
「ふふん、どう?エミリー!お姉様はすごいでしょ!」
「なんであなたが威張ってるのよ。まあ、さすがは妖精王ジェシカ様ね。でも私達だけじゃ協力してもらうのはずっと先になりそうね。」
「ふふふ、それはどうでしょう?以外と早く協力してくれると思いますよ。」
「???」
「エミリー様の魔力量は尋常じゃないそうですね?精霊は魔法と関係が深い ので、向こうから姿を見せてくると思いますよ。」
「そうだといいんだけどな。」
エミリーはちょっと信じられないと思いながらも早く会って見たいとも思っていた。
カーラとライアンは仲良く手を繋いで歩いていたが、リーに言われたからなのか余計なおしゃべりもせずついて来たので、予定通り森の奥に進むことができた。
「もう少し行くと泉があるので、そこで一休みしましょう。」
しばらく歩くといくつもの泉が湧く開けた場所についた。
リーが手を上げるとテーブルと椅子が用意されたのでそこで休憩することになった。
「リー姉さんも魔法で物が作れるのね?」
「はい、土魔法の魔術です。昔ジェシカ様に習って練習したんです。まだまだですけど一応形にはなってきたんですよ。」
「そんな事ないわよね?すごいわ!でも魔術って魔法とどう違うの、エミリー?」
そんな事知らないわよ!と思ったら、頭の中に魔術の事が浮かんで来た!?
「魔術はね、魔法効果を持続させたり、物質化するために使う方法のことよ。一番の違いは魔法は本人の魔力を消費するけど、魔術は大気の魔素を使うの。普通は魔術式を詠唱したり、魔方陣で発動するんだけど、リーさんはアクションはあったけど無詠唱で使っていたから実は凄いことなんですよ。」
「え、そうだったんだ!ジェシカ様は『対象をイメージしてこう!』みたいな感じだったから・・・」
「ジェシカらしいわ。」
「確かにお姉様らしいわね。」
3人は顔を合わせて笑った。
ライアンだけは訳がわからないと言った顔で3人を見ていた。
4人は持ってきたお茶とお菓子でまったりしていた。
カーラはライアンにクッキーをアーンして食べさせようとしてライアンを困らせている。
エミリーはボーっと泉を見ていたが、ふと泉が来た時よりもキラキラ輝いていているのを感じた。
「ねえ、リーさん。泉がキラキラしてるみたい。」
「エミリー様、泉だけじゃありませんよ。周りを見てください。」
リーに言われて周りを見ると、まるで木漏れ日がさしたかのようにキラキラと輝いていた。
「これは・・・」
「精霊達ですよ。さすが魔法神エミリー様。ね、言った通りでしょう!さあ、変身してください!」
「はい?」
この人は一体何を言っているのだろうか?
「早く!急いでください!!」
リーの顔がマジだ。
「マジカルチェーンジッ!!」
勢いに負けて変身してしまった・・・
「あっ、ちょっとあんた何変身してんのよ!私も変身するわ!マジカルチェーンジッ!!」
輝く森の中にピンクとブラックの魔法少女が降臨した。
2つの大きな光が近づいてくると、2人の前で弾け、精霊が現れた。
「森の泉へようこそ。光と闇の魔力を持つ女神達。私は水の精霊ウンディーネ、隣は風の精霊シルフです。」
大人の女性の姿をしたウンディーネが挨拶をすると、少女の姿のシルフは隣でペコッとお辞儀をした。
「はじめまして、私は魔法神エミリーです。」
「はじめまして、黒闇天カーララートリーです。」
「強い力を持つお二人は何故森へいらしたのですか?」
「実は美味しいポーションを作るために薬草を探しに来たのです。」
「私は森の事がもっと知りたくて探検しにきたんです。」
2人の答えを聞くと、精霊達はアレっという顔をしてこっちを見ていた。
「な、何かまずい事でもありましたか?」
エミリーは恐る恐る聞いてみた。
「あの、別に何の問題もないです。ただ、凄い魔力を持っているから、てっきり魔法強化ために来たのかと思ったです・・・」
シルフが照れ臭そうに答えると、ウンディーネも頷いていた。
「ええ、ほんとにただ美味しいポーションを・・」
「えー!ホントっ!?魔法強く出来るの!私強くなりたい!」
エミリーの言葉はカーラの本音にかき消されてしまった。
「カーラは強くなりたいですか?うん、そこまでいうならしょうがないです。ちょっと魔法を見せてくれますか?」
シルフは嬉しそうに言った。
「ファイヤーボール!」
カーラの右手に火の玉が乗っている。
「カーラは火属性特化みたいだけど・・・あれ?最近氷属性も手に入れてるです?ああ、彼の影響・・・ですね?」
シルフはライアンを指差して少し怪訝な顔をしてこう言った。
「ねえ、もうチュー・・・したですか?」
「て、手にはしたわ。」
「違うです。口にです。」
!!!!!!
みんなの視線がカーラに集まった。
そんなはずはない・・・しかし、もしかしたら・・・
「ま、ま、ま、まだよ!まだ会ったばかりだし、そ、そ、そ、そんな事早すぎるわ!」
「そ、そ、そうよね。まだ早いわよね。」
カーラの答えにエミリー達はちょっとだけホッとしていた。
「そう、まだなのですね。普通はもっと仲良くならないと手にはいらないです。ね、ウンディーネ?」
「そうね、ちょっとそこのサムライくん!こっちに来てそのカタナを抜いて魂を込めてくれない?」
ライアンは刀を抜いて精神を集中した。すると・・・
何と刀身に炎が宿った!
「何これ?ライアン・・・あなた火属性の魔法が使えたの?テストでは魔力反応なんてなかったのに!」
リーが驚いている。
「ああ、サムライくんには魔法の才能はありませんよ。でも魔術が使えるようになりましたね。キスもまだなのに凄いことです。よっぽど二人の相性がいいのでしょう。」
「もし・・・キスしたらどうなるの?」
カーラが真っ赤になって尋ねた。
「たぶん、二人だけの特別魔法が使えるようになるです。でもまだチューしてはいけないです。もっと魔術の練習をしてからじゃないと、サムライくんの身体が燃えちゃうです。」
「どのくらい練習しないとダメなの?」
「魔術は魔法と違って勉強と努力をすれば鍛えられます。サムライくんの魔力は今は小さいですけど、そうですね、キスするくらいなら20年も修行すれば大丈夫でしょう。」
「そ、そんなに・・・・・?」
あっさり言うウンディーネの言葉に、カーラは唖然とし、ライアンは刀を落としてしまった。
キスするのに20年・・・
キスはまだ早いと思っていたエミリーとリーだが、さすがにこれはないと思った。
女神と人のお付き合いは想像よりも過酷な試練があるようだ。
誤字の修正をしました。




