恋心
女神の紹介は派手に行われた。
当初は館の大広間で行う予定だったのだが、ナイトの授与が急遽決まりそれを一般公開することになったため、女神の紹介も広場に作られた特設ステージでおこなう事になったのだった。
今日は特別な日とあって、朝からお祭りムードだったが、流石に女神様を直接拝めるという奇跡に対してエルフはともかく村人の緊張は徐々に高まっていき、拝顔の直前ともなると誰も声を出せない状態で静かで厳かな雰囲気だった。
「まもなく女神様方が参ります。みなさん特設ステージまでお越しください!」
リーが魔法で森中に伝達すると、ぞろぞろと集まってステージ前に人垣ができていった。
「みなさん集まったようですね。それでは開催の挨拶をお館様より頂きます。」
イワナガが舞台の袖から現れ、中央に立ち宣言した。
「皆の者、今宵の宴の準備ご苦労であった。知っての通り、本日、4人の女神様がこの地に降臨された。その祝いの宴であったが、何ともありがたい事に女神様もご参加頂けると快諾していただいた!女神様は退屈な時間を好まれんゆえ、今宵は無礼講といたす!皆、思う存分楽しんでくれ!」
イワナガの無礼講宣言と同時にステージから音楽が流れだし、緊張した空気を変えていった。
すると次第に辺りはざわめき始め、歓声が起きると今度は至る所から音楽が鳴り始めた。
こうして女神を交えてのエルフと人間の初めての宴が始まった。
予定ではリーさんの紹介で女神が一人ずつ登壇して挨拶をするはずだったのだが、
「あー!めんどくせーな!」
の一言でなくなった。
ジェシカはおもむろにステージの中央に飛んで行くと、
「あー、あたいが幸福神ジェシカ様だ!初めましても懐かしい奴もちゃんといてうれしーぜ!今日はあたいの妹分、カーラの祝いに集まってくれてありがとう!これはあたいからの感謝の気持ちだ!遠慮なく受け取ってくれ!」
そう言って大きな光の玉を広場の上に作り弾けさせた。
弾けた無数の光の粒は広場全体に降り注ぎ、これに触れた者は例外なく気分が高揚しフワフワとした何ともいえぬ幸せな気分になった。
「幸福神のサプライズプレゼント!『ハピネスシェアリング』でした!私、酒神コノハナサクヤもみなさんにプレゼントを用意しましたわ。サクヤ特製の祝い酒です!今宵はどうぞお楽しみくださいね。」
広場の真ん中に酒樽の山が出現すると、エルフ達は待ってましたとばかりに酒樽を広場のあちこちに運び、露店の者達がみんなにグラスやコップを配り出した。
あっという間に乾杯の用意が出来上がってしまった手際の良さからサクヤ姫が訪問するといつもこんな感じなのだろうとエミリーは思った。
「次はお主達だ。ずいぶん2人が盛り上げてくれたから、やりやすかろう。準備はいいか?」
イワナガ姫に声をかけられ、反対の袖にいるカーラを見ると大きく頷いている。
「大丈夫です。」
「では、派手に踊って参れ!」
祭りの明かりが消え、辺りは月の光だけになった。
月明かりの中、広場に大きな影がヌッと湧いた。
「魔獣だーっ!」
獣に気付いた周りの人が大声をあげ、近くの人々はすぐに散らばった。
「エアボール!」
少女の声が響くとほとんど同時に淡く虹色に光る玉が魔獣にヒットした。
「ガッ」
魔獣が呻き、攻撃を受けた方向を向いた。
2人の少女に気付いた魔獣は一気にステージに向かって駆け出した。
かなりのスピードで近づいてくる魔獣の前にステッキを持った少女が飛び出した。
「ウィンドウォール!」
少女は風の壁を作るとすぐに左に飛んだ。
勢いのついた魔獣は簡単に壁を突き破るとそのままステージに向かう。
「やっぱりちょっと硬いわ!少し強めでお願い!」
「わかった!んーっ、フレイムバレット!」
ステージ右にいたもう1人の少女は左手から炎の弾丸を放つ。
ボンッと魔獣の頭にヒットし動きが鈍るが止まらない。
「あら、本当に頑丈ね!大丈夫?」
「大丈夫よ!ジャンプ!」
少女はステッキで前方の地面を突き、その勢いでステージ中央に大きく飛んだ。
「パワーシールド!」
ドンッと盾にぶつかり魔獣の勢いが止まる。
「か、ら、のーっ、ジェイル!!」
盾が牢屋の形に変化し閉じ込めた。
「エミリー、ナイス!100トンハンマーっっ!!!」
ドガッっと牢ごと叩き潰すと、魔獣はスッと消えた。
「カーラ!上よ!」
上空から翼付きの魔獣が向かってくる!
「エアアローセット・・・トリプル!・・・リリース!」
エミリーのステッキの先に三本の矢が現れ、放たれると魔獣を撃ち抜いた。
しかし魔獣は傷を負ったがまだ飛んでいる。
「強いけど、これはどうかしら!ドラゴンフレア!」
カーラが両手で作った巨大な火の玉は魔獣に当たると大きな爆発を起こした。
魔獣は大きなダメージを受けたが、まだ倒れない。
そしてこちらを睨むとステージに向けて急降下を始めた。
エミリーとカーラはそれぞれのステッキとメイスを両手で持って構えると精神を集中させた。
2人は大きく振りかぶると迫り来る魔獣に振り下ろした!
「「マジカルソード!!!」」
ステッキとメイスから伸びた風と炎の刃が魔獣を斬り裂いた。
倒れた魔獣がスッと消えると、消えていた灯りが再び点いて辺りは明るくなった。
「魔法神エミリー様と黒闇天カーララートリー様のマジックデモンストレーションでした!みなさん大きな拍手でお迎えください!」
リーのアナウンスが終わると割れるような大きな拍手が起こり、2人の女神は手を振って応えていた。
この後、サクヤの祝い酒で盛大に乾杯したのだが、この時2人は興奮状態が強すぎてステージでの出来事は覚えていなかったという。
ちょっと派手めのマジックショーのおかげでエミリーとカーラの存在は森の人々にとってより身近な存在になっていた。
見た目が少女なのも原因の1つだが、2人には神の威厳のようなものがなかったのが一番の原因だろう。
本来ならこのような事はあってはならないはずなのだが、今回だけはこの状況が望ましかった。
等身大の女神達が、次々と魔法を使って魔獣を倒すさまは新鮮で辺りでは小さな子供達が早速見たばかりの魔法ごっこは始めて、若者達はなにやら自分の手をじっと見つめたり腕をばっと上げたり突き出したりしている。
そんな風にしばらくみんなは嬉しそうに語り合い、酒や踊りを楽しんだ。
「みなさーん!楽しんでますかー?これから大事な発表がありまーす!ステージ付近に集まって注目下さーい!」
リーのアナウンスでステージの周りに人が集まりだし、これから始まる発表の話題で盛り上がっていた。
ステージの裏ではイワナガとライアンそして女神達が打ち合わせをしていた。
「ではカーラ、まず挨拶をして、ナイト授与を発表する。そこにライアンを呼び、叙任式を行う。良いか?」
「はい、大丈夫です。」
カーラは緊張した声で答える。
「ライアン、お主は抜いた刀をカーラに渡し跪き、刀が肩に置かれたら誓いの言葉を述べるのだ。カーラが刀をお主に向けたら刃に口づけをしてナイトの誕生となる。良いな!」
「は、は、はいです!」
ライアンの緊張は相当なもののようだ。
「ライアンよ、そんなに緊張せずとも良い。肩の力を抜け。村の者達はこの発表のことはすでに知っておる。皆喜んでいるのだ。堂々としておれば良いのだ。」
「え?みんな知っているんですか?」
「そうだ、準備があるでな。皆には盛り上げるよう頼んでおいたのだ。何しろ森にとってこんなに誇らしいことはないのだからな。カーラ、お主にとっても大事なことなのだぞ!」
「そうなのですか?」
「そうよ、だってライアンはあなたが初めて選んだ人間になるのよ。女神の側にいる事を許された特別な存在としてね。」
「??、サクヤ様、よくわからないです。」
「すぐわからなくてもいいわ、でもまっすぐな想いにはまっすぐに応えなくてはいけないって事は忘れないでね。」
「お待たせいたしました!それではお館様とカーララートリー様に登場いただきましょう!」
リーのアナウンスが響き、歓声が起こった。
「そろそろ時間だ。行こうか。」
イワナガとカーラは袖に移動した。
「ちょっといいかしら?」
残ったライアンにエミリーが声をかけ、少し離れた所で何か話していた。
舞台の上では、カーラが村の人達に今までとこれからの森の守護役のお礼をいい、その褒美としてダールマ家当主のライアンにナイトの称号を授与することを話していた。
ライアンが呼ばれてステージに向かった。
「さっきは何を話していたんだ?」
「好きならはっきり伝えなさいって言ったの。次があると思うなって。」
「でも言えねーだろ普通、こんなみんなの前でなんて。サクヤもそー思わねーか?」
「そうね、でもだから私達が協力するんじゃない。ねえ、エミリーピンク!」
「う、どうしてもそっちでやらないとダメなの?」
「もちろんよ、女神の儀式に割って入るんだから、正体がバレたらいけないでしょ?」
「サクヤ、バレバレだと思うぞ・・・」
「ジェシカ、私もそう思うよ・・・」
「何言ってるの2人とも!愛と平和のカルテット『マジカルガッデス』のデビューにこんなふさわしい舞台はないわ!淡い恋心を抱く少年少女の願いを叶えるのよ!」
女神達が話している内にステージではカーラが刀の刃をライアンの肩に乗せ、ライアンが誓いを口上するところまで進んでいた。
「私、ライアン・ダールマは女神カーララートリー様の為に己が心に恥じる事なく戦い、その御身を命に代えてもお守りする事をここに誓います!」
立派な誓いである。しかし下で見守っている人達から大きなブーイングが起きていた。
「おい、ライアン!違うだろ!みんなお前の気持ちが聞きたいんだ!」
「そうだ、そうだ!」
イワナガの仕込みはバッチリのようだ。
村人は口々に「ハッキリしろ!」「男を見せろ!」などと騒ぎ立てている。
ステージ上のカーラとライアンはいきなり発生したこの状況にどうしていいかわからずに戸惑っていた。
「うふふ、そろそろ私達の出番ね!行くわよ!」
嬉しそうなサクヤに2人は黙ってついていくしかなかった。
「マジカルチェーーンジ!!」
舞台に突如まばゆい光が現れ、3人の魔法女神が降臨した。
ステージの2人も下の人々も度肝を抜かれて呆けている。
「ある日突然胸の中に現れる小さな小さな暖かい光。
それは触れれば簡単に壊れてしまうとてもとても脆いもの。
みんな知っている、その光は胸を締め付ける苦しさと絶望的な悲しさをもたらす事を。
だけど知っている、その光は天にも登る幸福感と光り輝く喜びをもたらす事を。
だから誰もがこの光を大事に思う。壊れないように、壊さないようにと。
そして大切に育てようと願う。大きく丈夫になりますようにと。
でもこの光は大きく育つとその身を焦がし破滅させる恐ろしいもの。
それは決して1人で育ててはいけないもの。
胸の中に生まれた小さな暖かい光。人、それを恋心という!」
真ん中に立っているピンク色の髪の少女が語る。
「私はマジカルガッデスのピンク!愛と平和を願う者。生まれたばかりの恋心を応援する為今ここに推参!!」
エミリーはすっかりピンク(時代劇風)になっていた。




