ナイト
ウィリアム・ダールマはカーラが初めて加護をあげた人間だ。
初めて地上に降りた黒闇天カーララートリーは自分を祀っているオームの街で一人の人間に出会った。
女神である事を隠しお忍びで行動している時のことだった。
その人間は名をウィリアムといい、両親が熱心な黒闇天の信徒の元気な少年だった。
年の近かった(見た目の話だが)二人はすぐに仲良くなり街や森を探検した。二人の会える日は限られていたがずっと一緒に行動していた。そしていつまでも一緒にいられると思っていた。
しかし・・・それは叶わぬ想いだとやがて二人は知ることになる。
カーラとウィルは同じ場所にいたが二人には別々の時間が流れていた。
ウィリアムは少年から青年へと成長していったがカーラはいつまでも少女のままだった。
カーラはその事実に驚いたが、それよりももっと大変な事に気付いてしまった。
自分がいるとウィルに幸福が訪れないのだ!
今まで二人で見つけた事〜例えば森の中の危険な花や泉の場所の発見〜は表彰されてもおかしくなほどの素晴らしいものばかりだ。(たぶん・・・)
しかし、その手柄は全て他の人のものになっていたり、黒闇天様のおかげということになっていた。
二人は無欲で一緒にいる事が楽しくて気がつかなかったのだ。
ウィルはカーラと同じように人の幸せが自分の幸せと感じる人間だった。
だからこそカーラはウィルに惹かれたのだ。
2つの事実に気づいたカーラは考えた。
このままではウィルが幸せになれない、何しろ自分は貧乏神なのだ。一緒にいてはいけないと思った。
『貧乏神』という言葉は大嫌いだけど、ウィルだって貧乏神と知れば一緒にいたいとは思わないだろう。
カーラはウィルに自分が貧乏神であることを告げ、神の世界に帰ることにした。
別れの時、カーラは女神としてウィリアムに加護を授けた。そして同時に木製の短刀を与えた。自分の代わりのつもりで・・・想いを込めて。それは御神体の短刀と同じ形をしていた。
カーラは一緒に過ごす中でウィルこそが森の守り神、オームの長に相応しいと思っていた。
そこで秩序を意味する『ダルマ』をもじって『ダールマ』という家名を授けた。
カーラの加護を受けた者はその後もいたが、家宝や家名を受け取った者はいない。
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「ウィルはそんな事を願っていたの?本当に?」
「はい、そう伝え聞いています。幼い頃の約束だと。」
「幼い頃?じゃあ出会ったばかりの頃ね。確かに大きくなったら『私のナイトになって』って言ったわ。でも私は女神になったばかりで何も分からなかったし、あの頃はまだずっと一緒ににいれられるって思ってたんだもの。」
「ダールマ家にはウィリアムが残した密書が伝わっております。代々の当主だけが見る事が出来るその書に書いてあるのです。そこにはカーララートリー様との出会いから別れまでも記されておりました。一緒に過ごせた時間が彼にとってどれ程幸せな時間だったか、そしてその別れがどれ程悲しいものだったかも、なぜ別れなければならなかったのかも全部・・・」
ライアンはカーラを見つめた。
「そうなの、それならわかるはずよ。仕方がなかったって。私といるとウィルは幸せになれないし、私が帰った後、代わりに森の守り神としてオームを守ってくれる人はウィル以外に考えられなかったもの。
それにね、私達は会った時は同じくらいの歳だったのに最後の時は20歳以上の差があったのよ。一緒に歳を取ることができないの・・・私ね、ウィルをこれ以上悲しい気持ちにさせたくなかったの。」
カーラはライアンを見つめて悲しそうにそう言った。
「ウィリアムは確かにあなた様と別れた後、それまでが嘘のように様々な功績が認められ、オームの長のなりました。そしてあなた様の願い通り新しい森の守り神としての地位も手に入れました。」
「そう、ずっと見ていたわ。ウィルもその後のあなた達一族のことも。世界が滅ぶまでは。あの後、急にあなた達が見えなくなってしまったから、私はあなた達が死んでしまったと思っていたわ。でも生きていてくれた、変わらず役目も果たしてくれているのね。」
カーラはもう一度ライアンを見た。
「カーララートリー様、畏れながら申し上げます。我らは今はもう森の守り神ではありません。もちろん黒闇天様の信徒であることは変わりません。ただしもう森を守る必要はないのです。なぜならお館様が、森の女王、イワナガ様が姿を表し、森の呪いを消してしまったからです。」
「あ、確かにそうね!もう私達が守る必要はないわね。よかった!長い間本当にご苦労様でした。
じゃあ、あなた達にちゃんとご褒美をあげないと!ウィルの願いじゃなくていいのよ、だって役目を果たしたのはあなた達なんだから!」
「勿体無いお言葉!しかしながら私は16代目ダールマ家当主としてどうしてもあなた様に伝えないといけない事がございます。その上で一族の願いを考えて欲しいのです。どうかウィリアムの想いをお聴きください!」
「わかったわ。話してちょうだい。」
「ウィリアムは皆から頼られ、オームの長として勤めておりました。人々のために生きることは黒闇天様の信徒として当たり前でそれは喜ばしいことでしたが、ウィリアムの気持ちが晴れることは決してありませんでした。しかし彼はその気持ちを胸の奥に秘め、当主のみに伝えられた密書に記したのです。
その書はあなた様と見つけた様々な森の秘密や行き方なども記されており、普通に読めば森の秘密を書いたただの機密文書に過ぎません。しかしこの書には特別な読み方があり当主は密書と共にその特別な読み方も伝授されます。その方法で読むとこの書は・・・カーララートリー様への溢れる想いを・・・その・・・共に・・・あ、あ、あ・・い・・・を・・・あの・・・つまり・・・」
ライアンは真っ赤になってしまった。
「これはアレですよね。」
エミリーがつぶやいた。
「アレしかないわ、しかも伝説級のアレよ!」
サクヤが相づちを打つ。
「なんだよ?アレって?」
ジェシカが尋ねる。
「アレといえばアレしかないだろう。なあ、リーよ。」
イワナガはもったいぶった。
「・・・恋文ですね・・・」
リーは顔を赤らめて仕方なく答えた。
エミリーとリーはお茶会に参加し、みんなで二人のやりとりを聞いていた。
「でも、人の書いたものじゃねーか。なんであんなんなってるんだ?」
「少年には刺激が強かったみたいね。ウフフ。」
「なんだよ、刺激って!」
「まあ、何かしら。少年を真っ赤にする強い刺激って言えばわかるわよね!」
「なんだよ、エミリーはわかるのか?」
「え?ワタシハナンノコトダカワカラナイナー。」
「しかしカーラもまだそこまでわからないかのう?」
「さあ、姉さんそれはどうかしら?カーラもずいぶん大きくなったのよ。」
「みなさん、静かに!動きがありそうですよ!」
リーの言葉でみんなはまた二人に注目した。
「ライアン、ウィルの気持ちはわかったわ、なんとなくだけど。」
カーラは真っ赤になったライアンにそう言った。
「・・・やはりわかってないようだのう。」
「うーん、まだまだかしらねぇ?エミリーさんはどう思う?」
「そうですねぇ、ライアンのことは気になってると思うんだけど・・・」
「え、そうなのか?」
「ライアンなんかもうメロメロですしねぇ。」
「なんで、そんな事がわかるんだよー!」
「丸分かりじゃなの!出会う前からもう好きになってるのよ!」
エミリーの言葉にジェシカ以外の3人は大きく頷いた。
「ウィリアムはいつか魔石の森の守護の役目が終わる時が来たら、また一緒にいる事が出来ると考えていました。」
ライアンはまた話を続けた。
「それはできないわ。私と一緒にいたら幸せになれないんだもの。ウィルもわかっていたはずよ。」
「いいえ、ウィリアムは一緒にいられればそれで良かったのです!一緒にいた時、確かに一般的な幸運はこなかったけど不幸になることもなかった。彼は考えました。貧乏神と一緒にいたとしても人のために良いことをすれば、その事で起きるはずの幸運を使って貧乏神からの不幸が消えるのではないかと。普通の生活では不幸になるかもしれないなら、人のために良いことをすればいいだけだと。
ただし森の守護の役目はいつまで続くのかわからない。そこで次期当主達に自らの想いを託したのです。いつかまた女神が現れた時、一緒にいるに相応しい人物であることを。人の役に立つ生き方に喜びを感じられる人間であり続けることを。そして自分が果たせなかったカーララートリー様のナイトになることを託したのです!」
「うーん、話がずれてしまったのう。」
「そうね、やっぱり人間が女神に告白するのは難しいかしら?」
「いや、姫様、単に二人とも子供だからじゃないですか?」
「真面目なんですかねぇ?若いんだから当たって砕けろみたいな、ほとばしる熱いパトス的なものがあってもいいんですけど。」
「ですよねー。期待してたのにガッカリしちゃいますよねー?」
「お前ら、何言ってんだ!あいつらは初対面なんだぞ!」
「あら、わかってないわね、ジェシカ!会うことを夢見た少女にやっと出会った少年と昔泣く泣く別れた初恋の男の子の面影を持つ少年と運命的に出会った少女!ここは告白イベント不可避でしょう?」
「い、いや、サクヤ、あたいにはわかんねーよ・・・」
「サクヤ姫!あえての告白回避からの周りの応援ルートかもしれません!」
「じゃあ、エミリー様はおっちょこちょいなお友達役ですね。私は当然優しい先輩役で。」
「あ、リーさんひどい!でも意地悪な同級生よりはいいかしら?」
「そいつは楽しそうだのう!ならわしが二人に試練を与える役を演じるかの。」
「私は二人を見守る大いなる存在っていうのはどうかしら。」
「あたいは?あたいはどんな役だ?やっぱり頼りになる妖精とかがいいよな!」
ジェシカも乗り気になってきた。
「そうね、ジェシカはカーラの守護精霊ね。それで能力は何者かに封印されているの!」
「えっ?何でだよ!」
「だってあなたの能力があったら二人は普通に幸せになってつまらないじゃないの!」
「そうですよね。やっぱり困難は二人で乗り越えていかないと!」
女神とエルフは勝手なことを言って盛り上がっていた。
「あなた達の願いはわかったわ。ナイト・・・私を守ってくれるのね。でもライアン、本当にいいの?ウィルの推測通りならあなたの幸福は私に相殺されてしまうのよ、ちゃんとわかってる?」
「私の幸福は相殺されたりしません!あなた様の側にいる限り!」
「それはウィルのことじゃない。あなたは違うでしょ?」
カーラはちょっと怒ったように言った。
「そんなことはありません!私はずっとカーララートリー様に会ってお仕えする事を願っておりました。確かにこれはウィリアムの遺言からのものでした。しかし・・・謁見の間で初めて見たあなた様は伝え聞いていたよりもずっとずっと美しく・・・失礼ながらとても可愛らしく・・・私は一瞬で心を奪われました!側にいられることより他に幸せがありましょうか?あなたを守るのはこの私です!」
ライアンは真剣な眼差しでカーラを見つめた。
「う、美しい・・・私が?」
カーラは真っ赤に染めた頬に手を当ててライアンをボーっと見つめていた。
美しいと言われたのは初めてだ。ドキドキしている。
どうしようかと周りを見てみると・・・
「ライアンよ、女神を守るのであれば一層精進せねばならん!しっかり鍛えてやるから覚悟いたせよ!」
いつのまにかイワナガ様がライアンの横で話を進めている。
???
「ライアン君だったかしら、なかなか良かったわ。でももう少し直球の方がカーラにはわかりやすかったと思うの!たぶん、あんまり伝わってないわ。」
サクヤ様はライアンに意味のわからない事を呟いていた。
「そうよ、サクヤ様の言う通りよ。全くあなたは真面目なんだから!ちゃんと言わなきゃダメなの!」
リーさんの言うちゃんととは何だろうか?
「おい、カーラ!お前、あいつをナイトにするのか?」
!!!
ジェシカに聞かれてハッとした。
「あ、・・・そ、そうね。彼の願いだし、叶えてあげたいわ。」
カーラの顔はまだ真っ赤だったが小さな声で答えた。
「じゃあ、今夜の宴でナイトに任命しよう!イワナガもそれでいいだろ?」
「ああ、いい考えだ。皆も喜ぶだろう。」
イワナガが快諾し、ライアンはナイトになる事が決定した。
ライアンは照れ臭そうにカーラを見た後、ジェシカとイワナガにお辞儀をした。
★☆★☆★☆★☆
「そういや、カーラ。聞きたい事があるんだけど?」
「なあに、お姉様。」
「お前、あいつのことが好きなのか?」
!!!!!!!!!!!!!!!
みんながカーラに注目した。
カーラはボッと耳まで真っ赤になると下を向いて何も答えなかった。




