薬草探索の仲間達
魔法の練習場所は館から少し離れた訓練場で行なっていた。端から端までゆうに100メートルはある広い場所だ。
カーラと2人で攻撃魔法と防御魔法を使い、ジェシカの作った魔獣型の的を倒す練習を繰り返していた。
魔法は口に出して発動させた方がよりはっきりと形を表し、魔力を込める時間が長ければより強い効果を発揮するようだった。
その事に気付いた2人は強い魔法で一撃で倒せるようにお互いの動きを意識して連携するようになっていた。
一休みの合図があり休憩となった。
「お疲れ、カーラ。」
「エミリーもお疲れ、最後よかったでしょ?目をつぶってても倒せる気がしたわ!」
「うんうん、私の誘導のおかげでしょ?いっぱい時間が取れたものね。」
「ふーん?それだと上手くいったのは自分のおかげって聞こえるけど?」
「ふふ、そう言ったつもりだけど、何か?」
「「・・・・・」」
2人は少しの間睨みあっていたが、フンっとソッポを向くと黙り込んでしまった。
あ、やり過ぎた?
エミリーは自分のおかげで上手くいったと思っていたわけではなかったが、魔法のコントロールが上手く出来たことに少しばかり、いや、かなり満足していて興奮していた。
実際カーラとの連携は楽しく息も合ってきていたし、その攻撃魔法には感心していた。
カーラは凄いなと思っていたのだ。
しかしカーラが自信満々なのが可愛くてつい意地悪をしてしまった。
『あなたは上手くて凄い攻撃だったわ!でも私もよかったでしょ?』
こう言えばよかったのに・・・つい大人気ない態度を取ってしまった。
でも横で拗ねているカーラはやっぱり可愛いのだった。
「あらあら、ずいぶん仲良くなってきたわねぇ。」
「いやいや、ケンカしてんじゃねーか。」
「うんうん、若気の至りというやつかのう。」
少し離れたところで2人を見ていた3人はのどかにお茶会をしていた。
「そうだ、姉さん。2人にポーションを持って行ってくれないかしら。」
サクヤはそう言うと小瓶を2つ出してイワナガに渡した。
「ポーションか、懐かしいな。うむ、届けがてら様子を見てくるとしよう。」
イワナガはスッと立つと2人の方へ向かっていった。
エミリーは下を向いて何かぶつぶつ呟いている。
カーラはぷうっと頬を膨らませて少し赤い目をグッとつむっている。
イワナガには仲直りのタイミングが掴めないように見えた。
「ほれ、疲れたであろう、サクヤからの差し入れのポーションだ。飲むとよい。」
イワナガ姫はポーションを差し出した。
「ありがとうございます。」
お礼を言って受け取るとまたカーラと反対の方を向いて一気に飲んだ。
・・・やっぱり美味しくない・・・ていうか不味い・・・
しかし体力と魔力が回復したことで少し気分も良くなった。
「あの、イワナガ姫、ちょっと聞きたいことがあるのですけど?」
「どんな事かの。」
「実はポーションのことなんですけど。イワナガ姫は美味しいポーションの作り方をご存知ないですか?」
「美味しいポーション?」
「昔は美味しいポーションがあったって聞いたんです。イワナガ姫は長く生きていらっしゃるからご存知かなって思ったんです。」
「うーん、残念ながらわしは知らんのだが、しかし・・・」
イワナガ姫は少し考えているようだ。
「やっぱり美味しいポーションはもうないのですね。」
「今はないがポーションを作っているものがおるのでそいつに聞いてみるとよいだろう。」
イワナガ姫はそう言うと「誰か!」と声を上げた。
「お呼びでございますか?」
どこからか黒装束の者が風のように現れ、イワナガ姫の前で跪いていた。
「うむ、リーとライアンを呼んで参れ。」
「はっ!」
黒装束の者はまた風のように姿を消した。
「イワナガ様、今の人は誰ですか?」
カーラは驚いて尋ねた。
「ああ、今の者はうちの御庭番衆の1人だ。」
「オニワバンって何ですか?」
「御庭番はわしの命で隠密行動をする者たちで普段は屋敷の庭の世話をしておる。今日は女神様の付き添いをしておるから警護の意味で密かに護衛させておったのだ。」
「え?そんなに危ないことがあるんですか!」
カーラはビックリして尋ねた。
「いや、ここではそんなことはない。・・・趣味だ・・・」
イワナガ姫は少し照れたように答えた。
ジェシカの言った通り普段と違うシュチュエーションを楽しんでいるようだ。
「お館様、参りました。」
「おお、来たか、待っておったぞ、リー、ライアン。」
リーと呼ばれたエルフはさっき案内をしてくれた着物姿のエルフだった。
ライアンは年の頃13、4歳位の金髪の少年でイワナガ姫と同じ袴姿で腰には二本の刀を差している。
リーの背後に控えていたがひどく緊張しているようだ。
「リーはポーションを作れたな。魔法神エミリー殿は今のポーションの味に不満があるようでの。美味なるポーションを御所望だ。どうだ、エミリー殿が満足する美味なるポーションを開発するつもりはないか?」
イワナガ姫は作り方を聞いてみると言っていたが、これはほとんど命令だ。
しかしリーは驚くことなく躊躇なく答えた。
「お任せ下さい!お館様!必ずエミリー様に満足いただけるポーションを作ってみせます!」
「うむ、任せたぞ。エミリー殿と打ち合わせ早速取り掛かるがよい。」
「御意。」
「ライアン、ポーション作りには良質な薬草が必要だ。採取のため森の奥に行くことになるだろう。そなたにはリーの護衛を任せる。」
「御意。」
ライアンはやはり緊張しているようだったがはっきりとした口調で答えた。
こうしてエルフの女王の命により美味しいポーション作りがスタートしたのだった。
リーとポーションの味について話しをしようとしていると
「森に行くのなら、私も連れて行ってくれないかしら?」
とカーラが目を輝かせながら言ってきた。
リーはえっという困った顔をしてイワナガ姫を見た。
「そうか、カーラ殿は森に行きたいか。まあ、良いではないか。リーよ、連れて行って差し上げろ。」
「御意。」
「エミリー殿も一緒にどうか?」
「あら、あなたは無理に来なくてもいいのよ、森は怖い所だから。」
「ちょっ、私も行くわ!私が頼んだことだもの。それに森の探索なら何度もしてきたんだから!」
「女神様方、大丈夫ですよ。いきなり危ないところにはいきませんから。それに何かあってもライアンが守りますから。」
リーは笑顔こそしていたが、その口元は引きつっていた。
2人の同行が迷惑なのは自明である。
なんかごめんね、リーさん。
美味しいポーションのための薬草探索は明日から始めることになったので、魔法の練習は中止になった。
その代わり森の状況を聞くことになった。
リーさんによると整備された道の外には魔獣がいて、奥に行くほど魔力の強い魔獣がいるようだ。
つまり森の奥ほど強い魔力溜まりがあり、強い薬草が取れるのだそうだ。
「リーさん、強い薬草ってフルポーションの原料になるのかしら?」
「はい、エミリー様。よくご存知ですね。」
「でもフルポーションは凄く不味いってジェシカが言ってたわよね?」
カーラがうわの空のようなので話を振った。
「・・・・・」
「カーラ!どうしたの?ちゃんと聞いてる?」
さっきからカーラの様子がおかしい。チラチラとライアンの方ばかり見ている。
ライアンはやはり緊張しているのか、ほとんど口を聞かずに下を見ているがたまに顔を上げるとカーラの方を見て、目が合うとまた下を向いていた。
ナニコレ?
「ちょっとカーラ、もしかしてライアンが気になってる?」
小声で耳元で聞いてみた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、何言ってるの!そんなんじゃ全然、ZENZENナインダカラネッ!」
カーラは耳まで真っ赤にして懸命に否定した。
「どうかなさいましたか?」
リーさんが聞いてきた。
ライアンも大声に反応してカーラの方を見ていた。
「ド、ド、ドウモシテナイデス!ナンデモアリマセン!」
カーラはやや挙動がおかしくなっていた。
「お顔が真っ赤ですよ?本当に大丈夫ですか?」
リーさんの心配を笑顔で返し、ニヤニヤしているエミリーをひと睨みしてからカーラはライアンの方を向いた。
「ライアン、あなたはダールマ家の者ね?」
カーラは赤い顔のままライアンを見てそう言った。
「はい、黒闇天カーララートリー様。私はダールマ家16代目当主、ライアン・ダールマでございます。」
ライアンは下を向いたまま答えた。
ダールマ家は『魔石の森』を管理、守護してきた一族だ。聖地オームで一番発言力を持つ古い名家だが、暮らしは質素倹約で権力に媚びないオームの領主だった。
「顔を上げて、ライアン。あなたの顔をよく見てみたいの。」
ライアンは顔を上げてカーラを見つめた。
「ああ、ウィルによく似ているわ。オームの祠の木の短刀はあなたのものね?」
「はい、カーララートリー様から頂いたダールマ家の家宝でございます。」
「どうしてあそこに置いているの?」
「200年前、世界が滅ぶ事がわかった時、イワナガ様が現れ、聖地に残った我らの先祖を森に招き入れて下さいました。御神体もその時移動したのでございます。
聖地オームで暮らす事はできなくなりましたが、彼の地は我らにとって何より大事な場所です。そこで我が一族は祠を直し、家宝の木の短刀を供え、毎日詣でる事にしたのです。」
「そうだったのね。ありがとう、ライアン。私を守り、変わらず信仰してくれて。とても嬉しいわ。その事に対して私はあなた達に褒美を与えないといけないわね。何か願いはあるかしら?」
「カーララートリー様、勿体無いお言葉。ですが叶えて頂けるのでしたら我が一族の願いは1つ。
初代当主、ウィリアム・ダールマが果たせなかった願い、貴女様にお仕えする事にございます!」
ライアンの願いにカーラは目を大きくした。




