森の道
森に入ってほんの5分程で明らかに人の手が入った道ができていて奥へと続いていた。
「私は噂でしか聞いたことがないけど、『魔石の森』ってもっと未開のイメージがあったんだけど・・・」
初めて見た伝説の森はその言い伝えとは全く異なり明るく迎え入れてくれた。
「そ、そんな・・・森の木はおろか花や草までも勝手に取ってはいけないはずだったのに・・・森に入る人が探索のための僅かな道を作ることしかできなかったのよ!それだって森の守り神として1000年かけてやっと許してもらった事だったのに!」
カーラは目の前の光景が信じられないと言った様子で叫んだ。
「やっぱりそうだよね、じゃあ、何で変わったんだろうね?」
そう言うとカーラもわからないわとばかりに首を傾げる。
正直なところ二人は森の探索が思ったより険しくなさそうなことにほっとしていた。
「これなら楽に進めそうね、ジェシカ?」
そう声をかけると
「確かに楽に進めそうだが、気に入らねーな。」
ジェシカは少し怒っていた。
少し進むと開けた場所に出た。家も建っていて生活感もある。
ここは新しくできた村なのだろう。
でも人が見当たらない?どうやらみんな家に中にいるようだ。
そのまま歩いて行くと祠を見つけた。さっき見たカーラの祠と同じものだ。
「ここにあった・・・」
「ここに御神体があるの?」
「そう、間違いない・・・感じるもの!」
自分の分身、あるいはこちらが本体だからだろうか?
カーラははっきりとその存在を確認してホッとしたようだった。
この村に入ってからずっと視線を感じていた。他所からの来訪者への警戒といった感じではなくどこか緊張しているような張り詰めた空気に包まれていた。
カーラが祠の前に立つとその緊張感はピークに達したようだ。
ピンっと張った空気の中で、カーラは扉を開け、中の短刀を手に取った。
すると不思議なことが起こった。
短刀はパアッと光を放つとスゥッと伸びた。
少し反った刀身は鞘に納まっている。
カーラは現れた長剣を鞘から抜いた。
刃は片側のみで形は・・・東方の剣、太刀だ。
『おお・・・』
家の中で息を殺していた者達は安堵のため息を漏らし、張り詰めていた周りの空気は穏やかなものに変わっていた。
しばらく刀身を見つめていたカーラは太刀を鞘に納め、祠の前に置いた。大きくて中に納まらないのだ。
「カーラ、ちょっといいかしら?」
サクヤ姫が声を掛けジェシカと一緒に祠に近づいた。
二人は何か話しているようだったが、少しするとカーラは小さく頷いた。
「エミリー、こっちに来てくれ。」
ジェシカに呼ばれて祠の前に行くと、
「祠に触れてくれる?カーラがやったみたいに。」
とサクヤ姫が言う。
よくわからないけど二人が言うのだから問題ないのだろう。
カーラの大事な祠・・・そう想いながらそっと祠に触れた。
祠は淡い光を放つと、大きくなった。太刀が入るくらいに。
カーラは大きくなった祠の中の中に太刀を納め扉を閉めた。
その瞬間、自分とカーラの二つの祠の間に強い繋がりができたのを感じた!
びっくりしてカーラを見ると同じようにびっくりしてこっちを見ている。
「何か変わったか?」
ジェシカに聞かれ、お互いの祠を感じる事を伝えると
「そいつは良かったな。」と言われた。
「エミリーさんの時カーラに協力してもらったから、今回は協力してもらおうと思ったのよ!」
「えっ?そんな理由?」
「そうだぞ。」
「何か不思議な力を期待してたんじゃないの?カーラもなんか頷いてたじゃない!」
「何か起きればラッキーって言われた。」
「ガガントス!」
結びつきは単なる偶然だったようだ・・・
新しい祠にみんなでお参りをした後、エルフの女王に会うため森の中央に向かった。
やはり道ができていて、森の奥まで続いているようだ。
「このままエルフの里まで続いているのかな?」
「そうかもしれないわね。」
「もしそうならこの森では人間とエルフの交流があるってことよね?」
「サクヤは聞いてねーのか?」
「うーん、姉さんからは聞いてないけど、この道があるってことは少なくともエルフの村かその近くまでは妨害魔法や呪いは無くなったみたいね。人間を近づけたくないなら、あの村までの開放でいいはずだもの。」
しばらく歩いても特に危なそうなことはなかった。
道は手が入っているとはいえ、森の真ん中の道だ。
「ねえ、カーラ、この森には動物とか危険なものはいないの?」
「うーん?危険なものばかりだったのに・・・呪いの花とか痺れ草とか毒の池とかね。姿を見た者はいないけど獣の気配があったって聞いていたし。」
「この道は結界が張ってあるから安全ね。でも森の獣は魔獣だから、結界の外だと危ないわ。」
「「魔獣?」」
「魔獣はその名の通り、魔法が使えるようになった特殊個体さ。この森には魔石があるだろう?そういう環境だったから、獣が魔獣化したのさ。」
「昔からいたの?」とカーラが尋ねた。
「いたさ、でも危険だから森には強い結界が張ってあって、外には出てこれないようになってたのさ。」
「人間のため?」
「どうかな?エルフのためでもあったろうさ。自分達が見つからないようにした結果だからな。」
「ならどうして森に入った人間は魔獣に会わなかったの?私は結界なんて知らないのに。」
「カーラが魔除けになっていたのさ。人間に対しての森の守り神としてな。」
「そしてその効果が効かない場所に行けないように、呪いの花や毒の池があって近づけないようになっていたの。カーラが守り神になる前はね、その目印も見つからないようになってたから、うっかり命を落としてしまう者もたくさんいたわ。あなたはその目印をわかりやすくする事で事故を減らしていたのよ。」
「私はみんなの役にたっていたんだね。」
カーラはうれしそうに微笑んだ。
休憩をいれながらの森の探索は意外と快適で結界があって安全なこともあり、すっかりピクニック気分でのんびりな気分で進んでいった。
お昼を過ぎた頃、目の前に魔法陣のゲートが現れた。
ゲートはゆらゆらとした空気の幕のようで向こう側が透けていて同じ森の景色が見えているが、
ここをくくれば別の世界ーエルフの村ーがあるのだろうと思うと緊張した。
「さあ、行きましょうか。」
サクヤ姫はにっこり笑うとゲートに入っていく。
特に何か特別な儀式や魔法は必要ないようだった。
みんなその後に続いてゲートをくぐった。
広い場所に出た。どうやら村の広場のようで宴の準備をしているようだった。
忙しそうに飾り付けや料理の準備をしているようだったが、こちらに気付くと、皆嬉しそうに会釈をしてくる。よく見ると少し遠くでは跪きこちらを拝んでいるものもいた。
「村の入り口に出ると思ったのに?」
「エミリーさん、エルフは人間みたいに固まって生活しないわ。森の中で好き好きに生活しているの。だからさっきのゲートが村の入り口なの。」
「サクヤ様、この宴の準備みたいなのは、何かしら?」
「あら、もちろんカーラのための宴に決まっているわ!女神様の訪問ですもの。」
「えっ?エミリーのために来たはずじゃなかったの?私はおまけみたいなものだと思っていたのに・・・」
「さっきの村でみんな息を殺して、カーラと御神体の対面を見守っていただろう?あたい達は女神だから、そのオーラで村人にはただの訪問者じゃないことはわかっていたさ。でも大事な御神体だ、いかにあたい達が女神でも簡単に触らしたりはしねーんじゃねーかな?でも村のみんなにはわかっていたんだ!カーラが来たことを!畏れ多くて姿こそ見せなかったけど今頃みんな大騒ぎをしているはずさ!」
「でもここはエルフの村なんでしょ?さっきの村ならわかるけど、エルフに感謝されるような事はしていないわ?」
「あなたの御神体、形が変わったでしょう?神のレベルが上がった事を示す現象だけど、その形が関係してるのね。」
「そうか!これはただの歓迎じゃねーんだ、祝いの準備なんだな!」
ジェシカは納得いったかのようにうんうんと頷いていた。
「?」
「女王に会えばわかるわ。」
サクヤ姫はにっこり笑ってそう言った。
女王に会うため、嬉しそうに準備をしているエルフ達に手を振ったり会釈しながら先に進むと、土の壁で囲まれて屋敷の前に出た。
女王らしさもエルフらしさも感じられない東方風の屋敷だ。
門の両側には具足を付け槍を持った門番が立っていた。
厳しい姿とは裏腹に爽やかな顔立ちの若いエルフはこちらに気付くと、丁寧にお辞儀をしてこう言った。
「ジェシカ様、サクヤ様、カーラ様、エミリー様、お待ちしておりました。中へどうぞ。」
やっぱり私達が来ることを知っていたんだ。
門をくぐり正面の玄関に着くと扉が開いて着物姿のエルフの女性が出迎えてくれた。
「本日はご来訪頂きありがとうございます。お館様がお待ちです。ご案内いたしますのでお履物を脱いでこちらからお上がりください。」
言われるがまま、靴を脱ぎ屋敷に上がった。
「オヤカタサマって女王様の事?」
サクヤ姫にこそっと聞くと
「・・・姉さんはサムライにハマっているの・・・」
と小さく答えた。




