エルフの森
お弁当を食べた後はしばらくのんびり過ごした。
「ねえ、サクヤ姫、私のステッキも変形させられるのかしら?」
「うん?変形ギミックはつけなかったからしないわよ。あ!もしかしてエミリーさんの戦闘魔法少女イメージはステッキ変形タイプだった?」
「いえ、いえ、いえ、ただ気になっただけで、ってなんですか?戦闘魔法少女って!」
「あら、魔法少女は世界を救うために戦うのが最近の傾向なのよ。『月に変わってお仕置き』する美少女戦士から始まって、白と金の少女魔道士が戦うリリカルな物語では喋るステッキが変形してぶっ放し系の放出魔法の大技で敵を倒すし、いまあなたが見ている魔法少女の物語は戦闘魔法少女作品の傑作なのよ!」
「うう、サクヤ姫、それは異世界の架空のお話なのデスヨ?」
「何をおっしゃるのデス、平和の魔法少女、エミリーピンク!あなたがその気なら私は癒しのハーフエルフ、サクヤグリーンになることも厭わないというのに!ちなみにジェシカは幸運の妖精、ジェシカイエロー、カーラは闇のプリンセス、カーラブラックよ。始めは喧嘩ばかりだけど後で大親友になる設定なのデス!」
カーラがこの脳内設定に物を申した。
曰く、黒は可愛くないと。
え?そこ?
「ふっふっふっ、カーラブラック!黒が可愛くないデスって?」
サクヤ姫はカーラのメイスを銀のステッキに変形させると腕を上げるとこう言った。
「ダークプリンセス!カーラブラッーク!」
サクヤ姫の助けを借りて変身したカーラブラックは昨日のジェシカのゴスロリの姫ファッションだった。
「ささ、どうぞご覧ください。」
いつの間にか現れた薄緑の髪をたなびかせた、ロングドレスの女性、サクヤ姫、いやサクヤグリーンは姿見をカーラブラックの正面に置いて厳かにそう言った。
サクヤ姫な脳内設定はかなり細かく作り込まれているようだ・・・
銀のステッキを持ったカーラブラックはご機嫌だった。可愛いコスチュームも気分を上げる要因だったのだが、カーラブラックが1番気にしたのはブラックに設定された特殊スキル[転災]だった。
災い転じて福と為す・・・今はまだカーラは発動させることが出来ない潜在能力の一つだ。
「やるわ!このカーラ、カーラブラックとしてエミリーピンクに協力するわ!」
「い、いや、あのね、これはサクヤ姫の妄想だから・・ねえ、ジェシカ?」
ジェシカはてっきりすぐ反対すると思ったのに、少し考えてサクヤ姫に質問した。
「カーラに加福のスキルは付かないのか?」
「ブラックに加福は使えないわ。イエローがいるもの。」
「何で転災は使えるんだ?」
「使えてもいい頃だからよ、本当なら。」
ジェシカはカーラブラックの方を見ながら何やら考えているようだったが、やがて
「衣装を選ばせてくれることが条件だ。」
「あら、じゃあ今夜はあなたのコスチュームを選びなおさないといけないわ。」
そうサクヤ姫がジェシカに言うと
「あたいが選ぶんだからな!」と念を押してクッキーの皿に飛んで行った。
こうして本人の意思とは関係なく『魔法少女☆エミリーピンク』が誕生したのだった。
魔法少女についてはまた後日話し合うことにした。そうしないと肝心な魔力の練習ができなくなるからだ。
ジェシカと二人で嫌がる魔法戦士サクヤグリーンとカーラブラックをなんとか説得してただの女神に戻し、午後の練習を始めることにした。
外での練習は動く的当てで、的は初めはゆっくりで徐々ににスピードを上げていき最終的には自由自在に動き回った。
この練習では二人共魔力も体力もすぐなくなるので、神酒ではなく(ジェシカがもったいないと文句を言ったためだ!)ポーションが使われた。
ポーションは体力と魔力を一定量回復してくれたが、お世辞にも美味いと言えないので二人には不評だった。
サクヤ姫の時代には美味しいポーションもあったらしいが、今はもう美味しいポーションを作れる者はいないという。サクヤ姫は回復魔法が使えるので真剣に作り方を覚えなかったと笑いながら言った。
「昔、完全回復薬のフルポーションもサクヤが作ったんだけど、こいつがとんでもなくまずかったんだよなー。それからポーションの研究はヤメちまったんだ。」
「あら、熟成神酒が代わりになるから、そんな事ヤメて熟成方法を探そうって言ったのはどなたかしら?」
「そんな事言ったっけ?」
二人は笑いながら懐かしがっていたが、まずいものはまずいのだ!
美味しいポーションを製造方法を見つけた者には加護を与えよう、と思ったのは言うまでもない。
日が暮れるまで練習をしたけれど、まだまだ二人共練習が必要なレベル。魔法少女に変身するのはまだ先のようだ。
「あら、実践で学んでいけばいいのよ!」
「わー!たのしみだわ、ねえ、お姉様!」
どうやらカーラとサクヤ姫は早く変身したいらしい。
ジェシカはやれやれという顔をして
「サクヤは恐ろしいといっただろ?」
と言うのだった。
「今日はこれくらいにして帰りましょう。」
サクヤ姫がそう告げたのでみんなで荒れた広場を片付け綺麗にした。
「明日もまた、練習の続きをするの?」
片付けをしながらそう聞くと、
「練習もするけど、明日は『エルフの森』に行って、エルフの女王に挨拶しに行きましょう。」
「???エルフの森?ってエルフいるの?!」
「『エルフの森』の中心は魔王が世界を滅ぼした後から結界を張って、外部との接触を絶ってきたけど、エルフたちはそこで暮らしているわ。」
「なんと!」びっくりな告白があった!
「そうだなー、二人は一度挨拶しておかないとなー。あたいも久しぶりだなぁ、イワナガに会うのは。」
これを聞いたカーラはびっくりしたようにジェシカに尋ねた。
「お、お姉様、エルフの女王イワナガ様は人間を大層憎んでおられるのでは?ほかの神様達からもそう聞いています!」
カーラはどうしようという顔をしてジェシカとサクヤ姫を見ている。
「あら、私がいるから大丈夫よ、磐長姫命は姉だから。聞いてなかった?」
「「はい?」」
まさかエルフが存在した上にその女王がサクヤ姫のお姉様とは!
「イワナガ姫は長生きですね・・・」
おもわず口に出てしまった。
「姉はハイエルフだからね、見た目も若いまま変わってないし。私は350才くらいから年をとってきたのに、まったくひどい話よね!女神になったから若い体でいられるけどそうでなかったらあの若さは許せないわ!」
珍しくサクヤ姫が荒ぶっている。あんなに綺麗なのに羨ましがるなんて・・・サクヤ姫の前で年のことは言わないようにしよう!
「イワナガは目つきがキツくて性格も頑固だから、みんなに誤解されてっけど、妹のサクヤが可愛くて仕方ないんだ。サクヤのいうことならなんでも聞いてくれるはずさ。明日会ってみればわかるぜ。」
人間を憎んでいるというエルフの女王。魔王の世界破壊が原因だろうか?
ふとあることを思いついた。美味しいポーションに作り方を知っているんじゃないか?
聞いてみたいが、人間嫌いなら教えてくれないかも。
でもサクヤ姫に甘いというのならサクヤ姫が頼めば教えてくれるかもしれない!
そう思うとちょっと楽しくなってきた。
横で不安そうな顔をしているカーラが不思議そうにこっちを見ている。
「きっとうまくいくわ!」
意味がわからないカーラはキョトンとしていた。




