御神体と祠
目覚めるとずいぶんと気分も体調も良かった。
両腕をあげて伸びをして周りを見る。
机の上にステッキが置いてあるのがみえる。
・・・ああ、私は魔法の神様になったんだっけ・・・
昨日はいろんな事があった。
今日も色々あるのだろうか?
そんなことをボーッと考えていると、ドンドンと大きくノックがあると同時に
「おはよーっ!」っと勢いよく妖精が入ってきた。
夢じゃないんだ。少しホッとした。
「おはよう、ジェシカ。」
ベットから起きて顔を洗う。
クローゼットから動きやすそうな服を選んで合わせて見た。
うーん、やっぱりピンク率が高いなぁ。
「ねえ、どう?似合う?」
「いいんじゃねーか?あたいはよくわかんねーよ。」
ジェシカは昨日のゴスロリファッションからヒラヒラした薄緑のワンピースを着ている。
「朝ごはんはどうするの?食べるの?」
そういえば神も食事が必要なんだろうか?
昨日は普通に食べて飲んでたけど・・・
「今日は忙しくなるかもだから、軽くな。サクヤが用意してくれてるから行こーぜ。それから地上に出発だ!」
まずは朝ごはんね、あ、そうそう、ステッキも忘れずに持っていかないと。
サクヤ姫の家にはカーラがいて椅子に座っていたが、私を見るなりフンっと横を向かれた。
なんか嫌われてる?
カーラは緩めの赤い衣装で傍らにはメイスが立てかけてある。
出縁型でフランジメイスと呼ばれるタイプだ。
先端には魔石?の玉が付いていて全体に装飾されている。
武器というより儀式の道具のようなイメージだ
ちびっ子にメイス・・・確実にサクヤ姫の趣味と思われる。
ちなみにサクヤ姫は巫女服である。
和気藹々とまではいかないけれどサクヤ姫が簡単に今日の説明をしてくれたおかげで気まずい雰囲気にはならずに済んだ。と言うよりサクヤ姫が私とカーラを見ながらニコニコしていたからなのだが・・・
今日は自分の神力を上げるためみんなと地上に行くのが目的。
メンバーはジェシカ、サクヤ姫、飛び入りのカーラと自分。
朝食を終えると大神様のところへ挨拶に行った。
「じゃあ、ちょっと地上に行ってくるからな!」
ジェシカは相変わらず乱暴に用件だけ告げると、さあこっちだとばかりに飛んでいく。
慌てて大神様に「行ってきます。」と会釈をしてついていく。
ちらっとだけ見えた大神様は困ったような顔をしながら頷いていた。
ジェシカは連れてきた広間にはいくつものゲートが壁にあった。
地上には専用のゲートで行くらしい。
レベルが上がると自分でゲートを作って行けるようになるらしいが今は無理。
地上に行くにはある程度のレベルが必要との事で、レベルが足りないものは付き添いがいるらしい。
ある程度のレベルとは100が目安とされていて、先輩の神に認めてもらい大神様からの試練に合格すると単独行動が可能になるとの事だ。
『カーラはまだ試験を受けてないかしら。』
カーラがついて来た理由を考えてみる。
カーラの先輩神はアランだろうか?
レベル100になったと言ってたが、ジェシカと一緒に行くように言われていたようだし。
ゲートをくぐると何もない砂漠に出た。
「ここは?」
「ここはエミリーさんが最後にいた場所よ。」
「!!」
本当に何もない。遠くに森が見えるが、ここには何もなかった。
記憶の中ではついこの間までここは大きな都市の中心部だった。
戦争中にもかかわらず、この街は平和の中にありほんの一瞬淡い夢を見た場所。
「マスター・・・」
涙が溢れてきたが、この光景を見たらよくあの一瞬でマスターを守ることが出来たものだと思う。
大神様に聞いた時はもう会えないと悲しみ、自分の無力さを嘆いた。
しかしお互いが神になることを聞いていつか又出会えるかもしれないと密かに思っていた。
「必ず出会ってみせる!」
清々しいほどに真っさらになった思い出の地を見ながらエミリーの密かな思いは誓いに変わった。
魔石はあっさりと見つかった。
砂漠にはこの地を焼いた時に出来たガラスのようなキラキラしたものが無数に点在していた。
普通ならこの広大な砂漠の中から透明な魔石を見つけるなど不可能だがエミリーは違う。
何しろ感覚的には一瞬だったが、200年魂を預けていた入れ物だ。
導かれるように迷うことなく広い砂漠の中から手のひらほどの魔石を見つけることが出来た。
「ちょっと待って!」
手に取ろうとしたらサクヤ姫に止められた。
「エミリーさんが触れると他の魔石も反応しちゃうの。」
「?」
「この魔石は人間に見つけてもらうわけでしょう。ヒント無しでこの砂漠で見つけるのは難しいわ。」
確かそうだ。難しいどころか不可能だろう。
「どうするの?」
「向こうに森があるだろ?森の中にいい感じの洞窟があるんだ!その中に隠して見つけてもらおうって寸法さ!」
「洞窟の奥でエミリーさんに魔石に触れてもらう時、一緒に洞窟のイメージとメッセージを込めるの。私はここにいるから見つけなさいって。」
「来てくれるかしら?」
「来るさ、エミリーの声はみんなに聞こえるわけじゃねーんだ。ただ魔力が高いだけじゃはっきり聞こえねーし、魔石を持ってるだけじゃ魔石の変化しかわからねー。エミリーの声ー啓示ーを聞けるのは無意識にエミリーが選んだ奴だけなのさ。」
「??」
「もう、飲み込みが悪いわね!あんたの声は未来のあんたの信徒にしか聞こえないの!だから聞いたら必ず来るのよ!神のお告げってわかるんだから!」
カーラパイセンはプンプンしてそう言った。
森へ向かいながら、エミリーとカーラは魔法の使い方をサクヤとジェシカから教わっていた。
といっても魔石の設定を変えないと人間だったエミリーとカーラは魔法を使うことは出来ないそうだ。
カーラはあからさまにガッカリしたが、魔石の設定を変えれば使えると分かると今度は誰よりも元気に先に進もうとみんなを鼓舞していた。
しばらく歩くと森の入り口に着いた。
森に入ると思ったほど暗くはなく、見上げると空が見える。
「あんまり暗くないのね。」
「ああ、全部枯れちまったからなー。でも自然はスゲーんだ!200年でこの通りだ。今は魔物もいないけどエミリーの魔石が祀られれば、1000年くらいすりゃスゲー魔法の森になるぜ!」
「「魔物!?」」
カーラと二人でハモった。
「そんなに怖いところにはならないわ。エミリーさんの信徒がしっかり管理してくれるはずよ。」
サクヤ姫はにっこり笑って言うけれど、自分の森が魔物の森になるのは勘弁でしょ。常に管理しなければと心に誓った。
洞窟もそんなに恐ろしい感じではなくホッとした。
が、入ってみると暗くジメッとしていて居心地のいいものでなかった。
サクヤ姫とジェシカはすぅっと手を回すと周りが明るくなった!
「これが・・・魔法?」
「そう、簡単だからすぐに覚えられるわ。」
「お姉様、なんか嫌な感じもなくなったわ?」
「ああ、あたいは空気を少し暖めたんだ、あたいの魔法はちょっといい気分になるんだ。なんせ幸福神だからなー。ちなみにサクヤの魔法は癒し効果が付与してるんだぜ!」
「「すごい!」」
新米女神と駆け出し女神は初めて魔法を見た。そして感じた。
30分ほど歩いただろうか。洞窟の終わりは大きな広場になっていた。
サクヤ姫は一人奥まで行くと、周りを見てから両手を下から上に上げる動作をした。
すると地面がズッと隆起して土の台が現れた。
その台に手をかざすと『ラピス!』と唱える。
すると土の台は石の台に変わった。
「ジェシカ!」
サクヤ姫が呼ぶとジェシカはスイッと飛んでいき、台の上でクルクル回り出した。
エイっと台から離れると、ポンっと木でできた社が現れた!
「さあ、二人ともいらっしゃい。」
サクヤ姫がは祠の中に魔石を置くと、広場の真ん中にいた二人を呼んだ。
「これは・・・!」
カーラが驚いたように呟く。
「お姉様!これって・・・」
「おまえの祠を召喚した。もっとも本物は壊れちまったからレプリカだけどな。」
「な、なんで私の祠がこいつのために使われないといけないの!?」
カーラは怒っているみたいだけど私もびっくりだよ。
「これはアランから頼まれたのよ。」
サクヤ姫が優しく答えた。
「兄様に?」
「嫌だったらいいぞ、その代わりもう一緒に連れてってやんないからなー。」
「お姉様ひどい!うう〜、わかったわよ、あんたに貸してあげるわ!」
「あ、ありがとう・・・ございます。」
いきなり話を振られて意味がわからないがとりあえずお礼を言った。
「カーラが許可してくれてよかったわ。ジェシカったら何も言わないからビックリしたでしょう。私もビックリしたわ。」
サクヤ姫もこの演出は聞いていなかったようだけど、ビックリしたという割には落ち着いていた。
まあこの二人の付き合いは長いのだし、こんな事はよくあるのだろうなとなんとなく理解した。
「じゃあ、早速始めましょう。まずカーラ、祠に触れて。」
カーラが触れると祠は淡い光を纏い、そして吸収された。
「エミリーさん、魔石に触れて。洞窟のイメージを忘れないでね。」
ふうっと息を吐き、気持ちを落ち着かせた。
森から洞窟までの道のりを思い出しながら魔石に触れた。
「!!!」
魔石は強い磁石のように手のひらをくっつけた!?
強い力が身体から魔石に向かって出て行く感覚があった。
御神体の魔石は激しく輝き出したが同時に世界各地の魔石が新たな役割を得て輝き始めたのを感じる。
魔石の変化を感じる中でふいに少年と少女のイメージが見えた。
「『私はここにいる・・・私を見つけなさい!』」
とっさに彼等に聞こえて欲しいと願いを込めた。
その瞬間ズズっと魔力が手のひらから魔石に流れ込むのがわかった。
手のひらサイズの魔石はスイカほどの大きさに急成長した。
手のひらから感じる溢れるような力の感覚からもっと大きくなりそうに感じたがそうはならなかった。
魔石はブルブルっと震えると成長を止めた。
すると激しく輝いていた魔石の輝きは徐々に薄れ磁石のようにくっついていた手のひらも離れた。
大きくなった御神体は淡い光を纏い、祠は幻想的な光に包まれていた。




