序章
「マスターを守って・・・神様!!!」
現れた小さな光は爆ぜると同時に周り全てを蒸発させ、空間を歪めるほどのその力は周囲の景色も跡形も無く破壊した。
複数の場所で同様の爆発が起き、8000年余りかけて作られた文明はあっけなく終了したのだった。
この文明を支えたものの一つに魔石と呼ばれる特殊な鉱物があった。自然の力がたまった石で純度の高いものほど硬く透明になり、より強い力をもっていた。
神話によれば遠い昔、この星に魔法使いが暮らしていて、彼らが死ぬ時に石を残していくと記している。
この石に祈りを捧げる事で魔石になるとされ、長い年月をかけ祈り続けられた魔石は強大な龍すら従えることができると信じられてきた。もっとも実際に龍を見たものはいないのだが、とにかくそう信じられてきた。
魔石は祈りの対象から文明の発展と共にその秘めた力が研究対象となり、魔石はさまざまな方法で利用され、産業が発展する事で文明をますます発展させていった。
魔石の秘めた力は人々の生活を大きく向上させていったが、昔から知られている力もあった。それは稀ではあるが魔石は人の能力を強化もしくは変化させると言うものであった。
腕力や脚力など肉体強化系、視力や聴力などの感覚強化系のほか予知や念力のなどの特殊能力も確認されていた。この能力は遺伝による生まれつきのものがほとんどであったものの、環境変化や病気などによる発症例も少数ながら存在した。
今回の戦争もこの魔石をめぐってのものだったが、何も今回初めて起こったことでもなく幾度も繰り返されてきたことだった。
最後になったこの戦争は長期化し、じわじわと戦地は広がり民間人も次々と戦争に巻き込まれた。
特に魔石の力を使えるものは即戦力の魔装兵として戦地に投入され、戦争末期にはろくな訓練もなく前線に送られることになった。
その少女は防御に特化した特殊能力を発動した。
これまでのテストでは一度も変化はなかったが、街が焼かれ、避難した軍の施設で強い反応が出た。ところがなんの能力なのかがわからない。能力テストが行えないまま、少女は軍属となり部隊に配属された。
戦闘スキルのない少女は配属された小隊の小隊長付きとなり、書類整理や掃除などを行いながら能力テストを続けることになった。小隊長はお約束通りいい家の坊ちゃんで、もちろん年上で経験豊富な分隊長や下士官から疎まれていた。要は体良く邪魔者と面倒な仕事を押し付けられたのである。
能力が発動したのは、小隊が奇襲攻撃を受けた時だった。逃げ遅れてもうダメだと思った時、鉄板演出よろしく小隊長が助けに来た。そこに来たピンポイント砲撃で絶体絶命のピンチ!その瞬間少女は空間シールドを発生させ攻撃を防いだのだ。
素晴らしい能力に思われたが、大きな問題があった。この能力は特定の条件下でないと発動しないのである。その条件とは、小隊長がピンチの時、である。自分のピンチの時ですら発動しないのだ。
限定条件付きオートガードを手に入れた二人は危険な特別任務に就くことが多くなり、戦争終結まで共に過ごすこととなった。少女はこの上官をマスターと呼んでいた。元々が育ちのいいお坊ちゃんなので色々な事を知っていた。その上無口と思っていた彼は驚くほどおしゃべりだった。様々な知識や知らない世界や戦争後のことや自身の夢をたくさん聞くうちに戦争も軍人も嫌いだったが彼のことは尊敬できる気がした。彼自身も堅苦しいことは苦手らしく階級でないこの呼び方を認めてくれた。
その日はいい天気で、任務自体はさほど危険ではなさそうだった。今回の任務は敵都市の調査で内容は最近噂されている“戦争終了が近い”と言う噂の出所についてだった。
自分と彼女は兄妹と言う設定で5日前に偽造パスポートで潜入すると都市の人々は戦争が嘘のように普通に暮らしていた。物資が少なかったりないものもあるけれど、ここには当たり前の生活があった。戦争により行き場をなくした彼女にとっては信じられない光景だろう。
噂については引っかかることがあった。近々大量破壊兵器が使われるのではないかというものだ。
根拠は金持ちや政治家の引越しが目立ってきたと言うことからだった。
たしかにこの兵器から身を守るには遠くに逃げるかシェルターに避難するしかないだろうと思う。
調査結果は毎日報告しているのでそろそろ次の任務の連絡が入るだろう。
だけど戦争が終わったら彼女とのんびり暮らしてもいいかもしれないな。
そんな事を思う自分に少し驚いた。今度聞いてみようか。
ウゥーーーーーーーー、ウゥーーーーーーーー、ウゥーーーーーーーー
突然警報が鳴り響き、緊急警報のアナウンスはミサイルがこの都市に向けて発射された事を告げた!
到達時間まで猶予は五分程度しかない。この時間では安全な場所に避難することはもはや不可能だ。周りはパニックで動くことすら無理な状態になっている。
彼女は横にいてじっとこちらを見ている。こちらも見つめて手を握ってみる。
「怖いかい?」そう聞くと
首を横に振って、さらにぎゅっと手を握り締めてきた。
突然の警報にびっくりすると、続けてミサイル発射の事実が告げられた。
噂の調査のためこの特殊なミサイルのことはマスターから聞いていたが、まさか本当に発射するとは思わなかった。
避難方法も教わっていたがこのパニック状態では無理だろうな。見るとマスターも同じように考えているようだった。
この爆弾は威力を拡大させるために上空で爆発するから爆心地が離れてくれていれば、私の空間シールドでなんとかしてみせると思っていた。無茶な任務で普通なら死んでしまうような状況を何度も経験してきて思ったことは、マスターは死なせないと言うことだった。その気持ちが恋や愛ならいいなと思ってはいたけれど、今はまだわからない。
戦争が終わっても一緒にいられたらいいなと思う。
「戦争が終わったら一緒に暮らさないか?エミリーさえよかったら。」
「!!」
最後の言葉を聞いた直後、禍々しいものを感じ空を見上げた・・・・真上?
現れた小さな光は爆ぜると同時に周り全てを蒸発させ、空間を歪めるほどのその力は周囲の景色も跡形も無く破壊した。