騒乱
晴れ渡るうららかな空の下、とうとうその日がやってきた。
王都アイアースは朝からものものしい喧騒に包まれた。
一部市民と貧しい領地から流れてきた人々が武装蜂起した。暴徒化した市民が次々に城門に詰め掛けた。
固く閉ざされた跳ね橋をこん棒や斧で攻撃して壊そうとする。兵士は城門を守りつつ暴徒鎮圧にかかった。
騒乱の幕開けとなった。
イザークは王宮の執務室で、暴徒の対応について検討し、必要があれば指示をだしていた。彼は鎮圧に際し、犠牲は最小限に食い止めるべきだと考えていた。いつでも体を張って戦うのは貧しく弱いもの達だ。
本音を言えば、私利私欲に走るやんごとなき身分の者たちの面倒を見るのは、正直もう願い下げだった。これくらい自分たちで処理してほしい。王宮内で使える高位貴族は数えるほどだ。ウィンクルム家のシーリーは頼りになるが、今はまだお家騒動に決着がついていない。呼び出したとしても暴徒に囲まれている城に入るのは無理だ。今頃ティアが心配で気をもんでいることだろう。
宮廷で働く高位貴族は最高の教育を受けている。皆、頭が悪いわけではない。ただ、自分のことしか考えていないだけだ。王宮での勤めは、この件で最後にしたいと考えていた。彼は今後の方針を固めると第一王子のもとへ向かった。
この国の王子たちはそれすら考えない。権限の面から、彼ができるのはここまでだった。
その頃、城の周りは大混乱だった。
ノーラは城外で暴徒をむやみに傷つけようとする兵士を牽制しつつ、速やかに鎮圧していった。サフィラスは城の裏口で、多少荒っぽい連中は魔法で吹き飛ばし、罪のない下級使用人達を逃がすことに尽力していた。
メアリーは城内に庭師軍団とともにとどまり、恐怖にかられ混乱する使用人たちを落ちつかせ避難誘導していた。日ごろの彼女は明るくてはきはきしていて、それでいて少々ドジな娘だが、本来は強く優しく勇敢な女性だった。
彼らが戦うのはティアのためでもあるが、ティアを通して見えてしまった、カルディアの暴政を見逃せなかったからだった。彼らはそれぞれの信念の為に今ここにいる。
ティアは打合せ通り、その混乱に乗じて図書館に向かった。今日を逃せば持ち出せる機会はなくなる。
彼女はラミアスの助言通り自然科学の本がある区画にいった。ここは、かなり広範囲だ。そこにはよく第二王子カーライルが出入りしているという。
ティアは慎重にゆがみの波動を探した。
階段を上り下りし、複雑な通路を抜け、いくつかの本棚を通り過ぎたころで、ようやく魔力の澱みを感じた。広大な図書館の複雑な構造のせいで、すっかり時間を食ってしまった。
彼女は通路の奥へと進んだ。すると正面の壁から、微妙だが、魔力が漏れているの分かった。ただの壁のように見えるが、おそらく封印されているのだ。今の彼女ならばこの程度の封印は解けそうだ。扉に手を当て術式を唱える。
淡い光を放ち、緑の光が扉の輪郭を縁取る。静かにゆっくりとそれは開き始めた。
扉の隙間から、仄暗い魔道の明かり漏れた。部屋の中央に台座があるのが見える。ガラスケースの中に何かが収められているようだ。
そしてその奥にさらに小さな扉があることのを見つけた。なぜかとても気になった。
次の瞬間、耳を劈くような大音響が響いた。何の前触れもなく、図書館内で爆発が起きたのだ。大きなものが倒れる音、叫び声や争う物音が聞こえてきた。ここまで暴徒が入ってきたのだろうか。メアリー達は大丈夫だろうか?城のみんなは大丈夫だろうか?
ティアは心配になった。
複数の足音がこちらに近づいてくる。ここは通路の奥で逃げ場はない。味方であるはずがない。ティアは緩慢に開く扉に体をねじ込もうとしたとき、強く腕をつかまれ引きずり戻された。
「ティアラ、何故、許可もなく再入国しているのだ?」
そこには、カーライルと似た面差しで黄金の髪とアイスブルーの瞳。カルディア王国第三王子ジークが立っていた。油断していた。王宮の張り巡らされた情報網を甘く見ていた。彼は彼女の居場所を知っていたのだ。
彼女はあっという間に彼が引き連れてきた近衛兵らに拘束された。




