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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第三章 自由を手にするために~ストラグル~

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ご令嬢、王宮図書館へ行く

 ティアは午後からの仕事場である図書館に向かった。そこには味方がいない。イザークもシーリーも図書館のライブラリアンズはアンタッチャブルだと言っていた。彼らは黒衣をまとい、決して懐柔されることはない。だから今回はティア一人で頑張らなければならない。


 王家はあらゆる呪いを解く鍵を所有していると、以前カーライルから聞いていた。ティアはそれは神聖魔法の術式なのではないかと考えていた。


 子供の頃カーライルに図書館で見せてもらった美しい装丁の稀覯本。彼女はその時のことを王都に入ってから、頻繁に夢に見る。まだ彼の婚約者であったころ、もう一度見ようとしてひとりで探そうとしたが見つからなった。不思議と彼が一緒にいないと見つからない。恐らく結界が設けられているのだろう。あれはきっと王族の保有する宝物のひとつだ。


 神聖魔法を会得した彼女は歪みを見つけることができる。もちろん神聖魔法はきっかけであって、それは彼女の持つ固有の才能が開花したものだ。稀覯本の夢を繰り返し何度も見る。その夢にカーライルも付いてくるのがアレだが……ティアはそこに答えがあることを確信していた。






 ティアは図書館の清掃と本の整理と司書たちにお茶を入れるなどメイドの仕事に励んだ。あっという間に二週間が過ぎたが、思ったよりも忙しくなかなか本を探る暇がない。仕事が終わった後、図書館に居残りたいのだが、なかなか警備が厳しくメイドが立ち入れない場所も多かった。


  日だけが過ぎてゆく、さすがに焦りが出てきた。途方に暮れながら、いつものように手近にあった写本の整理をしていた。癖で、ついつい本のページをぱらぱらとめくってしまう。

 すると文字が掠れている個所を発見した。ティアはそれの原本の場所を知っていたので、とってきて丁寧に書き写し始めた。貴重な文献はきちんとした状態で保たれ、保護されなければならない。メラニア修道院でもそれは徹底されていた。


 ふと気が付くと図書館の明かりが暗くなっていた。就業時間が過ぎてしまったのかもしれない。すっかり夢中になって書き写していた。ティアはあわてた、目立つ行動は避けていたのに、これでは目をつけられてしまう。図書館に出入り禁止になってしまったら、成すすべもない。

 ティアは急いで立ち上がり、本をしまった。するとそのタイミングで後ろから声をかけられた。


「いつも本の補修ありがとうごさいます」


 静かで穏やかな声に振り向くと知的で痩身な館長のラミアスと騎士のような逞しい体つきの副館長のサミュエルが立っていた。


「あの、いえ、その……私は何もしてないですよ?ちょっと気になったもので」


 などとしどろもどろになってしまった。ごまかす嘘が出てこなくて、ティアは、とりあえずこの場は逃げようとした。どう考えてもメイドが写本の修正をするなんておかしい。彼ら図書館員の仕事だ。


「お待ちください」


 サミュエルがティアの行手をふさぐ。


「あなたは王宮にいらっしゃった頃から、本を大切にしてくださった。よく乱雑に棚に入れられた本など整理されてましたね。今では、写本の修正もできるのですね。どこで覚えたのか不思議ですが」


ラミアスはそこで言葉をきり微笑んだ。ティアは「はあ……」などといいつつ、曖昧な笑みで応じた。写本は習ったわけではなく、みようみまねだった。

まだ彼の話は続く。


「あなたの修復された写本は評判がよいのですよ。きちんと原文をあたって、写し違いも直してくださいますからね」

「……」


(何をおっしゃりたいのでしょう?)

 

 ティアは首を傾げつつもドキドキしていた。これは、完全にしくじってしまったようだ。


「ティアラ様、お久しぶりでごさいます。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」


 何のための変装!?とどめの一言にあわあわするティア。そんな彼女に、ラミアスとサミュエルが二人そろって礼をとる。


「変装までして、何をお探しなのでしょう?よほど大切なものなのですね。私たちであなたのお役に立てればよいのですが」


罠かもと思ったが、ティアはお手伝いは嬉しいのでコクコクと頷いた。

そして、いまだパニックの中にいる彼女は彼らに目下の疑問をぶつける。


「あの……なんでバレたのでしょうか?」


 メイド姿のティアが首をかしげる。二人が顔を合わせて苦笑する。


「筆跡ですかね。以前あなたの書いた文書を拝見したことがあります。それから立ち居振る舞いです。あなたは品が良すぎます。だから我々はあなたをテストしました。

 外国語で書かれた本を間違った棚へしまうよう指示しました。あなたは何も言わず正しい場所へしまっていました。試すような真似をして申し訳ありません」


 すべて無意識からでた行動だった。指摘され、ティアは初めて自分のうかつさに思い至り、顔から火が出るほど恥ずかしかった。


「この図書館は本を愛する方は大歓迎でございます」


  ティアは改めて、彼らと久しぶりの再会を果たしたことを喜んだ。彼らは高い身分のティアに声はかけなかったが、その行為に感謝していたそうだ。彼女にとっては図書館は王宮にいた頃の避難場所だった。お妃教育で忙しかった彼女は、それほどまとまった時間が取れなかったので、読書しに来たというより、ただ悲しいことがあるとここでさ迷っていただけだった。

 


 王宮勤めをする以上彼らにも独自の情報網はあった。だから、彼らは知っていた。王宮では日々冤罪が紡がれることを。大それたことなどできるはずもない、まだ年若い彼女がその餌食になってしまったことにずっと心を痛めていた。

 そして続く暴政に怒りを感じていた。

 



 その日からライブラリアンズがティアの味方になった。彼女は王立図書館の顔パスを手に入れた。




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