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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第三章 自由を手にするために~ストラグル~

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小さな悪意~呪いのはじまり~

 私には子供の頃から呪術師の才能があった。祖母に手ほどきされたが、私はそれが大嫌いだった。

 儀式はとても汚らしく臭かった。


 なによりも興味が持てなかった。


 私は美しく、誰にでも愛された。皆が私を特別扱いした。だから、あの頃は呪術など全く必要がないと思っていた……。




 その考えも王宮に行儀見習いに行くようになって変わった。誰も私をちやほやしない。それに、あそこには不思議と私より美しいとされる女がいる。そんな事があるわけはないのに。


 あの気味の悪い色彩の女、触れられた瞬間、怖気が走った。



 しばらくすると暇をもらって実家に戻った。久しぶりに屋敷の地下儀式の間へ向かう。観音開き扉を開くと饐えたにおいと卵の腐ったような異臭がした。

 正面には、この家の始祖である偉大なる呪術師の絵姿が飾られていた。赤みがかったブロンドを持つ美しく妖艶な女。

 祖母は笑顔でよくいっていた。ここで毎日新鮮な血を浴びれば浴びるほど美しくなると。そういう彼女はとっくに五十を過ぎていたのに娘のような肌をしていた。

 しかし、その後、彼女は顔から腐り、腐臭や吐しゃ物をまき散らした挙句、悪魔付きとして生きながら埋められるという非業の死を迎えた。

 呪詛返しにあったのだろうと言われている。


 それならば呪詛返しに合うような愚を犯さなければいい。




 月日過ぎ、姉の婚約者が決まった。相手は侯爵家だ。一族にとっては喜ばしいことだ。そして父は私を子爵家に嫁がせようとしているようだ。爵位を金で買った豪商。武器を売る商人。姉と私を使って名誉と金をそれぞれ手に入れようとしている。


 冗談ではない。なぜ私が侯爵家ではなく、子爵家に?

 高位貴族でなければいけない夜会もお茶会も入れない場所もある。この婚約は絶対に結ばせない。馬鹿な父と母は娘をコントロールできていると勘違いしている。



「ヘレナ、私のドレスを勝手に持ち出すのはやめてよ!それから、宝石も返しなさい。私これから侯爵邸にいくのよ。みっともない恰好はしていけないわ。子爵家に嫁ぐことになるあなたにはわからないわよね。こんな悩み」


 私の部屋へずかずかと入り込んできた、すっかり侯爵夫人気取りの姉が侮蔑の笑みを浮かべる。

 困ったものね。私より美しいと勘違いするなんて。


 馬鹿な女、無防備に私の部屋へ入るなんて。


 私は部屋の中央にゆったりと座っている。姉が無防備に私の前へ歩み寄る、本当に愚かね。


 あともう一歩。バタンっ!という音ともに部屋の扉は閉ざされた。彼女は驚いて振り向いた。だが、もう遅い。即座に結界で隠していた血塗られた魔法陣を出現させる。姉が来るのはわかっていた。だから、前もって準備していた。今日この日の為に、私のベッドの下には、たくさんの骸が隠されている。



 魔法陣の外に取り残された姉。見物だわね。残念だったわね。あと一歩で陣内に入れたのに。もっとも、才能のないお前にはそれすら見えないだろう。境界線の外、地獄を見るがいい。私は安全な陣の中でこの世のものならざる異形を呼び出した。


 姉は失踪したということで落ち着いた。両親は嘆き悲しむよりも結婚を前に失踪した姉に怒り狂った。






 その後、私は王宮に出入りするようなった。侍女としてではなく。貴族の令嬢として、お茶会や舞踏会など連日忙しかった。


 しかし、日々不満が積もる、恨みが積もる。こんなに魅力的な私を蔑ろにする男達がいる。私を見るふりをして、あの女を追いかけている男がいる。


 その日は王宮で催される夜会だった。また、あの女を見ている。気に入らない。悶々としながら、バルコニーへ出ていく。夜気が火照った頬をなでる。しかし、心は怒りと嫉妬に騒めき、静まる気配はなった。


 どこからか声が聞こえてきた。


「ヘレナ」


 私を呼ぶ声が聞こえる。とても心地の良い声。聞いているだけで気持ち良くなってきた。


 気が付くと私は、声に導かれるように、王宮の廊下を歩いた。ホールからは、どんどんと離れていくのに怖くない。誰とも行きかわない。それなのに妙に気持ちが高揚してきた。


 どれくらい歩いたのだろうか?


 迷路のように複雑な広がりを見せる回廊の先に、古く大きな赤さびの浮いた鉄扉が見えた。手を触れるとひんやりとした感触がある。押してもいないのに、ギギーと音を響かせて扉が開いていく。

 現実感がなく夢うつつのまま、地下へ続く階段を下りてゆく。また、扉があった。そこも開けるとかび臭いにおいが広がった。気付くと私は、王宮の地下牢に足を踏み入れていた。話には聞いたことがあったが実際に見たものはいない。


 床には拷問道具散らばっている。壁にも鞭やのこぎりが立てかけてある。この黒っぽいしみは血だろうか?

 ある気配と予感に顔を上げる。


 うす闇の中、その先にぼうっと人影がうかんでいる。


 引き寄せらせるように歩み寄る。


 青白く美しい少女が立っていた。屋敷の地下の儀式の間に飾られてい呪術師の絵姿そのままお姿だった。その手には、ほっそりとした優美な短剣が握られていた。ぽとりぽとりと刃先から血がしたたり落ちる。その足元には原型をとどめていない、生き物がいた。



「この日を待ちわびていた。(わらわ)と同じ才能を持った娘が目覚めることを。娘、お前の願いを叶えよう。その代わり、はるか昔、(わらわ)を死に追いやった一族。その末裔を呪ってくれないか?呪いの対価はお前の若さと命」


 つまり、失敗は死を意味する。そして成功すればその両方が手に入る。私の才能を考えれば、悪い話ではない。ほくそ笑んだ。


「死に追いやった一族?」

「そう、あやつらがおらなければ、玉座はわれら一族のものに」


 凄絶な笑顔を浮かべる女。気付けばこの空間は呪詛で満ちていた。幾代にもわたる血みどろの王家の歴史。そういえば聞いたことがある初代国王を亡き者にしようとして、呪詛返しにあった呪術師がいたと。初代国王を偉大に見せるために作られた逸話かと思っていた。

 この国は誕生から、どれほど闇を抱え込んでいることか。数百人もの呪詛にまみれた顔が見える。それがこの女の姿形をとっている。


 ここは王家が封印した空間。新たな大呪術師の発現により、いま封印は解かれた。彼らに選ばれたことを知り、私は歓喜した。


 私は茶色い地味な髪色を捨て去り、新たな名前を与えられ、望み通り美貌の令嬢となった。


 この世界には呪いたい者破滅させたい者が満ち溢れている。








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