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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第三章 自由を手にするために~ストラグル~

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たった一人の味方

 

 あれは彼女がいくつの時だったろうか……5歳か6歳だったか。


「悲しいの?苦しいの?」


 深く美しい銀髪。優しくて柔らかな光を湛える透き通ったアメジスト色の瞳。

 しゃがみ込み、俯く僕の頭に、彼女の手が優しく触れる。


「大丈夫。一人じゃないから、私がいるから、悲しい気持ちがなくなるまで、ずっと」


 柔らかな初夏の風が、庭の木々や草花をゆらす。


 幼いあの頃、彼女はもう人を思いやり、悲しい心に寄り添う方法を知っていた。



 *****



 魅了の力は王族特有のもので、今のところ、陛下及び第二王子にしか発現していないと言われている。王族の近い貴族、また、高位貴族の間ではこの二人以外の王族と相対するときにも皆それぞれの方法で己の身を守っていた。どんな魔法トラップがあるかわからないからだ。防御してしかるべきものであった。シーリーも父エドガーも、呪いや魔法から免れるべく、当然アミュレットなり、魔道具を身に着けている。




 ティアを図書室から部屋まで送った後、すぐにエドガーを探した。


「父上はどちらに」

「サロンでございます」


 使用人の一人が答えた。いつも冷静で上品な笑みを絶やさないシーリーが、いつになく緊迫した様子で長い廊下を通り抜ける。屋敷に緊張が走った。


 サロンの扉を開くとエカテリーナと二人でお茶を飲んでいた。どうやら、まだ母の機嫌は直っていないようだ。


「父上、内密にお話があります」

「今すぐにか?」


 エドガーはシーリーの無作法に眉根を寄せ、エカテリーナは、一瞬嫌悪感をにじませたが、すぐにとってつけたような笑顔を張り付けた。シーリーはその様子を見て、母はマチルドより感情の抑制がきくようだと妙に醒めた頭で考えた。


「では、後ほど執務室に来い」


 重々しくいう。プライドが高く、どんな時も主導権を握りたがる父らしい。今すぐに、ここで人払いをしてほしいぐらいだったが、ひとまず引いた。




 シーリーは執務室でエドガーになぜティアに魅了について対策をするどころか、その存在すら教えなかったのかを問い質した。最初はとぼけていたが、そのうち、いけしゃあしゃあと言い放った。


「ティアラは、頭の良い娘だ。だが、何事もほどほどが一番だ。自分の夫となる者よりも賢くてどうする?最初は殿下の見目の麗しさに夢中になったとて、すぐに気持ちが離れる。それではティアラも不幸になると思わないか?」


 とんでもない詭弁だ。もとよりエドガーは娘の幸福など考えてはいない。王家に嫁ぐにはマチルドでは愚かすぎ、ティアでは聡過ぎて鬱陶しく思ったのだろう。

 ここで、父を責めても何も変わらない。シーリーは沸き立つ怒りを抑え込んだ。この父に謀られたのはティアばかりではなく、彼自身もだ。

 努めて冷静な声で話す。


「しかし、ティアラは、それで前回失敗しました。冷静な判断ができなければ、対処できないこともあるかと。今回は彼女に魅了封じのアミュレットを与えてはどうでしょうか?彼女ならば、前回の失敗も踏まえて必ずうまく立ち回るはずです」


 エドガーは射貫くような眼をシーリーに向けた。


「久しぶりに会って絆されたのか?小賢しい娘だ。思えば、魔道学院の入学についてもお前が後押しをしたな。

 シーリー、お前を跡取りにと考えていたが、私は認識を改めねばならないか?」


 いやらしい笑みを浮かべる。これこそが彼の本性だ。

 エドガーは自分の思い通りに事が運ばないと家督の件を持ち出す。弟のアルベルトという跡取りがもう一人いるからだ。そして、エカテリーナもそれを望んでいる。


 父は、常に自分が一番偉く、賢くなければ気が済まない。シーリーが彼に意見をすると必ずといっていいほどこの話を持ち出す。脅しではなく本気だ。

 実際に立ち回りを少しでも誤れば、シーリーは後継ぎから転げ落ちるだろう。

 彼の強みはそれを自覚していることだった。


「それには及びません。賢いとは言っても、ティアラは、所詮王妃殿下にも太刀打ちできない小娘です。

 ならば、王宮で上手く立ち回れるよう、私が、動かしましょう。それに今回、この家に戻って来た事からして、まだ気持ちは殿下にあるのでしょう。このような事、父上の手を煩わせるまでもありません」


 シーリーは笑みさえ浮かべ、さらりと言い切った。

 おそらくティアの目をふさぎ視野を狭くしたのは父と第二王子カーライルの仕業だ。賢く清廉な彼女を思い通りにうまく操るつもりだったのだろう。

 しかし、カーライルがオズロン伯爵を引き込もうとしたことによって破綻が生じた。オズロン家が画策し、ティアを陥れたのだ。そしてカーライルもアナベルに絆されるという愚を犯した。エゴと欲に引きずられた者たちの杜撰な計画。


(それほどティアラに執着するのならば、大切にすれば良いものを)


 仄暗く決して消えることのない怒りを覚えた。


 政権奪取が失敗に終わり、ティアを切り捨てることで、彼らは生き延びた。


 それが、一年前の彼女らしからぬ数々の愚かとも思える振る舞いの答えだ。



 ーーー気付いてやることができなかった。救えなった。この牢獄のような冷たい家の中で、たった一人の味方。


 婚約が決まったとき、頬を染め、瞳をキラキラさせて帰って来たから、てっきり恋をしているものと思って、手を放してしまった。


 第二王子は外交において優秀だと言われているが、実際は彼の側近の手柄なのではないかとシーリーは見ている。

 あの王子は保身に長けているだけの()()()俗物だ。


「お前があれを操ると?」

「この家の中では私に一番気を許しています。私の言うことならば聞くはずです」


 露ほどもそのような事は思っていない。シーリーは品よく微笑みながら、苦い嘘を吐いた。彼女はもう自分など信用していない。恐らく彼女にとってウィンクルム家の人間は全員敵だ。

 今、ティアは一人でどれほど心細い思いを抱えているのだろう。なぜもっと早く、マチルドを止めなかった?その前に多少不興をかってもマチルドを晩餐に出席させないよう、父に進言するべきだった。



 二時間にわたるエドガーとの交渉の結果、シーリーはティアの為に魅了封じのアミュレットを手にした。


 ーーーティアラ、今更、お前に許しをこうような真似はしない。




 彼女はカーライルをもう愛してはいないと言っていた。

 ならば。なぜこの家に戻ってきたのか?


 いずれにしても、彼女の真意を確かめなければならない。









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