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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第二章 帰還 ~リターン~

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思惑、そして謀

 


「修道院での生活はどうだった?」


 シーリーのその言葉にティアは拍子抜けした。そのうえ、兄は長い足を組みリラックスしている様子。口ぶりからして、ティアの追放後の生活をある程度知っているようだ。

 その後、マチルドがアボット卿との間に子供ができないこと。そして、アボット卿と愛妾の間に男子が生まれたことなどを聞いた。残酷ではあるが、あたりさわりのない家族の周辺事情などの会話がしばらく続き、和やかな雰囲気のなか二人だけのお茶会は終わった。


 はて?私は兄になんのためにサロンに呼ばれたのだろう?人払いまでして?ティアは首をひねった。その時になってようやくシーリーに庇われたことに気が付いた。この状況では、皆は彼がティアに説教をしていると思っていることだろう。やはりシーリーは策士だ。


 でも、なぜ庇ってくれたのだろう?無用な摩擦は生まないという合理主義からだろうか。しかし、それならば、姉の挑発に乗ったティアは叱責されいるはずだ。どうにも腑に落ちない。




 その後、図書館へ行く許可をもらった。すっかり自由に慣らされてしまったティアは、いい加減一人で行動したいというのが本音だった。まあ、侍女が付いてくるのは諦めよう。しかし、今回は侍女でも従僕でもなく、シーリーが付いてきた。いちいち人払いをしてくれるのはいいのだが、一番隙のない人物がそばにいる。


(なんでお兄様、直々?私、疲れます……)


 ティアは、より自由度が減った気がした。予定では、明日にもこの家を抜け出すつもりだが、思ったより警備が固く、どうしたものかと本を探すふりをしながら、ティアはひっそりと困ったように眉根を下げた。


 それとも折角二人きりなのだから、シーリーにウィンクルム家はこの後どう動くつもりなのか聞いてみようかとも思ったが、恐らく腹の探り合いに終始し、徒労に終わるだけだろう。ティアがいくら王宮で鍛えられたといっても、日々宮廷で自在に泳ぐ兄の足元にも及ばない。のらりくらりと躱されるどころか、こちらの思惑がばれてしまうだろう。


 しかし、今後のことを思うと、どうしてもウィンクルム家の動向を知りたい。ティアはマチルドと喧嘩するために帰ってきたわけではないのだ。それでは収穫とも言えない。そのような事のために自分を捨てた家にのこのこと戻ってきたわけではない。


(お父様の方が、情報を引き出しやすいかしら?煽てに弱いから)


 すっかり貴族的思考を取り戻したティアは、適当に書棚から引き抜いた本をパラパラめくりながら思案した。


 その時、シーリーの一言が図書室の静寂とティアの心の平静を奪った。


「そういえば、ティアラ。あの頃は、みっともないほどにカーライル殿下にのぼせ上っていたようだが、頭は冷えたのか?」

「!」


 また、外れそうになった仮面をティアは寸でで持ちこたえた。シーリーは今まで、ティアにこんな意地の悪い言い方をしたことはなかった。


「……そういえば、そんな方、いらっしゃいましたわね」


 ティアは、氷のような口調で答える。瞳も冷え切っている。それが、イザークからの問いならば、彼女は凍えることなく、体温をもって違うことを言っただろう。


「恋とは愚かなものだな。あそこまで自分を見失うとは、お前には随分がっかりさせられた」


 非難の色合いを含んだ声音。珍しく、シーリーが本音を吐いた。ティアは正面から兄の射すくめるような視線を受け止めた。やはり彼の言葉は臓腑を抉る。


「半分以上は呪いのようなものです」


 シーリーに観察されている。ティアは、悔しい気持ちを抑え、激しないように声と表情をコントロールした。


「呪い?」

「はい。魅了と言うそうです」


 ティアのその言葉に、シーリーが目を見開いた。そして、見る間に顔色を失い、美しいブルーの瞳が翳り、気分が悪そうに口元を手で覆う。


「どうかしたのですか?お兄様」


 彼にしては珍しい、急にどうしたのだろう?ティアは心配になった。


「どこか具合が悪いところでも?ご気分が悪いのですか?」


 不意に、心からの言葉が零れる。そばによってシーリーの腕に優しく気遣うように触れた。どんなに冷酷にふるまおうとしても、無意識に優しい性格が言動に出てしまう。それがティアの最大の魅力ではあるが、カルディアの貴族としては欠陥品以外の何物でもない。


「……そんな、馬鹿な……知らなかったのか?王族の使う魅了を」

「?」


 シーリーの絞り出すような掠れた声にティアは首を傾げた。するとシーリーはいきなり彼女の肩を強い力で揺さぶった。彼の美しい顔に悲痛な表情が浮かぶ。


「王宮に上がるとき、父上から魅了を封じるアミュレットを預かったのでは無かったのか?」


 その一言でティアは、すべてを悟った。自分が実の父親に謀られたことに。








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