晩餐 不和
和やかな雰囲気の中、晩餐は続いた。父、母、兄、姉と和気藹々とした雰囲気だ。但し、ひたすらにティアを無き者のように扱っている。
「アルベルトは順調か?」
「ええ、寄宿舎の生活にもすっかり慣れたようです。馬術クラブに入ったと便りにありました」
弟のアルベルトは貴族令息が通うギムナジウムに入学したようだ。どうやら王立魔導学院には入学しなかったらしい。
ティアは王宮に入って以降この家にはほとんど帰ってくることなどなかったので、その辺の事情は知らない。
「いや、そちらではなく、成績の方だ」
父エドガーのその言葉に母エカテリーナの顔が一瞬ゆがんだ。
「あの子は頭の良い子です」
少し怒りで声は震えたが、きっぱりと言い切った。エカテリーナは自分に似ているアルベルトを溺愛している。エドガーが何かというとできの良いシーリーと比較するので耐えられない。シーリーは彼女の実子ではないからだ。
「魔導学院に落ちて、入ったギムナジウムで一番になれないとは情けのないやつだ」
落ちたのね……。エカテリーナとマチルドの視線がティアに突き刺さる。彼女が主席合格していたからだ。ティアは心を無にした。エドガーはコネを利用して強引に入学させなかったようだ。そんな事をしても、どのみち魔力実技で恥をかくだけだ。プライドが高ければ高いほど、それに耐えられない。
母はぷるぷると怒りに震えている。
「あら、お父様、それを言うならもっと情けないものがこの家にはいるではありませんか?」
マチルドが嗜虐的に歪んだ笑顔で言うと、空気がさっと凍った。今まで無視されていたティアに視線が集まる。ティアは何食わぬ顔で食事をつづけた。
「恥知らず。というよりもウィンクルム家の面汚しっていうのかしら?」
ねちねちと始まった。一方、ティアは黙々と食事をしている。
「ちょっと。黙ってないで、何とかいったら!なんで平民が食堂にいるのよ!食事がまずくなるし、空気が汚れるわ。出て行きなさいよ」
取り合わないティアに焦れたマチルドがイライラと喚く。その言葉に、食堂で空気のように気配を潜めていた使用人たちに緊張が走る。ティアはマチルドの品の無さに少し眉根をひそめた。そして、フォークとナイフを静かに置いた。
「この人参のソテー最高ですわ。さすがウィンクルム家のシェフ、いい仕事をしています。
それと平民ってどなたのことですの?ここにいる使用人達のほとんどが平民と思われますが?ああ、うっかりしていましたわ、ほほほ。私もそうでしたわね。もしかして、私?」
いかにも楽し気に、余裕で言い放つと取り澄ました笑顔で首を傾げた。美しい銀糸の髪を揺らし、愛らしく艶やかな唇を引き上げ微笑む。淡い光沢のあるブルーのドレスが彼女の美貌を引き立てる。
王宮仕込みの方法で、ティアは売られた喧嘩を買った。




