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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第二章 帰還 ~リターン~

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家に帰る

 ――メラニア修道院の工房にて――


「ティア!ちょっとこれかけてみて」


 ティアはルチアから透明なガラスの入った眼鏡を受け取った。人相が変わるほど大きくて、不格好な眼鏡である。



「ああ、成功しましたね。瞳の色が茶色に変わっています」


 サフィラスがほっとしたように言い、ルチアがガッツポーズを作る。二人とも工房に籠ってここ二・三日、瞳の色が変わる眼鏡を作っていた。

 魔導で変えることも可能らしいのだが、ティアはその方法を知らない。魔力を帯びてしまうし、負担になる。よほど上手でなければ、魔力持ちの人間には、ばれしてしまう危険がある。そこで二人がティアの為に魔道具を作ってくれたのだ。


「ティアが思ったほど不細工になってないな。もとがいいからこれが限界か」


 ちなみにデザインはルチアである。


「まあ、瞳の色は変わっていますし、見た目も違いますから。これで髪の色を変えればバレないと

 思いますよ」


 サフィラスが顎に白くて長い指をあてて言う。


「お二人ともありがとうございます!」


 ティアが元気に礼をいう。これで彼女の変身グッズは完成した。浮き浮きのティアの横で、

 珍しく静かなメアリー。心なしか瞳がウルウルしている。


「本当に今夜、一人で行くんですか?」


 それは何度も話し合って決めたことだった。メアリーがいると素がでてしまう。それに、なによりも辛い思いはさせたくない。


「メアリーったら、まだ心配しているの?ほんのちょっとお家に帰るだけよ。それも、すぐに出るつもりよ?それ以外にカルディアに入る方法ないし」


 ティアはしょうがないというように肩をすくめ、にっこりと笑う。


「私を侍女にして連れてって!」


 メアリーがティアにしがみ付く。


「やあねぇ。メアリーは侍女ではなくて、私の初めてのお友達でしょ。大丈夫。生まれ育った家だから心配しないで」


 そう言って微笑んだティアの顔は、明るく力強かった。



*****



 霧に包まれた夜、カルディアの王都アイアースを一台の馬車がいく。黒塗りで紋章すら入っていない。大きな邸宅の前を通り過ぎ、人目につかない裏口で止まった。

 出会ったときと、同じように黒ずくめの格好をしたイザークが馬車を降りるティアの手を取る。


「無理はするな。そなたが家に帰ったことは、あくまでも内密なのだから」


 ティアが頷く。今の彼女はマントこそ羽織っているが、ドレスに身を包み、貴族の令嬢、そのものの姿をしていた。

 邸の裏口にぽつりを灯りがともっている。


 ティアが別れを告げようとイザークを見上げると、彼は優雅に跪いて胸に手を当て頭を垂れた。

 驚いて、丁寧にカーテシーを返した。


「ティアラ嬢、君の勇気に敬意を。気を付けて」


 背中を押すように言うと彼は馬車に乗り込み、去っていった。

 初めてイザークに「君」と呼ばれた。このような状況にもかかわらず、頬が染まった。

 認められたような気がしてとても嬉しかった。

 ティアはゆっくりと深呼吸をすると姿勢を正し、昂然と頭を上げた。そして入り口の扉に向かって優雅な足取りで歩く。


 


ーーー私はティアラ・デ・ウィンクルム。もう一度、侯爵令嬢の仮面をかぶる。








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