ご令嬢、お仕事を探します
爽やかな朝。修道院の近くには小川が流れている。
その一角にこの修道院の洗い場がある。ティアはそこにいた。
「ティア様!どうしたんですか。その手」
メアリーがティアに走り寄る。
「いやですわ。ティア様なんて呼ばないで下さいまし、私のことはただのティアとお呼びください。ほほほ」
とティアはおっとりと言うと淡い笑みを浮かべる。
その姿は儚げで美しい。
しかし、その手は血みどろだ。
彼女は今、修道院で洗濯に挑戦している。
悲惨な死を免れたいがため、今後の人生を模索中だ。
しかし慣れない水仕事に手が荒れるどころか流血騒ぎになってしまった。
彼女の繊細な肌は水仕事に耐えられなった。
非力なティアはメアリーに問答無用で医務室に引きずられていった。
「まったくティア様、どうしてこんな無茶するんですか。お掃除ならまだしも洗濯なんか無理ですよ」
メアリーは怒っている。神に仕える身の彼女は自分を大切に扱わないティアに少々の怒りを覚えている。
「そうですよ。ティア様。お手伝いしてくださるのは大変嬉しゅうございますが、あまりご無理をなさらないでください」
ことの顛末を聞いてあわててやってきたヒルデガルドにもいさめられてしまった。
「あの・・・私のことはティアとお呼びくださいませ」
ティアは申し訳なさと情けなさで消え入りそうだった。
庶民である屋敷の使用人たちが簡単にこなしていた仕事が元貴族であるティアにはできない。
なにをもって自分は特権意識をもっていたのか己の無能さに自問自答する日々である。
「あの、ティア様。この際洗濯はすっぱりあきらめて料理係というのはどうですか」
メアリーが良いことを思いついたとばかりに提案した。
「料理・・・ですか。私にもできるでしょうか」
「ええ。ぜひとも」
ヒルデガルドが微笑む。
ティアがはにかむように自信なさげに微笑んだ。
メアリーはその健気さに心を打たれてしまった。
そう初めの三月こそ嘆き女と恐れおののいていたが、今ではこの儚げな美少女に心酔中である。
その透明な美しさはまるでサーガに登場する聖女のようだ。きらめく銀糸の髪、夜のとばりが落ちる寸前のアメジスト色の瞳。
きっと罪人の罪を一身に背負ってこの修道院にお入りになったのね。
などと思い込みも甚だしい状態の今日この頃である。
「では早速調理場にいきましょう」
メアリーが元気に言い放つ。
しかし、10分後。
「いやーーー!ティア様!」
様子を見に来たメアリーが叫ぶ。
ティアは慣れない包丁に流血していた。




