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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第二章 帰還 ~リターン~

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続 ご令嬢、大図書館の秘密を知る 下


 ダンジョンの最奥についた。大きな扉は開け放たれていた。広間は闇に包まれている。


 ・・ちちっ、ちちちっ・・・


 静まり返った闇の向こうから、小さく雛の鳴く声がした。どこか心細そうだ。


「鳥の鳴き声がします」

「シムルグの子だから気を付けて」


 ティアは腕の中から、おろしてもらい。可愛い鳴き声の方へ向かった。彼女が歩くのに合わせて、広間の壁や柱に魔導の明かりがともる。

 広間に薄明かりが差し、ゆらゆらと不安定な光が照らす。


「どこかしら?きっとおなかをすかせているわ」


 などと言いながらパタパタと広間を歩き回る。


「腹は減ってないだろう。あれだけ食い尽くしているのだから」

「?」


 イザークが言っている事がわからなかった。ティアは首を傾げると、

 再び雛の捜索を始めた。



「ティア、こっちだ」


 イザークが先に見つけた。


「足元に気を付けて」


 彼女が、また転んで何かしでかすかと気が気ではない。



「あ!かわいい。すごくかわいいです~」


 ティアが、駆け寄る。シグルムの雛はぼんやりと光を放っていた。しかし、それは可愛いとは程遠く、凶悪な爪と獰猛な顔が付いている。


「待て」


 イザークが制止する間もなく、雛を抱き上げたティアが頬ずりしだす。ふわふわのうぶ毛をまとった魔物がティアの腕の中で気持ちよさそうにしている。取りあえず魔物が彼女に友好的で良かった。イザークはその様子をみてほっとした。彼女は昔から、夢中になると後先考えないところがある。


「本来は気性が荒いはずなんだがな。テイマーの素質でもあるのか?」


 イザークが首を傾げる。


「とってもいい子ですよ」


 ティアがそう言ってぎゅっと抱きしめると「ぐぅえー!!」と気味の悪い鳴き声をあげた。

 どうやらシムルグの子は喜んでいるらしい。ダンジョン内に転がっていた屍は彼女が抱いているシムルグの餌だったのだが、わかっているのだろうか?

 薄暗いダンジョンの中、美少女と魔物と屍と、とんでもない絵面が出来上がった。



「気に入っているところ悪いが、それを、こちらによこしてくれないか?」

「はい。私にも時々可愛がらせてくださいね」


 ティアが期待を込めて聞いてくる。どうみても可愛いからは程遠い魔物だ。イザークは苦笑を浮かべ曖昧に頷く。彼女との約束は時として自分の首を絞めるようだ。


 ティアから雛を受け取ると広間の中央にある台座に置いた。


 台座の周りには卵の殻が散らばっていた。イザークは静かに呪文を詠唱し始めた。赤い光の帯がするすると出現し、雛を縛るように幾重にも巻かれていく。帯には複雑な文様が浮かび上がる。


「隷属魔法…」


 ティアはその魔法の存在を知っていた。王族に稀に使い手が現れる。


 イザークは王族特有の金色の髪も深く青い瞳ももっていない。そして、何よりも王宮にいた頃、彼には一度も会ったことはなかった。今思うと意図的に会わせてもらえなかったのだろう。

 カミーユの話から覚悟はしていた。イザークは、態度こそ横柄なところはあるが、概ね紳士で、いつも気遣ってくれる。そして、人を見下すようなことはしない。


 だから・・・いつの間にか、彼に親しみを感じていた。いつの間にか、気安く話していた。


 でも、違った。


 今の自分は、国外追放された国も身分も持たない根無し草だ。彼との間に、途轍もなく大きな溝がぱっくりと開いたような気がした。なにか秘匿しなければならないことがあって彼は身分を明かさないのだろう。

 ティアは芽生えかけていた思いに慌てて蓋をした。

 急に黙り込んでしまった彼女に


「どうかしたのか?」


 気遣う声。

 彼が心配そうに、労わるように、柔らかく微笑んだ。

 ティアの閉じかけた心が、再び解けていくようだった。




 ダンジョンから地上へ出たときホッとした。死臭が体にこびりついているようで落ち着かない。ティアはすっかり疲れ切っていた。イザークがダンジョンを封印し、結界も張ってくれた。

 疲れて座り込んでしまったティアに、手を貸して立たせてくれた。


「ティア、私が怖くないのか?」

「はい?」


 彼は、急に何をいいだすのだろう。ティアは首を傾げた。


「いま、見せている姿が、私の本当の姿ではないかもしれないぞ」


 俯いた彼の整った顔に、さらりと掛かる綺麗な黒髪。漆黒の瞳をあわいブルーが彩る。僅かに翳る表情。人外……。


「別に。イザーク様はイザーク様ですよ」


 なぜ、そのようなことを聞くのだろう。ティアにとっては些事だった。彼の身分の方がよっぽど堪えた。


「……」


 彼が押し黙ってしまい、ティアは焦った。何かおかしなことを言ったのだろうか?

 傷つけるようなことを言ってしまったのだろうか?彼の心のやわらかい部分を抉ってしまったのだろうかと。

 焦った彼女が慌てて言う。


「あの、私、別に…獣人さん?オッケーですよ?」


 一瞬の沈黙の後、イザークが声をたてて笑いだした。


 その後も、何がツボにはまったのか、彼が発作的に肩を震わせて笑うので、ティアはとうとういじけてしまった。




 安らかな眠りについたペトラルカ村では、夜の静寂を縫うように「ぐぅえー!!」という気味の悪い鳴き声が響き渡った。



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