閑話 メラニア修道院~ブランチの恐怖
朝食が終わり閑散とした食堂で、ティアが上機嫌で料理を作っている。今やっとおかゆが炊けたところだ。野菜を煮込んだスープもいい感じにできている。
もう以前の彼女とは違う。半年間、カエルムの神殿で修業した成果だ。神官の食事は質素で、儀式の前などは三食おかゆや重湯のこともある。ティアには手慣れたものだった。
こんなに美味しそうに炊けたおかゆを誰かに食べさせてあげたいとティアはお祈りした。
side イザーク
ちょうどその時、偶然にもイザークは食堂の前を通りすがってしまった。
「イザーク様」
ティアが銀糸のつやつやな髪をなびかせ、瞳を輝かせて走り寄ってくる。彼はヒルデガルドと約束があったのだが、ついうっかり足を止めて、近付いてくる彼女を鑑賞してしまった。
「おかゆ美味しく炊けたので食べませんか?」
なぜ、私は足を止めてしまったのだろう?イザークは幸か不幸か、幼いころ、ばあやにレディの誘いは無碍に断るなと厳しくしつけられていた。刹那、前に彼女の入れた、この世の物とは思えないお茶の味が頭をかすめた。だが基本、紳士で礼儀正しい彼は、二つ返事でオーケーしてしまった。こうなったら、腹をくくるしかない。
「さあ、どうぞ」
出されたものはシンプルなおかゆで安全そうだった。ひとくち食べると塩加減もちょうど良く、いい感じに炊けていた。
「旨いな」
素直な感想が口をついてでた。
「どうして驚いているんですか?」
とティアが大きな瞳を瞬きながら、怪訝そうに聞いてくる。
「いや、なんというか・・・ほっとする味だ」
そういうと彼女は満足そうに眼を細めた。調子づいたティアはスープも勧めた。彼女のはにかむ様な可憐な笑顔とともに差し出されたそれは、とてもとても摩訶不思議な色をしていた。
あ、これ駄目なやつ。終ったな。
side メアリー
第二の犠牲者が通りかる。
「メアリー、おかゆ、作ったの一緒に食べましょう」
かわいい。ティアの笑顔がかわいい。ついうっかり、食堂に誘い込まれ、二つ返事でオーケーしてしまった。
お茶も満足に入れられなった彼女のおかゆに、一瞬、危険を感じたが、見た目はふっくらと炊けておいしそうだった。
一口スプーンですくう。
「美味しい!」
メアリーが叫ぶ。
「嬉しい!でも、どうして驚いているの?」
ティアがこてんと首を傾げる。
「いや、なんというか・・・美味しすぎて」
考えてみたらティアも一緒に食べているのだから、美味しいはずだ。彼女は味音痴ではない。
「こちらも、いかかですか?」
ティアが不思議な色のスープを勧めてくる。
あ、これ駄目なやつ。いや、もしかしたら、意表をついて美味しいかもしれない。
メアリーは一口飲んで、むせ返った。あやうくティアが自分を毒殺しようとしているのかと勘違いするところだった。
「ティア様、ちょっとこれ、何入れました?」
顔面蒼白で聞いてくる。
「へ?何って、食堂にあった調味料よ?」
ティアはあわてて飲んでみた。
「うぷっ」
危うく口に含んだものをリバースするところだった。
「どうしましょう!イザーク様に出してしまったわ」
ティアがわなわなと震える。
「えーーー!これを飲んだんですか?あの方?」
メアリーの目が限界まで見開かれた。
「どうしましょう!メアリー。しっかり、残さず飲んでいかれましたわ」
ティアが悲痛な叫びを漏らす。
それを聞いたメアリーは、一瞬で目が据わった。
「やるわね。イザーク様」
メアリーがおもむろにスプーンを握るとスープを掻きこみ始めた。
「なにをしているのメアリー!やーめーてーっ!責任は私がとるから」
「いえいえ、イザーク様には、負けられませんっ!」
「いやーーーっ!メアリ~!わかんない。なんでーーー!」
メアリーを止められずティアも残りのスープを涙目で掻きこんだ。
騒ぎを聞きつけたシスターマイアーナがやってきた。
ティアは「人に出す料理は必ず味見をしなさい!食べ物を弄ぶんじゃありません!」と説教され、非常時以外は調理をしてはいけない言い渡されることとなった。二度目の出入り禁止である。




