メラニア修道院 襲撃?
平和なはずのペトラルカ村では今、小さな騒動が起ころうとしていた。
夜陰に紛れてメラニア修道院に侵入する襲撃者たちがいた。ヒルデガルドの執務室でそれを、サフィラスとルチアが待ち受ける。
「結界内に入りました。そろそろ視認できますよ」
隣にいるルチアに声をかける。
「オッケー」
ルチアが魔導エネルギーで動く迫撃砲の照準を定める。
「目標確認」
ドゴーーーン!
不意打ちを食らって三人吹っ飛んだ。
「ちっ、三人か。メアリー頼んだよ」
大木の陰に待機していたメアリーは砲撃を確認。
「ふふふ、飛んで火にいる夏の虫ね」
不敵に笑うと残党に向けて巨大な火球を放つ。彼女がぱちんと指を鳴らすと、火球が四散した。
「ほーーーほほほっ!完全にコントロールできるようになった私の火魔法の恐ろしさを、とくと味わうがいい」
などとノリノリで完全に悪役のセリフを吐く。ここの修道院はヒルデガルドの敏腕経営の為、意外に敵が多く、メアリーはいつしか戦い慣れていった。
慌てふためく男たち、それでも訓練されているのか二手に分かれ、一方はメアリーに向かってくる。
メアリーは大木の陰から飛び出し、小さな火球を連打し、侵入者たちの連携を乱す。
その中でも態勢を立て直し、剣を抜きメアリーに襲い掛かろうとする。刹那、大木の上からガサリと葉擦れの音がする。間髪をおかず大木から岩のようなものが落ちてくる。二人が踏みつぶされ、三人まとめてこん棒のような腕でなぎ倒される。
「ナイスです!ノーラさん」
「メアリー、いい目くらましだった」
二人でハイタッチをする。
一方、執務室では
「さあ、おいでなすったよ。残り者どもが!」
ルチアが開け放した窓に足をかけ、ひらりと表に飛び出し、剣を抜く。
後にサフィラスが続く。これ以上迫撃砲を打って修道院の敷地をボコボコにするわけにはいかない。よく朝は何事もなかったように村の安寧の象徴に戻るのだから。
「ルチア、ここの修道院、刃物オッケーなんですか?」
きらりと光るむき身の剣をサフィラスがジト目でみる。
「ヒルデガルド様には許可取ったから」
といってにかっと笑うと剣を振りかぶって、襲撃者に突っ込んでいった。
「普通、ここはメイスでしょ」
サフィラスがあきれたように呟きながらも剣に強化を付与する魔法をのせる。
そのとき右手前方の暗がりからピカリと光りが漏れた。
「避けて!ルチア」
魔導士の伏兵がいた。魔弾による攻撃がルチア達の上に降り注ぐ。相手は味方ごと潰すつもりだ。サフィラスが走った。防御壁を展開しようとする。
間に合わない!
そう思った瞬間、ルチアが淡い光に包まれた。魔弾が弾かれていく。術を放った魔導士も被弾して倒された。
「え、何これ?サフィラスやったの?」
サフィラスが目を見張り、首を横にふる。
「反射と結界の両方を使っています。かなり高度な魔法ですね」
「シスタールチア!無事ですか~!」
元気いっぱいの声が響く。みるとティアが門の方から、ルチアのもとに子犬のように駆けてきた。
「まじか!ティアじゃないか」
ルチアも走り寄る。二人はひしっと抱き合った。
「ティア様~!」
再会の喜びにガン泣きのメアリーがティアのもとに全力疾走してくる。
「メアリー!会いたかったです」
ルチアに抱きしめられながらも、ティアがメアリーをみて嬉しそうに跳ねる。
三人は固く抱き合った。
横には魔弾や火球で焦げた襲撃者たちが転がっている。
「なかなかシュールな感動の再会だな」
とティアの後ろで見守っていたヴォルフがいう。
「う~ん、残念。剣より魔法の方がリーチ長いな」
と暴れ損ねたアリエルがいう。
「いいだろう。来る途中にいたやつらは、片づけたんだから」
そうこうしているうちに修道院の入り口に明りがともる。元気なヒルデガルドと疲れの見えるシスターマイアーナがでてくる。
「はいはーい。みなさん、そこの黒焦げちゃん達の回収あ~んど処理宜しく~。終わったら、今日は休んでいいからね。それからお客様は応接室にいらしてくださいねえ」
とヒルデガルドが手をパンパンとうち、テキパキと指示を飛ばした。完全に襲撃されることに慣れている様子。
「何ここ。これが日常茶飯事?」
アリエルが驚愕する。
「ああ、村は平和だが、この修道院はちょっと物騒なんだ」
といつつ、ヴォルフ達は修道院の戸口に入っていった。
夜も更けた修道院の応接室。ヴォルフ、サフィラス、アリエル、ノーラと、かなり眠そうなティアがいる。皆は、先ほどシスターマイアーナが出してくれた紅茶を飲んでいる。
「で、あいつら誰の差し金?」
とヴォルフが問う。
「今回の襲撃の黒幕は、カルディアのジーク王子とデュマ卿らしいね」
とサフィラスがこたえた。連中を吐かせたところ、こちらで雇われた流れの傭兵で、忠誠心のかけらもない奴らだった。誰から命令を受けたのかわかれば、自然と首謀者も知れる。
「ああ、リモージュの火種。第三王子と戦闘狂の公爵ね。でもなんだって修道院を襲撃したの?」
アリエルは合点がいかない。彼女の横でティアがこっくりこっくりと船を漕ぎだした。
「ティア嬢がまだここに匿われていると思ったんじゃないか?カーライル殿下が執着しているから、揺さぶりをかけたんだろう。先の紛争を収めたことが面白くないようだね」
「まったく、しょうもないな。カルディアにはまともな王子はいないのか?」
とノーラが呆れたようにいう。
「うん、第一王子のフィリップ殿下が比較的まともだな」
とヴォルフが言う。
「優秀なのか?」
「いや、凡庸だ」
「なるほど。権力闘争がおこるわけだ」
誰からともなくため息がでる。その様なことに巻き込まれる下々のものはたまったものではない。
諦めたような空気が漂う中、眠っていたはずのティアがぴくっと動いた。
「どうしたティア嬢?」
ティアは首から下げた水晶を握ると
「イザーク様が来ます」
とつぶやいた。
「へ?イザーク様なら、明日の朝、到着だと言っていたが」
ヴォルフがいった瞬間、カチャリとドアノブが回った。
扉が開くとシスターマイアーナと彼女に案内されたイザークが入って来た。
「「「「ええーーーー!」」」」
「なんだ?どうした?」
イザークが皆の反応に少々面を食らう。まったく動じることなく、素知らぬふりで、シスターマイアーナは紅茶を入れ直す。
「はやかったですね~」
「ああ・・・」
イザークがヴォルフの言葉に返事をしようとして、あらぬ方向みて固まった。イザークの視線の先を追うと、ガン泣きしているティアがいた。
「ささ、僕らは行きましょう」
サフィラスがヴォルフを戸口へひっぱる。「なるほど、邪魔者は退場か」などと言いながらアリエルもノーラもシスターマイアーナも出て行く。
「まったく、あいつら・・・」
イザークはティアの横に腰掛けた。
「ううっ・・・イザーク様・・・うぇ」
ティアが泣きながら、何かを訴えようとしている。
「なんで泣いているのか知らんが、取りあえず、泣くか、しゃべるかどちらかにしろ」
ティアにハンカチを差し出した。ティアは必死に嗚咽を止めようとしている。
「もう・・・会えないかと・・・思いました」
絞り出すようにそう言うと、また泣き出した。王宮にいた頃の無表情な彼女はもうそこにはいない。
少しは彼女の救いになれたのだろうか・・・。
彼にしては珍しく、柔らかく微笑んだ。
「なんだ。ティアはぜんぜん変わってないな」
昔の面影が重なる。そっとティアの髪にふれ、頭をなでた。
部屋を出た四人は食堂に移動した。適当なつまみを見繕って酒を飲んでいる。
「元気に見えても張りつめていたんだな」
とヴォルフがいうと
「まあ、ティアはいつも限界までがんばるからね」
と男二人が納得していると
「イザーク様がティアをひとりカエルムに置き去りにするからだろ」
ぷはあっと酒を旨そうに飲みながら、ノーラがいう。
「といってもあの場合しょうがないよ」
「なら、サフィラス、あんたは泣き伏しているティアを置いていけるか?」
「無理だな!」
間髪を入れず、迷いのない即答。
「ヴォルフは?」
「ありえない」
こちらもきっぱりと言い切る
「そういうことだよ」
ノーラが力強く頷く。その横で酒瓶を抱えたアリエルが「そいつは私のえものだよぉ~、うぃ~、ヒクッ、むにゃむにゃ」などと寝言を言いながら爆睡している。
「そう考えると、イザーク様のしたことが鬼の所業に思える」
「やめないか。ヴォルフ」
サフィラスが軽くいさめるように言うと
「俺なら、ほだされて連れ帰るな。絶対に持ち帰る」
と真顔でヴォルフがいう。酒のせいか目が据わっている。
「お前の願望はきいてない」
そんなヴォルフとサフィラスのやり取りに飽きたのか、ノーラが、また一心に芋を食べ始める。
するとヴォルフが何か閃いたように口を開く。
「ああ、そういやあ、ここ来るときお前の噂聞いたな。女性に興味がないというより、むしろ・・・」
サフィラスに締め上げられ、最後までいえない。
「それは~。あのヒルデガルドが適当に流した与太話だ。まだ流れているのか、その噂!」
額に青筋をたてたサフィラスが、ヴォルフの頭をぶんぶん振り回す。
二人の会話に完全に興味を失い酒をのみ
「やはり、ここの芋は旨いな。土か!土がいいのか?」
などと感心しながら、もぐもぐと芋を食べ続けるノーラ。横には酔っぱらって爆睡中のアリエル。
淡い月明かりのもと、ペトラルカ村の夜は、今日も長閑に更けていった。




