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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第二章 帰還 ~リターン~

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ご令嬢、黒い森を疾走します!


 ティアがカエルムで神聖魔法の勉強を始めて、半年が過ぎた。

 最初の頃は寂しかった。寂しさを紛らわすために必死になって勉強していると、いつの間にか毎日は充実していた。


 神官たちはみな厳しくも気のいい人達が多く、快適に過ごせた。神聖魔法は回復魔法に似ていてティアはあっという間に習得できた。


 カミーユに髪の色と瞳の色を変えて、呪解師にならないかと誘われている。ティアは呪われている自分でいいのかなと疑問に思ったが、どうも仕事がきつくて後継者不足のようだ。才能のあるものは高位の神官や宮廷魔導士になってしまうらしい。

 本当に呪いのかかっている人から、ただの妄想まで様々で、客あしらいも大変なようだ。身の上相談のようなことまで業務に含まれている。


 意外なことに神殿の仕事は修道院と違い、利益を求める。客商売で護符やポーション、魔導書などを売って、かなり稼いでいた。魔道具の開発にはお金がかかるらしい。聖職者というより商人に近い人もいた。


 その他、神殿には接客マニュアルもあり、びっくりした。アメジスト色の瞳を持つティアは表だって手伝えないので、裏方として護符やポーション作りを手伝った。そんなこんなで忙しくしていると迎えが来たこと知らされた。


 応接室に行くと旅装の男女二人の客がいた。一人はヴォルフだった。もう一人はアリエルという女騎士だった。

 ヴォルフとティアは再会を喜んだ。

 急なことに次の朝カエルムを立つこととなった。挨拶もそこそこに聖都カエルムを後にした。




「ちょっと急いでいるので、黒い森をぬけますね。ティア嬢はここは二回目でしたよね」


 とアリエルがきく。


「いえいえ、よく来ますよ」

「え?こんな危険なところに」


 一行は黒い森の入り口にたっていた。


「ここには貴重な薬草の群生地があるんです。時間があればご案内するのですが」


 とティアが残念そうにいう。ヴォルフとアリエルは顔を見合わせた。そういえばティアは腰に小ぶりのメイスを下げている。


「ティア嬢、何か、強力な攻撃魔法とか覚えたんですか?それともノーラ並の肉弾戦とか?」

「攻撃魔法は使えます。肉弾戦は無理ですけど。来るときは二日かかりましたが、今は一日あれば、大丈夫ですよ。皆さんの足を引っ張るようなことはありませんから。ふふふ」


 浮き浮きとした様子で不敵に笑うティアを見て、ヴォルフとアリエルは顔を見合わせた。


「ヴォルフ。ティア嬢、聞いてたイメージと少し違うけど?」

「確かに。何かが違う。見た目は変わらないが、俺にもわからん」

「じゃあ、出発ですね!日暮れには黒い森を抜けましょう!」


 そういうとティアが走り出した。


「あれ、ちょっと待っ!ティア嬢」


 ヴォルフとアリエルが慌ててついていく。


「そんな飛ばすと疲れますよ」


 ヴォルフがティアの横に並ぶ。


「はい、わかっています!でも疲れるころには、この坂も終わります」


「「はい?」」


 揃って首を傾げる騎士たち。


「一見、緩やかでわかりにくいですが、ここは少し下り坂になっているのです。なので、序盤はここで距離を稼ぎます!」


「なるほど!!」


 アリエルが感心して叫ぶとペースを上げた。


「ちょっと、待て!アリエル、ティア嬢と競争してどうする。俺たちは護衛だろう」

「くっ、やはり、騎士様たちの体力にはかないませんね」


 ティアが悔しそうに握りこぶしでいう。


「え、何?そこ悔しがるとこ?ってかティア嬢、神聖魔法の勉強してたんじゃないんですか?」


 ヴォルフが心底、不思議そうだ。


「もちろん、やっていましたが、合間を見て体力づくりをしていました。半年前、ここへ来るときは私の体力の無さが皆さんの足を引っ張ってしまったので、ちょっと頑張ってみました」


 可憐な笑顔でいう。誰も彼女をそんな風には思っていなかった。むしろ庇護したい気持ちでいっぱいだった。口には出さないが、イザークはおそらくその筆頭だ。


「神殿内を走っていたとか?」

「いえいえ。神殿内は緊急の時以外、走ってはいけません。信者様が何かあったのかと心配されますからね」


 ティアとヴォルフが走っている合間にも、先行して進むアリエルの前にゴブリンが数匹現れた。アリエルの剣の一閃で倒れていく。


「やはり、騎士様、素晴らしいです!」


 ティアが目を輝かして、感嘆の声を上げると「いや~それほどでも」とアリエルもまんざらではない。


「あまり褒めないでくださいよ。あいつ調子にのりますから」


 ヴォルフが困ったようにいう。しばらく走るとティアに疲れが見えてきた。


「ふう、そろそろ坂も終わりみたいです」

「おーい!アリエル戻ってこい。ペース落とすぞ」


 ヴォルフはそんなティアを見て少しほっとした。あんまり元気なので、ティアの皮をかぶった何かかと疑うところだった。きっと久しぶりに会ってはしゃいでいたのだろう。

 三人は焚火を囲んで昼食にした。先行していてヴォルフから呼び戻されたアリエルは得物をぶら下げていた。それを見事にさばく。

 ティアが手際のよい、二人をみて感心している。


「私は、一人で森に入るとキノコを採るのがせいぜいですが、騎士様はそういう訓練をなさっているのですか?」


「まあ、やりますね。ちょこっとだけ」


 焼けた肉にかじりつきながら、アリエルがいう。見た目は背の高い美人なのだが、どことなくノーラを髣髴とさせる。


「俺ら、辺境の出なんですよ。子供の頃は腹が減ると、そこら辺の野山で魔獣狩りして食べてました。近所の住民にも喜ばれるんですよ。危険が減ったって」


 ヴォルフが当然のことのようにいう。ティアは二人が羨ましくなった。


「ところで、ティア嬢。随分体力ありますね?ご婦人ですとこの森抜けるの二日はかかりますよ?なんなら、今日一日で抜けられそうですね。我ら騎士たちの行軍とかわりませんよ」


 アリエルが感心したように聞く。


「ああ、これは森になれているのと、水汲みで鍛えたのです」


「「水汲み??」」


 二人が驚いた。


「神殿で水汲みって・・・。神殿内には水が流れているじゃないですか?」


 ヴォルフがもっともな疑問をいう。


「ふふふ、それがですね。聖なる泉という物がありまして、そこの水は特別なのです。清めの儀式に使います。それを毎日運んで鍛えました」


 ティアが嬉しそうにいう。そんなティアにヴォルフは若干引いたが、アリエルは大喜びで彼女に筋肉の鍛え方を伝授し始めた。

 その横で「イザーク様は、ティア嬢にどんな言葉をかけたのだろうか?」と頭を悩ませていた。


 そして後半も森抜けは順調に進んでいるかに見えた。出口まであと少しのところまできて、魔獣の群れに囲まれてしまった。


「片づけるか」

「私は左をやる」


 声をかけ合いヴォルフとアリエルがすらりと剣を抜く。


「待ってください!」


 ティアが前に出てきた。


「え?ちょっとティア嬢。あぶなっ!」


 ヴォルフが慌てて前に回り込む。

 ティアは小さく呪文をとなえると右手を天に翳した。そこから眩い光の帯が迸る。


「さあ!走り抜けますよ!」


 元気いっぱいにティアが駆け出した。


「おお!なんだかわからんが、すごいなティア嬢」


 なにやら感心してアリエルが上機嫌でいう。相当、ティアが気に入ったようだ。


「いや、駄目だから、魔獣の群れに突っ込ませちゃ、だめだから」


 ヴォルフが悲痛な声を上げて追いかける。


 ―――ぶつっ!

 ―― グシャ!!


 魔物がつぶれる音がした。ティアは走っているだけなのに彼女の進む先の魔獣や魔物たちがどんどん倒れ行く。そしてヴォルフの横でも一匹の魔物がぐしゃりとつぶれた。まるで見えない壁にぶつかったように。緑や青の血しぶきが空間に張り付いていてゆっくりと下に流れ落ちる。


「え!これ結界!?」


 よく見ると野ネズミなどの無害な動物は、ぶつかることなく普通に通り過ぎている。魔獣だけが崩れ落ちてゆく。この半年でティアはとんでもない戦力になっていた。


「え~~!神聖魔法ってこんなアグレッシブなの?俺、剣抜く必要ないじゃん!護衛なのに」


 ヴォルフが頭を抱える。


「来るときはお世話になりました!帰りは私が頑張ります」


 アリエルと並んで先頭を走るティアが輝くような笑顔で振り返った。





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