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あなたのことは愛していますが、今回は辞退しようかと思います  作者: 別所 燈
第一章 逃避行 ~エスケープ~

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聖都カエルム2

 ティアはイザークから離れ、呪解師カミーユの前にたった。イザークは下がり、二人の様子を見守った。


 カミーユはティアの額に手を触れ、瞳を覗き込んだ。


「これは、随分と念入りに幾重にも掛けられた呪いだな」

「呪い?」


 ティアの瞳が不安に揺れた。いままで自分に呪いがかけられているなど考えもしなった。


「質が悪い呪いだ。この呪をかけた者は、随分とそなたに執着しておる様だ」


 ティアは不安になった。誰に呪われたのか見当もつかない。自分はそれほど恨まれていたのだろうか。恐怖を感じ思わずイザークを縋るように振り返る。

 彼の漆黒の瞳とぶつかった。今日は少し青味がかってみえる。彼の瞳の色は時折微妙な変化をみせる。ティアは以前、瞳の色の微妙な変化は魔力の強い者によくあることだと聞いたことがある。不思議な色合いを見せるイザークの瞳にしばし魅入られた。


「娘、そのきれいな殿方が気になるは仕方がなかろうが、しばし、私の目を見よ」


 ティアは真っ赤になり慌ててイザークから視線をはずした。彼女の様子をみて、カミーユが微かに微笑んだように見えた。気を取り直して呪解師の見開かれた深紅の瞳を見つめた。


 すると周りの景色が徐々に褪せていき、風景が消失する。虚空に一人放り出されたような寂寥感があった。額がジンジンと熱を持ち、頭の中に像が浮かんだ。王宮図書館に庭園、ティアの手を引き、先を歩く少年。カーライルの愛を囁く言葉と青い瞳、彼にまつわる様々な記憶が渦を巻くように流れ出した。それは胸を絶望でふさぐほど苦しい思い出の欠片だった。魂を刺すような痛みを感じた。


 ふいに額から清澄な風が流れ込んでいた。記憶の欠片が一つ一つ歪み、砕けて散っていった。そのたびに悲しみがあふれでて、その分、苦しみから解放されて行くような不思議な感覚があった。いくつかの記憶の欠片を残したところでそれは唐突に止まった。ゴリッ、ティアの心の奥底から禍々しい塊が膨大な質量をもって、せりあがってきた。それは、あっという間にティアの意識を闇に飲み込んだ。


「これはなんだ?」


 普段から表情を変えることないカミーユが顔色を失った。額に汗が浮き、苦し気に呻く。これほどの恐怖は今まで経験したことがない。ゴリッという気味の悪い感触に肝が冷えた。とんでもない質量をもつ怨念。今すぐ、この得体のしれないものを滅さねばならない。


 それは長年この職業についている彼女に降りた天啓のようなものだった。カミーユは額にあった手をティアの胸に移動する。カミーユの手が熱を帯び新たな光を生み出す。ありったけの神聖魔法を注ぎ込んだ一撃を放つ。膨大な魔力が迸った。


「やめろっ!」


 イザークがおかしな兆候に気付いて飛び出す。ティアの胸を強烈な聖なる波動が打った。

 彼女の背中から押し出されるように禍々しい黒い瘴気の塊が飛び出し、帯状に広がると見る間に膨れ上がり、黒龍の姿をとった。

 ティアの瞳から生気が抜け落ち、彼女は魂の抜け殻のようになって立ち尽した。


 広間に放たれた黒龍が縦横無尽に暴れだす。

 扉で待機していた神官たちが慌てて駆け寄ってきた。彼らは訓練されているだけあって、この未曾有の非常時にもすぐに態勢を立て直し、瘴気を振りまく黒龍を神聖魔法で迎撃する。カミーユが幾重にもティアの周りに結界をはりめぐらせ始めた。彼女の頭にはいまティアを守ることしかない。


 イザークは瞬時に状況を察した。一度はティアの体から出されたこの禍々しい物体がティアの体に戻りたがっていることに気付いた。

 すかさず彼は、黒龍に向け魔弾を叩きこんだ。黒龍が広間をのたうち回り、上に下に暴れ、天井や柱にひびが入り、石の破片が舞い、砂埃がもうもうと立ち込める。禍々しき黒龍は迎撃にでた神官たちに漆黒の瘴気を込めた礫を降らせる。一度は勢いが削がれたように見えた黒龍は、一気に祭壇の上まで飛ぶと反転し、まるで意志をもっているかのようにティアをめがけて滑空してきた。


 あっと言う間にカミーユが張った第一の結界が破られる。ティアの周りに幾重にも張ってあった結界が次々に破られる。カミーユはあきらめない。さらに結界を張る。イザークはかばうようにティアの前に出ると黒龍を正面から見据え防御壁を展開した。

 それが突破される直前でカミーユが結界をさらに張る。そしてまたイザークが防御壁を。一連の動作を繰り返し、神官たちの放つ神聖魔法で黒龍を弱らせる。随分弱ってきたように見えるが、それはこちらも一緒で、全員魔力が付きかけていた。イザークが最後の魔力込めて張った防御壁をやぶる。


 止められないのか!


 最後にカミーユのすべての魔力を込めた結界が四散した。いまや竜の姿を保てず黒い帯となった瘴気が、イザークにまっすぐに突っ込んできた。止める手立てはもう残っていない。


 何か方法は残っていないのか!?


 正面から待ち受ける。ティアから預かった深いブルーのアミュレットが二度瞬いて砕け散った。


 次の瞬間、なすすべもなく、禍々しい黒い帯がイザークの胸を貫いた。


 血しぶきが舞い。


 血反吐を吐いたところで彼の意識は消失した。


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