本編とはあまり関係ないプロローグ
「バーーーン!」
巨大な扉が勢い良く開いた、いや開いたというより破られたに近い。
扉を破ったのはいかにも勇者であるといった風貌の男だ。
その男、勇者はゆっくりだが、スキのない歩みで広い部屋に踏み入った。部屋の奥に置かれた禍々しい椅子に腰を掛けた者に向かい口を開く。
「お前が、魔王サタンか」
暗がりに地球で言うところの月のような天体の光が差し込み、いかにも魔王であるといった禍々しい鎧姿の人物を照らし出す。
「人間風情が、我が四天王を倒しここまで来るとはな……褒めてやろう」
勇者は目を閉じ魔王までたどり着くのに失った仲間達を思い浮かべる。そしてゆっくり目を開け剣を抜き構えた。
「魔王サタン! 覚悟しろ! お前を倒し必ずや世界に平和の光を!」
勇者の剣が緑色に輝き出した。
「食らえ!「『テラウィンドカット』」
緑色の斬撃が魔王サタンに向かって飛ぶが、斬撃は魔王サタンの寸前で掻き消えた。
「何!?」
驚愕する勇者をよそに魔王がゆっくりと勇者を指さし魔法を唱える。
「『デスパレード』」
勇者を黒い霧が包み、どこからともなく現れた、死神と形容できるそれは勇者の周りを数十体で取り囲んだ。そして死神達が一斉に、巨大な鎌で勇者に切りかかる。
「くっ!」
黒い霧の中から勇者の剣が煌めく。勇者は剣を横なぎに振り、黒い霧を振り払いそのままの勢いで回転しながら切りかかり死神達を一掃した。
「無駄だ!私に即死攻撃は効かない!」
魔王は不敵に笑う。
「ふふ、当然即死無効か。だがそれが目的ではない」
「何!?足が凍っている!?」
「『エターナルフリーズバースト』をお前の足元に放った。ダブル詠唱など造作もない」
膨大な魔力を使う最上級闇魔法。その内の一つの『デスパレード』を囮に使いさらに最上級氷魔法の『エターナルフリーズバースト』を同時に唱えると言う神業を息をするように行って見せた魔王サタン。
「くそ!いつの間に!」
凍った足を何とかしようともがき剣を突き立てる勇者。
そんな勇者を退屈そうに眺める魔王。動けない勇者への攻撃はいくらでもあるはずだがそれをしない。
「『バーニングカット』」
勇者の剣が赤く熱く光り、足元の氷を溶かす。何とか動けるようになった勇者。だが魔王との戦闘力の差は想像していたよりもずっと離れていた事に気づき恐怖からか剣がわずかに震え、その震えを抑えるかのように強力な剣技の数々を繰り出し魔王に挑む。
「はあ、はあ…」
戦いは一方的だった。ボロボロになり剣を支えに何とか立っている様な状態の勇者。
「どうした? 光の勇者ともあろう者がもう終わりか? 私はまだこの玉座から一歩も動いてないぞ?」
余裕だと言わんばかりに手を広げ勇者を挑発する魔王サタン。事実まだ魔王は一度も立ち上がってさえいない。いかにも魔王が座りそうな禍々しい椅子に座ったままだ。
「サタン様マジカッケー!」
柱の陰から勇者と魔王の戦いを覗く白いスライムが興奮気味につぶやく。
「そろそろ飽きた。終わりにするか」
魔王サタンが右手に禍々しい力の片鱗を見せる。
「私は負けるわけにはいかない。倒れていった仲間達のためにも、世界中で苦しむ人々のためにも!」
勇者の想いに呼応するように勇者の剣が金色に輝きだし、その光が勇者の全身を覆っていく。
「これは!? 力が溢れてくる!」
落ち着き払っていた魔王が椅子から立ち上がり動揺を隠せず声が上ずる。
「な、ななんだその光は! その力は!?」
「これはきっとみんなの想いだ! 喰らえ『アルティメットシャイニング』」
光が大魔王サタンと広間、魔王城全体に広がっていく。
「何だと!!? ぶああああああああああああああ!!!」
「サタン様あああああああああ」
白いスライムも巻き添えをくらい光の彼方へ消えていく。
辺り一面が瓦礫の山と化した場所に佇み、戦いの終わりの余韻に浸る勇者。
「長い戦いだった…… 空が晴れていく…… これで世界は平和になったんだ!」
絶大な力を持つ魔王を倒したことにより昼夜問わず闇が覆っていた空が青を取り戻し太陽の光が大地に降り注いだ。