変態発明家は猫になる装置を開発したようです
「つ、ついに出来たぞ! あはははは! やはり俺は天才だ!」
俺の名前は釜石琉羅。
今年で二十歳になる。両親はすでに他界しているが、莫大な遺産が残っている。
俺は働くなくても生活できるお金を持っている。
そんなわけで俺は日々、趣味の発明に勤しんでいる。
大学は通っていない。あんなのは時間の無駄だ。この天才的な頭脳があれば大学なんて必要ナッシブル! ついでに働く必要もナッシブル!
この三日間、ほとんど不眠不休で開発作業をしていた。鏡を見ると、目にクマがあり、無精髭が生えていた。
だが、早速発明品を使ってみようと思った。赤いブレスレット型の機械を腕につけ、スイッチを押した。
体には軽い電流が流れた。少しビリっときた。思わず俺は目を閉じた。
目を開けると俺の体にはフサフサの毛が生えており、視界は低くなった。
なれた、猫に。
名付けて猫化装置。その名の通り、猫になれる機械である。
なぜこれを開発したのかというと、女性は可愛い物に弱い。若い女性が猫になった俺に近づき撫でてくれてあわよくば一緒にお風呂も入れてくれるという下心丸出しの理由で開発をした。
鏡を見ると、白と茶色が混ざったチャーミングな猫だった。
よし! いける! これで若い女性を悩殺できる!
俺は早速、この格好で街に繰り出した。
血眼で若い女性を探した。すると、とある古そうな家で、ベランダで草取りをしている女性を発見した。
女性は茶髪で黒髪、年は俺と同じくらいか? ハーフっぽい顔立ちでとても美人だった。
俺は猫撫声で女性に近づいた。
「にゃ〜あ」
出た声はまさに猫そのものの声だった。
「あー猫ちゃんだー! 可愛い!」
俺の企み通り、女性は俺の体を撫でてくれた。俺は寝すべり撫でられるたびに体を伸ばしたり寝返りをしたりして、目一杯可愛さをアピールした。
「光里、何してるんだい?」
突然、年配の女性が現れた。手には何か菓子袋のようなものを持っていた。
「おばあちゃん! うちに猫が来たの」
「おや〜そうかい、可愛いねぇ......」
おばあちゃんは俺を優しく撫でてくれた。くそ、いいところだったのに。
「光里、今日はもう帰っていいよ。わざわざ草むしりに手伝いに来てくれて悪いねぇ。はいこれお礼のお菓子」
「気にしなくていいよ! また来週くるから! またねおばあちゃん、お菓子ありがとう!」
光里という女性は帰ってしまった。なおもおばあちゃんは俺のことを撫でている。
「いやぁ、可愛いねぇ。この年になると寂しくなってね......ちょっと待っててね」
おばあちゃんは家の中に戻った。なんだろう? 俺は気になってそのまま待っていた。
すると、牛乳の入った器を用意してくれた。
「お飲み」
俺はおばあちゃんに言われるがまま牛乳を飲んだ。
おいしい。猫になったせいだろうか。人間の姿の時よりも美味しい気がする。普段、あまり俺は牛乳を飲まない。
「また来たくなったらいつでも遊びに来てね。待ってるから」
おばあちゃんは優しい笑顔でそう言った。
「にゃ〜」
猫語で返事をした。俺は牛乳を全部飲んだ後、おばあちゃんの自宅を後にした。
その後はいろいろ移動してみたものの、良さそうな女性は見つからなかった。
人目のないところに移動し、なれない手つきで装置のボタンを押し、俺は人間に戻った。
くそ! 明日こそは。
次の日、俺は公園に赴いた。若い母親集団がいたので、近くに行って色々とアピールしたものの、「わー可愛い!」って言われるだけだったので、早々に諦めた。
俺の事よりも、ご主人の悪口で話題で盛り上がっていた。いやぁ......結婚ってやっぱりあんまりいいもんじゃないのかもしれん......
喉が乾いたので、牛乳を飲みに昨日のおばあちゃんのところに向かった。
ちょうど、おばあちゃんは外にあるベンチに座っていた。
「おや! 今日も来たのかい、ちょっと待っててね」
おばあちゃんは牛乳とキャットフードを用意してくれた。
「さぁ、どうぞお食べ」
牛乳は昨日と変わらず、美味しかった。キャットフードか。これはいけるだろうか?
恐る恐る食べると口の中に魚の旨味が広がった。とても美味しかった。
しかし、わざわざ昨日、キャットフードを買ってくれたのだろうか?
キャットフードを食べ終えた後、俺は眠くなりおばあちゃんの膝の乗っかり、眠ることにした。
おばあちゃんは優しい手つきで俺を撫でてくれた。
当初の目的とまるっきり違うが、これはこれでいい。和む。
「五年前に主人が亡くなってねぇ......」
突然、おばあちゃんが一人語りをしてきた。
「孫はたまに来てくれるんだけど、それでも一人の家は寂しくってね。タマちゃんが来てくれて嬉しいよ」
しかも勝手に名前をつけられてしまった。まぁ、別にいいけど。
孤独か......俺も両親が亡くなった直後はすごく悲しかった。
孤独感を忘れさせてくれたのは新しい発明品の開発だった。
俺は色んなものを作ってきた。
服が透けて見えるメガネ(服はおろか体も透けて見えて失敗。人が人体模型のように見えただけだった)
人を惚れさせる事のできるビーム(どういうわけかオカマにしか効果がなかった)
メイド型のロボット(性能はともかく、外見が俺の不気味になってしまった)
などなど......まぁ、失敗作の方が多かった。これが成功すれば世の男性から絶賛されると思ったんだが......
しかし、今回の俺の発明はこのおばあちゃんを満足させることができたのかもな。
三十分ほど寝た後は俺は帰ることにした。
「タマちゃん、また来てね」
「にゃ〜」
まぁ、また来てあげるとするか。基本、暇だしな。