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番外  とある日の放課後

現在はあちら優先で進めていまして、こちらは番外でお茶を濁させてくださいませ。

 ベアトリクスが学校に馴染み始めた、ある日。

 この日は不幸な用事があり、普段よりも少しだけ下校が遅くなっていた。悠児はすでに下校しており、また校内に残る生徒は、その殆どが部活動を理由としている。


「ではマサユキ、帰りましょう」

「うん」


 真幸が立ち上がった、その時。

 教室後ろ側のドアが開き、ジャージ姿のクラスメートの女子1名と、先輩と思しき見慣れない女子が2名、やってきた。

 2人の先輩は、方やショートヘアーの活発そうな雰囲気。方やロングヘアーの見るからに大人しそうな雰囲気である。


「あ、いた。ベアトリクスさん、ちょっと話いいですか?」

「ッ。構いませんが、暗くなる前に帰りたいので、手短にお願いします」


 外からは分からないように舌打ちをするベアトリクス。

 その光景を見ていた真幸は、気を使われないようにと先に教室を出て、廊下で待機。

 女子たちもこれに気付き、教室に入りドアを閉めた。


「それで、用件は何でしょうか?」

「私から説明させてもらうね」


 活発そうな側の、仮称先輩Aである。


「私らは女バスでね、この子からあなたが凄く運動神経がいいって聞いて、スカウトに来たの。もちろん無理にとは言わないよ。どう?」

「どうと言われましても。お話がそれだけならば失礼します」

「あー! 待った待った。体験入部だけでも、どう? 実際にやるとまた違うでしょ?」


 ベアトリクスの視界には、先輩の後ろで拝むように手をすり合わせているクラスメートが見えている。


(勧誘ノルマでもあるのかもしれませんね。それでなくても、ここで心証を害するのは得策では無いでしょうから、あちらから諦めて頂きましょうか)

「申し訳ありませんが、わたくしはこれでも警察機関に保護されている身です。帰り時間が遅くなるのは、あまりよろしくないのです」

「大丈夫大丈夫! そこはちゃんと調整するし、なんなら練習試合の数合わせだけでもいいから!」

(おっと、引く気無しですか……これは困りましたね)


 一方その頃真幸は、ガラス越しに鳩からフライングボディアタックを仕掛けられていた。


(この音はマサユキでしょう。……たまには利用させて頂きましょう)

「連れがいますので、まずは彼に話を通してからです」

「あーさっきの。彼氏?」「違います」


 食い気味に否定するベアトリクス。


「あの~……ベアトリクスさん、そこをなんとか……ね? 正直私の立場もあるし……」


 クラスメート女子が耳打ちしてきた。

 だがこれは大いに逆効果。


「立場と仰るのであれば、わたくしにも立場があります。申し訳ございませんが、これは”大人が決めた事”なのです。ご了承下さいませ」


 大人が決めた事ならば、所詮は学生である彼女たちに敵う術は無い。

 この言葉は両親からのアドバイスである。そしてその効果も絶大。絶大すぎてクラスメート女子が涙目になるほど。


(あっ、これはやりすぎたかも……)

「んんっ。ともかく、方々の許可なしに私の独断でそれを決定するという事はできないのです」

「……分かった。けどチャンスは頂戴。この後練習試合するから、彼氏と一緒でもいいから顔出して。ね?」

「彼氏ではありませんから」

「あはは。それじゃあ私たちは体育館で待ってるから」

「え、でも先輩」「いいからいいから」


 先輩Aはクラスメート女子と仮称先輩Bの背中を押し、教室を後にした。


(はぁ。結局は嫌われる事になりそう)


 ベアトリクスは溜め息をつき、廊下で待つ真幸と合流。


「マサユキ、お待たせしました」

「何がですか? 僕は待っていたつもりなんてありませんよ」

(おやっ、ふふ。まさかの拗ねるマサユキ。これは貴重)


「……何笑ってるんですか?」

「おっと、これは失礼。では帰りましょうか」

「体育館に行ってもいいんですよ? 僕だけでも帰れるんですから」

「ならば何故待っていたのですか?」

「だから待っていませんって。それに……女の子を1人で出歩かせるわけには行きませんから」

「ふふっ! あはは!」


 大笑いのベアトリクスと、ほんの少し照れる真幸。


(へぇ。マサユキは意外と寂しがり屋さんなのですね)

「……なんですか? その目」

「いいえ、何も。ふふっ」

「もう……」


 下駄箱で靴を換え、学校を出る2人。


「でも、明日ちゃんと謝ってあげてくださいね。じゃないと息苦しくなるのはベアトリクスさんなんですから」

「おや、わたくしの心配をして下さるとは意外」

「意外は余計です……」



 それからしばらく。

 体育館でシュート練習中のクラスメート女子は時計を気にしており、先輩Aはそんな彼女に活を入れていた。


「そこ! 集中!」「はいっ!」


「んー、でもこりゃー、すっぽかされたなぁ」

「……分かっていた事……」


 ここで初めて先輩Bが口を開いた。とても女子バスケットボール部員とは思えない、弱々しい声色である。


「おや、読んでいましたか?」

「……ぱいおつかいでー……」

「オッサンかよっ! っていうか意味分かりませんから」

「……あれだけ大きいと、邪魔になる……」

「あ~。私らぺったん子ですからね……」

「うん……」


 居た堪れない雰囲気に包まれる体育館。

 結局彼女たちは、ベアトリクスの獲得を諦めたのだった。


「はぁ~、それじゃあ練習試合始めるよ!」

「「「はいっ!」」」

「……わたし見てるだけ……」

「そりゃあなた、顧問の先生なんですから」

「……てへぺろ……」



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