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3/12

 東警察署。その取調室には、ベアトリクスとみゆきと後輩の3人のみ。


「えーっと……べ、べー……」「ベアトリクスです」

「ごめんなさいね。ベアトリクスさんは、その容姿からして日本人ではありませんよね?」

「はい。信じられないとは思うのですが、わたくしは異世界よりマサユキ・サイダを守護するために遣わされた者です」

「異世界……そういうのまで引き寄せちゃったかー。んーそうだな、刑事としては信じないけど、個人としてはあなたの言葉を信用します」

「そんなに簡単に受け入れても良いのですか? 彼もでしたが、冷静かつ寛容が過ぎるのでは?」

「ベアトリクスさんがいつからあの子の事を見てきたのかは知りません。だけど私はあの子を産んだ人間なの。お分かり?」


 ほんの少しだけ語気が強くなるみゆき。そんな母親に敵うべくもないベアトリクスは、素直に頷くしかできない。


「それじゃあ本題ですけど――」



 ベアトリクスの取調べ中、真幸は暇な刑事たちとババ抜きをして、全敗していた。


「俺ら刑事だし!」

「ですよねー」


 一方取調室では、ベアトリクスの服装と剣が一番の問題になっている。


「その剣と鎧も証拠品として押収しないといけないんだけど、嫌でしょ?」

「この剣は英雄が魔王を撃ち滅ぼした聖剣ですし、鎧もそう容易く手に入るものではありません。正直に申し上げて、押収されるのは困ります」

「だよね。ん~……あ、隠せる? ほら、異世界なら魔法で隠せないかな? もし証拠品が存在していないなら、こっちとしても逮捕はできないから」

「可能です。けれど、よろしいのですか? 仮にも刑事がそのような犯罪に加担する行為を働くのは、王女の端くれとして複雑なのですけれど」

「固い事言いっこなし。必要な時にだけ出して、あの子を守って、証拠は無いから私たちもお仕事せずに済む。パーフェクト!」


 妙にノッてきた母みゆき。

 ベアトリクスは普段着も持ってきているが、この隠蔽作戦の発案者が刑事であり、真幸の母親なので、悩み呆れている。

 だがここから穏便に脱出する術を自分が持ち合わせていないのも事実なので、仕方なくこの案に頷いた。


「分かりました。そちらがよろしいのであれば、わたくしがそれを否定する必要もないと考えます」

「でも先輩、魔法が見たいだけなんでしょ?」

「うるさい。いいからあんたは調書を偽装しなさい」

「はーい」


 なんとも気の抜けた、そしてなんとも刑事らしからぬ会話に、ベアトリクスも笑ってしまう。そしてこれがこの世界に来て初めての笑顔でもある。


「ふふっ!」

「おっ、ようやく笑ってくれた」

「あ、これは失礼致しました」

「いやいや、いいんだよ。人間ずーっと気を張ってたら壊れちゃいますから。適度に笑顔えがおー」

「そうですね。……彼はどこか抜けている様子ですけど」


 この言葉にみゆきの目が少しだけ鋭くなった。ベアトリクスもそれに気付き、そしてこれは怒りなのだとすぐに分かった。


「みづき、あんた真幸と同じだったらどれくらい生き延びる自信ある?」

「1時間」

「まあ、そんな所だろうね。そういう事なんですよ」


 ベアトリクスは自分が色眼鏡で真幸を見ていた事を恥じ、後悔した


「ならば、わたくしはマサユキに謝らなければいけません。彼に”努力を怠り失敗を運命のせいにしている”と言ってしまいましたから」

「あっはっはっ! だからか。いやぁ私ね、電話してたから何も言わなかったけど、内心すっごい驚いたんだよ。真幸のあんな顔見たの、ここ10年位なかったから。昨日今日知り合ったベアトリクスさんには判断できないだろうけど、今のあの子は10年以上もずーっと保っていた緊張を解いてリラックスしてる。……だから、ありがとうございます」


 自分は感謝されるような言葉を吐いてはいない。そう思いながらも、母みゆきの表情と言葉に嘘はなく、だからこそベアトリクスはその感謝を受け入れ、無言で頭を下げるだけしか出来なかった。


 取調べが終わり、ベアトリクスはみゆきに付き添われて空き部屋へ。別の刑事に付き添われて真幸もやって来た。

 ベアトリクスは真幸が部屋に入った瞬間と、自分を確認した後との表情を見比べて、みゆきの言葉が本当なのだと改めて確信。


「魔法がどういうものかが分からないから、安全を考えてね。あと真幸には見せておいたほうがいいだろうから」

「それは構いません。……ですがひとつ訂正を。わたくしの使うものは魔法ではなく魔術です。わたくしの世界では、魔法は世界のほんの一握りしか使えませんでしたので」

「魔法と魔術って、どう違うんですか?」

「世界の法則を捻じ曲げるのが魔法、世界の法則に則るのが魔術となります。例えるのならば、炎を水に変えるのが魔法で、炎と水を合わせて爆発させるのが魔術です」

「真幸分かった?」

「なんとなく。奇跡が魔法で科学が魔術」

「ええ、その解釈で間違いありません」


 当たった事に、年相応に顔がほころぶ真幸。


「今更なのですが、こちらの世界にはそのような術式は存在していないのですよね?」

「「ないです」」

「分かりました。では着替えますね」

「あの!」「裸にはなりませんのでご安心を」「了解ですっ!」


 先読みをされ、思わず敬礼をする真幸。

 みゆきは笑ったが、ベアトリクスは表情を変えない。


 ベアトリクスは両手を開き前へと突き出し、詠唱を開始。


「サンギ・エン・エベナージョ・ヴェストージ」


 1節唱えられるたびにベアトリクスの前に文字が浮かび、同時に腕を左右へと開いてゆく。詠唱完了と同時に腕を開き切ると、文字が光の布となってベアトリクスを包み始めた。体の全てを包むと光が弾け、真綿が浮かぶ程度のふわりとした風が吹き、着替えが終わっている。

 ベアトリクスの普段着は、少々大きめのクリームに近い黄色い長袖シャツに、濃い目の緑のチェック柄スカートと紺色のハイソックス、ライトブラウンでくるぶし程度までの長さの紐革靴。

 詠唱を含めても10秒程度。しかし現代日本人にとっては、文字通りの奇跡のような10秒。


「着替えですから、この程度です」

「「魔術すごい……」」


 目が点になっている親子に、本日2度目の笑顔を見せるベアトリクス。


「……あっ、かわいい」

「チッ、それはどのような意味なのですか? 今までのわたくしが鬼や悪魔だとでも言いたいように聞こえるのですけれど?」

「す、すみません。でも……あの、本音が漏れました」


 これに笑ったのはまたもやみゆき。そして素直な真幸に、内心ベアトリクスも悪い気はしていない。


「そういえばベアトリクスさん、取調べ中も口が動いてたけど、その舌打ちってクセになってるの?」

「あっ、お気を悪くしましたら申し訳ございません。仰るとおりで、幼少期からどうしても抜けないクセなのです」

「ベアトリクスさんも僕と同じ不幸な体質ですね」

「チッ!」「ひぃっ」

「こいつと一緒にはされたくないよねー」

「はい」


 素直なベアトリクスになす術もない真幸。

 刑事課オフィスに戻り、みゆきは帰り支度。今日は元々早上がりの予定である。そして目論見どおりベアトリクスはお咎めなしで警察署を脱出。

 みゆきの車は緑系カーキ色で車高を大胆にリフトアップした4WD。車内にはロールバーまで組まれている。

 先ほどの作戦といい車といい、不幸息子の母親とは思えない振る舞いに、ベアトリクスも驚き顔。しかし一番驚いたのは、助手席に乗った真幸のシートベルトが、本格的な5点式シートベルトだった事。


「そこまでする必要が?」

「僕に普通のシートベルトだと勝手に外れちゃうんですよ。そしてそういう時に限って急な飛び出しがある」

「この車だってね、落下物があってもどうにかなるようにと思ってこうしてるの。女刑事が自分の運転で息子を死なせるなんて、絶対に嫌ですから」


 ハンドルが滑らないように黒革のグローブをはめつつ、まるで宣言するかのように強い口調のみゆき。

 ベアトリクスは改めて自分の認識の甘さを感じながら、車での移動ならば自分にできる事はないと割り切る。

 いざ走り出すと、ベアトリクスの思っていたような緊張感はなく、至って普通の親子の会話が繰り広げられていた。その会話内容から、今日が入学式だった事、朝からずぶ濡れになった事、真幸には友人が1人いる事などを頭に入れる。


(笑って済ませられる内容ではないでしょうに。……しかし、これがこの家族にとっての日常なのですね。覚悟が決まっていないのはわたくしのほうでした)


 そして不幸は突然に訪れる。

 鉄パイプが満載され、それがどう見ても車体からはみ出しているトラックが、車の前に強引に割り込んできた。

 ベアトリクスは慣れない車の、しかも後部座席でしっかりとシートベルトをしているので身動きが出来ない。だが真幸もみゆきも全く動じる様子を見せず、一気にブレーキ。

 驚きと衝撃で声が出るベアトリクスだったが、その声は路上に鉄パイプが散らばる音でかき消された。


「見えてた?」

「見えてた。ベアトリクスさん大丈夫かーい?」

「は、はい……」


 そして何事もなかったかのように鉄パイプを乗り越え、その場から走り去る4WD。

 ベアトリクスは気付いていなかったが、みゆきも真幸も会話をしつつ周囲の状況を把握し続けて、前方右車線に右折車がいる事、後方からトラックがかなりのスピードで迫ってきている事、さらに自車後方には車がいない事を確認していたのだ。


(わたくしが逆の立場だったら……)


 改めてそれを想像し、青ざめるベアトリクス。

 その後は何も信用できないと言ってもいいほどの警戒をするベアトリクスだったが、しかし特に何も起こらず、無事に幸多家へと到着した。

 幸多家は2階建てで、1階にリビングダイニングと両親が使う2部屋、2階には納戸も含めて4部屋ある。

 ベアトリクスは靴を脱いで上がる事は調べてあるので、よくある靴を履いたまま上がろうとするシーンはない。


「王女様には狭いかもしれないけど、くつろいでよ。真幸、お昼おねがーい」

「はーい」

「わたくしは王女とはいえ第三位ですし、馬小屋で寝てパンとスープだけの生活くらいは覚悟してきましたので、ご心配なく」

「あはは! さすがにそこまでじゃないから安心して。あとウチの料理番は真幸ね」

「マサユキは料理がお得意なのですか?」


 その質問には真幸本人が答えた。


「仕方なくですよー。ウチで料理できるのが僕だけで、母さんはご飯を炊く事と魚を焼く事と肉を焼く事くらいしかできないし、父さんは包丁を握った事もないし、拓哉(たくや)だってインスタントくらいだし」

「……こう言っては何ですが、大丈夫なのですか? 火を扱うのでしょう?」

「これが不思議で、料理だけはなんでもないんですよ。もしかしたら僕と繋がってる英雄たちって、みんな料理が下手なのかも」


 そう話しながらも手際よくフライパンを火にかけ油をひくと、昨日と朝の残りご飯を炒め始める真幸。

 ご飯が温まった後にタマゴを2個投入し、ご飯がくっ付かないように強火で一気に火を通す。味付けは市販のものを使い、あれよあれよという間にインスタントのチャーハンが姿を現す。そして木のお皿にお椀形に盛り付ければ、完成。


「「いただきまーす」」

「い、いただきます……」


 あまりの手際の良さに驚いてしまうベアトリクス。そして一口食べれば、インスタントながらもしっかりとしたパラパラチャーハンである事に脱帽。

 突然の訪問者に量が少なくなってしまった事もあり、3人のお皿はみるみるうちに底の模様が見えてしまった。

 そして皿洗いは真幸以外、今は母みゆきが担当。理由はその不幸体質ゆえ。


 幸多家には、普通の家にはある2つの物がない。

 ひとつは割れ物。そしてもうひとつは鉄製の取っ手。

 割れ物はガラス製品のほかに陶器の皿も含まれるので、幸多家の食器は全て木製であり、ガラス戸はポリカーボネート製。蛍光灯もガラスなので必ずカバーで覆い、交換は真幸のいない時に行う徹底振り。

 鉄の取っ手は一見問題ないように思えるかもしれないが、何度か静電気により衣服を燃やしているのでご法度となった。


「ご馳走様でした。マサユキ、これは謙遜する必要はないと思いますよ?」

「王女様にそう仰っていただけるならば光栄です。ベアトリクスさんは?」

「チッ、経験がありません」

「ごめんなさい……」

「あ、いえいえ。先ほども申し上げましたが、わたくしの舌打ちは悪癖なので、あまりお気になさらず。それからわたくしが王女であるという事もお気になさらず」

「分かりました」


「時に、先ほどタクヤというお名前が出ていましたが?」

「ああ、兄です。今は大学生で1人暮らしなので」

「そうでしたか」


 ようやく和気藹々としたムードになり、ベアトリクスもお腹が満たされたおかげで少しだけ気を緩める。

 そんな会話中、みゆきが一番重要な話題を切り出した。


「あ、王女様ってどこに泊まるの?」

「様子を見てから考えようと思っておりましたので、まだ何も。元の世界にも帰ろうと思えば帰れるのですが、恐らくとっくにわたくしの居場所はなくなっていますし、少々遺恨もありますので、許されるのならばこのままこちらの世界に永住するつもりです」

「大胆だねー。だったらそのままウチに住まない? 真幸の監視にも丁度いいでしょ」

「……ご迷惑でないのならば」

「迷惑どころか、娘ができたんだから大喜びだよ。真幸、拓哉に部屋貸せって電話しておいて」

「僕のスマホ壊れたんだけど? まあ、家デンでいいか」


 流れるように話が進み、いつの間にか寝床はおろか家族までもを手に入れているベアトリクス。しかし当人はまだその事に気付いていない。

 そして真幸に呼ばれ、電話を交代。


『はい、お電話代わりました』

『あ、初めまして。真幸の兄の拓哉です』

『初めまして。わたくしはベアトリクス・エスメラルダ・スタールビーと申します』

『おーマジなんだ。んで真幸から話は聞きました。俺の部屋でいいならどうぞ使ってください。ただ男臭いかも知れませんけど。あと部屋の物は納戸に入れちゃっていいんで』

『承知致しました。突然の事ながらご理解とご協力頂き、ありがとうございます』

『あっはっはっ! 真幸関連だったら地球が割れても驚きませんよ。んじゃ母に代わってください』


 電話を母みゆきに代わり、ベアトリクスは先ほどまでと同じ位置に座る。

 真幸はベアトリクスの表情がまた一段和らいだ事にほっとした。真幸自身もベアトリクスが守護してくれるならば安心できるし、なによりも自分の不幸で家族に迷惑をかけずに済むからだ。

 そんな真幸を見たベアトリクスは、立ち上がり姿勢を正し、頭を下げた。


「マサユキ・サイダ。わたくしベアトリクス・エスメラルダ・スタールビーは、先ほどの、”努力を怠り失敗を運命のせいにしている”という発言を、撤回し謝罪致します。あなたはわたくしの考えの及ばない部分までも、努力を怠ってなどいなかった。ただわたくしの知見が狭く、その努力が見えていないだけでした。申し訳ございません」


 この謝罪に対し真幸は立ち上がり、手を差し出した。


「猫の暴走車の件で、僕も体質に慣れて気が緩んでたなって思いましたし、それは努力を怠ってるっていう事ですから、ベアトリクスさんの言葉は間違いじゃありません。だから握手して、終わりです」

「……では、握手で」


 こうしてベアトリクスは、異世界への渡航という不安を降ろす事ができた。



 2階の部屋へは真幸が案内。階段には転落防止のゴムマットが敷かれ、手すりも2本装備されている徹底振り。

 ベアトリクスの使う拓哉の部屋は9.5畳と広く、もう1人いても大丈夫なほど。

 一度整理されているので部屋に荷物は少なく、また布団もクリーニングに出されているので、それほど男臭はしていない。


「拓哉も言っていましたけど、自由に使っちゃっていいですからね」

「分かりました。では次にマサユキの部屋も拝見させて頂きます」

「えっ!? い、いやいや、僕の部屋は見なくても……」

「念のためです。先ほども仰っていたではありませんか、不幸に慣れて気が緩んでいたと。ならば先入観のないわたくしの目で確認を」

「ダメです勘弁してください。年頃の男子の部屋ですよ? 分かってください!」


 意味が分かったベアトリクスは、汚いものを見るような目で真幸を見る。


「……10分あげますから、見えないように隠して下さいませ」

「は、はいっ!」


 ベアトリクスは溜め息をついてベッドに座り、そこから倒れるように力を抜いて横になった。

 一方真幸は分身の術でも使っているかのような速度で部屋を片付けている。

 真幸はその不幸体質ゆえに反射神経が鍛えられており、身体的にも瞬発力が高い。不幸ゆえに身体能力が高くなってしまったのだ。

 そうやって片付けを10分以内で終わらせ、ベアトリクスの部屋をノック。


「終わりましたよー。……ベアトリクスさーん? おーい?」


 返事がない。着替え中かもしれないが、しかし着替えといえば鎧姿と現在の普段着のみのはず。そもそも着替え中ならば余計に返事をするはず。

 そう思った真幸は、ゆっくりとドアを開け、部屋を覗く。

 ベアトリクスは、ベッドで寝息を立てていた。


(そっとしておこう)


 真幸は静かにドアを閉め自室に戻り、ついでなのでしっかりと部屋の片づけをする事にした。


 ベアトリクスが起きた時には、もう日が傾いていた。

 寝転がった状態で窓の外に沈む夕日を眺め、黄昏るベアトリクス。

 昨日まで見ていた光景とはまるで違う茜空に、改めて自分は元の世界を捨てたのだと自覚する。

 大きく溜め息をつき、気だるくベッドから立ち上がったベアトリクスは、壁際にある姿見に自分を映し、両手で頬を叩いて気合を入れた。


「検閲です!」「ちょーっ!?」


 ベアトリクスは真幸の部屋に、ノックをせず突然に押し入った。

 ベッドの上でノートパソコンを開いていた真幸は大焦りで画面を閉じ、焦り過ぎてベッドから落ちつつ、ベアトリクスを見上げる。


「あ……白い」

「チッ! 本当にあなたという人は!」「あー! 事故ですから!! 不幸な事故ですからぁ!!」「問答無用!!」


 その頃1階では、学校から帰宅した父一弘と母みゆきが、この会話を聞き大笑い。

 しばらくして、すっきりした表情のベアトリクスと、ボコボコにされた真幸が降りてきた。

 ベアトリクスは一弘を見るのは初めてだったので、驚き魔術第1節を唱えてしまう。しかしこれは、冷静に真幸が制止。


「お父様でしたか。これは失礼致しました」

「いえいえ、お話は妻から聞きましたのでお気になさらず」

「では改めて自己紹介をさせて頂きます。わたくしはマギナクリエ王国第三王女、ベアトリクス・エスメラルダ・スタールビーと申します。ベアトリクスとお呼び下さい」

「私は真幸の父で、幸多一弘(さいだ・かずひろ)です。真幸の通う高校で、私は3年の教師をしています」


 優しい笑顔の一弘に、ベアトリクスの警戒心も消えた。

 そして話は本題の、ベアトリクスがこの世界へと来た経緯へと移る。


「わたくしは幼少の頃より、英雄の遺言に導かれております。英雄の遺言には500年後に生まれるマギナクリエ王国第三王女を、異世界にいる英雄と魂を共有する存在、マサユキ・サイダの下へと送り、彼を守護するようにと、しっかりと記されておりました」

「そこまでピンポイントで書いてあったんですか?」

「ええ。更にはその理由も。様々な異世界にいる、彼と魂を共有する英雄は、彼が持つ類稀な幸運を吸収し、世界を救ったと。そして……彼の身に何かあれば、それは即ち英雄たちの敗北を意味すると」

「だからあのナツダって奴は僕の命を狙ったし、あの剣を知ってたって事は、逆に言えばベアトリクスさんの世界の英雄も、僕を知って……違う。こうなる事を知ってたからこそ、ベアトリクスさんを指名して僕の所に送ったんだ」

「わたくしの見解も同じです。そしてそのリミットは3年。しかしこれはわたくしが3年で帰るという意味ではございません」


 ベアトリクスは幸多家家族の顔を1人ずつしっかりと確認してから、笑顔でこう言い放った。


「わたくしの運命を捻じ曲げたあんな世界になんて、二度と帰ってやるものですか。ですので、今後ともよろしくお願い致します」


 その宣言に大笑いし受け入れる一弘とみゆき。

 だが真幸だけは、苦笑いだった。



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