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ネタバレタイトルをやめて変更しました。

そのうちまた変更するかもしれませんw

 ベアトリクスは戸惑っていた。


(威勢よく大嫌いだと宣言をしてしまった手前、顔を合わせづらくなってしまいました。なによりも……ここはどこでしょうか?)


 一方の真幸も戸惑っていた。


(思いっきり大嫌いって言われちゃったから、顔を合わせづらい。それに……ここどこだろう?)


 ベアトリクスは舌打ちをして、真幸は溜め息をついて、同時に口を開けた。


「「あの」」


 気まずい。非常に気まずい。

 お互いに顔を背け、別の方法で先攻後攻を決めようと考える。

 先に動いたのは真幸。手を上げ……たと思わせてその手をベアトリクスに差し出した。


「レディファーストで……」


 その所作に舌打ちで返事をしたベアトリクスは、仕方が無く先陣を切った。


「レディファーストとは女性を立てるためのものであり、面倒事を押し付けるものではありません。それはともかく……わたくしはこちらに来たばかりで、ここがどこなのか分かりません」

「えっ、あっ……僕も、です……」

「へ? あなたこの町のご出身でしょう!?」

「そう簡単に出歩く訳にも行かないからこっち方面はぜんぜん知らないんです!」

「そ……それは、賢明な判断ですね」


 思わず勢いで強く出てしまった真幸。そんな真幸にベアトリクスの腰が引けてしまう。


((ど、どうしよう))


 お互いまた顔を背けてしまい、揃って大混乱。

 だが普段から唐突な事態に対応する能力を鍛えられている真幸は、すぐにその解決方法を思いついた。


「あ、そうだスマホで地図見ればいいんだ」


 解決方法が分かったという安堵感のある声に、ベアトリクスもつられて安堵。

 だが真幸の不幸体質はまだまだ序の口。

 いつも入れている側のポケットを確認後、あらゆるポケットを確認し、仕舞いには鞄までもを確認。そして絶望の一言。


「スマホ落とした……不幸だ……」

「すまほ……スマートフォン、携帯電話と呼ばれる遠距離通信用機械の一種、つまりこれですか?」

「なんでそんなに詳しく……ってそれです!」

「移動中にポケットから落ちたので拾っておきました」


 ベアトリクスから歩み寄りスマホを真幸に返す。

 真幸は早速電源を入れ……電源を……でんげんを……。


「壊れてる……不幸だぁ……あぁ……」

「そ、それは、わたくしのせいでは……」

「ベアトリクスさんのせいじゃないです……拾ってくれてありがとうございました……」


 うなだれつつもしっかりとフォローと感謝の言葉を述べる真幸。ベアトリクスの好感度が微増した。


「ではどうするのですか? ここにいればこれ以上の不幸には見舞われませんでしょうけれど、そうも行きませんもの」

「……僕の不幸はまだまだこんなものじゃありませんよ……」

「ちょっと、不吉な事を言わないで下さい」


 しかし予言とも取れる真幸の言葉は、すぐさま現実のものとしてベアトリクスの前に顕現する。

 ふっと重くなる空気。それを察してベアトリクスはすぐさま剣に手を添え、いつでも抜ける体勢を作る。まるでそれが合図であったかのように、工事現場に突如として発生する黒い霧。霧は意思を持っているかのように一点へと集まる。


「ほらーきたー!」

「なるほど、確かに見くびっていたのを認めましょう」


 霧は徐々に塊となり、渦のような円を形作る。

 そしてその中から2.5メートルはあろうかという緑色の皮膚をした異形の悪魔が姿を現した。

 頭には牛のような黒い角が2本、右手には幅の広い剣が握られている。


「ふんっ、本当にこのような異世界があるとはな。お出迎えもあるのか。カッハッハッ!」

「あなた、何者ですか? 答えなさい!」

「オレは魔王ベータが配下、ナツダ」

「「夏だ?」」

「ナツダっつー名前なんだよ! ……お? おおーテメェがターゲットか!」

「残念ながらそう容易くは差し上げませんよ。マサユキ、お逃げなさい! ってもう逃げてる!?」


 真幸に指示を送ろうとそちらに視線を向ければ、真幸はとっくに壁際まで後退していた。

 真幸にとってはこのような事態すらも動揺するに値せず、かつベアトリクスを受け入れているので、自分がいれば邪魔になるという事をすぐに予想し、今自分に出来る一番の事をしたに過ぎないのだ。

 次の瞬間。真幸はベアトリクスを指差し、ベアトリクスもその意味を瞬時に理解し後方へ宙返り、ナツダの振り下ろした剣を紙一重で回避。


「やるねぇネーちゃん」

「チッ、やるしかないようですね」


 ここで初めて剣を抜き、構えるベアトリクス。

 剣先は鋭く尖り、剣身は銀色で背に金の装飾が一本入って、それが鍔や柄まで繋がっている。握りにはダークブラウンの革が巻いてあり、柄頭には透明感のある青い水晶のような宝石が埋まっている。

 するとその剣を見たナツダが動揺した。


「そ、その剣……デュランダルじゃ……」

「ええそうです。500年前に魔王ベータを滅ぼした、彼の英雄が手にしていた聖剣デュランダルです」

「500年前? 何を言って……まあいい! 貴様が英雄じゃねーなら、あいつの命と一緒にその首と剣、もらう!」

「やらせません!」


 ベアトリクスは話に気になる部分はあったが、まずは目の前の敵を撃破する事を優先する。

 一方遠巻きにこの話を聞いていた真幸は、冷静に言葉のパズルをはめ込んでいた。


(滅んだはずの魔王の配下で、剣を知ってるって事は……ああ、そうか)



 ベアトリクスとナツダとの戦闘が開始された。

 ナツダは力任せの攻撃でベアトリクスに反撃をさせない。だがベアトリクスは気にせずタイミングを計る。

 大きく振りかぶったナツダ。その隙を見逃さず、低い体勢から一気に相手の懐へと飛び込んだベアトリクスは、左上へと剣を振り上げ一撃でナツダの右腕を切り落とし、その勢いのまま背後へと回り左足の腱を切り、ナツダが体勢を崩す頃には正面からその巨体を袈裟切り。

 ナツダに反撃のチャンスすら見せずの、まさに一瞬の早業。


「ほんもの……えい……ゆ……」

「いえ、わたくしは英雄ではございません。では御機嫌よう」


 崩れ落ちたナツダは、黒い霧となって消滅した。

 それを確認したベアトリクスは、大きく溜め息をつきつつ、真幸に見せ付けるつもりで格好をつけて剣を納め……られなかった。

 格好はつけたものの、その手には剣がない。


「あれ? 剣が……ああっ!」


 最後の最後で剣がすっぽ抜けて、あろう事か真幸の首筋をかすめ壁に刺さっていた。

 さすがにこれに驚き顔を隠せない真幸と、顔面蒼白のベアトリクス。


「ご、ごめんなさい! お怪我は?」

「ありません……けど、剣が飛んでくるのは初めてでした。あはは……」


 苦笑いでその場を収める真幸と、急ぎ剣を抜き鞘に納めるベアトリクス。


「すごくお強いんですね。驚きました」


 しかしすぐに持ち直して何事もなかったかのような表情をする真幸に、むしろベアトリクスのほうが驚いてしまう。


「あなた、あまりにも冷静過ぎません事?」

「そう……ですよね。すみません、こういう体質だと……あー……」

「異世界の魔王に命を狙われるなど、不幸以外の何物でもありません」

「……なので、慣れてしまっているので」


 嫌われる発言にならないかと気を使っている真幸だが、ベアトリクスもそこはしっかりと理解しているし、こればかりは仕方のない事だと割り切ろうとしている。

 そしてお互いまた先ほどの位置まで戻り、この先をどうしようか頭を悩ませる。

 このタイミングで、真幸は先ほどのナツダの言葉を確認する事にした。


「さっきの悪魔ですけど、500年前が分かっていませんでしたよね? それってもしかして?」

「ええ、その推測でおおよそ合っているでしょう。さらにわたくしの知識と合わせれば、彼は英雄が魔王を倒す、およそ3年前から来た存在であると推測が可能です。この聖剣デュランダルが英雄の手に渡ったのは、魔王を倒す3年ほど前なのです」

「あいつが英雄と剣の両方を知ってるのは、その3年間だけって事ですね」

「確信のための材料はもうひとつあります。……いえ、ここから先の話はもう少し落ち着いた場所で致しましょう。何せ目撃者がいるようですので」


 ベアトリクスが目線を付近の家に移せば、バンと急ぎ窓を閉める音。

 さてどうなるものかと気が抜けないベアトリクスに対し、これに気付いた真幸はどうにかなりそうだと考えた。


「もう少しここで待ちましょう。僕の予想が合っているならば、ちょっとだけ面倒な事にはなりますけど、どうにかなります」

「チッ、そのちょっとだけが大層な事になっている気がしてならないのですけれども?」

「す、すみません……」


 しかしこの短い時間でも、真幸の行動が問題解決への最も安全な道である事が、ベアトリクスにも分かっている。

 そしてそれが不幸体質ゆえに磨かれざるを得なかったセンスである事も。


「……ベアトリクスさん、気になっていた事があるんですけど、よろしいですか?」

「どうぞ」

「スマホを知っていましたよね?」

「ああ、それですか。こうなる事が分かっている者が、諸手で世界を渡ってくるはずがありませんでしょう? 当然ながらこちらの世界の情報は、可能な限り得ております。何よりもの証拠が言語です。異世界人であるわたくしがあなたと同じ言語で会話を成立させている。これ以上の証拠は必要ありませんよね?」

「だったらさっきの悪魔は?」

「彼らはわたくしたちとは違う独自言語を持っており、そのために翻訳魔法を使用しているのです。しかしわたくしはそれを使う事が出来ませんので、このようにあなたと同じ言語を用いております。これでご納得頂けましたか?」

「はい。納得しました」


「「………………」」


 会話が終了し、お互いまたもや気まずいタイムに突入。

”これ以上は落ち着いた場所で”と言ってしまった手前、ベアトリクスからの会話が本当に何もなくなってしまった。

 そこで気まずさに耐えかねた真幸が、どうにか雑談をしようと質問を切り出す。


「あの、僕を探していたんですよね? よく探せましたね?」

「チッ、あなたほどの不幸オーラを纏っている方が、そうそう居てたまりますか」

「……僕影が薄くて、目の前に居ても認識されない事があったりするんですよ」

「それも不幸のせいにするのですか?」

「い、いえ……すみません……」


 雑談のつもりが一撃で粉砕される真幸。しかしベアトリクスも真幸の消え入りそうな存在力は感じており、目を離せば本当に消えそうだと思っているので、なるべく目を離さないように周囲に気を配っている。



 程なく、遠くからサイレンの音が近づいてきた。

 そして2台のパトカーが工事現場に到着し、ベアトリクスはまた剣に手をかける。

 パトカーから降りてきた警察官はそのまま近付こうとしたが、ベアトリクスの剣に気付き急ぎ後退し車を盾にした。


「そこの女性! 大人しく武器を置いて投降しなさい!」

「チッ! マサユキ・サイダ、これはどういう事なのですか? 返答によっては……」

「ああ大丈夫ですから! ちゃんと説明しますうわっ!?」「ちょっ!?」


 剣を構えようとしたベアトリクスを抑えて庇おうとした真幸だったが、躓いてベアトリクスに体当たりをする形になってしまい、折り重なるように倒れてしまった。

 そんな真幸の手には、不幸にもマシュマロのような柔らかい感触。


「ご、ごめ! んな……ぱい……」

「きっ……貴様……っ!」「あー! ごめんなさいごめんなさいマジごめんなさい! これは不幸な事故で、マジで狙った訳じゃないし! だからごめんなさーいっ!!」


 飛び退いて土下座し、真っ青になる真幸と、対照的に顔が真っ赤なベアトリクス。


「あ! それで、そのままで!」

「……チッ! 分かりました。わたくしに抵抗の意思はございません」


 地面に座った状態で両手を挙げ、無抵抗をアピールするベアトリクス。

 その言葉と姿に、ようやく慎重に近寄る4人の警察官。

 と、そのうちの1人が真幸に気付いた。


「あれっ? 幸多刑事の息子さんだ」

「あ! なーるほど、そういう事か」

「ははは、本当に君だとは」

「先輩の冗談が当たっちゃいましたね」


 一気に和気藹々ムードになる警察官4人と、照れる真幸と訳が分からないベアトリクス。


「僕の母親が刑事なんですよ。それで僕はこういう体質なので、週に1回は警察にお世話になっているんです。お巡りさん、この女性は僕を守ってくれたんですよ」

「そういう事かぁ。いやぁ勘違いしちゃってごめんね。あ、もしかして西駅であった猫の暴走車も?」

「それも僕で、この方が助けてくれました」

「「「「なるほどー」」」」


 事件事故ある所に幸多真幸あり。

 非常に残念ながら、これがU県H市における、警察官の日常である。

 そんな非日常をまざまざと見せ付けられたベアトリクスではあるが、ようやく事態を理解した。


「ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございません。改めまして、わたくしに抵抗や攻撃の意思はございません」

「分かりました。ですけどそんな物を持ち歩かれると非常にまずいんですよ」

「……ですよね」


 自身の異質さを今一度感じるベアトリクス。だが真幸は父親が教師で母親が刑事という家に育った不幸体質。このような場合においても至極冷静だ。


「すみません、それでなんですけど、僕もこの方も道に迷ってしまったんですよ。幸いこれは銃刀法違反に当たるでしょうし僕も関係者なので、東警察署まで乗せてもらっていいですか?」

「はっはっはっ! そう来られたらダメですとは言えないね。どうぞ、送ります……じゃなくて、警察署までご同行お願いします」

「……分かりました」


 真幸が警戒をしていない事からも彼らには問題ないと判断し、ベアトリクスも大人しく従う。

 剣はトランクに入れようとしたがベアトリクスが断固拒否したので、仕方がなく車内でしっかりと抱いていてもらう事に。


「それじゃあ行きますよ。赤色灯回しておきますね」

「普段よりも5000兆倍慎重に運転しろよ?」

「分かってますって」


 終始穏やかなムードの中、パトカーにて連行される真幸とベアトリクス。

 パトカーは慎重に、かつ順調に進む。そして40分ほどで無事に警察署に到着した。


(さすがは国家権力)


 そう思いながら、剣を抱いたままのベアトリクスは慣れた足取りの真幸に案内される。

 署内では真幸を知らない人はいないので、様々な警察官に声をかけられた。


「来た来た」「おかえり」「猫の暴走車かい?」

「はい、僕でした」

「「「やっぱり!」」」


(わたくしは、これからやっていけるのでしょうか……)


 真幸の持つ常軌を逸した不幸体質を、受け入れてすらいる警察官たち。

 そんな非日常の会話がまかり通る光景に、今後を憂いて溜め息の出るベアトリクス。

 ベアトリクスの溜め息回数が2桁に上る頃、3階にある刑事課に到着。真幸が顔を見せれば刑事たちは皆笑いながら歓迎した。

 そんな中、電話に応対している女性刑事が真幸をチラッと見ては、そのまま手招き。

 真幸の母親は刑事。その情報はベアトリクスにも伝えられているが、銃刀法違反を犯している自分には何らかの処罰が与えられる事を危惧し、顔色が優れない。


「――はい。それでは失礼します。おまたせ。やっぱり来たんだー」

「残念ながら。あ、先に紹介」

「初めまして。わたくしはベアトリクス・エスメラルダ・スタールビー。ベアトリクスで構いません」

「はい初めまして。私は真幸の母で、幸多みゆきです。まぁー……なんとなく想像が付くけど、とりあえず取調室でお話を伺いますので、こちらへどうぞ。真幸は座って動かないように」

「分かってる」


 母みゆきは真幸の表情を見て内心では驚いていたが、電話中でもあったのでその驚きを表には出さずに済んだ。

 そして休憩室でスマホゲームをやっている後輩女性刑事の頭を小突き準備を急がせつつ、ベアトリクスを連れて取調室へと入る。

 ベアトリクスを見送る真幸はこの時、確信を持って何も不安に思っていなかった。



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