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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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芸術家モルスァ

「ま、とりあえず今日は帰って寝なさいよ。

 あの歌う式神とマイカちゃんは向こうに置いて来たんでしょ?」

「ええ、はい、そうですけど……」

「あの二体……いや、一匹と一人か……が居れば

 第一王子領は三日もすれば平定されるわ。決戦に備えてとりあえず数日休みなさい」

「え、今からいくんじゃ……」

タガグロが目を白黒させながら言う。

「冷静になりなさいよ。第一王子領が治まって、アル坊が回復してからでも

 遅くは無いでしょ。そのころには戦い続けたモルシュタインや魔族軍は弱ってるだろうし

 対空砲火を浴びずに、悠々と魔族国上空を飛行していけるわ」

「私はこ・れ・か・らって言ったのよ。今からじゃないわ」

とタガグロにウインクしたあとに、欠伸をしてミシェルは立ち上がり

「あーでも、あれか。竜がミャグルだけじゃ、ちょっと戦力たりないな。

 ライグァークとついでにリサちゃんにも援護頼むか。」

「しっ、知り合いなんですか?」

リサってあれか……マシーナリーのリサか。

「十人委員会のメンバーよ。ライグァークはバカだから主に力仕事だけだけど」

「十人委員会?」

「うん。世話焼きの老人たちの茶飲み仲間の会みたいなもんよ」

そう軽く言い放ったミシェルは

「クソガキども!!無闇に芸術に奮闘しすぎずに、早く寝なさいよ!!」

と周囲のさっそく芸術品の保護や、保管に取り掛かっている

若い魔族たちに怒鳴ってから、応接間の外へと去っていった。


「……わっけわからん……何か勢いで畳み込まれたわ……」

タガグロが頭を抱える。

「そうだな……。とりあえず王都に帰ろうか……」

「うん。そうしよか。少なくとも三日待機やな……長いような短いような……」

二人で立ち上がってクリストフと丸眼鏡の青年に一応挨拶してから

出て行こうとすると、ここへ連れてこられたことに感謝され

そして芸術家関係のことを頼みごとをされる。

「ここにある"ファー・ブルスコ・ファー"という彫像は

 モルスァという芸術家が造ったのですが」

「ああ、うん」

もう深夜だし、いい加減早く帰りたいんだが、

やたら美男の青年たちが熱い眼差しで俺に語りかけてくるので立ち去れない。

俺たちは仕方なく、その投げられて壊れたかわいい毛玉モンスターのような

何とも言えない奇妙な形をした彫像を眺める。

「実はモルスァというのは偽名でして、

 この人は、どうやらローレシアン王国に住んでいるらしいのです」

「そうなんだ」

「もし見つかったら、ここへ連れてきてもらえませんか?」

「モルスァ様の偉業を、本人のインタビュー付きで記録したいのです。

 我々、元々こんな仕事をやっていまして」

と懐から出した分厚い雑誌を見せられる。パラパラとめくる。

うむ表紙には「月刊芸術ー美や文化についての総合誌ー」

と書いてある。中身はカラー写真入りで様々な美術品や音楽の論評や

芸術に対するファンの熱い声で構成されている。

格調高い紙面ではなく、ロック誌やアニメ誌、サブカル誌のようなもっと気楽な感じだ。

この魔族の人の文化に対する親しみ方は、そういう感覚なのだろう。

「編集者さんだったのか……」

「ええ。まだまだマイナーですが、いつかはこの星中に雑誌を届けるつもりです」

「本国があんなことになったので休刊していますが、

 ここでの生活が安定したら、ここを拠点に復刊しようかと思っています。

 書くネタはこのお屋敷に山ほどありますし」

二人の青年のキラキラした瞳で俺は見つめられる。

うわっまぶしっ、夢をもってる人たちは輝いているな……。

「復刊第一弾の目玉特集を"謎のローレシアンの芸術家モルスァの正体"という

 見出しで書いたら、衝撃的じゃないかという話を

 さっきまでクリストフとしていました」

「ローレシアン王国と魔族の架け橋にもなるかもしれません!!

 ……なのでよければ……!」

自分らが併合した他国に植民するという話は忘れて、

すっかり芸術好きの人のいい青年に戻った二人にやれやれと思いながら

「おっけーすよ……どんな外見とか、どこ出身とかどんな種族とか分かる?」

「年齢だけは、老人と壮年の境くらいの紳士という噂がありますが……」

「わかった。人間の六十くらいの男性だと仮定しとくわ。

 もし見つかった連れてくるよ」

そんな人知り合いに居ただろうか。思いつかない。見つかるかな……。

「助かります!!」

二人の青年は俺たちに深々と頭を下げた。

タガグロは熱がすっかり冷めたようで、隣で立ったままウトウトし始めた。

俺はタガグロの肩を軽く叩いて、起こしてから

庭に停まっているゴンドラに乗り込んで、中央城の裏庭まで帰る。


進んでいくゴンドラの窓から月の出ている夜空を見ながらぼんやり考える。

氷の女王という山脈のような巨大な竜と、ミシェルさんの言っていた十人委員会か……。

ローレシアンの国土を焼き払ったこともあるライグァークと

繋がっていることがまず衝撃的だったが

ミシェルさんのことだから、国家の縛りなどないも一緒なのだろうな……。

リサさんにもまた会ったら説教されるかな。いや、あれから人の道に外れるようなことは

していないはずなので、今回は大丈夫かもしれない。

そして、「この世界をどうしたいのですか」という彼女の問いの答えは

おぼろげながら見えてきているが……まだ、確信をもって答えられるかどうかは……。

「うー焼きそば……そんな……食べれん……」

タガグロは座り込んで、寝言を言いながら眠り始めた。

そんな彼女を背負って

裏庭に着陸したゴンドラから降りる。

パラパラと雪が空から降ってきた。見上げると

痛々しく崩れている城壁や塔が目に付く。

無事だった倉庫の搬出口から、所々崩れている城内に入り、

俺はこないだマイカから貰った地図を

懐から取り出して、破壊されて荒れている通路に迷いながらも

何とか自室へと辿りつく。

奇跡的にこのフロアは無事だったようだ。元のままだ。

扉を開けて、リビングに入ると

ソファに一人、ライーザが静かに座っていた。

「あ、おかえり」

とそっけなく俺に挨拶すると、再び前を向きなおして

ライーザは考え事を始める。

「寝ないんですか?」

「いや、あまり必要は無いみたいです」

「そうですか」

俺はタガグロを彼女の寝室のベッドの上に降ろすと、布団をかけて

広いリビングに戻る。

ライーザは冷蔵庫の中からお茶を取り出してソファに座り

一息ついている俺に

「ザルグバインが死んだな」

と呟いた。

「……そう聞かされました。遺体はどこに?」

「棺に入れられて、城の中央広間に花束と共に置かれていますよ」

「そうですか……明日にでも見に行きます」

「……死ぬって何なんでしょうね」

「……正直、分からないです」

「冥界をさ迷った記憶は生々しいですが、こうして私は

 何故か、またこの世界に居ます。形は違いますが」

ライーザは長いウエーブのかかった髪をくしゃくしゃとかきながら

「存在していれば、生きていると言っていいのかと……時々思いますよ」

「……よく分からないですが、何かの意志があれば

 どんな形でも、それは生きていると言うんじゃないですか……」

冥界や意識の底で見た異形や、様々な種族達を考えると

外形というのは、悉く中身とは関係ないと俺は思う。

中身の人間性は、美醜とは一致しなかったからだ。

「ふふ、相変わらずお優しいですね」

「しょうもないですよ。迷ってばかりで」

「ああ、そうだ。ルーナムという第三王子の執事が面会を求めて

 牢の中で半狂乱になりながら夜中まで喚いているそうですよ」

「俺とですよね?」

「ええ。眠れないなら、今から行ってみたらどうですか?」

ライーザはニッコリと微笑む。

「……ライーザさんも同行してもらっていいですか?」

「良いですよ。幽鬼になってから夜が長いので」

「良かった。ありがとうございます」

何となく、眠気が飛んでしまったので、ライーザと共に

城の地図を見ながら、隠しエレベーターを駆使して

地下一階にある牢屋へとたどり着いた。

深夜の城の中は静かで不気味である。

牢番の兵士から、許可をとりつつ、並んでいる空っぽの牢屋の

最奥に勾留されているルーナムを訪ねる。

歩いている途中で、牢屋に鉄格子が何かの力でねじ切られた跡がある。

ここから魔族たちがラングラールやメグルスを連れ去ったんだな……

と俺は思ったが、黙って奥に進む。

案内の牢番兵は「ちょうど静かになったところです」

と俺たちに告げて、再び出入り口近くに戻って行った。

牢屋の中を覗くと、ボロボロの執事服と振り乱した白髪の

長身のルーナムが倒れるように眠り込んでいた。

ライーザが鉄格子越しに

「おい、起きろ。タジマ様が来たぞ」

と声をかけると、いきなりガバッと起き上がって

「タジマ様!!!何てことをしてくれたんですか!?」

と叫んで鉄格子に詰め寄って、俺に狂気染みた表情を向ける。


「……」

何もいえずに黙っていると

「あなたがいきなり居なくなったから!我々は悩んだ末に

 無能な女王の治める王都を攻略して、そして有能なラングラール様の支配の下に

 魔族とも同盟して新しい国の形を

 模索していたのに……それを、それを……あああああああああああ!!」

白髪をかきむしって、絶叫するルーナムは以前の落ち着き払った

態度からするとまるで別人のようだ。

「どうします?うるさいから、もう殺します?」

ライーザは無表情で尋ねてくる。それを手で制して

俺は考え込む。そうか……立場が違うとこうも視点が異なるんだな。

器の大きすぎるミサキが、ルーナムの側から見て無能に見えるのは分かるし、

俺が何も言わずに半年も居なくなったのも

マイカやアルデハイトの反乱分子をあぶりだす策だとしても、

人の道としてはやはりマナー違反だし、

はっきり言って彼女たちを使っている俺の責任である。

焦ったルーナムたちが無茶な行動に出るのも仕方ないよな。

牢の中で暴れまわる狂ったルーナムに俺は一言、

「すまん……悪かった……」

と深く頭を下げる。

「今更謝られても、王子たちはかえってこないんですよおおおおおおお!!!」

ルーナムは再び狂ったように鉄格子を揺らして、俺に詰め寄り

ライーザが青筋を立てて、

「殺しましょうよ?その方がこいつの為ですよ。狂ってる」

と聞いてくるが、再び手で制して止める。

ため息をついたライーザは、通路の壁に寄りかかって

髪をくしゃくしゃと搔く。

「ルーナムさん……俺な……ラングラール以外は許そうと思ってたんだよ。

 実際、ラングラール軍は全員無罪放免にしたよ」

「……」

「ラングラールはさすがに裁判を受けて、刑に服さないといけないだろうが、

 お世話になったし、皆に頼んで、それも出来るだけ軽くしたいと考えてたよ」

これは本当である。処刑されることがないように

ミサキやミイに頼み込もうとしていた。

「……」

ルーナムは急に大人しくなって泣いているのか後ろを向く。

「大老ランハムも本当に殺したの?あの有能なラングラールが

 そんなことするとは思えないんだが……」

「……生きています……。ホワイトリール城の北部の山中の屋敷に軟禁しています」

「そうか……良かった。場所教えてもらっていい?」

俺は後ろを向いたままのルーナムが呟いた場所を記憶する。

「ルーナムさんも明日には、釈放されるように手配するから

 元の生活に戻ってよ。資産も保証させるし、身分も元に戻すよ」

「何より、アルナに顔見せてあげてよ。心配してたよ」

彼女は俺には言わないが、節々でルーナムのことを気にしているようだった。

ルーナムはアルナの名を聞くと、肩を震わせて再び声無く泣き始めた。

「私は……いや、我々は……結局のところ……あなたを……

 必要なところに繋ぐ……糸に過ぎなかったのかも……しれませんね……」

「そんなことないよ。俺はラングラールやメグルスさんが

 戻ってきたら、窮屈な想いも不自由もさせないよ」

「いえ……私は恥ずかしい……。こんなに大きなタジマ様を恨み……。

 小さな妄執に囚われていた自分が……」

「そんなことないって。俺が何も知らないガキなだけだよ。

 俺の勝手で色々迷惑かけて、本当にごめんなさい……」

もう一度俺は、鉄格子越しに、背中を向けているルーナムに深く

心を入れて、頭を下げる。

振り向いたルーナムが涙でぐしゃぐしゃの顔を手でこすって

「私こそ、申し訳ありませんでした!!ここに居ない王子たちの分も謝罪します!!」

と土下座してくる。

「いやいやいや、ルーナムさん立ってくれ。もうそういうのは止めようよ。

 どっちが迷惑かけたとかもないでしょ。お相子だよ」

困った俺は座り込んで、鉄格子越しに土下座したルーナムに

立つように促す。

しばらく土下座して男泣きし続けるルーナムに付き合う。

後ろを振り向くと、壁に寄りかかったライーザがニヤッと笑った。


三十分位して落ち着いたルーナムを見て、安心した俺は

牢から去ろうとして、ふと思い出して訊いてみる。

「あ、そうだ。芸術家モルスァって知ってる?"ファー・ブルスコ・ファー"

 っていう彫刻とか造った人らしいんだけど」

「……」

いきなり黙り込んだルーナムに、あ、何か悪いこと聞いたなと察した俺は

そのままライーザと立ち去ろうとして、呼び止められる。


「……私です。モルスァは私です。その作品は、私の造ったものなのです」


「……!?ルーナムさんが!?」

「王子が成長して、暇ができ、昔からの趣味の絵画や彫刻を作って

 遊びで展示会の片隅に偽名で置いて貰ったりしていたら……。

 その名が無闇に売れてしまいまして……私も公的な立場があったので、

 名乗り出ることも出来ずに……」

「マジか……どしよ……」

「どうなされましたか?」

「いや、何か魔族の人たちが、モルスァにインタビューしたいんだって……」

「……今はやはり、そういう訳には参りませんが、

 釈放されて落ち着いたら、いくらでも」

「ほんと?やった。言っとくわ」

ルーナムは鉄格子越しに恥ずかしそうに頭を下げた。


少し気分が良くなった俺はライーザと、ようやく出てきた眠気を引きずりながら

所々破壊された迷路のような城内を地図と照らし合わせながら、

隠しエレベーターなどを再び駆使して、

何とか自室へとたどり着き、洗顔や歯磨きなどを済ませると

再びリビングのソファに座ったライーザに

ルーナムから聞き出した大老ランハムの監禁場所の仲間の誰かへの伝言を頼んでから

すばやく寝室に入って、着替えて、ベッドに飛び込んだ。

何かどんどん一日が長くなっている、さすがに今日は遅くなりすぎた。

明日は昼までに起きれるかな。三日間何しようか

と思いながら、俺は目を閉じる。

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