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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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98/1587

魔族国の問題

鐘が打ち鳴らされ、カンテラや松明を持った六十万人の多種族の兵士たちが

進軍を開始する。

俺たちはその幻想的な光景をゆっくりと歩みを進める馬車の屋根に登って

眺める。

「きれいやな……」

「そうだな。これがなんかの祭りならいいのにな……」

「……古代では……戦場……祭祀……一体化していた……」

マルガ平野を北西へと進んで行く大連合軍は、そのまま数時間進軍して

第一王子領の要塞化した元関所の前へと到着する。

灯火をかざしてズラッと並んだ兵士たちは壮観だな。

と馬車の上から眺めていると下から、クラーゴンの命令を受けた伝令兵から

最前列に出て、要塞化した元関所内を脅して欲しいという要請を受ける。

どうやら中にまだ結構な数の魔族や人間の兵士が篭っているらしい。

全体的にはかなり逃げ去ったようなので、玉砕覚悟の忠誠心のある連中だ。


にゃからんてぃを肩に乗せた俺は、

兵士たちの列をかき分けて、関所の前へと一人突出する。

確かに他の関所と比べると城壁が高くなり、櫓も立ち並び

飛行手段の無いこの軍団では、攻め落とし難そうだ。

俺は、ちょっとセリフを考えてから、関所に向けて声を低くして叫ぶ。


「我は!!ロ・ゼルターナ神の化身の流れ人、但馬孝之である!!

 反逆人の貴様らを殲滅したくて待ちきれない!!

 だが!!今逃げさるのならば罪を許そう!!我は平穏を望む民を討たぬ!!」


しかし、自分でもよくペラペラとこんな偉そうな文言が出てくるもんだ。

まったく関所内の兵士達を殺す気なんてない。

ただ、この戦いで人が死ぬのはザルグバインで終わりにして欲しいだけだ。

と、ふーっと一息つく。

にゃからんてぃに優しく左肩を叩かれ、後押ししてもらいつつ、ダメ押しでもう一回脅す。


「我に逆らうものは!!我の六十万の軍団と共に全て殺す!!魔族でもだ!!

 貴様らの燃え盛る陣を見たであろう!!あれは我らの所業よ!!

 いいか!!半ダール(時間)待ってやる!!直ちに退去せよ!!平和な生活へと還れ!!」


やたら良く響く声は良く晴れた夜空の果てまで届きそうだ。

元関所内を脅し終わった俺は、ため息をつきながら

ひれ伏したり、俺に祈りだす兵士たちを踏まないように避けながら馬車に戻り

天井によじ登る。

「たっくん……すごいな……あんな恐ろしい声、初めて聞いたわ……」

「そう?なんで、あんな声が出るのか、未だによく分からんのだが」

「……タカユキ様……声帯……元々特殊……歌えると……もっと……効果あがる……」

「歌かぁ……」

中学のころ、野球部の友達や山口たちとよくカラオケに行ってたが

何か今一、何歌っても俺の声に嵌らなくて、歌うこと自体が楽しくなかった俺は、

マイクを取らずに、延々と盛り上げ役をやっていた記憶がある。

高校あがってからは文化部なので、あまりそういうアクティブな付き合いは無くなったが

どちらかと言えば歌とは縁が無くなって安心していた。

「うち、ラガーシャ弾けるで?」

「楽器?」

「七弦の弦楽器よ。綺麗な音でるよ」

「……ドラム……叩ける……スガ様……造ったの……城倉庫ある……」

「イェア!!ロックンロールイズリビング!!クラップユアハンズ!!

 セイハロートウジエンジョー!!」

「なになに……『二弦ベースなら弾けますよ』って……ベースって何?」

「低い音が出る弦楽器……って待て!!戦場でバンド結成はやめてくれ……」

「いいと思うけどなぁ。うちらで楽団つくろやー」

「……音楽……大事な……文化……」

「ファックオフ!!ロックンロールイズデッド!!ユーアーマーダー!!」

バンド結成したいらしい三人から、ブーブー言われながら馬車の屋根で脱力していると

人垣を隔てた遠くで関所の門が開かれて、中からかがり火に照らされて

自らを縛った人たちが出てくる。

そしてこちらに向けて何かを叫んでいる。

またも馬車に伝令兵が走ってきて

「降兵たちがタジマ様に会いたいそうです!!

 直ちにお越しください。との主将からの要請です!!」

「たっくん、行っておいでよ」

「……がんばれ……世界が……お前を……待っている……」

俺はにゃからんてぃを肩に乗せて、馬車の天井から降りて

進む俺の前を、割れるように左右に避けて道を創っていく兵士たちに

祈られたり、傅かれたりしながら、再び前へと出る。


待っていた軍帽を目深に被ったクラーゴンから、

「良かったわ。ここの水に毒入れなくて済んで」

と恐ろしい言葉を受けながら、関所の前で自らを縛った降兵たちの前へと案内される。

そこには筋骨隆々とした、壮年の白髪交じりの髪を七三分けにした軍人を中心に

数人の中年の士官らしき男たちが、自らを縛ってうな垂れていた。

俺を見ると、パッと顔をあげて、深く頭を下げる。

「あーら、クブル少将じゃないー。あんた、第一王子守らなくていいのー?」

クラーゴンが意地悪く、白髪交じりの男に声をかける。

「……クラーゴン中将か………そしてこの青年がタジマ様ですな」

何とも言えない寂しそうな顔をしながら、その男は語りだす。

「私は今日まで、第一王子のヴァルガナルに仕えてきました。

 しかしあの男は、妄想の中で虚栄に溺れるばかりで

 今日まで、本当の意味で自らを高めることをしませんでした……」

俺のダメな人好きセンサーがちょっと反応する。

第二王子やサーニャに反応したアレだ。

本当の意味で自らを高めるなんて難しいことは、俺もしていない。

若干、第一王子に共感してしまった。だがとりあえず黙って話を聞く。

「……」

「私は王子の補佐後見人としての最後のご奉公として、

 この関所を王子の親衛隊と共に守り

 前面に展開する魔族軍がもし敗れたときは

 一人でも多くの敵兵を巻き込み、玉砕するつもりでした……」

「しかし……よね?」

「そうです。タジマ様の先ほどの激しい怒りに触れて、私は

 いかに自分がちっぽけで非才な人間かを思い出したのです。

 戦意を失った私は……もはや……裁きを待つのみです……」

「とかなんとか、かっこいいこと言っちゃってるわよ-?タカユキ様どうするー?」

どうすればいいかなんか分からんけど、

本来偉くも何ともない俺は、そういう人たちに只管こう言うしかないだろ。


「……許す……」


「お、いい回答。許すらしいわよ。全員許すの?」

「ローレシアンの国法がどうなってるのかはしらんが、

 第一王子以外の降伏したものは、俺が全員許す!!平和な元の暮らしに戻れ!!」

「ははーっ」

涙流しながら、地べたに顔を擦り付けるいい年したおじさんたちを見ながら

俺は考える。戦争とか争いで不幸になるような人を

できるだけ減らしたいという願いは、この国の支配者のミサキと一致しているはずだ。

こないだ、魔女ミシェルの家でそういう話を聞いたし、その志にも触れた。

だから俺のこの選択は間違っていないはずだ。

どうしても許せない人たち以外俺は、今後も人を許し続けよう。

それがミサキの気持ちを汲むことにもなるはずだ。


クブルたちの事後処理は兵士たちに任せたクラーゴンに

俺は連れられて、広い正面門から関所の中へと入る。

周囲では次々と自軍の兵士たちが同じ門から関所内に流れ込み、

施設を占拠探索し始めている。

進み続けると、元関所内中央の広いスペースには逃げずに降伏した兵士や魔族たちが

ローレシアン国軍の兵士たちに囲まれて捕えられていた。


その地べたに座り込んだ千人弱の兵士はほぼ人間だが、

パッと見、魔族も三十名ほど居るようだ。皆若い。女性も居る。

兵士のようには見えない。ほとんど民間人だろう。

彼等は俺たちの姿を見ると一斉に立ち上がり、その代表らしき

若い、あどけない顔の黒髪の青年魔族が手を上げて

「亡命希望です!!我々は三十二名の魔族です!!内二十九名は非戦闘員です」

「……ちょっと待って頂戴……今、亡命って言った!?」

クラーゴンが混乱した顔で尋ねる。

「はい!!我々魔族国北部民はローレシアンに植民される予定でした。

 しかし叶わなくなったので、亡命を希望します!!

 貴国が我々の人権を尊重してくれることを願います!!」

「……えらくストレートにぶっちゃけたものね。

 そこのボーイ。ちょっとおいで、事情訊くわ」

俺たちは、背後の関所の正面門から馬車で入ってきたダガグロやマイカ、

そして、俺を探しにきたゴブリンの大将のヘーズルも含めて

近くの兵士の詰め所だったらしき小屋に入つていき、話を聞く。

俺たちを、テーブルを囲んだ椅子に座らせたクラーゴンは

ポットの中から全員分のコーヒーを入れながら

「じゃ、ボーイ。最初から話してごらん。私たちが話しを聞いてあげるわ」

とコーヒーの紙コップを手渡す。それを飲みながら青年は

「我々、北部民は、ここ一ラグヌス(年)、

 突如起こった天変地異、そして竜害に悩まされてきました」

竜害って何だろ。と思いながら、

一応黙って話を聞き続ける。

「天変地異とは?」

「原因不明の竜巻や地震、森林火災などが北部を中心として起こっています」

青年はクラーゴンの質問に、はきはきと答える。悪い奴ではなさそうだ。

「それと竜害ってことはドラゴンよね?ここから北は、

 スガ様が駆逐されていて、今はほぼ居ないはずでは?」

「だったのですが……二ワンハー(月)前の大地震で最北部の氷山に眠っていた"氷の女王"が……

 目覚めまして……それで……」

俺とにゃからんてぃ、そしてクラーゴン以外の全員が動揺する顔を見せる。

「神話の話やないんか……」

とタガグロは呟く。

「ボーイ。ちょっと大事なこと聞くわね。絶対、正確に答えなさいよ」

厳しい顔になったクラーゴンは、青年を見つめながら

「モルシュタインはそれの討伐に行ったの?」

「……はい……秘匿事項なので僕が言ったって、言わないでくださいよ……」

そう頼みながらその青年は話を続ける。

「最初は、ローレシアン北部領土を平和的に併合して、この元第一王子領一帯に、

 我々、行き場の無い北部の四百万人を植民する予定だったのですが……」

四百万もいるのか……美男美女で能力の高い魔族が四百万……しかも北部だけで……気が遠くなりそうだ……。

「"氷の女王"出現で事情が切迫したのね。もっと土地がいると……」

「そういうことです。王都を落としてローレシアン北半分から

 人間を追い出そうという計画に変わりつつありました」

「それは政府の正式な決定?」

「……正直国内でも意見は割れています。モルシュタイン閣下は決めかねていたようです」

「神話が本当ならば、"氷の女王"を倒すのに、モルシュタイン一人では無理ね」

「……山脈のようなアースドラゴンです……すでに政府の派遣した精鋭部隊が数度、全滅しています」

「大体事情がわかったわ。ラングラール王子使って王都侵攻を始めた時期と

 "氷の女王"出現の時期も符合するし、こちらに居る兵が弱兵ばかりの理由も分かったわ。

 モルシュタインの娘が派遣されたのも人手不足だからね」

「ええ……恐ろしい"魔人スガ・マサキ"の居ないローレシアン王国なので

 絶対安全だから早く南下した方がいいと、僕もお父さんたちに言われて、

 国軍の先遣隊に無理を言って、友達たちと加えさせてもらいましたが……」

チラチラと青年は言いにくそうに俺を見る。

「いざ南下した先には、恐ろしいタカユキ様が居たと」

「……はい……でも僕はお父さんから、この方の近くには

 国から派遣された魔族の方がついているとも聞いていたので……」

「知り合いを説得して、逃げずに留まって、タカユキ様の人格に賭けることにしたわけね」

「そうです……」

チラチラと魔族の青年はまた俺を見てくる。

「……分かった。アルデハイトとミシェルさんに何とかしてもらおう」

もうなんていうか人任せである。こんな重い事情一人で背負いきれるか。

ミシェルに全員押し付けて、あのやたら広い庭が草だらけの屋敷を綺麗にしてもらおう。

「ミシェルって、あのミシェル・ランツヴァハァーとかいう新しいお友達?」

「そうだよ。魔族だし、長寿らしいから何とかしてくれるだろ」

「ランツヴァハァー様をご存知なのですか!?」

青年が目玉が飛び出しそうなほど驚いて俺を見る。

「うん。なんか最近知り合いになった。俺についてくれてる魔族のアルデハイトの親戚なんだって」

「……希望が出てきたかもしれません……生きていたとは……」

青年は安堵した表情を浮かべる。

「でー君は、どこの名家の息子なのかなー」

とクラーゴンがニヤニヤしながら、安堵した青年に顔を近づける。

「い、いや、僕は北部から植民してきた一般人で……」

と焦る青年の頬を軽く指で突きながら、

「教養もあり、佇まいも落ち着いている。

 しかも事情に詳しい親が先遣軍に息子をねじ込む権力がある。

 ってことはね、七名家のどこか出身よねー?」

「……へーゲリヒ家……です……三男です。長男たちは首都の本家に居ます……」

仕方なく答えた青年にクラーゴンは

「じゃあ、君が有名なクリストフ君ね。一番出来が良いのを外へ逃したか……。

 ということは他も殆ど名家の子供たちね。

 よほど切迫した状況なのね。ま、嘘吐いたのは許してあげるわ」

クラーゴンは真面目な顔に戻り、青年に仲間達を全員

軽い尋問したあとに、大人しくすることを約束すれば

制限付きの仮の亡命を認め、ミシェルの元へと送ることを約束した。

部屋の端で、じっと黙って話を聞いていたゴブリンのへーズルは、

「事情はわかりました。タカユキ様のお手伝いをしたいですが

 どうやら我々ではもう力不足のようです。わが軍は明朝、予定通りに

 新たな国へと帰らせてもらっても良いですか?」

とクラーゴンと俺に訊いて、すぐに快諾した俺たちに、頭を下げて軍へと戻って行った。


その後、俺たちは夜更けまで

数時間ほど関所を占拠したり

入りきれずに関所外の南側に陣を貼るゴブリン・オーク軍団を

物見櫓の上から、心配して見たりしながら雑談する。

一時間ほどするとクラーゴンが櫓の上と登ってきた。

「クリストフ君の話では、まだ第一王子領には魔族の植民は開始されてないらしいから

 このまま残ったローレシアン全軍四十万で押し上げて、一気に呑みこむわ」

「俺たちはどうしたらいい?」

「ついていては欲しいけど、あの空飛ぶゴンドラですぐ来れるでしょ?

 一旦、王都方面に帰るのも手よ。魔族ちゃんたちの亡命も兼ねてね」

「そうだな。ところでラングラールたちはどうしたんだ?」

「分からないわ。魔族国にセイと共に移送されたはずって話は聞いたけどね……」

「……利用価値無い……気付かれ……実験体……されないと……いいが……」

何かマイカが恐ろしいことを言った気がした。


マイカとにゃからんてぃをもしものときのクラーゴンの補佐役として残し、

俺とタガグロの二人は、関所外の南部に陣を張っているへーズルに挨拶してから

ゴンドラの移動装置を埋めて、空飛ぶゴンドラでまずはミシェルの屋敷へと向かうことにした。

もちろん三十二人の魔族も一緒である。

彼等の避難所としてミシェルの屋敷を使わせてもらうのだ。

おそらく怒られるが、仕方ない。今は緊急事態である。

ゴンドラ内にぎゅうぎゅうに詰めて乗ってもらい、天井にも乗らせて

それでも入れない分は、併走飛行してもらうことにした。

驚いたのは、魔族の民間人の中には飛べない人も居たのだ。

どうやら便利な魔族の都市で日常生活を送っていると、翼を使う筋肉が弱るらしい。

なので軍人の魔族三人と翼が使える若者たちには飛んでもらい、

飛べない、または長時間飛行に自信がない人たちと俺たち二人は

ゴンドラ内部やその屋根の上に乗る。

「我移動せんと欲す。ミシェルの屋敷庭」

と窓を開けて外に呟くと、魔族が屋根の上まで乗ったゴンドラは光の線へと

接続されていく。

「うー人だらけであついわ。お肌荒れんかなぁ」

と魔族で、すし詰めになっている室内でタガグロは心配している。

「これ、自分たちの国の列車とそっくりですね」

と丸眼鏡をかけた背の高い青年が俺に話しかける。

「そうなの?」

「はい。運行表があって定刻にきますし、光の線は駅の決まった場所に張られているのですが」

「車体ももっともっと大きいでしょ!こんなに狭くない」

「しっ。失礼だよ」

ギャルっぽい若い女性が話しに割り込み、隣の女性からたしなめられる。

「いやいやいいんですよ。文明が進んでるんですね」

「タジマ様も文明の進んだ地球からこられたのでしょ?なら珍しくないですよね」

「ロープウェイはあるけど、もっと仕組みが物理的かなぁ」

「ぜひぜひ、詳しく聞かせてください」

とせがむ丸眼鏡の青年に、地球の鉄道やロープウェイの話を聞かせていると

ミシェルの屋敷へと着いたゴンドラが降りて行く。

音もなく着地したゴンドラから俺たちは、降りる。

飛行してついてきた魔族たちも次々に屋敷に降りたってくる。

「うわー草だらけですねー。本当にあの魔女がここに?」

「お屋敷広いねぇ。我が家と同じくらい?」

「皆入れそうですね」

「たっくん、うち、落ち着いてよく考えたら、

 この数の魔族に囲まれたの初めてやわー。皆うつくしなぁ」

とザワザワしながら、全員で玄関の前まで言って、

俺が代表して屋敷の扉をノックする。

テンガロンハットに骸骨のネイサンが、屋敷の扉を空けて

「あらあら、これは沢山来られて……」

と嬉しそうな表情で言う。いや骸骨だから表情は無いんだが

雰囲気で何となくそんな感じがする。

「深夜にすいません。ミシェルさん居ます?」

「先ほど帰られて、いまお眠りになられましたが、起こしてきますね。

 皆さまは応接間にご案内してあげてください」

「いや……寝てるなら起こさな……」

止める間もなく、ネイサンは屋敷の奥へと風の様に去っていった。

仕方なく、全員を屋敷の応接間に案内する。

「こ……これはドナ・ガタリーの"癪の間"……まさかこんな所に」

クリストフが広い廊下にさり気なく飾られた、謎の前衛芸術的な絵画を見て驚愕している。

「ク、クリストフさん……こちらにモルスァの"ファー・ブルスコ・ファー"が……」

他の魔族が廊下に置かれたモンスターの彫刻を見て、クリストフを手招きする。

「な、ほんとうですか!?」

驚いたクリストフはすぐに彫像の方へと駆け寄っていった。

そしてさらに応接間に入ると、連れてきた魔族全員が息を飲む。

そしてそれぞれに散らばり

アンティークの棚や中に入っている食器をため息を吐きながら、眺め始める。

いや、ただの年代もののアンティーク家具だらけ応接間にしか見えんが……。

ま、俺が相手しないでいいからいいか。と思いながら、

応接間のソファに座って、隣で、

胸元から出した美容液を、手鏡を見ながら顔に塗っているタガグロと共に

ミシェルが来るのを待つ。しばらく待っていると、


「やー!!ど貧乏な諸君!!我が家の豪華さに胸打たれたかね!!」


上機嫌な白と黒でシマシマ模様のパジャマ姿の

ミシェルがネイサンと共に部屋に入ってきた。

次の瞬間、ミシェルは三十二人の魔族全員から詰め寄られて

「こんな保存状態で、名作を展示するとは!!」

「名人の茶器を棚に放り込むとは!!埃被ってますよ」

「湿気が少ない場所に頼むから置いてください!!腐ります!!」

と若い魔族たちに囲まれて、次々と文句を言われ始める。

「いや……だって……我が家、二人しか人いないし……」

ミシェルは顔を搔きながら、ブツブツと反論している。

そしてしばらく責められ続けるといきなり両手を広げて、声を荒げる。


「あー!!もううるさい!!そんなに言うなら貴様らが管理しろ!!

 我が家に住め!!足りないなら近くに家作れ!!」


「よろこんで!!」

と全員声を揃えて答えた後に

「親族も呼んでいいですかね?」

「あとでタジマ様に頼んでみるか」

「優しそうだからたぶん大丈夫でしょ」

「周囲の森開墾できますよね?どのくらい住めるかな」

「そうだな。数千人規模にはできそうだな……」

ミシェルの存在を無視して、どうやって住むか話し出した魔族たちに

ため息を吐きながらミシェルはソファに座り、ネイサンが差し出した白湯を飲む。

「こいつ等見て、だいたい事情は分かったわ。

 で、わたしんちの周りに、こいつらの避難場所ってか自治区造るのね」

怒られるかと思っていたが、そうでもないようだ。

こうなることを読んでいたのか。

「いや、そこまでは計画してなかったんですけど……」

「すごいバイタリティやね……芸術品見てから、一気に覚醒したっていうか」

「魔族は文化や芸術に目がないからねぇ。こんなクソガキどもでもこんな調子よ」

と鼻で笑いながら、ミシェルは俺に尋ねてくる。

「んで、うちの本国で何が起こったのよ。

 こいつら、良家の坊ちゃん嬢ちゃんだらけじゃない」

と軽く見抜いて、楽しそうに訊いてくるミシェルに

魔族国北部の天変地異と、それによる"氷の女王"の出現を話して聞かせる。

「ふーん。平和ボケしてたツケが回ってきたのね」

ミシェルは聞きおわると、しばらく考え込む。

「モルシュタインが相打ちするのが一番いいけど無理だろねぇ。

 もうあのクソジジイ、だいぶトシだからねぇ」

「勝てそうも無い?」

その言葉には答えずにミシェルは俺に尋ねてくる。

「タジマ君は、何か魔族国に欲しいもの無い?

 できればモノとか人がいいかな。」

俺は真っ先にアレが思い浮かぶ、培養液につけられた人間の流れ人。

ずっと気になっていたやつだ。

それをミシェルに告げると、大声で笑いながら

「あははっ、あー、そんなこともあったらしいわね。じゃあ、お礼にそれ貰おう」

「貰うって、何でですか?」


「だって貴方は、これから"氷の女王"を倒しに行くんでしょ?私や仲間たちと。

 ほっといたらローレシアンに南下してくるし」


「えぇ!?」

タガグロと俺は同時に驚いた。

いやなんかもう無茶苦茶である。

俺はモルシュタインと決戦するつもりで鍛えて、

いざ戦場に行ったら王都を奇襲されて、ザルグバインが死んでて、

その戦場には今度はモルシュタインが居なくて、実は魔族国が危機で

俺はこれからそこへ危機をもたらしている山脈のような巨大ドラゴンを倒しに行く!?

あれ!?モルシュタインとの決闘は?

なんじゃこりゃああああああああああ。理解しろと言うほうが難しいわ。

というかなんだこの超展開……事実は小説よりも奇なりを

地でいっているような気がするのは

きっと気のせいだろう。

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