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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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奇襲返し

ゴンドラが先ほどまでと、何も景色が変わらない

マルグ平野へと着陸する。

六十万の軍が、左右に分かれて、相変わらず陣形を保っているし

テントなどの設営も続いている。

どうやらクラーゴンは動揺せずに、冷静に全軍の陣形を保っていたそうだ。

すぐに扉を開けて、外に出た俺たちに

軍服姿のクラーゴンと大老ミイ、そして白い布に包まれた双雷槍を手にもち

深緑の軍服を着たサーニャが

大盾を構えた数十人の兵士たちに囲まれながら

駆け寄ってくる。

「王都の様子は!?」

と俺に殴りかからんばかりの勢いで詰め寄ったミイに

タガグロと共に二視点で見てきた襲撃後の王都の様子を説明する。

にゃからんてぃは黙ったまま、俺の肩に乗っかって

厳しい視線を、数キロ先の森へと向けているようだ。

女王が無事だと知ったミイは力が抜けたのか、その場で膝をついて

サーニャや周囲の兵士たちが介抱する。

「……よかった……ミサキ様はご無事なのですね……」

「しかし、モルシュタインの娘を取り返されて、王国裁判待ちのラングラール王子と

 メグルスちゃんも取られちゃったのか……」

座り込んだミイは

「中将。王子たちは、最悪見捨てましょう……」

と力の抜けた表情でクラーゴンに言う。

「そうね。ミイ様のご判断は正しいわ。どちらにせよ国家反逆罪で

 処刑か無期刑は免れなかったはずなので、処断は

 利用価値の無いことを知ったあとの魔族に任せましょう」

冷徹に言い放つクラーゴンに俺は今は何も言えない。

現実に激しく破壊された城と血まみれの仲間を見てしまったからだ。

「タカユキ様たち、問題はね」

真面目な顔のクラーゴンが俺とタガグロに顔を寄せてくる。

「これで、モルシュタインを引き出すカードが無くなったってことよ」

「確かにそうやな……」

タガグロが口に手を当てて考え込む。

「つまり魔族軍は、ここに滞陣したまま、

 我々の兵糧が尽きるのを待つことが可能になったの」

「つまり、今ごろモルシュタインは、伝令兵を使って、

 本国に戦況の変化を、伝えに行かせている可能性も……」

「そうなるわね。監察官に止められる前だから、奇襲自体は抜け駆けではあるけれど

 結果的に大戦果をあげているので、多分お咎めは無いと思うわ」

クラーゴンもアルデハイトが説明したミイから魔族国の情報を得ているようだ。

「……大ピンチだな……」

すると何もしていないのに勝手に光の線が空に浮かび、

俺たちが乗ってきたゴンドラが上空に浮き上がり

再びローレシアン中央山のある南方へと、戻って行った。

「いまのは……?」

それを目を細めて眺めたクラーゴンが俺たちに問いかける。

「俺の仲間の誰かが、ゴンドラを使ったんだと思う」

「たぶん行き先は中央山裏庭やね。こっち来るのかな?」

「父さんが若いころ使っていたやつか……」

「ミイ様はご存知で?」

兵士たちに肩を貸してもらい立ち上がったミイが

「マシーナリーの誘導技術と我が国の製鉄技術で作り上げた移動装置です。

 スガが亡くなる前に廃棄したはずですが……」

「あ、勝手に倉庫から引き出して、借りました」

「ああ、ミサキ様が言っていたのはあれのことだったのですね。

 てっきり、新種の飛行装置を手に入れられたのかと。

 了解しました。飛行許可を全国に通達しておきますね」

大老ミイは弱々しく微笑むと、兵士たちの肩に捕まりながら、

左方の陣中へと去っていった。

「ミイ様……精神的ショックが大きかったみたいねぇ……」

「うちだって、帝都いきなり襲撃されたらあんななるわ……」

「うん……しばらく休んでもらおう」

「しかし、手詰まりよ。にらみ合いが長引くほど、

 兵糧の使用量が少ないあちらが有利になるからね」

「にゃか……何かいい手は無い?」

「……」

にゃからんてぃはしばらく、森の先を眺めてから

「例えば、犬と豚が居るとします。その力量差は犬の方が皆は上だと思います。

 しかし一概にはそうも言えません。豚は筋肉量と貪欲さで時に犬に勝ります」

「ふんふん……そうか……」

「大丈夫?このわけわかんないこと喋る猫。使えるの?」

「ニャという音は……」

猫といわれてクラーゴンに再びいつもの文句を言おうとした

にゃからんてぃの口を塞ぎ、タガグロに通訳を促す。

「え、えーと、目には目をと言ってるで、つまり少数精鋭で、奇襲をこちらも仕掛けたらいいと」

「……相手が勝ち誇って舐めている今のうちか……やるじゃない猫ちゃん」

「ニャと言う音は静k……」

再びにゃからんてぃの口を塞ぎ、

「猫じゃなくて、にゃからんてぃと言ってあげて下さい。

 少数精鋭ということは俺たち二人とサーニャさんと……」

「わ・た・し・ね」

クラーゴンがニンマリと笑い、無精髭をさする。

兵士たちに並び、黙って訊いていたサーニャが、

「この兵団の主将である、中将が最前線に立つのは……」

「ふふっ、短時間ならどうにかなるわよ。さー準備準備ーひっさしぶりの実戦ねー」

クラーゴンは言うが早いか、左側の陣中にスキップしながら駆けて行った。

護衛の兵士たちも全員、焦ってついていく。

「戦えんの?」

「"猛毒撒き"のクラーゴンが中将の二つ名です」

「毒使い!?敵にしたないなぁ……」

タガグロがぶるっと身体を震わせる。

「やばいの?」

「つまり暗殺者っていうことや。裏の仕事の者の名が表に広まってるということは……」

「敵対者を殺しすぎて、もう裏社会からは、かなり前に追い出されたと……」

「うわぁ……こっわ」

「クラーゴンだけは何があっても大事にしよう……」

俺と言うか、仲間たちのためである。そんなやばい人物だったとは……。

「その方がいいと思います……」

皆で一息ついて落ち着いていると、迷彩服に着替えたクラーゴンが

スキップしながら一人で駆け寄ってくる。

腰元には物凄い数の小瓶が揺れている、恐らく中身は全部毒だな……。

「おまたっ!!早速行くわよ!!」

無精髭で坊主の精悍なおっさんのクラーゴンが

乙女のようにウインクしながら、胸を寄せる。

「お、おう。まッ待ってないよ……」

挙動不審の俺を見て勘付いたクラーゴンがニヤニヤしながら

「あー、サーニャちゃん、私の昔の話ししたでしょー。

 ど・く・さ・つしちゃうぞ?」

「すっすいません。情報の共有は必要かと……」

「ふふっ、まぁいいわ。魔族五人くらいは捕獲して帰ってきましょうね。

 手が滑って殺さないように気をつけなきゃー」

「う、うん。捕獲しよう」

「お、おー!!そ、そやで!ど、毒殺禁止ー!」

「いきましょう!!」


俺たちは、俺の肩に乗ったにゃからんてぃの先導で右方の陣地後方を経緯する形で

マルグ平野をグルッと東側に迂回していく。

途中でゴブリンとオーク連合軍の陣地で

へーズルたち幹部や他の兵士たちに挨拶をした。

祈りながら俺に跪く彼等を見たクラーゴンは

「……完全に支配下に置いたわね。ローレシアン内は安全になるからいいけど」

と面白そうに呟いていた。

にゃからんてぃの先導に従い、慎重にかなり大回りして迂回して、

一時間ほど移動し続け、

少し日が傾いてきたころに数キロ後方の背後の小山に回りこんだ。

歩いている途中でタガグロはサーニャに双雷槍の使い方を大雑把に教えていた。


ここからは小さな森の中に布陣している魔族たちの

陣地の柵や、テント群が見える。

大きな岩陰に隠れながらそれをまずは、観察する。

「ふむ、上空にも監視兵がいるわね」

クラーゴンは、双眼鏡を皆に渡しながら言う。確かに黒い粒みたいな人が

何人も森の上を飛んでいるのが見える。

「魔族の感覚範囲は広いですから、これ以上近づいたら見つかりますね」

サーニャは冷静に説明する。

「さぁ、どうやってあの隙の無い陣中から何人か捕獲するか」

「……光の角度と影の加減は、視点によって違います。陰影の模様と言うものは

 美しいものです。白い壁に映る朝日は夜の物悲しさを昇華させます」

「なんて?」

「たっくんと、にゃかが囮になって、

 その間に残りの三人で陣地西側から回りこんで、弱そうなの捕獲したらいけるって」

「やっぱ俺か……モルシュタイン出てこんかな……」

「逃げるが勝ちとは全てにおいては当てはまりません。対抗したほうが良い場合もあります」

「なんか、分かったわ。もし出てきたら逃げろと……」

「そゆこと。あと出てきたら、時間稼げて言うとるよ」

「にゃからんてぃ……おまえなぁ、いや、お前も一緒に行くからいいか……」

みんなから声援を受けながら

俺は渋々と小山の岩陰から出て、森の中にある魔族の陣地の東側へと

高速で匍匐前進し始める。にゃからんてぃも隣で楽しそうに同じ動きをしている。

こいつ、余裕あるなと思いながら

シャカシャカとまるでゴ○ブリのように草が点在する荒野を這って進んでいく。

何してんだろうな俺……と若干頭に過ぎるが仕方ない。

同族の人命を何より尊重する魔族は、同胞を捕獲されると死に物狂いに

なるのは良く分かっている。モルシュタインの奇襲でセイは取り返されたが

兵士を何人か捕獲すれば、こんどこそ正式に返還交渉が始まり

魔族軍を引かすことができるばすだ。いや、もう引いてもらわないと困る。

俺個人としては魔族に元々何の恨みもないのである。

むしろアルデハイトに助けられていて、恩のほうが遥かに大きい。

それがまだちゃんと戦ってすらないのに、

中央城の破壊を指示したであろうモルシュタインに明確な殺意を感じるようになった。

この殺意が魔族全体に及ぶと、俺は恐らく昔の菅のように

魔族という種族自体を許さなくなっていくだろう。

そうなる前に何とか決着をつけたい。


そんなことを考えながら進んでいると、前方をシャカシャカと匍匐前進していた

にゃからんてぃがいきなり立ち上がった。

そして俺の方を向いて、立つように促してくる。

俺も立ち上がり、にゃからんてぃを肩に乗せて、数百メートル先の森の東側を見つめる。

森の中の魔族陣中が、ざわついているのを何となく感じる。

飛行していた数名の魔族が俺が立ち上がるのと同時に

森の中の陣へと降りて行った。

たぶん、陣の背後にいきなり一人で現れた俺の存在を視認して

どうすればいいか今、作戦会議中と言う感じだろう。

空を見上げる。あと二時間無いくらいで夕暮れだ。

冬なのでその後、すぐに日が沈むだろう。

早く出てきて欲しい。

俺は背中から霊刀を抜き左手に、右手に腰から彗星剣を抜いて持つ。

そしてありったけの殺気を森の中の陣中に向けて浴びせかけた。


森の中から一人のマッチョで浅黒いスキンヘッドな男が出てくる。

たぶん元々美男子だが、鍛えすぎの筋肉と髪の無い頭でそれを感じさせない。

背後の四枚の羽根を羽ばたかせ、数メートル上を浮きながら

俺の目前まで飛んでくる。真っ青な鎧に包まれた背丈は百八十くらいだな。

魔族の平均くらいか。

「うちの陣地に殺気を浴びせたのは貴様か」

「ああ、そうだ。それがどうした」

「……死にたいのか?今、わが軍は戦争中である。命が惜しければ立ち去れ」

こいつ、俺の顔を知らないようだ。しかも、立ち去れとは……もしかして

厳つい見た目より遥かに人がいいのか?

なんだこれ、これが平和ボケってやつなのか。それとも強者故の余裕か。

魔族の癖にまったく強さを感じない。いや、達人なのであえて隠しているのか……?

と意外なこの人物の出現に混乱しながらも、何とか尋ねてみる。

「お前は誰だ?」

「俺か、俺はこの軍の副指令のドワネル大佐だ。お前こそ誰だ」

「……」

相手の目を見ながら。少し俺は考える。

出てこないところを見ると、モルシュタインは居ないようだ。

おそらくこの様子だと、本国に移送される愛娘に付き添っているとかだろう。

ということはだ。この人がいい副指令を鑑みると

あの恐ろしい奇襲を発案したのはモルシュタイン一人の手腕だな。

ということはだ……。もしかすると、思ったよりも……。

にゃからんてぃが左肩を叩く。分かった、思ったようにやってみる。

俺は彗星剣を鞘に収め、いきなり素手でドワネルを全力で殴り飛ばした。

「ぐはっ!!」

吹っ飛んだドワネルにもう一発、

こんどは左手の霊刀で頭を軽く殴る。完全にドワネルはノビてしまった。

……弱い……そうか、修行の成果で魔族ならば兵士でも

簡単に倒せるほど強くなっていたようだ。

モルシュタインと言う英傑の後ろ姿を追っていたら、思ったよりも強くなっていたらしい。

それが分かったからには、すまんなドワネルさん、ちょっと陣地荒らさせてもらう。

と頭を下げて、俺は森の中の陣地へと突っ込んでいく。

「敵襲ー!!!」「種族不明!!!独りだが、強いぞー!!!囲めー!!」

兵士たちの怒声の中を

俺は抜き身の彗星剣は、腰に下げて、その硬い鞘を右手にもち

左の霊刀シュガヌーンと共に二刀流で、意識の底で覚えた技を繰り出しながら

襲い掛かってくる魔族に囲まれないように、

にゃからんてぃは俺の右耳や左耳をひっぱり、素早く移動させる。

俺はできるだけ一対一に持ち込んで、素早く兵士達を気絶させていく。

しかし、異様に弱い。一般の人間兵士よりは間違いなく強いが、

アルデハイトよりこいつら、遥かに弱いんじゃないか……。何か異様に若いのが多いし。

俺の中の魔族の平均基準はあいつの強さなので

拍子抜けしながら、ほとんど無双状態で蹴散らしていく。

それを延々と続け、数百人くらい気絶させ、陣地を破壊して周り

そして飛び込んだテントの中で

震える数人の魔族の女性がいるのを確認した。

「たっ、たすけてください!!」

「わっ、私たち、派遣されてきた医師団で戦闘員では……」

「殺さないで!!」

「……」

口々に命乞いをする白衣を着た美女たちの背後で、皆に守られるように隠れて

怯えた虹色に輝く髪の綺麗な女性に一瞬、何か感じるものがあった俺は

女性たちをかき分けて、その女性の手を無理やりとり

テントを出る。にゃからんてぃは再び俺に進むべき方角を指示し始め

俺は西側のテントで炎が燃え上がるのを見ながら

森の中の陣から悠々と脱出していく。

おそらく、クラーゴンたちが混乱に乗じて火をつけたのだろう。

手を握って歩かせていた女性は途中で気絶したようで、動かなくなったので

俺は背中に背負う。

そして森の外へと出ると、ちょうど倒れていたドワネルが起き上がっている

ところだったので、背後から一発殴って、また気絶させ

ついでにドワネルも捕獲することにする。

副指令なので捕虜にする価値はあるだろう。


素早く走りながら、さっきの小山の岩陰まで行くと

ピクピクと失神した三人の若い男性の魔族が涎を垂らしながら

横たわっていた。近くにはおそらく毒薬を調合している

ニコニコしたクラーゴンがしゃがみ込んでいる。

「はーい、ボーイたち、これ飲んでねー」

鼻をつまんで無理やりクラーゴンが失神した一人の男魔族に

薬を飲ませると、その男は死んだように動かなくなった。

残り二人にも同じ薬を飲ませる。

「あ!!大戦果じゃなーい!!あんなに出来る子とは思って無かったわ!!

 おお!!使えそうな人質まで!!これで五人ね。さ、私に渡して」

「殺したの?」

「そんなわけないわよーっ!ただの魔族を半ワンハー(月)ほどこん睡させる軽いお薬よ」

とクラーゴンは気分を少し害しながら、俺から受け取った失神状態の二人にも薬を飲ませる。

火が木に燃え移り炎上し始めた魔族の陣中の方から

サーニャとタガグロも走って戻ってきた。

「中将が言った通り、テント燃やしてきたで。

 一応"火が出たぞー避難しろー"って叫びながらやから、

 煙に巻かれる阿呆はおらんはずよ」

「魔族は飛べますから、心配はいりませんよ」

サーニャがそう言って空を見上げる。次々に陣中から兵士たちが飛び立って

北東の方角へと逃走していく。俺が気絶させた兵士を吊り下げている者も多いので

たぶん、大丈夫だよなと、一応は安心する。


俺たちは今度は魔族の陣のあった森の近くを堂々と通りながら南下して

直線で陣中へと帰っていく。

「モルシュタイン陣中に居なかったのね。そしてこの無能が副司令官だと。

 いい男なのにねぇ……残念ー」

自らの肩にスキンヘッドのドワネルを背負いながら

残念そうな顔でクラーゴンが言う。

「たぶん、奇襲が成功したので安心して、

 セイの本国への移送に付き添っていたんじゃないかな」

俺は三人纏めて背負っている。

「やろねぇ。水棲族にもモルシュタインの親馬鹿ぶりは有名やで」

「数字と言うのは奥深いものです。その美しさに魅せられて

 人生を無駄にした天才たちが何人も居ます」

「ふんふん、間近で見た、にゃかの推測によると、

 奇襲した七百人が中心の精鋭兵士で、あそこの六千三百は

 実は新兵や民間人がかなり混ざっていた張子の虎やったと……マジで!?」

にゃからんてぃの言葉を翻訳したタガグロが驚く。

「いや、何か国から派遣されてきた医師団みたいなのは見た。

 その中の一人がこの女の人。何故か連れてきてしまったけど」

サーニャが背負っている女性を指差す。虹色の髪だ。

「うっわー、暗黙のルール違反やでー、民間人、人質にとったんかぁ」

「あ……不味かったかなぁ」

「まー知らんかったならしゃあないわ。魔族もこの国の混乱に付け込むようなことしとるしな。

 でも、要請があったらこの女性だけは、無条件で解放したりよ?」

「うん。そうするわ。大老ミイや、ミシェルさんに頼んでみる」

「"虹髪はトイフェルの優美を讃える"という言葉があってね」

楽しそうにクラーゴンが空を向きながら言う。

「……?」

「中興の祖、エッカルト・トイフェルの子孫の証拠なのよ」

「え、つまり……」

ダガグロが冷や汗を流し始めた。

「そうね。その子は魔族七名家のご令嬢ね。ま、傍流じゃなければいいけど」

「うっわわ、もしそうなら余計に不味いやん。

 トイフェル家って歴代の首相何人も生んでるらしいで……」

「モルシュタイン家よりでかいのか……」

「ふふっ、無条件解放なんてしませーんっ。

 外交カードとして大事に使わせてもらうわよ。

 今度は絶対に奇襲させないようにした上でね」

クラーゴンはそう言いながら、歓声を上げながら

近寄ってきたローレシアン兵士たちに、意識を失った魔族たちを預けて移送させる。


日が暮れて、クラーゴンのテントで報告を聞いていると状況の変化が伝わってくる。

逃げ去った魔族たちは、マルグ平原北部の第一王子領と国王領の間の関所を

要塞化した砦まで後退したようだ。

先ほど移動したゴンドラでここまで再び来たのはマイカ一人で

いくつか重要な情報をもってきた。


「……ザルグバイン……中央城で……魔族と……戦い……戦死していた……」


「……」

全員で呆然として俺たちはマイカの話を聞く。

クラーゴンも涙を流して、その報告を聞いている。

中央城の中庭の中心地で満足そうな顔で、ボロボロに割れた

愛用の虹色の鎧を着て、倒れて死んでいるザルグバインが

俺たちがここに向かった後に見つかったそうだ。

周囲には気絶している魔族が七人ほど倒れこみ、愛用の斧が刀身から真っ二つに

割れている状態で見つかったらしい。

マイカによるとザルグバインの奮闘のお陰で、

中央城以外は、それほど被害は大きくなっていないらしい。

中央城自体も見た目ほどは深刻なダメージはなく、復旧に時間はかからないそうだ。

さらに七人の捕虜が増えた。

そして、意識を取り戻したアルデハイトは俺に伝言を告げた。

「こちらに派兵された魔族軍は弱軍のようです。

 モルシュタイン閣下が居たのも、恐らくは名前で脅すためです。

 ということはマルグ平原の七千もかなり民間人などで、水増ししていると推測されます」

とのことだ。それを補足したマイカは

「……直接……殴りあって………民間人の自分……それなり戦えて……驚いた……言ってた……」

ということは、さっきの話と組み合わせると、七千の寄せ集めの中で

一番強い七百人の精鋭たちも、実際はそれほど強くなかったことになる。

「何か理由があるのかな?」

「……魔族本国で……何か……あったはず……言ってた……

 アルデハイト……こっち来て……長いから……疎い……」

「もしかしたら、私たちの推測を超えている事態になっているのかもね。

 モルシュタインの強引な奇襲や、その後の不在も……もしかして……」

クラーゴンは何かを考え込み始めた。

「タガグロは何か知ってる?」

「いんやー。うちが出国した時は何も聞いとらんよ。

 昔の恨みはあれど、豊かな魔族国がなんで今さら、

 ローレシアンに攻めこんだんやろって話してたくらいよ」

「魔族国ってどの辺りにあるの?」

「第一王子領のさらに北の、広い穀倉地帯を持つローレシアン全土の七倍ぐらいの大地一帯と……」

「と……?」

「その地下に幾つもの広大な地下都市をつくっとるね」

「初めて聞いた……すげぇな」

「魔族は、光をあまり必要としないし、地下は温かいからね」

クラーゴンは補足しながら、再び考え込む。そして


「ふむ。夜襲ね。今から全軍で押し出して、モルシュタインが帰るまでに決めちゃいましょう」


「……それがいい……今なら……恐怖で……逃げさる……」

「予定通り、明日には第一王子領まで押し上げて、バカ王子ちゃん捕らえましょ」

すぐにクラーゴンは、兵士を外から予呼び寄せて、全軍前進の指示を出し始める。

指示を聞いたサーニャが外へと走り出た。

夜中にも関わらずに、周囲が雑然とし始めた。

「兵糧や補給考えたら、これがベストなんやろね」

俺はタガグロと外に出て、焚き火を囲みながら、

カンテラや松に照らされた陣中を兵士たちが走り回って居る中

ホシイイや乾パンなどを齧る。

「そうだろな。六十万人がずっと滞陣してたら、お金足りないんだろ」

「大変やね。戦争って」

「できれば平和がいいな。人死にももういいよ」

ザルグバインのことは衝撃的過ぎて、まだ実感がわかない。

昨日までは確かに生きていたのに……。

「そやねー」

「そういえば八宝使用者の三人って見た?」

「いんやー、まだ会ってないなぁ。軍団まかされてるんやないの」

「俺もだ。そのうち会えるかな」

「そやねぇ。会ってみたいな」

雑談をしながら、俺たちは忙しなく夜間の進軍準備をしている

兵士達を眺める。

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