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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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ローレシアン剣術タジマ派

話を聞き終わった三人は、目を丸くして尋ねる。

「ということは……兄さんの腕の中の丸まってるそれが……」

「マントを着た猫が……」

「式神なんですか……」

「うん。そうよ。今話した、にゃからんてぃだよこれが」

俺は腕の中で気持ち良さそうに寝ているにゃからんてぃを撫でる。

「すごいなー兄さん……何か雰囲気変わったと思ったら

 本当に二ラグヌス(年)半近く……異世界に行ってたのか……」

「そうっすか?俺はわかんねすけど……」

「私は何となく分かるなぁ……少し雰囲気が鋭くなられたよ」

さらにそれぞれに俺を評する三人の話を受け流しつつ

気になっていることを訊く。

「第四王子と本隊は、今どの辺りなの?」

「明日には着くと思いますよ」

「あ、そうだ。ルナテリス王子が、兄さんによろしくって」

「あまり喋らないけど、いい人ですよ。あの人」

「領民にも慕われているし、私たちにもよくしてくれましたよ」

「あ、でもねー」

とミーシャが声を細めて言う。

「一人で全部なんでもしちゃうんだよ。領内の細かな裁判から軍の調整まで」

「……それだけが玉に瑕っすね。長生きできんすよ、あのままじゃ」

「補佐役も置かれていないですし……」

アルナが心配そうに言う。意地悪な顔したミーシャが

「そうだ、アルナちゃん、王子様にお熱なんだよ。兄さん」

と隣のアルナを肘で突っつきながら、俺に教える。

「え、いやいやいや、そっそんな、ことなななななないですよ」

座っていたソファから仰け反ったアルナが全力で腕を振りながら、否定する。

「……第四王子様は、確かスガ様の血が入ってなかったはずですし、

 アルナちゃんとくっつくのに最適だと俺は思うんすけどねー」

ジャンガスがミーシャに乗っかって囃し立てる。

ここ数日でこの三人にも色々とあったようだ。

「いやいやいやいや、決して王子様がいい人で、美しい金髪サラサラヘアーで

 顔立ちも麗しいから気になっているわけじゃないですよよよよよ。

 むっむむむ無口で神秘的でいいなあとか思ってままままませんよ」

とアルナは顔を真っ赤にしながら反論するが

否定すれば、するほど、思っていることが明らかになっていく。

「奇跡が起こってこの密かな想いがつたわれれればいいとか全然おもってままませんよ」

要するに誰かに何とかして欲しいのか……。

身分差があるとはいえ、菅家の正統な子孫と付き合うのは

王家の血筋なら願ったりかなったりだろう。あとは王子の気持ち次第だな……。

「うん……気持ちはわかった……縁談というか、お付き合いできるか

 俺が手回してみる……任せろ……」

と俺は肩をがっくり落としながら、告げる。

ミサキか大老ミイ辺りに言えば何とかなるだろ。

中央政府ともそれほど仲が悪く無さそうだし。

「ほっ、ほんとですか!?」

目を輝かせながらアルナは、俺ににじり寄る。

あまりの迫力ににゃからんてぃが起きて、

睡眠を邪魔されて不快そうな顔で俺たちを見回して、

そしてミーシャの膝の上に狙いを定めると、素早く入り込んで

また丸まって寝始めた。

俺たちはにゃからんてぃを起こさないように声を落として、話し出す。

アルナは安心したのか、ウトウトし始めた。

「ああ、そうだ。式はどうすんの。結婚するんだろ?」

「それがね、兄さん。ジャンガスが……」

ジャンガスはソファから降りて、床に正座して俺に話し始める。

「タカユキ様!!俺、一人前の男になりたいっす!!」

「……?」

「やっぱ、俺、まだ色々と足りないと思うんすよ!!」

「そうなの?」

「今無職だし、武術も弱いし、頭もそんなに良くないっす!!」

「だからね兄さん……ジャンガスに……」

「タカユキ様!!俺に武術を教えてください!!」

とジャンガスは俺に頭を下げてくる。座ったままなので土下座みたいになっている。

「一端の武術者になれれば、俺も流れ人タジマ様の妹ミーシャさんと

 胸張って結婚できると思うっす!!」

「お、おう……」

生返事して、平静を装った俺は、心の中で頭を抱える。

人に武術を教える……だ……と。俺にそんなことできるわけがない……。

いや、しかしジャンガスの悩みは分かる。

たしかに彼はまだ無職だし、それはいずれ俺が手回して何とかするとしても……

武術はまだ見たこと無いが、激しい戦いを繰り広げてきた

俺の経験からジャンガスの身体付きを見て、推測するに、

兵士時代に訓練された分で、一般人よりちょっと強いくらいだろう。

どうする?兵士の訓練の経験豊富そうなザルグバインに預けるか……?

それとも大老ミイに何とかしてもらうか?

無言で悩んでいると、奥の寝室からナイトキャップとパジャマ姿の

アルデハイトがニヤニヤしながら、リビングに出てきて

冷蔵庫からワインとつまみを取り出すと、俺側のソファの端に

スッと腰を降ろし、口を開く。

「すいません。あまりに面白いので、盗み聞きしてました」

「……すまん、助けてくれ……どうしたらいいか分からない……」

「タジマ家の問題だから、アルデハイトは首を突っ込まないでよぉ」

ミーシャはあからさまに嫌な顔をする。

まぁ、確かにミーシャと結婚したら但馬の一員ではあるな……。

言ってることはおかしくない。

「今から言う事は、私の私見ですよ?参考程度に聞いてくださいね」

とアルデハイトは前置きしながら

「ジャンガスさんを、タカユキ様の正式な

 "弟子"になさったらよろしいのではないかと思います」

と皆を見て話す。

「弟子?」

「ええ。タカユキ様の剣の型は、ローレシアン剣術ですよね?」

「そうだな。二刀流になったから、ちょっと邪道かもしれないけど」

「ならば、"ローレシアン剣術タジマ派"を今ここに創設して、

 その正式な一番弟子をジャンガスさんにするのはどうでしょう?」

「アルデハイト……私は……」

ミーシャが厳しい顔をしながら、首をかしげているアルデハイトに話しかける。

「お前のこと!!一気に好きになった!!」

「な、何を仰られるのですか……」

晴れやかな表情に一気に変わったミーシャに

アルデハイトは顔を真っ赤にして照れている。

「そのアイデアかっこいい!!兄さんも剣術の師匠になれるし

 ジャンガスも強くなれる!!」

「たはは、喜んでもらえてよかったです……」

ジャンガスはワインを飲み干して、調子を整えなおす。

「タカユキ様、いや、師匠!!これからよろしくお願いします!!」

床に座ったままだったジャンガスが再び、土下座してくる。

うん……話の流れで何か、いきなり剣術の流派ができちゃったけど、

そして何かその創始者になったけど、仕方ないよね……不可抗力だよね……。

と俺は何とか自分に言い聞かせて、感激した面持ちのジャンガスを立たせて

ソファに座らせる。

そしてとりあえず言っておく。

「俺の剣術はまだまだこれから伸びると思うし、

 そうしなければ強敵たちに立ち向かえない」

無意識の底で知ったのは、世界は広くて、想像もつかないような強敵は沢山いると言う事だ。

「なので、自己鍛錬や様々な出来事の合間に、どれだけ教えられるかは分からないが、

 出来る限りのことはしたいと思う」

「はい師匠!!」

「兄さん……かっこいい……」

感激している婚約者たちの対面に座ったアルデハイトはニヤニヤしている。

嵌められた感じが何となくするのは気のせいだろう。

「……とりあえず、今から基本を教えるから

 それを人間十人分くらい離れて、

 小さな滝に向け、毎日やること、剣を振る空圧で

 滝の水が少しでも割れたら、今度は俺が直接稽古つけてやるからね」

と俺はさっそくリビングの開いているスペースで

、ジャンガスに、片手で剣を振るう型をぎくしゃくしながら、手取り足取り教える。

ああ、そういえば、思念の部屋から帰ってきて何も食べてない……早く寝たいし……。

と思いながらも三十分ほど、俺はジャンガスに型を教えた。

無理だと思っていたが、やればできるもんである。

……きちんと伝わっているかは、責任もてないが……。

にゃからんてぃをソファに置いて立ち上がったミーシャも真似ている。

どうやら二人で今日から練習する気らしい。

「私、二番弟子ねーっ!ちょうど弓と体術以外も習いたかったところだし」

と勝手に二番弟子になったミーシャにやれやれと思いながら、

ついでに五分ほど剣を振る型を教える。我ながら人が良すぎると思う。

ミーシャはさすがに他の武術を修めているだけあって、飲み込みが早かった。

「ジャンガスのサポートをしてやってくれよ」

と不器用に鞘に収まった剣を振るうジャンガスを指差して、ミーシャに頼む。

アルデハイトは優雅にソファに座り、俺たちが四苦八苦する姿を肴に酒を飲み続けている。

「小さな滝は、俺の領内にあると思うから

 明日にでもモーラやザルガスに聞いて、探してもらったら良いと思う」

とわざわざ練習用の滝の場所の心配までしてあげて、

俺はソファに座り込む。さすがに精神的に疲れた。

アルデハイトは実に美味そうにワインを飲みながら

「どうですか?」

と俺にも勧めてくる。脳内で二年と数ヶ月修行して、それが装置によって

身体にフィードバックされているなら、実質二十歳近いはずなので

日本の法律に照らし合わせても飲んでも問題ないはずだが、一応断る。

気持ちはまだ、ただの、高二のままで居たいのだ。

いつの間にか転生した超人で、大領主で王族で、幾つかの異界すら旅して

さらにでっち上げた剣術の亜流派の創始者にもなってしまったが、

俺のベースはあくまでふつうの人である。それにどう考えても

元々何も無い俺は、流れ人でなかったら、栄誉も功績も何にも残せなかったわけだし

まぁ、運命の偶然に乗っかっただけで驕るほど偉くもないよな……。

といつものように居心地の悪さを感じる。

「まぁまぁ、そう肩肘張らずに、我々は自らに与えられた範囲でしか

 物事を動かせません。タカユキ様は、それがたまたま大きかっただけですよ」

と俺の困惑を見抜いたアルデハイトは、乾パンのようなつまみを齧りながら言う。

「いつか、慣れるかな……」

「慣れないままで行くのもよいですよ。

 日々の気持ちよさに拘泥し無い方が、客観的に自分を省みられます」

「そういう考え方もあるのか……ありがとな」

「ふふっ、業務内容のうちですって」

アルデハイトは上機嫌に酒を飲みながら、広いリビングの端で二人であーだこーだ言いながら

鞘に収まった剣を振っているミーシャたちを眺める。

「ああいう光景を守りたいものですね……」

「そうだな。モルシュタインをちゃんと退けとかないとな」

「勝てれば、大きな道が開けますよ」

「明日はまず、水棲族との同盟の調印式だな。それから兵団の長たちとの会議かな」

「どうでしょうか。そういう調整は大老ミイ様に任せましょう」

「ゴブリンとオークたちの大兵団はどうなるんだろ」

「さぁ?そちらはタカユキ様が出向くしかないんじゃないですかね」

アルデハイトはそっぽを向く。相変わらずゴブリンやオークたちに興味はないようだ。

「……まぁ、とりあえず、寝るわ。もう限界だ」

いくらなんでも働きすぎである。俺はテーブルの上から

アルデハイトが並べたつまみの乾パンや、お菓子を幾つか貰って食べて

むりやり水で流し込むと、立ち上がった。

「はい。何かあったら、起こしますね」

と夜更かしするつもりらしいアルデハイトが、相変わらず二人で剣を振っている

ミーシャたちを見て微笑みながら言う。

「……あいつらも適当なところで寝かせといて……よかったらアルナも寝室に頼む……」

と俺はソファの上で眠りこんでいるアルナを指差す。にゃからんてぃもまだ寝てるが

そっちはいいだろう。ほっといても風邪ひかないだろうし。

「できるならば」

「うん。覚えてたら頼む」

ヨレヨレになりながら、いつもの俺が使っている寝室に入る。

服を脱ぎ捨てて、クローゼットの中から出したパジャマに着替えて

俺が居ない間にメイドさんたちが整えてくれていたらしい、ベッドに倒れこむ。

そういえば、サーニャさんどうしたんだろうな……と一瞬、頭に過ぎったが

おそらく、ザルグバインと二人で中央山一段目の戦後復興に精を出しているだけだろうし

そうじゃないとしても、

まさか、ミーシャとアルデハイトが居るこの部屋に入り込むことはできないとはずだと、

俺は安心して眠りについた。

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