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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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シャドウ

諦めたり、疲れて座り込んだことは何度でもあった。

けれど、やり遂げたことは、少なくとも自分が考えて決めて

もう十分だと、というまでやり遂げたことは何度も無い。

皆、気付いたら大人になっていって、

俺も何とかそれに合わせて半端に成長し続けてきた気がする。

師匠は、その一万年と言う長い命の中で、自分で満足できるほど何かをやり遂げたのだろうか。

宇宙ステーションの休憩室の大きな窓から、

流線型のベンチに座って地球を眺めている美射の隣でそんなことを思う。

今日は一日、宇宙遊覧デートらしい。

「お前さ」

「なぁに?」

身体にピッタリとした宇宙船員らしい銀色の服装をした美射がこちらを見る。

「漫画家とか小説家目指したら、いい線いくんじゃねぇの?」

生まれてから何ひとつ"作品"というものを作ったことがない俺からしてみれば、

これだけ想像力あれば、何でもできそうな気がする。

「絵はちょっと描けるけどね。文章はダメだなぁ。文才が無いから難しいよ」

「じゃあ漫画家で。億万長者になったら玉の輿のってやるわ」

「えー。それはちょっと嫌だなぁ。但馬も稼いでよー」

「才能何も無い俺は、大学落ちたら行く先は良くて役場か農業で、

 普通は、地元の工場とか中小企業とか、あとヘルパーくらいだもんなぁ」

「自分を小さく見積もりすぎだよー」

「そうかなぁ。あ、あと林業や廃品回収業とかもあるぞ」

「あのさぁ。どんな仕事でも立派だよ?

 それに頑張って、資格とかちゃんととれば、どこでも稼げるよ?」

美射は頬っぺたを膨らませて、少し怒る。

「いや……やりたいことじゃないなと」

それにしても、わがまま言い過ぎたなと、俺は反省してうな垂れる。

「どんなことでも苦しみの隣に、深く大きな喜びがあるって、

 この世界は、命の煌きで溢れているって」

「リングリングがそう言ってたよ」

「またそいつか。友達なら今度紹介してくれない?その龍に興味があるんだけど」

「どうかなぁ。気難しいからねぇ」

「そうなのかー」

立ち上がって窓に近づいた美射の背中に話しかける。


「お前、現実ではどこに居るの?師匠が、お前のこと流れ人って言ってたよな」


「どこだろう。私にも良くわからないんだ」

「何それ」

「"この元々の私"としては、身体をもって、どこにも存在していないというか。

 体が無いゆえに……どこにでも存在するというか……」

「哲学の話?あまり難しいこと言われても、分かんないんだけど」

実は美射はこれで、かなり勉強が出来る。

俺に拘らなければ、首都圏の難関大学にも進めるだろう。

俺は、まぁ、あれである。低空飛行と言うか何と言うか……。

追試にはならないが、それだけというか……。

「ま、私の困ってることは全部、但馬がいつか何とかしてくれるから

 私は全然気にしてないけどねー」

「いや、ちょ……それは無……」

美射は、戸惑う俺を腕を組んで、巨大な宇宙ステーションの中を見て回る。

想像の産物にしては、よくできているなと

俺は感心しながら、この変なデートに一日付き合った。


翌朝。

「今日から、幽鬼討伐二百五十日でいい?」

と美射が話しかけてくる。

起き上がった俺が周囲を見回すと、宇宙ステーションは跡形も無く消え、

周囲には鬱蒼とした針葉樹の森が広がっている。

身体にはすでに旅装を見に纏い、彗星剣を帯刀しているようだ。

「いいけど、また毎日一体ずつ相手にすんの?」

「いーや。毎日この幽鬼族の棲む樹海の中を進んで行ってもらいます。

 半日戦い続けたら、私とデートねー」

「デートはやはりあるのね……」

「そっちが本番でしょ」

「はい……」

何言ってんの。という美射に、真顔で見られて俺はうな垂れる。


その後、俺は半日間、森の中を進み、数百体の幽鬼を斬り続けた。

その間どこかへと消えていた美射が、半日経つといきなり出てきて

「はい。終わりー。お楽しみのデートですよーっ」

と嬉しそうに、いつものアクロバティックデートプランへと俺を拉致する。

そんなことが何と、本当に二百五十日続いた。

美射が配置したのかは分からないが、五十日ごとに

ボスクラスの巨大な幽鬼が出てきて、俺と一対一で戦った。

最初の五十日目は、マグンチャの長老と美射が呼んだ

黄色に発光する人型の影のような幽鬼との戦いだった。

何度彗星剣をクリーンヒットさせても、

その実体の無い幽鬼は斬れず、攻撃を避け続けながら

五時間ほど、やつの放つ火の玉の連打を避け続けて、耐えた末に、

俺は意識を超集中して、実体の無いものを斬る術を掴み、

一刀でそいつを両断した。

「ガーヴィーがここに居たら、喜んでると思うわよ。

 但馬のローレシアン剣術が一歩進んだじゃない」

とは美射の言である。


百日目は、マグンチャの長老が虹色の七色に分かれたようなのが七体出てきて、

新しい技を掴んでからの四十九日、それを磨くことに専念した俺は

彗星剣を七回振ることで、その七体を軽く両断した。

そして気付く。早く倒しすぎたことを……。

その日は、残りのほぼ丸一日、美射とデートに付き合わされた……。


百五十日目は、半分腐って骨が見えている黒いドラゴンのようなものが出てきた。

何度斬っても再生するそいつを、俺はその会得した目に見えないものを斬る技

……"幽鬼斬"と名付けた……で、一度斬ってみて、確かな手ごたえを得たので

二時間くらい戦い続け、奴の中心部、核がある部分を見極めて

一閃した。すると音も無く、そのゾンビドラゴンは崩れた。

「そうそう。反生物は(コア)を狙うのよ。ってリングリングが言ってた」

と美射は微笑んで、俺をいつものごとくデートへと連れ出す……。


二百日目は、山のような、というか……広い山脈そのものに

巨大な幽鬼が取り憑いているという、どうすりゃいいんだこれという

幽鬼と戦わされる。地震による意図的ながけ崩れや、洞窟崩壊を何度も起こされながら

約一日、幽鬼の群れと戦い続けて、山脈中心地の大きな鉱脈群にたどり着いた俺は

その中心部にある蒼く輝く巨大な鉱石に向け、幽鬼斬を一閃した。

すると山の振動は止まり、幽鬼の群れも消えうせる。

「大きく複雑なものは、必ず、とても脆い弱点をもっているの」

と言いながら、デートの時間がとれずに不満顔な美射は、

禁止していた混浴風呂デートに無理やり持ち込んで、

湯船の中で、美射の身体に巻いているバスタオルを取る、取らないで、

俺と凄まじい攻防を繰り広げた。というか幽鬼より美射のが手ごわかった……。

言うまでも無いと思いますが、取ったらダメだと言ったのが俺です……。


そして二百五十日目である。

最初の一日+ドラゴン百日も合わせて、この脳内修行もすでに三百五十一日目になった。

そして美射のデートプランも三百五十回体験したということになり、

最近では、俺はよく知らない星に連れて行かれる。

もちろん美射が想像した異星でのデートなので、現実的なのかは分からないが

もう気分は、宇宙旅行者である……当たり前だが、そんなものになりたかったわけではない……。

俺はこの脳内世界に、修行しに来ているのだ。

あくまでモルシュタインを倒すためだ。

約一年脳内世界で過ごしたので、もう遠い昔の出来事のようだが……。


「幽鬼討伐もこれで最後だねー!!」

「しゃー!!かかってこいやー!!」

美射の掛け声に俺も答える。

メンタルと身体の両方とも、物凄い鍛えられた気がする。

今なら何が来ても負けないだろう。そして、ふと気付いたので美射に釘を刺しておく。

「もう師匠みたいな、悲しいのはいいからな……」

「分かってるよー」

「じゃ、どうぞー」

美射は、背後に右手を広げるとフッと消えた。

周囲は真っ白な空間に変わる。白夢とか黄泉で見た景色そっくりだ。

代わりに見覚えがある姿が、美射の手が指し示した先に現れる。

「俺!?」

鏡とかで毎朝見ている俺だ。

旅装を着込んで、彗星剣を携えている。

自己イメージで思ったより、子供である。

むさいオッサンや、色気のあるオネェちゃんたち、

それに変人、異人に囲まれていたので

自分も年を取ったような気がしていたが、まだまだ十七のガキだな……。

と思っていると、俺の分身が彗星剣を抜いて斬り掛かってくる。

とっさに鞘のままの彗星剣を両手で掲げて受け止めたが、

予想より遥かに重い一撃に、身体が折れそうになる。

続けて、分身は、剣を素早く振るい、衝撃波を俺に何発も放つ。

ギリギリで全発避けたが、「ゴウウウウウウウウウウ!!」という

恐ろしい音をあげて、身体の横を飛んでいく、衝撃波にもう泣きそうだ。

そして分身は、距離を取って大きく息を吸い込み。

「我は、ロ・ゼルターナ神の化身である!!!!!」

と俺にシャウトしてくる。

身体が痺れたように、ピンッと張って、何でも言うことを聞きそうになる。

そうか……これが俺が他の人にしていたことなのか……。

分身と戦い続け、俺の能力を理解すればするほど、身震いがしてくる。

こんなに恐ろしいのなら、俺なんて居ないほうがいいんじゃないか、

という気持ちさえ、ふと過ぎる。

防戦一方のまま、俺は考え続ける。

何で戦っているんだろう。そもそも何のために帰ろうとしているんだろう。

元の世界に帰ったっていいことなんて無いかもしれない。

戦い続けた勝ち続けたって、他の人に恐怖や悲しみを生み続けるだけかもしれない。

なんで……俺は……。

鞘と剣で二刀流になった分身の剣は避けたが、左手から繰り出される鞘の強烈な一撃を

避けきれずに一瞬、くらった頭がグラついて、何かが頭の中を過ぎる。

遠い日に父や母や妹と遊びに行った縁日、学校での美射や、山口との他愛無い会話、

こっちにきてからミーシャや、マイカ、アルデハイト、ザルガスたちとの日々

ああ……そうか。俺は、ずっと俺一人だけのものじゃないんだな……。

望んだ場所や自分では無いかもしれないけれど、

俺が俺である意味が、環境や他人によってしっかり作られていたんだな……。

だから俺のまま、生きていていいのか、だから戦ってもいいのか。

そして、誰かの笑顔や楽しかった日々、親しい人たちを想えば、

その人たちに、愛されていたことを思い出せば、

もし誰も居ない荒野しかなくても、周囲に悪意や敵意の眼差ししかなくとも、

いくらでも俺は歩き続けられるのか……。

そしてそんな強い力を、俺も存在するだけで、

笑い合い、他者を認めるだけで、無意識に他人に与えていたんだ……。


叩きのめされ、地に伏せた俺を、ニヤニヤしながら眺めている分身を一瞬見上げて、

瞬時に態勢を立て直した俺は、分身に向けて、幽鬼斬を斜め下から一閃した。

両断され、音も無く真っ黒な影になり、薄くなり、消えていく分身に、

「俺で居ていいのは、皆から作られた俺だけだ。偽者は居なくなれ」

と吐き捨てて、立ち上がる。強敵だったな。

いきなり現れた美射が抱きしめる。

「今のは"シャドウ"。相手の全てをコピーをして

 本人が強ければ強いほど厄介になるという、幽鬼族の最上位だったの」

「……よく倒せたな……」

「シャドウと戦いながら、シャドウからコピーされた時点より、

 自分を強くするしか、あれを倒す方法がないのよ」

「自分を乗り越えなきゃダメなのか……」

危なかったようである。無我夢中だったが良かった。

「明日はオフね」

美射は耳元で優しく囁く。

「そうして欲しい。ちょっと疲れたよ」

美射は手を解いて、周囲を見回し、パチッと指を鳴らして景色を変える。

宇宙空間である。

なんとそのままフワフワと無重力の中を漂っている。

「今日は宇宙漂流デートね」

「……おけ。もう寝ていい?」

突っ込む気力もない。思考も体力も出し尽くした。

「いいよ。私は但馬を見てるね」

手を繋いだまま、俺らは無重力の銀河を三百六十度見ながら、

ゆっくりと漂っていく。俺は目を閉じる。

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