セイ
王都中央城内に着陸した俺たちは、
次々の駆け寄ってくるメイドや兵士たちの大歓声に迎えられる。
「まだ、序盤なんですけどねぇ……ここで喜ばれても……」
何とも言えないアルデハイトが髪をかきながら、人波をかき分けていく。
後ろを行くマイカと、先頭のアルデハイトに守られるように
俺は進んで行く。こういう光景テレビで見たことあるわ。
大事件に巻き込まれた人に迫るマスコミ群。みたいな感じだ。
時々握手を求められたりしながら、俺たちは人波をかき分けて、何とか城内に入る。
まだついてこようとする人たちには、マイカが手を振り回し、怪しい催眠術をかけて
通路に横に並ばせて、人間の壁にする。
「なにそれ……」
「……最近……覚えた……楽しいぞ……」
マイカの催眠術によって壁になった人たちが、
その後ろの人たちをブロックしているうちに
マイカの先導で俺たちは素早く脇道に入って、隠しエレベーターに乗る。
「……まずは……女王に……戦勝報告から……だ……」
相変わらず、覚えられないがこのエレベーターは以前に乗った
女王執務室への直通のものだったらしい。
「素早く動きすぎる我々も悪いのですが、いい加減、国側も
こちらを常時補佐する態勢を整えてほしいですね」
人々から掴まれてヨレヨレになった服を直しているアルデハイトが珍しく愚痴る。
「……無理……言うな……内戦……中……」
「んー、落ち着いたら、ちょっと考えてもらいましょうか」
「……それがいい……」
アルデハイトを諭したマイカは、エレベーターの扉が開いてすぐに通路へと出た。
そのまま早歩きで、展示品の飾られている通路を抜け、
女王執務室の扉を開ける。
「あ……」
部屋の隅の大きなデスクに座って、書類の山に判子を押していたミサキが
こちらを見て、すぐに嬉しそうな顔で駆け寄ってくる。
アルデハイトは跪き、マイカと俺も続く。
「謀反人ラングラール一党は、ここに控える、我が主タジマと我々その配下が捕えました」
アルデハイトは跪いたまま、左手を広げて、後ろに控える俺たちを指し示す。
「……ご苦労様です。女王として何よりも感謝いたします」
胸を張って、毅然とした態度でミサキは俺たちに感謝を述べる。
「少し、タジマ様と話があるので、外して貰って良いですか」
「もちろんです」
アルデハイトとマイカは一礼すると、素早く扉を開けて出て行った。
うん。お前ら……ここまで想定内で俺を連れてきたよね。そうだよね。
二人が出て行くのを見届けると、ミサキは俺に抱き着いてくる。
「心配しました。こんなにも早く、ラングラール軍を倒すなんて……」
「……大好きです」
頬にキスをされて、戸惑う俺を女王はソファに誘う。
「先ほど報告を受けたのですが、魔族の女を捕えたとか……」
「ですね。中々強いやつでしたよ」
「お怪我はありませんか?お仲間に負傷者は?」
身体を寄せ、上目遣いで綺麗な顔を近づけ、
心配してくるミサキに、俺は胸がドキドキしている。
戦場での異常な高揚感のあとに、性的な興奮はダメだ。
これ、ちょっと……やば……も、だめ……。
本能の赴くままに、ミサキの背中に、腕を回しかけたその時に、
「バンッ」と大きな音をさせ、扉を開けて、軍服を着た大老ミイが入ってくる。
セ、セーフ……。あぶねぇ、一線超える直前だったわ。
ホッとしていると、
大老ミイは、ソファで寄り添っている俺たちに気付いて
「大変失礼しました。しかし、問題が発生していまして……」
と居住まいを正した俺に近寄ってくる。
「どうしたんですか?」
「捕えた魔族が『流れ人と会わせねば舌を噛み切る』とさっきから牢の中で叫んでいます……」
ミサキは口を押さえて、驚いた顔をしながら
「タカユキ様が会いにいって大丈夫でしょうか?」
と俺たちを見回して心配した顔をする。
「……とりあえず行きましょうか」
「私も行きます!!」
「いえ、女王様はここに居られてください。危険です」
いきり立ったミサキは大老ミイに遮られて、真っ赤な顔をして抗議する。
「私だって、皆と一緒にいたいのです!!」
困った顔のミイは、俺に助けを求める。
俺は二人の顔を見比べて、少し考えてから
「アルデハイトとマイカに護衛させたらどうでしょうか?」
とミイに提案してみる。ミイは真面目な顔で暫く考え込んで
「護衛の件、よろしくお願いします。私も同行いたします」
と頭を下げてきた。
水色のドレスの上に毛皮のコートを着たミサキと大老ミイと
俺の三人が部屋から出てくると、アルデハイトとマイカがうやうやしく頭を下げる。
そしてすぐにミサキを中心にして、他の四人が囲む形で、
隠しエレベーターの扉を開けて、乗り込む。
乗り込むとマイカがパネルを開けて、何やら操作を始めた。
「大老様。やはり地下ですかね」
「……本来なら部外秘で、ましてや、他種族に絶対に知られてはならないのですが……」
降下していくエレベータの中で、ミイはアルデハイトの顔を見上げながら
「まぁ、魔族とは言え、信用しましょう。貴方もタジマ様の大事な配下でしょうし」
「城のずっと地下……中央山のさらに地下の、厳重封印室という場所です」
「……らじゃ……移動するように……セットする……」
マイカがやろうとしたミイを遮って、パネルのボタンを高速で打ち始める。
「この方は人間ではないのですか?」
ワンテンポ遅れて、会話の内容に気付いたミサキが
驚いた顔でアルデハイトを見る。確かに角が無ければ
綺麗な顔も半分前髪に隠れているし、長身だが猫背だしで、魔族には見えないわな。
手足が長く、姿勢の悪い兄ちゃんにしか見えない。
「そうなのですよ。魔族です。タジマ様のお世話をさせて頂いてます」
「……魔族も悪い人ばかりではないのですね」
純粋な目でミサキはアルデハイトに答えて、アルデハイトが何故か頬を赤らめる。
照れているのか。
パネル操作を終えたマイカは暇そうにしながら、
ミサキを振り向いてジーッと上から下まで見つめる。
「……下僕……ダメだ……もっと……面白い……やつ……」
と怪しく呟いていたので、俺が睨んでおいた。
延々と降下していくエレベーターの扉がやっと開く。
薄暗い倉庫内のような、電灯に照らされた
鉄壁が通路が奥へと伸びている冷たい雰囲気の場所だ。
「この少女は何者なのですか?行き方を知っているはずは……」
大老ミイが、目を丸くしてマイカを見つめる。
「さぁ……?アルデハイト分かる?」
「私にも未だによくわかりません。筋肉の付き方や骨格は普通の人間ですね。
正常な十五歳前後の人間女性です」
アルデハイト両手を広げて、肩を竦める。
俺はマイカについてはもう色々と考えるのを止めた。
ある程度好きにさせておけば、色々と助けになってくれるしそれでいい。
「……私とは……誰だろう……それ……人類……永遠の課題……」
マイカはいつものごとく、意味不明なことを呟いてから、
怪しい笑いを浮かべて、スタスタと奥へと歩き始めた。
「何のお話ですか?」
ミサキが興味津々な顔で割り込んできて、
「いえ。何でもありませんよ。ささっ行きましょう」
と大老ミイが誤魔化し、ミサキの手を引いて奥へと進み始める。
しばらく薄暗い通路を進むと、突き当たりの壁に頑丈そうな扉があり
ミイは、扉の脇に付いたボタンを押して、扉を開ける。
またオーバーテクノロジーである。
マシーナリー提供の技術だな。と思いながら俺はミイたちと共に奥へと入る。
出迎えた数人の兵士たちに案内されて、更に進んで行くと、
四角い強化ガラス窓の向こうの所々凹んだ鉄壁に囲まれた個室で、
騒いで暴れている黒いスポーツブラとショーツ姿の
頭から角を二本生やした銀髪美人が居る。
確かに捕えた魔族の女だ。セイとか言ったか。
激しく何かを叫んでいることは分かるが、
強化ガラスに遮られて良く聞こえない。
「暴れていて手がつけられないのです。舌を噛むと何度も脅してきますし……」
「我々は、彼女の要望に出来る限り従おうとしたのですが……」
と担当の兵士たちは大老ミイに困惑を隠さない。
それを聞きながらアルデハイトはコートのポケットから取り出した
折り畳まれていた虹色のレインコートを伸ばして羽織って
フードを被りながら、
「偽装はこの程度で良いでしょう。若い個体ですからね。
これで私が魔族だとは、見破れません」
と呟き、俺に窓へと近づくように促す。
すでにマイカが顔を窓にくっつけて、セイを眺めている。
「……中々……いい……下僕……したい……」
いつものごとく下僕の下調べを始めているマイカは放置して
俺は兵士から渡された牢の中に繋がっている受話器を
手にとって中へと話しかける。
「流れ人のタジマだが、何か用か」
「おまえがあああ!!!私をとらえた流れ人かああああ!!!」
うるさい。しかも怖い。俺は一旦受話器の通話口を遮って
後ろを振り向き、大老ミイや仲間たちにアドバイスを求める。
ミサキは、部屋の角まで下がって、恐々と兵士たちの陰から
銀髪を振り乱して、強化ガラスの向こうで暴れまわるセイを見ている。
アルデハイトが
「要求を聞いてください」
アドバイスしてきて、俺は頷き、再び受話器を耳に当てる。
「要求は何だ。言われた通り、俺はここにきたぞ」
「ただちにいいいいいい!!!私を解放してこの国を引き渡せ!!」
そこでつい俺は、思ったことを言ってしまう。
「お前、バカだろ」
「……な、なんだと」
暴れていたセイは、動きを止めて強化ガラス越しに受話器を手にもつ俺を見る。
「よく考えてみろ。お前は囚われているが、
ここの兵士さん達は大切に扱おうとしてくれているだろ。
それがどういうことかまずは考えろ」
「……」
「お前ら魔族は同胞の命をすごく大切にする。
そしてそれは俺たち人間も良く知っている。ということはだな
つまり、お前は、北に居る魔族軍を撤退させるための交渉カードに使われ
それが成功して、近いうち無事に解放されるわけだ」
「……」
「まずは自分の立場を理解して、無駄に暴れるな。自分の命と身体を大事にしろ」
「……今の話は、本当か?」
「本当だ。俺が約束する」
「人間は野蛮だから、美人な私にエッチなこととかするんじゃないのか?」
意外な質問に一瞬絶句しながら、何とか気を取り直す。
「……しないわ。人間の理性舐めんな」
俺がまさにその生き証人である。
数々の女難を、運と実力で乗り切ってきた俺だけは舐めるな。
「この完璧な身体と、美しい顔を見てもか?」
セイは、自分の真っ白な身体をガラスに近づけて、
スポーツブラからこぼれそうな大きな胸を強調してくる。
「しつこい。通話切るぞ」
「……分かった。お前を信用する」
と言って部屋の隅に大人しく座り込んだセイを見届けてから
再び受話器の通話口を手で塞ぎ、アルデハイトに話しかける。
「本当にあいつ、大学でてんの?」
俺の大学生イメージはこうなんていうかもっと知的でスマートな年上と言うか……。
それと比べて、余りにも何と言うか……セイは違うというか……。
俺の話をあっさり信じ込んだのも含めて、頭があまりよく無さそうな……。
捕えられたことで、自分の親にこれから多大な迷惑かけるのも分かっていないようだし。
「裏口入学という噂があるのですが、間違い無さそうですね……」
予想通り聴覚を広げ、通話内容を聞いていたアルデハイトはすぐに答える。
「会社も、頭いい友達に作らせたんだろうな……」
たぶん、あの様子だと副代表のカラスラが苦労させられているのだろう。
「でしょうね……。しかし、ここまでだと、父親のモル様も気苦労が多いはずです」
アルデハイトが唸って考え込み始めて
代わりに大老ミイが俺に近寄ってくる。
「お見事です。後のことは私にお任せください」
俺から受話器を受け取ったミイは、中にいるセイと
拘留中の生活に必要なもの等の話をし始めた。
すっかり大人しくなったセイを見て、ガラスに近寄ってきたミサキが
「タカユキ様って凄いんですね。荒ぶる魔族をあっという間に収めてしまわれるとは」
と目を輝かせて俺を見つめる。
「いや、あいつが単純だっただけですよ。話が通じてよかったです」
頭をかく俺に腕を絡めてミサキは寄り添う。
事後処理は大老ミイに任せて、俺たちは牢から出て行く。
エレベーターへ続く通路を歩いている最中にミサキが
「私もあの魔族の方とお友達になれないかしら」
と呟いたので、アルデハイトが呆れた顔をしながら、
「お勧めできません。魔族には他に沢山、話すに値する人格者がいますよ」
「でも、タカユキ様とお話できたのでしょう?もう私の間接的なお友達です」
「……面白い……私は……いいと思う……」
マイカはあっさりと賛同した。アルデハイトはため息を吐きながら、
「モルシュタイン家とローレシアン王家が繋がるのは良いことですが……。
果たして、あのウツケの頭に、その崇高な意義が分かるのでしょうかねぇ」
「タカユキ様はどう思われます?」
ミサキに綺麗な顔を向けられた俺は、
「うーん。わからないですね。でも友達になる時はなるもんですよ」
そして、なれない時は努力してもなれない。こればかりは相性である。
「そうですよねっ。私、今日からここに通って仲良くなってみます」
ミサキはやる気になったのか、顔が上気して目が輝きだした。




