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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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ザルグバイン

その後、降りてきたモーラも加えて

メイドたちの作った美味しい早めの朝食を食べる。

こんがり焼けたパンにバターを塗りながら、

たっぷりミルクと砂糖の入った緑色のコーヒーを飲む。

俺の隣に座ったモーラが食べながら、色々と訊いてくる。

「旦那は、領地は俺たちに任せっぱなしでいいんですかい」

「このままでいいよ。上手く治められる人に任せたい」

「わっかりやした。今日は、俺は混乱した時にそなえて

 この屋敷で耳を(そばだ)てながら、待機してます」

「心強いなあ。助かるよ」

「褒めすぎですって、あくまで領主代理っすから」

なんかモーラ、成長したな。と顔を横目で眺める。

もう少し暗い感じの、文学青年っぽかったのに

今はハキハキと人に指示を出していっている。立場が人を作るってやつだろうか。

さりげなくサーニャの近くに行こうとするマイカの裾を引っ張って止めつつ、

俺は人間って面白いなと思った。

他の元盗賊団たちもどうなっているのか気になる。


1時間くらいして食べ終わったころに、

機械槍を背負ったアルデハイトがフラフラしながら三階から降りてくる。

メイドから水を貰いながら、もって来た錠剤をそれで流し込み。

少し落ち着いた顔になった彼は

「さ、行きましょうか」

と自らの身体に俺らを括りつける縄を何本も見せて

屋敷の玄関ロビーから外へと俺たちを誘う。


ぼんやりと明るくなっりつつある空は、曇り空だ。

粉雪がちらほらと舞っている。

アルデハイトは俺の背中に機械槍を括りつけると、

自らも手伝いながら、コートを着込んだ俺、サーニャ、マイカの三人を

自身の身体に括りつけていく。

周囲ではメイドやモーラたちが、見守っている。

「よし。落ちないでくださいよ」

しっかり自分の身体に俺たちを括りつけたアルデハイトが念押しする。

「……落ちぬよ……この戦艦マイカ……簡単には……落ちぬ……」

マイカはアルデハイトの背中に括りつけられて

"ローレシアン公認飛行物体"の旗を手にもっている。

「落ちたらタカユキ様が助けてくれますよ」

月影を背負いアルデハイトの左足に括りつけられたサーニャが

右手と繋がれた俺にニッコリ微笑む。

「……何にも無いことを祈る」

若干不安になりつつも、俺はアルデハイトに目で合図した。

「では。皆さま、失礼。少し大きな声をあげます。耳を塞いでください」

と断ったアルデハイトは、俺たちや周囲の人々が両手で耳を塞いだのを確認すると

頭から二本の巨大な角を生やして、漆黒の翼を大きく広げると

両目を光らせ、獣のような恐ろしい咆哮を空へとあげて、

屋敷の広い庭を飛び立ち、東の方角へと急上昇して行く。

「魔族の雄叫び……久しぶりに聞きました……」

サーニャが恐々と耳から手を離す。マイカは無表情で耳をほじっている。

「たまには、気合を入れたいと思いましてね。

 自分には似合わないのは、重々承知しているのですが」

アルデハイトは、どこか恥ずかしそうに前方を見て、

中央山二段目の東端の上空にホバリングして

待機している大量の空中飛行部隊を見つけ、近寄って行く。


俺とサーニャは、その内の一台の

飛行艇の中へと縄を解き、アルデハイトの身体から乗り移る。

小さな巡視船に良く似た、砲台の付いた船が、

両脇から虫の羽根のような機械の翼を三枚ずつ生やし

そのまま空を飛んでいると言ったら正確だろうか。

船底にはプロペラも何枚もついていて、回転している。

飛行船に乗り込んだ俺たちは、

ザルガスたちと合流する予定のアルデハイトとマイカと手を振り、別れる。

俺は、この小型船の船長と乗組員たちと

挨拶を交わした後に船内で、俺とサーニャの降下予定ポイントの説明を受ける。

「おそらく、ここでメグルスが出現するはずです」

「できるだけ、近づけますが、もし予定よりも高度が上だった場合は

 申し訳ありません。何ゆえ……あの女は危険なので……」

他の船員も船長に言葉を繋げる。

「死者三名、撃墜数百五十二台で、かなりの損害を被っています」

優秀だとジャンガスやアルデハイトが言っていた

王都中央軍の飛行部隊が、メグルス一人でそれだけの損害を出しているのか……。

「いいっすよ。人命優先でお願いします」

甘いかもしれないが、俺は今回の戦いで一人も死んでほしくない。

「部隊はあくまで囮ですから、頑張らぬように隊員たちに伝えてください」

すっかり軍人の鋭さを取り戻したサーニャが船長にアドバイスをする。

船長は頷いて、船員を眺め、

「タジマ様、サーニャ中佐。今日はよろしくお願いします!!」

一斉に乗組員全員から敬礼をされた俺たちは、敬礼をし返して、決意を新たにする。


朝の雪空の中、粉雪を掻き分けるように

飛行艇で中央山の一段目の街の上空を飛んでいく。

周囲には似たような船や、二人乗りの例の王都中央山上空で

よくすれ違った小型飛行艇も、合わせて数百隻飛んでいる。大部隊である。

広い、その一段目領地の三分の二を超えて、

さらに東に飛んで行くにつれ、廃虚や、痛々しい砲弾の跡が目立つようになる。

ラングラール軍と交戦した跡のようだ。

「すぐに目視できるくらいの距離になります」

船員から説明されながら、飛行船の、船首付近から前方を見ると

遠くの廃虚群の中に、

高い金属の壁に囲まれた高い砦のようなものが建てられているのが見える。

「一ワンハー(月)前に突如出現しました。占領拠点にする目論見のようです」

「あの中にラングラールがいるんだな」

「おそらくは。我々はこの距離で待機します。半ダール(時間)後に

 大老ザルグバイン様率いる大規模騎馬隊が突撃を仕掛けるはずです」

「無理しないといいですけどね……」

サーニャが顔を顰めて

「ええ。ほんとに。ザルグバイン様は御歳九十二ということを忘れて

 夢中になられています……お陰で敵を押し留めてはいるのですが……」

船員も首を横に振りながら同意した。

九十二歳か……ということは菅着た時は、二歳。菅とは十四歳差か。

戦い終わったら、菅とかライーザさんの話、詳しく聞けそうな年齢だな。

と俺が考えていると、俺たちの居る船首に、慌てた船長が駆けて来る。

「ザルグバイン様が、予定より早く、突撃を始められたそうです!!」

同時に眼下では数万人は居るだろうと思われる騎馬隊が、廃虚群から

突如姿を現して、掛け声や雄叫びを上げながら

鉄壁に囲まれた砦へと突撃して行く。

先頭には虹色に発光する鎧を着て真っ赤な大斧を振り回している巨体の武者が見える。

あれがザルグバインだろうか。確かに先頭好きも頷ける見た目だな。

その光景を見下ろしたサーニャは冷静に

「船長はどうした方が良いと思います?作戦開始まで、まだ時間がありますが」

「人間的には援護した方が良いと思いますが、軍人的には作戦の時間まで待機が最善かと」

「了解です。定刻まで待機してください」

微妙な言い回しをした船長の代わりにサーニャが判断を下す。

船長はサッと帽子を取って、敬礼すると操縦室へと戻って行った。

心配しながら、眺めていると

騎馬隊は、砦から矢が届かない距離でピタッと止まり、

中に向けて大声で罵り始めた。

そしてザルグバインらしき武者が、馬から降りると鎧を全て脱ぎ、大斧投げ捨てると

ズボンを降ろして、尻を出し、真っ白な爆発したような長髪を振り乱して

要塞へと向けて挑発し始めた。

それを見たサーニャは、ため息を吐いて頭を横に振る。

「ローレシアン軍人の生きる伝説であるという意識は、あの方にはあるのだろうか……」

「とても九十二には見えんのだが……」

「大老様は、南海諸島の元大海賊ですよ。あの一帯の元締めでした」

「仲間に引き入れたのは、菅だな……」

「その通りです。善い人なのですが、酒と戦いには目が無いお方です」

ザルグバインは城から敵が出てこないと見ると、

仲間と一緒に目の前で酒盛りを始めた。

「大丈夫か。あれ」

「何か策があるのでしょう」

何をやるか分からないザルグバインにドキドキしていると、

いきなり砦の扉が開き、大量の真っ赤な鎧を着た歩兵たちが

酒盛りしているザルグバインたちに向けて襲い掛かって行く。

次の瞬間、歩兵の人波に飲まれたように見えたザルグバインたちが

敵歩兵たちを素手や蹴りで空中へと吹き飛ばしながら、暴れまわるように戦い始める。

「つぇええ」

酒盛りをしていた周りの戦士たちもやばいのばかりだな。

ザルグバインとともに舞う様に素手で、敵歩兵を吹き飛ばしている。

「晩年のスガ様曰く、"あれは我が国、歴代三番目の猛者である"とのことです」

「一番は菅で、二番目は?」

「瞬きのライーザという女性です。お若いころに行方不明になられたと云われています」

やはりライーザか……。あれより強いって全盛期に見たらチビッてただろうな。

サーニャはそんな様子が無いので、もしかして感じているの俺だけかもしれんが、

ライグァークのあの恐ろしさに似た威圧感が、この飛行船の甲板の足元まで伝わってきている。

今、あの馬鹿でかいドラゴン思い出して、ちょっと足震えてるわ……。

眼下では派手に暴れまわるザルグバインに加えて、周囲を部下の騎馬隊に囲まれ始めた

赤鎧の歩兵たちが、恐れをなしたように砦の中へと逃げ込んでいき、

そして門が閉められる。

というか……。

「ザルグバイン一人で勝てるんじゃ?俺たち要るか?」

むしろあんなに強いのに何故、ラングラールは引かないのか。

あの化け物みたいな爺さんが出てきた時点で、勝ち目ゼロだろ。

サーニャは首を横に振って冷静に答える。

「魔族の傭兵と、何より……獄炎剣のメグルスが居ますから」

再び、尻を出して砦を挑発をしつつ、逃げ遅れた赤鎧の敵兵数人を横に正座させて

酒を飲み始めたザルグバインを俺は固唾を飲んで見つめる。

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