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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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フラグ

俺達はマイカの先導で、王都中央城内の

女王執務室の階下にある、士官や文官たちの広い休憩室の窓の外に設置された

大きなバルコニーに出た。

王都の上空一面が赤い。

夕日がそろそろ、沈もうとしている。

「……飛ぶ……急ごう……日が暮れる」

と言いながら、マイカは再び俺と月影を背負ったサーニャを縄で括りつける。

今度はお互いの胸と胸がくっつく様にである。

「サーニャ……背中……刀背負ってる……これ……ベストポジション……」

と二ヤリと俺を上目遣いで見上げながら

マイカは、脱力してされるがままになっている俺をサーニャに素早く結びつけると

いつものように、俺の腕とアルデハイトの腕を縄で括りつけていく。

そしてアルデハイトの背中の機械槍に例の"公認飛行物体"の旗を再び括りつけると

自分の身体も素早く、アルデハイトの長い左足に縛り付けた。

「……おけ……いける……」

というマイカのゴーサインで、

アルデハイトは翼を広げて、王都上空へと舞い上がる。

そして南の方角へと飛びながら

「確か、中央山の三段目の南側でしたよね」

とマイカに問う。

「……うむ……移設してなければ……そのはず……」

マイカは、アルデハイトに答えてから

位置を細かく指示しだす。

「ザルガスの居場所?」

「はい。領主の館ですね。勿論、二段目と三段目に両方あるのですが

 おそらく上に居るかと」

アルデハイトはそう言いながら

「タカユキ様……あったかい……気持ちいい……」

と俺の首に頬を寄せて、抱きついてくるサーニャにゾッとしながら

俺は目を必死にそらす。

マイカがこちらをチラッと見て、口を押さえている。

アルデハイトも「ふっ」と笑った。

いい加減、俺で遊びすぎだと思う……。

一応、俺が主人だよな?違ったっけ?

いや、まぁどっちでもいいんだけどさ……。

嫁一杯貰って、子供作りまくったほうが

仲間達のためになるのは、もうさすがに分かるのだが、

こればっかりは曲げられない。

ちくしょー……負けねぇぞ……。

俺は、下半身との謎の戦いを繰り広げながら、

永遠にも思える飛行時間を何とか耐え切る。


アルデハイトは、小さな町ほどの敷地のある凄まじく大きな三階建ての屋敷の

前のでたらめな広さを持つ綺麗に整えられた庭園に着地した。

高い壁で区切られた庭園の外には、街が延々と広がっている。

「……これ、全部、俺のもの……?」

芝生の中の大きな石でできた噴水を眺めながら

俺は呆然とする。この屋敷だけで

地球で住んでいた家の百倍……いや、下手したら五百倍とかの広さがありそうだ。

街も含めたら、どれだけの広さになるのか想像がつかない。

「はい。しかし、土は土ですよ。

 進み続ける若き、貴方様が、所有することごときに、囚われてはなりません」

とアルデハイトは涼しげに言って、庭園の中の広い石畳の道を

屋敷の方向へと歩いていく。

「……おねぇちゃん……いっぱい……囲える……ぞ……」

マイカは二ヤリとした顔で、俺にそう呟いて

アルデハイトについていく。

俺を抱きしめて、すっかり元気になったサーニャは

真っ赤な顔をして、いつの間にか手を繋いでいる。

……まぁ、俺の下半身との謎の死闘も人の役に立ったならいいわ……。

と脱力しながら、サーニャの手を引いて俺もマイカの後を追った。


屋敷に近づくと、

執事服を着た壮年の小奇麗な男が、

アルデハイトに近寄ってきて、話し込みだした。

アルデハイトは男に俺を指し示す。

するとすぐに彼は駆け寄ってきて、俺に土下座した。

「長い間、お待ちしておりました!!

 タカユキ様!!!」

大きな声で言われた俺は、

「いや……土下座されるほどのものではないんですけど」

と男の手を取って、立ち上がらせ顔を見て驚く。

泣いているのだ。声を出さない男泣きと言うやつだ。

大人が泣くのに慣れていない俺は、戸惑う。

「……中……入ろう……」

マイカが男に向かってそう言い、

サーニャがサッと男に肩を貸す。

俺は分けが分からないまま、

屋敷の扉を開けたアルデハイトについていく。

俺たちが入ると、通りがかった若いメイドが

一瞬、口を抑えて、そして気絶した。

「……??」

「死んだと思われていたんでしょう」

とアルデハイトはケラケラと笑いながら

気にせずに二階に上がっていく。

サーニャが泣き止んだ男と共にメイドを介抱して

俺とマイカは、彼女等に後を頼んで、アルデハイトに続く。

そして大きな扉を開ける。

中は大きな書斎になっていて、その中で

椅子に座って分厚い本を読んでいた

頭巾を被った"知識のモーラ"がこちらも見ずに

「すいません。読書中なので。入るならノックはしてください」

と言ってから、ジッと見つめる俺達三人に気付いて

本を投げ捨てて、椅子から飛び上がる。


「だっだだだだだだだ旦那!!!!」


カウント四人目。俺は細身のモーラから力強く抱きしめられる。

「あらーザルガスさんは戦乱の近い二段目ですか。誠実ですねぇ」

とアルデハイトが感心した様子で言いながら

書斎の本棚を漁る。

「……三段目……モーラ……任せたのか……正解……だ……」

マイカが書斎の椅子に着席して、一息吐きながら

まだ抱きしめられている俺の顔を見る。

「そろそろ離してくれないかな……」

「あっああああ、すいません!!こんな嬉しいことはなくって!!」

モーラはトレードマークの頭巾を脱ぎ捨てて

うれし涙でクシャクシャになった顔で笑う。

すぐに皆に頭を下げてから、モーラは人を呼びに書斎の外へと走っていった。

「偉ぶりませんね。今や貴族の身分で、大領主代理なのに見事なものです」

「……広い見識……真の謙虚さ……生む……」

アルデハイトが人間を褒めるとは珍しいな

と思いながら、俺も書斎の本棚を眺める。

やはり背表紙の文字が読めない。

英語でも日本語でも無い、見たことも無いような文字だ。

これじゃ不味いよな。

そろそろ勉強するべきときかもしれないな。

言葉は通じるんだから、何とかなるだろう。

試しに一冊本を手にとって、中を開いて眺めていると

モーラが大量のメイドを率いて戻ってきた。

「皆さん、このお三方を屋敷で一番良い部屋にお連れして!!

 くれぐれも粗相の無いようにお願いします!!」

「はいっ」

と声を合わせた老若入り混じったメイドたちが、俺達をそれぞれの部屋へと案内する。

分かれる間際で近寄ってきたアルデハイトが

「あとでザルガス殿とコンタクトをとっておきます。

 気になさらずに、ゆっくりと休まれてください」

俺の耳元に囁いて、ウインクした。


朗らかな壮年のメイドから

三階の広い宿泊室に案内され、丁寧に扉を閉めた彼女が去っていって

俺は気付く。


「ひ、一人だ!!」


ガッツポーズして、俺は部屋中を走り回る。

とうとうこの時が来たのだ。

謎の女子どもに昼夜問わず付きまとわれていた日々も

今や遠く彼方である。

腰に下げていた彗星剣を部屋の片隅に置き、

旅装を全て脱ぎ捨てて、下着姿で

だだっ広いベッドに思いっきりダイブしてみる。

ひゃっはあああああああああ!!!自由だあああああああ!!

大の字になって、明かりの灯された天井を眺めていると

今日一日のことがまず思い出されてそして

ミーシャの結婚話、そして冥界のことや

美射に思念の部屋で怒られた事、第二王子領での戦いなどが

次々に浮かんでくる。

そして俺はそこで、不意に思いたち、

扉の方へとおもむろに歩いていき、鍵をカチャリと閉める。

いつものパターンなら、ここで俺が眠り込んで

起きたら、鍵のかかっていない扉から侵入した

女子……おそらく今ならサーニャだろう……が隣で寝ているはずだ。

よくて下着姿、ほぼ全裸だろう。

そのフラグは今ここでへし折った。

俺はこの瞬間、嫌がる俺にエロシーンばかりむりやり差し込んでくる

ロ・ゼルターナ神にようやく勝ったのである。

しかし、もし原因がロ・ゼルターナ神じゃなかったら、

とんだ濡れ衣だが……。


安心した俺は、再びベッドに大の字に寝転んで

今まで起きたことを思い返して

現状を整理していく。


俺は流れ人の大領主で、

妹は結婚しそうで、冥界に弟が居て

五十万人の軍隊が俺の動きに合わせて集結しつつあり

明日にはこの国の反逆した王子二人との決戦に向かうのである。

冗談みたいだが、本当の話だ。

あと全部終わったら、思念の部屋にも行かないとな。

あっ……!!

馬のライオネルは大丈夫だろうか。

おそらく王都中央城の馬房に預けっぱなしだと思うが……。

いや、ミーシャのことだから手は打っているかな。


色々考えているとベッドに

吸い込まれるように眠りそうになった俺は

再び、むくりとベッドから起きて

今度は、開けっ放しの窓を閉めに行く。

サーニャなら、三階まで壁をよじ登って

部屋へと入ってくることなど余裕だろう。

あぶない、あぶない。

これで添い寝フラグは、間違いなく全部折ったはずである。

再び、俺はベッドに大の字になって考える。

もし、俺がもっとゲスでクズだったら

きっとこの力を利用して、やりたい放題していただろうな。

寄って来る女子たちとも、迷わず合体していただろうし、

今頃、ローレシアンの王だったかもしれない。

でもきっとそれでは、

アルデハイトやマイカはついて来てくれなかっただろうな。

あいつら嫌がる俺で楽しんで遊んでいるが、

心の底では、そんな俺が嫌いじゃないのは何となく分かる。

人ってそんなもんだ……あいつらが人かどうかは置いといてな。

そんなことを横たわって考えながら

完全にフラグをへし折った安心感で

眠りに落ちると……。



……。


バスタオルを巻いた美射と

どこかの露天風呂に入っているところだった。

「……」

こんな記憶あったかぁ……。と戸惑っていると

「言ったでしょー。女の子の裸とか見すぎだよって」

ツインテールを解いて、普通のロングになった

美射からいきなり怒られる。

「……何、この夢」

「二人がもう少し大人になったら、こんなのやりたかったなって……」

「思ってたの!?」

「……ちょっとね……ちょっとだけだよ」

美射は恥ずかしそうに顔を逸らす。

「これ夢だろ?夢なのは分かるんだが、何でお前の願望が……」

誓って俺はこんな妄想をしたことはありません。

「いつかわかるよ」

そして美射は本気のときの上目遣いで、

「見る?触ってもいいよ」

とバスタオルの胸の辺りをはだけようとしてくる。

「いやいやいやいや。お前までそういうのになったら

 今まで堪えてきた俺が、どうしようもないだろ」

「そっかぁ……さみしいなぁ。夢でもダメ?」

「そういうことじゃなくて」

そこで会話が途切れて、しばらく、二人で

露天風呂の上の月夜を眺める。

「なぁ、夢の登場人物に話しても仕方ないと思うけど」

「なぁに?」

「もし帰れたら、少し、本気で色々考えない?」

「何をー?」


「今後の人生とか、二人で一回、きちんと話し合おうよ」


一瞬何が起こったのか分からない顔をした後に

美射は、照れながら俯く。

「……うれしいなぁ。ずっと一緒に居て、初めて聞いた」

「俺、もうなんか疲れたよ。

 きっとまだ……女難?っていうんだっけ。

 こういうの続くと思うけど、何とかして

 曲がらずに俺のまま帰れたら、美射とどうしたいのか考えるよ」

「それが聞けただけでもよかった。ありがとね……」

美射はニッコリ微笑んで、目の前の景色が薄れていく。

「いつでも……一緒に……」

と美射の言葉が薄れ、夢が覚めていく。



……。



起きたら隣に水玉のパジャマ姿のマイカが寝ていた。

幸せそうな顔で

「スピー」と暢気に寝息を立てている。

何でマイカがここにいるのかは

おそらく考えても無駄なので、

どこから侵入したんだろうと、思いながら立ち上がり

窓や扉の鍵をチェックしてみるが、

どこも開いていない。

……こいつのことだから、合鍵をくすねてきて

俺の部屋に入って、中から鍵を開けたのだろうと

部屋の明かりをつけて見回すと

やはりテーブルの上に鍵束が放り投げてあった。


ため息をついて、頭を冷やすために夜風を浴びようと、

なんとなく窓を開けると、

近くに人の気配を感じる。恐る恐る窓の下を見ると、

ちょうど、ピチピチの黒いラバースーツを着たサーニャが壁をよじ登って

侵入してこようとしているところだった。

何やらゴツイ工具箱を背中に背負っている。

窓を割って、入ってこようとしたのか……そうか……その手があったか。

すんなり侵入したマイカと比べると、本当に不器用な人なんだな。

やろうとしていた行為がどんだけヤバイかは、とりあえず置いといて……。

俺は少し考えた後に、気恥ずかしそうな顔をしたサーニャに手を伸ばすと

引き上げて、部屋の窓から入れてあげる。

「……どうしても、お傍に居たくて……つい……」

と部屋の床に工具を広げ、正座して俯くサーニャを怒らずに

服を着て、夜食に誘い、二人で部屋から出て行く。

下手に遠ざけてさらに暴走させるよりは

この人とは、機会がある度にきちんと話した方が良さそうだと思ったからだ。

その自信なさや、不器用さは俺は人として決して嫌いではない。

たぶん、少し、人間関係のボタンを掛け違えているだけなのだ。

どうにかして、普通の友達関係になる糸口を見つけたい。

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