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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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心のかたち

神殿の広い入り口を潜る。中はもちろんすべてセピア色で

それらがセピア色の灯火で照らされている。

天使や悪魔、醜悪な化け物、ドラゴンなどの彫刻が彫られた内壁や

石柱を見ながら俺たちはそのだだっ広い空間の中を奥へと進む。

急にマイカが立ち止まり、

数十メートル先の右奥の内壁を指し示す。

「……あれ……たぶん……最初に呼び込まれた……流れ人……抜け殻……」

そこには四メートルほどは身長がありそうな破れた二枚の羽根の生えた

精悍な男性の天使もどきが

全裸で苦悩に歪んだ表情で虫の標本のように額縁に貼り付けられ、

灯火に照らされていた。

よく見ると、顔には三つの目がついていて、鼻には穴が無い。

たしか獄門師のビギネメスが"流れ人の抜け殻の展示"とか言っていたな。

これがそれか……しかし、あれはどう見ても人間ではない。

「色がついているな……」

俺は真っ白なその天使の標本を眺める。

「ナゲメルチャ・ギマグランヌ。

 ギ・ソルム星系出身だとに魔族には伝わっています」

「どこだ、そこ……」

聞いたこともない。別に惑星の名称に詳しいわけではないから

マニアの人なら知っているような星なのかもしれないが……。

「……我々にも……わからない……太古の話……」

ミーシャとジャンガスには見えないようで

「なになに?兄さんどうしたの?」

「何があるんすか?大きな額縁は見えるんですけど」

不思議そうな顔をして尋ねてくる。

「見えなくてもよいものですよ」

とアルデハイトは、二人の頭をポンポンと撫でで

神殿の奥へと進んでいく。

俺に手を繋がれているライーザは見えているようで、

くしゃくしゃの髪に隠れた頭で見上げて

黙り込んで眺めている。


見終わった俺たちはアルデハイトの後を追い、今度は小さな部屋の中へと入る。

もちろん神殿全体からしたらだ。俺の背丈からしたら十分大きな扉と天井の高さだ。

その中には、四方の壁に一枚ずつはり付けられた人の背丈ほどの額縁に、

セピア色の釘で、四人の人間の綺麗な死骸が貼り付けられていた。

「たぶん……この時期……呼び込む対象……人間に絞っていた……」

どう見ても原人のような体格と顔つきの様な者から、

現代の地球に居るような人間、そして九頭身のスーパーモデル体型の女性まで

こんどはセピア色の服を着せられて貼り付けられている。

ただ、全員共通しているのは、明らかに人間であるという点だ。

さっきのように異星人ではない。

見回していると、その内の一人に俺は興味を惹かれる。

「これ、子供じゃないか?」

「……ジョス・ラグナルド……眠龍の話し相手……だった……と云われている……」

「伝わっているところによると、病気だったそうです。

 先天的な遺伝異常で歳をとれないという」

アルデハイトは目を細めて、

真っ白な顔で安らかに眠っているような少女の標本を眺める。

見えずに暇をもてあましたミーシャとジャンガスは小さく雑談を始めた。


見終わった俺らは、

その部屋を反対側の扉から出て、苦悶に歪んだ顔や叫ぶような獣、

そして壁から生えているいくつもの巨大腕などの

異様な彫刻の掘られたセピア色の巨大通路を歩いて行く。

見回すと壁にはいくつもの扉がある。

中はさっきのように"流れ人の抜け殻"が展示されているのだろう。

「入らないのか?」

「……きりが無い……要所だけ……ここでは時間大事……」

マイカは俺の手を引きながら、次第に早歩きになっていく。

後ろからミーシャたちも慌てて小走りになってついてくる。

アルデハイトは長い足で余裕そうだ。

俺に手を引かれているライーザが小さく呟く。

「まだ……知らないことが、こんなにも……」

チラッと見えた髪に隠れている顔に

生気が蘇っているような気がしたが、気のせいだろう。

なんせ全部セピア色である。どんな生き物も、いや死者だって

ここに入れば生き生きして見える。

マイカに手を引かれて、俺は次の部屋へと入っていく。


「……近代……代表的な流れ人……グエン・ビー……」

「人間じゃないな……」

部屋をぐるっと囲むように

ほそ長い小型の緑のブチがある黒龍が貼り付けられて展示されている。

「……いや……人間……心の形……変わった」

「……?」

「ここは"人間"に分類される流れ人の展示場ですよ」

「最初の奴も?これも?」

「……その通り……身体の抜け殻……違う……心の抜け殻……」

「亡懊宮と似た、"ケイオスパレス"や"失楽宮"等が

 他種族の黄泉のような場所に設置されています」

アルデハイトが涼しげな顔で補足する。

「ああ、そうか。ここは人間たちのためのあの世か……」

「……三途の川……越えると……胎動界で合流する……そこで皆……審判ある……」

マイカは話しながらも、先を急ぐように

俺の手を引いて、入ってきた扉と反対側の壁にある扉を開ける。

俺も当然ライーザと共に、引っ張られるように進んでいく。

その道中には人間ではない形の流れ人の心の抜け殻たちが展示されている。

犬歯の生えた巨大な紫の唇の口だけの者や、真っ黒な影のような者、

そして溶けてしまった人間のような者まで様々だ。

「……何でこんな……異様な展示場みたいなのがあるんだ?」

目的が分からない。誰が何でこんな変な宮殿を作ったのか。

「誰が創ったのかは不明ですが……」

と横を歩くアルデハイトは顎を触って考えながら、ゆっくりと話し始める。

「自我を失わず、ここまでたどり着いた亡者たちへの

 輪廻に行く前の最後のボーナスの様なものだと捉えられています」

「今回は目的も違いますし、何より時間がないので行けませんが、

 各年代の"抜け殻"を見ながら、最上階まで登ると、

 様々な世界の成り立ちが、自然と理解できるようになっているようです」

「そうか……」

通路を進むと、長いまっすぐの階段があり

そこを俺たちは登って行く。

ミーシャとジャンガスは話に花が咲いているようで

クスクスと笑いながら、後ろをついて来る。

二人だけピクニックのような気楽さだが

俺はそれに救われてもいる。この宮殿の展示物やマイカたちの話が重すぎるのだ。

いい加減、重すぎて気が滅入りつつある。

俺に説明をしながら、言外にマイカたちは言っている。

"俺と関係のあることだ。だからちゃんと見ておけ"

大事なことだと分かってはいるが、自分の行く先を見せられているようだ。


階段を登りきると、左右に伸びる長い廊下に出た。

「……レベル2……世界の根幹に近づいた者……たちの展示……フロア……」

「確か右ですよ。急ぎましょう」

アルデハイトはそう言うと、スタスタと右の廊下を歩き出した。

扉を八つほどスルーして、九つ目の扉をアルデハイトは開けて

入っていく。

俺もマイカに手を引かれ、その部屋の中に入る。


部屋一杯に、身長五メートルほどありそうな大きな厳しい顔の真っ赤な鬼が、

眠るように腰を折って座っていた。

セピア色の腰蓑を巻き、

スキンヘッドの額には捩れた二本の角が生えている。

「スガ……マサキ……マサキ……あぁ……」

呆然と呟いたライーザが俺と手を離して、その鬼の放り出された両足に縋り付く。

泣き始めたライーザに駆け寄ろうとすると

マイカから止められる。

「……放って……おけ……それよりも……これスガ様の……抜け殻……見ていけ」

そしてマイカは指をさして、俺にその巨大な鬼を見るように促す。

「初めて見ましたが……まさに、生前のスガ様の恐ろしさの具現化ですね」

アルデハイトは、大鬼を見つめて唸っている。

俺はよくわからない。何故、この恐ろしい大鬼をライーザもアルデハイトも

菅だと思うのか。

どこにも俺が知っている菅正樹の面影は無い。

学校での菅は真面目なスポーツマンで、爽やかで、いいやつで、

思念の部屋の菅は人間の姿をしていて

話しかけたらまともな反応があって、人生経験を経てきた大人な表情をしていた。

でも、実際の菅の心中はこんな……怒りに満ちた大鬼だったのか。

「……人……変えるのは……時間……憎しみ……孤独……不運

 ……不信感……そして大きな権力……スガ様……全てもっていた……」

「これを見るに、我々への虐待も、よくあの程度で堪えていたなと思います……」

アルデハイトが恐ろしい大鬼を恐々と見つめがら、頭をかく。

「すまん。分かりたくない。俺の知っている菅はこんな……」

「……怒りで……ライーザを……手放した……。

 しがらみに呑まれ……真に愛するものと……共に居れなかった……」

そこでマイカは、もう泣きそうな俺を見て、口を閉じる。

「十分でしょう。出ましょうか」

俺はうな垂れながら、マイカに手を引かれて部屋を出る。

泣いているライーザをアルデハイトが優しく連れ出そうとして、

手を繋ぎ、何かにビックリして

慌てて、俺の空いていた右手にライーザの左手を握らせる。

「タカユキ様……相当、吸わせていますよ……」

と俺の耳元に呟いてアルデハイトはライーザから素早く離れる。

俺は衝撃が凄まじく、その意味も考えられないまま

足早なマイカに手を引かれ、階段を下りていき、亡懊宮の来た道を戻っていく。

俺に手を引かれたライーザがすすり泣く声の後ろでは、

重要なものが何も見えないミーシャとジャンガスが爆笑している会話が聞こえる。

あの大鬼の衝撃が強すぎて、視界に入らなかったが

二人はさっきからずっと雑談を楽しんでいたようだ。

ああ……すっかり仲良くなったな……良かった……兄離れできそうじゃないか……。

ミーシャのためにも何よりだ……。

うな垂れた俺はそう思いながら、仲間たちとセピア色の宮殿を出た。

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