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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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想い出

「瞬きのライーザ?」

「スガ様の最初期のお仲間の一人ですよ」

アルデハイトは、眼を細めてライーザの傷を見つめる。

深い切り傷の中心部は背中まで貫通していて痛々しい。

ってか今、すげぇこと言ったな。

「菅の仲間だったの!?」

「ああ、飽きたので、辞めましたけどね」

ライーザは遠くを見る目で、マイカが灯して中心に置いたカンテラを見つめる。

「あいつ、飽きられたの?」

"あいつ"呼ばわりする俺をライーザは不思議そうに眺める。

「タカユキ様は、スガ様の学生時代のお知り合いです。

 二ワンハー(月)ほど前にこの世界に来られました」

「そうか……少し、遅かったですね。会えていたら、あの人も……」

ライーザは口を噤む。言葉が多い人ではないみたいだ。

「その傷は?」

「オギュミノスにやられました」

アルデハイトは眼を真ん丸くして、ブツブツと独り言を言い始める。

どうやら何かを計算しつつ、考え込んでいるようだ。

俺はマイカに声を潜めて

「オギュミノスってなんだっけ……?」

と訊いてみる。

「……暗闇の皇帝竜……東方大陸の支配者……」

ああ、何か前に聞いた気がするわ。潜水艦の中でだっけか。

あのライグァークも含めて、三大竜とか言ってたな。

「どうやって会えたのですか?」

アルデハイトが恐る恐る尋ねる。

「東方大陸で、向かってくるドラゴンを沢山殺していたら、出てきました」

ライーザは事も無げに言う。

俺が会ったドラゴンって結構怖い生物だったんだが……。

沢山殺した……。

「少し、タカユキ様にライーザさんのことを話していいですか?

 失礼なことも言うかもしれませんが」

「問題ないですよ。もう全て終わったことです」

ライーザはサバサバした表情で、俺の顔を見て微笑む。

「では」

とアルデハイトは咳払いして、説明し始める。


ライーザは、ローレシアン北部で生まれ

幼いころから厳しい自然と、武術の達人の両親に育まれて成長した。

そして彼女が十七歳のころにローレシアン東部で若い菅と出会い、

冒険の最初期を支えた。

"瞬きの"という二つ名が示すように彼女の超人的な腕力で

高速で振り回される大剣を止められるものは、当時、菅も含めて誰も居なかった。

大老パスカルと共に精神的にも菅を支え

ローレシアンを強国にのし上げたキーパーソンの一人である。


「すげぇな……俺でいうならアルデハイトみたいなもんか……」

「いやいやいやいや、私はただの非才な一魔族ですよ。

 そっ、そんな天才たちと比べられましても……けほっけほっ」

俺がつい漏らした一言に、焦ったアルデハイトがむせながら話を続ける。

ライーザは微笑みながら、懐かしそうに聞いている。


蜜月は長くは続かなかった。大国になったローレシアンの運営を巡り

二十代のライーザは、菅とパスカルと対立する。

一説には、他種族に対する菅たちの不信感が我慢ならなかったとも言われる。

決定的になった対立に嫌気がさしたライーザは、

留まることを願う国民や他の大老たちの願いも虚しく、

ある日、どこかへと去っていったのだった。


「ここまでが、通説です。大体合っていますか?」

「そうですね」

ライーザは恥ずかしそうに髪をくしゃくしゃと搔きながら、頷いた。

「そして、ローレシアンを去ったライーザさんのその後は

 海底で帝国を築いた、空の果てまで旅立った、始原の眠龍と同化したなど

 様々な説があるのですが……どうやらその内の一つ……」

「東方大陸に渡り、オギュミノスに敗れた。というのが合っていた様です」

ライーザは自らの長いウェーブかかった髪に隠れるように

小さく俯いた。照れているようだ。実はシャイな人らしい。

「どうして、東方大陸に?」

「……スガと離れ、他にやりたいこともなくなったし、

 私の武道を出しつくそうと思いまして……

 水棲族の友達に頼んで、渡りました」

「そうですか……」

アルデハイトはしばらく考えてから、質問をする。

「失礼だと思いますが……」

「亡くなられたのは東方大陸に渡られて、すぐですか?

 見た目がお若いですが」

「そうですね。殺された時は28だったと思います」

「ということは……スガ様が八十歳で亡くなられてから、26ラグヌス(年)

 ライーザさんは、スガ様とほぼ同じ年齢のはずですから……」

「……79ラグヌス……さ迷ってた……」

今まで黙っていたマイカが答える。

「先ほど抜けましたが、"白夢"を長い間、歩いていたような気がします」

「……生きる目的の……喪失……とても悲しい……」

マイカの言っている意味が俺にも何となく分かってしまう。

そうか、本当は、東方大陸で竜と戦いたくなんてなくて

ずっと菅と居たかったんだな。この人は……。

アルデハイトも理解したようで押し黙ってしまう。

その沈黙に耐え切れなくなった俺は

「俺たち、これから黄泉まで行くのですが、同じ方向だし、ご一緒しませんか?」

とつい言ってしまい、マイカとアルデハイトから

驚きの目で見られる。

「よろこんで」

ライーザはクシャクシャの髪の毛で顔を隠して

伸ばした俺の手を取った。


マイカがカンテラを照らし、

余った手で俺の手を引く、そして俺がその反対側の手で

ライーザの手を握って連れて行く。

アルデハイトはライーザに興味があるようで

今度は先行せずに、ライーザの後ろを長い足でゆっくりとついて来る。

その更に後ろを、ジャンガスに手を引かれたミーシャが続く。

心配して後ろを振り返ると、ミーシャは

カンテラを持ったジャンガスの軽妙な喋りに笑っている。

良かった。とホッとして俺はマイカたちと共に

洞窟を降っていく。

ごく稀に追い抜いていく亡者たちは、間違いなく一角の人物だっただろうな

という面貌をしている。首の無い者すら異様な威圧感がある。

「……あれ……ルサナルド大帝……首無いのは……狂信者ボグリウス……」

とマイカが名前を教えてくれるが、

俺は通り過ぎるときにチラッと見るだけで直視できない。

柔らかな雰囲気の中に恐ろしさを包んだようなライーザとは対照的に

彼らは生まれたときからもっていたような覇気がむき出しである。

明らかに人とは違うと周囲にもはっきりわかる。

いくら流れ人とは言え、一般庶民マインドの俺には眼に毒だ。

目を逸らした俺の様子を見てライーザはクスッと笑う。


そんなこんなで、また二時間ほど歩き続けると、洞窟が途切れ

黄色というか鈍い金色に輝く場所に出た。

晴れた空も、石ころだらけの大地も全てそんな感じである。

後ろでジャンガスがはしゃぐ。

「すっげー!!金色の国だあああ!!うっわー!!ついてきてよかったあああああ!!」

「ちょっと、恥ずかしいから静かにしてよっ」

ミーシャに怒られても、ジャンガスは騒いでいる。

「"黄泉"ついた……これから亡懊宮……向かう……三途の川……後回しだ……」

そう言いながら、カンテラの灯を消したマイカは

俺の手を握りなおして、少し左側へと方向転換して進み始める。

そちらの方向を眺めると、遠くに巨大な宮殿のようなものが見える。

仲間たちも皆、ついてきているようだ。

俺に左手を握られたライーザも物珍しそうに

周囲を見回しながら歩いている。

「ライーザさんから見て、菅ってどんなやつでした?」

ふと俺は歩きながら尋ねてみる。

「……一生懸命で、とても真面目で……」

ライーザは、ゆっくりと思い出すように答えていく。

「……仲違いしましたが、私はその後も、ずっと好きでした」

アルデハイトやマイカもライーザの言葉を静かに聞いている。

「そうですか……あいつもそう言って貰えて、とても嬉しいだろうなぁ」

「……」

俺の言葉には答えずに、

ライーザは長い髪に隠れた顔で黄泉の空を見上げていた。


歩き続けると、セピア色の宮殿が見えてきた。

全体が本当にセピア色でまるで古い写真のような色合いだ。

「なんじゃこりゃあああああああああああ!!!

 でけええええすっげええええええ色おかしいいいいいいい!!」

ジャンガスはまた後ろで楽しそうに騒いでいる。

異常な風景の異界に来てもう長いのに、あくまで元気である。

後ろを振り返ると、必死にミーシャが口を塞いで黙らせているところだった。

だいぶあいつもジャンガスに慣れたようだ。

マイカは俺から手を離して、

セピア色の宮殿の十メートル以上の高さがありそうな超巨大門の前に立つと

「……見学希望……生体4死者1その他1……開門……」

と呼びかける。

すると奥へと門が二つに分かれて開いてく。

「……行こう……」

マイカは再び俺の開いた手を握って、巨大な宮殿の中へと誘っていく。

俺に手を握られたライーザや、仲間たちもそれに続く。


巨大門を潜り、野菜、芝生、木々などが

全て石で精巧に作られた異様な庭園を時間をかけて抜けると

高い、いくつもの石柱に支えられた、これまた巨大な神殿のようなものが目前に聳え立つ。

もちろん全てがセピア色である。

入ってからずっと、普通の色合いの俺たちが浮いて見えている。

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