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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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「"仮初"でございます」

真っ青な空の下にどこまでも続く草原に気持ちよい風が吹く。

ビギネメスは大きな一つ目を細めながら

「今年は多いですなぁ。嘘が蔓延しているからでしょうか」

と俺の隣で揉み手をしながら話す。

確かにニコニコしながら、さ迷っている亡者が多い。

鼻歌を歌ったりスキップしたりしている傷だらけの半死体も結構居る。

俺たちはその中を直進していく。

遠くには亡者たちの村や町も見える。

皆笑っていて幸せそうだ。しかし相当グロテスクでもある。

「何なんだここ。地獄には見えないんだが」

「ここはですね。幻しかない地獄です」

「幻?」

「ええ。錯覚や勘違い、幻覚、幻聴で延々と時間を無駄にします。

 酷いものだと何万ラグヌス(年)も下の階層には辿り付けません」

「……こわいな」

「ほら、あの町を見てください」

ビギネメスは右側の遠方にある町を指差す。

数千人は住んでいそうな、大きな町だ。

「あそこのボスはラベルヴァーナという原人なのですが、

 いつまでも幻から目覚めない彼はとうとうここで町を作りました。

 その中で町長として、おままごとの様な架空の生活を

 巻き込んだ亡者たちと、何万ラグヌスと続けています」

「なんとも言えないな……」

「真の姿と言うのは、仮初に安住していては気付けないものです。

 あなたには亡者が舞い踊る地獄にしか見えませんが、

 夢から覚めない彼等にはここが天国だと映ります」

哲学的な地獄だな。と思いながらまた二時間ほど歩いていく。

少年はひたすら俺に裸足でついてくる。

隣に居るビギネメスもピッタリとくっついて離れようとはしない。

再び洞窟に入って三十分ほど歩くと、マイカが前方で

「……休憩……寝るぞ……!!」

とカンテラを持った手を大きく上げて、皆に伝えるのが見える。

ミーシャとマイカがまず近寄っていき、

化け物の幽霊を引き連れた俺はマイカから少し距離を取って止る。

しばらくするとアルデハイトも戻ってきた。

マイカに言われたジャンガスが俺からナップザックを受け取って

戻るとマイカはミーシャとジャンガスと三人で、

洞窟の脇に、簡易テントを設営し始めた。

テントの柱は、今通ってきた"仮初"に転がっていた長い木の枝を使っているようだ。

俺は感心しながらその作業を眺める。

二十分ほどで小さなテントが作られ、アルデハイト含めた四人が

俺に手を振りながら、その中に入っていく。

あれ……俺は……?なんだ……?いじめか?

流れ人だから化け物に寄り添われて野宿をしろと?

と不安に思っていると

ビギネメスが

「ふむ。ではご招待いたしますか」

と六本の腕を駆使して、目の前の空間を歪めて大きな穴を開ける。

何じゃこりゃああああああああああああああ。

と驚愕していると、背をかがめたビギネメスがその中へと入っていき

「さぁ、どうぞ」

と俺を誘う。穴を潜ると、もちろん男の子も俺についてきた。


その先は異形の怪人やモンスターたちが歩き回る繁華街の真っ只中だった。

真夜中の街中を多数の灯篭が灯り、家々は白い漆喰が塗られていて

橋には真っ赤な木の欄干がかけられている。

なんというか、古代日本というか、むしろ中華風な街である。

ビギネメスのように異様に身体の大きな者や

子供の様な大きさの首が二つある者、全身影のような真っ暗な者

他にも多数の形容しがたい化け物たちが歩いていく雑踏の足元を

三メートルくらいの大蛇がそ滑るように抜けていく。

笑い声に空を見上げると、真っ赤な顔で鼻の長い天狗のような生き物と

全身が煌いた天使のような生き物が

羽根でホバリングしながら談笑している。

呆然と口を開いてみつめていると

「ちょうどよい機会なので、我が家にご招待いたしますよ。

 元々あなた様とお話したいがために来たのです」

ビギネメスが、俺を街の端の方へと誘う。

雑踏を歩きながらビギネメスは言う。

「概念界といいます。我ら獄門師の住処であり、

 上の世界のあらゆる概念上にしかいない存在が、実在する場所でもあります」

お、おう。哲学的だなぁ……と俺は驚いている自分を誤魔化しながら

化け物の雑踏の中を歩いていく。男の子は見失いそうだったので

背負いあげて、肩車してあげた。

目の前の光景はシュールである。間違いなくどの種族にも該当しないであろう

異常な形態の生物たちが次々と通り過ぎていく。

「生き物が自我に目覚めた始祖の時代、その魂の行き先として

 "下の階層"が作られ、そこを管理するために我々、獄門師は生み出されました。

 ちょうど死と生と、嘘と真の半々の生き物なのが私たちです」

「……そうなんだ」

ドン引きしている俺とは対照的に肩車された男の子は楽しそうだ。

「貴方様たちは、我々からしてみても超現実的な存在です」

「……?」

「あらゆる物理法則や死と生、魂の問題を超え

 全ての状況に超適応だけするように作られた超法規的な生き物が、流れ人なのです」

「いや、すまん。俺の頭じゃ、何いっているかもう分からん」

元の世界に帰って、もし大学受かったら哲学でも勉強してみよう。

いや、帰れるのか分からんけど。

さすがにガキの頭のままじゃ、理解できないことが多すぎる。

「よいのですよ。私の与太話です。聞き流してください」

とビギネメスは笑いながら、

町外れのボロボロのバラックが並んだ木の少ない山を登っていく。

「長い時を経てきた私の推測ですが、この世界を創られた創造主様は

 あなたたち流れ人を呼ぶことで、何かを待っているようなのです」

「待っている?」

「ええ。何らかの大きな変化を待っています」


そのまま歩き続け、

たどり着いた山の頂上にある大きな白い壁に囲まれた屋敷の門を

ビギネメスは三度ノックする。

すると門が勝手に空き、中華風の真っ白な建物が目前に現れる。

真っ赤な龍の細工がしてある玄関が開くと

ビギネメスと同じように手が六つで、

性器の一切ない真っ白な肌をした全裸の、

一目の長身女性が俺たちを出迎た。

「どうぞ、こちらへ」

と彼女は家の中へといざなう。

「妻です。我々にはそのようなものは、必要無いのですが、

 私たちは、生き物たちの愛や家族の真似事をしたくなりましてね」

ビギネメスはそう言いながら、中華風の食卓に俺たちを座らせる。

「気にせずにお食べください。片方は超生物、片方は死人ですから」

男の子はその言葉に首をかしげながらも、

早速、出された卵の餡かけの様な料理にかぶりつく。

俺も戸惑いながら口に入れる。でたらめに旨い。

こりゃ確かに口に入れたら、止らないわ。

と思いながら、俺は奥さんから次々に出される中華フルコースのような

料理群を食べ続ける。

「タジマ様は、お子さんを残されることに興味はありませんか?」

微笑みながら俺らの食べっぷりを眺めていたビギネメスの

いきなりの質問に俺はすすっていた中華蕎麦を噴出しそうになる。

「いや、今のところはないですね」

「そうですか。この概念界に流れ人の相の子が生まれると

 面白いと思ったのですが……」

「俺、ここでも子供つくれるんですか?」

上の世界では菅が子供を沢山残していたので、実証済みだが……。

「貴方様は当然として、ここにはそういう機能に特化した存在も居ますから。

 相手してもらえればとても気持ちが良いですよ。一発どうですか?」

あくまでビギネメスは子供が欲しいらしい。

ふと見ると、奥さんもキッチンからこちらを覗いている。

俺はすぐに気付いてしまった。

そうか。自分たちの家族に子供が欲しいのか……。

彼の話や、性器のない身体から想像するに、そういうものは作れないんだろうな。

うう、なんか今、残してもいいかもと思ってしまった自分が居る……。

いやしかし、こればっかりはな。

ここでなら誰にもばれないだろうし、機械人の観測も届かないだろう。

しかし、人として、いや俺のポリシーとして

好きではない女……いや女ですら無い異形かもしれんが、

しかも異様に気持ちいいだろうことは想像に難くないが……、

やるわけにはいかんのだ。人として一線だけは頑なに守っていきたい。

ふと俺は、隣で満腹の腹をさすっている男の子に話しかける。

「名前、覚えてる?」

男の子は首を振った。

「お兄さんと歩いているうちに忘れちゃった」

「どこから来たかも?」

マルガ城にいる両親の元へ帰りたいと言っていた筈だ。

「うん。どこに行きたいかも忘れたよ。楽しかったから」

「元々綺麗な魂だったので、かなり浄化が進んでますね。もう少ししたら

 自らの形も忘れ、輪廻へと戻るでしょう」

ビギネメスは満足そうに男の子を見つめる。

あ、いいアイデアを思いついてしまった。でも、もしかしたら迷惑かけるかもな……。

いや、しかし分け分からん生物と、子供を残して永遠に後悔するよりは

よっぽどまともだろう。

ええい、どうにでもなれ。

「君に名前をあげるよ」

「……?」

「今なんと……」

こういう事態になったことがないのだろう、ビギネメスも慌てている。

「君はソウタ。颯太だ」

「ソウタ……僕の名前はソウタ……」

男の子はトロンとした眼で催眠術にかかったかのように繰り返す。


「そして君は俺の"弟"に今日からなる。つまり"但馬颯太"が君の名前だ。

 兄は俺、但馬孝之で、姉は但馬ミーシャ、そして君は一番下の弟だ」


「兄さん……分かったよ。僕は今日から但馬颯太だ」

急に力強い雰囲気に変わった男の子の両目が蒼く光る。

そしてその眼で俺の瞳をまっすぐ見つめる。

「タジマ様……」

ビギネメスは俺がやりたいことが分かったようで

感激と困惑の入り混じった何とも言えない顔をしている。

「そして君のお父さんお母さんは、ここにいるビギネメスさんと

 奥さんの……」

「デュガリスです」

俺が顔を向けると、真っ白で一つ目の奥さんもすぐに答えてくれた。

「……デュガリスさんだ。つまり君は今日からこの夫妻の子供だ」

「タジマ様……」

「いいかい?理解したかい?」

「分かった。僕は兄さんの弟としてここで生きていくよ」

「二人の言うことをよく聞いて、幸せになるんだよ」

「うん。でも兄さん姉さんが困ったときはいつでも駆けつけるよ」

「そうだね。困ったら頼むよ」

俺は軽く返事した。期待はしていない。

この子がたどり着く先を見つけ、そして

この夫妻に子供ができれば、それでいいと思っている。


「流れ人様が、純白の魂に"名付け"できるとは……」

デュガリスは、キッチンのテーブルに座っている

俺たちに飲み物をもってきて

颯太を寝かしつけるために、二階の寝室へと連れて行った。

酒を飲みながら、ビギネメスが感心した顔で呟く。

「いや、俺もとくに考えては無かったんですが……自然と流れで……」

俺は貰った赤色のジュースを飲んでいる。甘くとろけるような味だ。

ビギネメスは、構えを完全に解いたような笑顔で

俺に六つの手を頭の上で組み合わせながら、深々と頭を下げると

語りだした。

「聞き及んでいるとは思いますが、菅様も以前、ここや黄泉に来られました」

やっぱりそうだったのか……。

「彼は、本当に慈悲深い方ではあったのですが、

 長く生きた我々から見るとその所作は"力の王"でした」

「……どういうことですか?」

「必死に見せないようにしていましたが、

 異世界で、深い孤独と人間不信に苛まれていたようです。

 彼に本当に必要なのは、信頼できるパートナーでしたが、

 生涯、それは見つからなかったようです」

そうかぁ……もう少し俺が早く、この世界に来られていればな……。

俺は俯いてジュースを飲み干す。

「……五つの地獄の先の黄泉にある"亡懊宮"では、

 各世代の"流れ人の抜け殻"を展示しています。菅様のもございますので、

 ぜひ見ていかれてください」

「……よくわからんけど、ちゃんと見ときます」

菅が大変だったという話は今までも節々で見たり聞いたりした。

生意気な魔族シメたり、王国を作ったり、王族と政府のバランスに悩んでいて

それに加えて、ここみたいなわけ分からん場所とも関わって

きつかっただろうなというのは俺にもわかる。

俺は適当だからいいが、あいつがクソ真面目な性格だというのは

毎日ランニングや校庭での練習を見ていた、俺は良く知っている。

「菅様は……敵対した彼の者の自業自得とは言え……マガルヴァナに鎖をつけ、

 引きずって地上へと連れて行きました。

 そして封印術を使って、式神として強制的に使役していたのです」

そうかぁ……菅に何やったか知らんけど、マガルヴァナも大変だっただろうな。

「貴方様は、それとはまったく違いますね。

 慈悲とも力とも知恵とも違う。

 言うならば"直感の王"とでも讃えるべきか」

「いやいやいや、ただの馬鹿なガキなだけですって。

 何も世の中のこと知らない、ただの田舎もんですよ」

ビギネメスはそれには答えずに、俺に二杯目のジュースを注いで飲ますと

立ち上がりキッチンの空間に前にやった時と同じように

六本の腕で穴をあけた。

「まだいくらでもお話していたいのですが……、

 そろそろ、お時間です。概念界は時間の進み方が不規則なのですよ。

 心音のように収まったり、大きく脈打ったりします」

「そうですかぁ……あ、颯太……弟をよろしくお願いします」

「お任せください。冥界一の存在に仕上げてみせますよ」

俺は苦笑いしながら穴を潜る。そこまでは期待してない。

弟が、幸せだったらいいのだ。

「お仲間と合流したら、まっすぐ進まれてください。

 黄泉の亡懊宮と三途の川の先に、マガルヴァナの住む世界があります」

俺はビギネメスに頭を下げる。弟をよろしくお願いします。

ビギネメスも無言で笑い返すと、空間の穴を閉じて消えた。

カンテラをつけるとさっきの洞窟の中らしい

ポツポツと周辺に亡者が歩いているのが見える。

さっきより明らかに少ない。

"仮初"で足止めされている亡者が多いんだろうなと俺は思いながら

テントを探す。

あった。皆まだ寝ているようだ。中から微かに寝息が聞こえる。

俺はテント脇の壁に寄りかかって、

たまに通り過ぎていく亡者たちを見ながら

今まで起こったことを思い返しながら、ボーッとしているとテントの中から

ミーシャの寝言が小さく聞こえてきた。

「あ、姉のミーシャです……ソウタ君よろしくね……ねぇさんと呼んでェ……」

よく分からんけど、颯太は夢の中でミーシャに挨拶しているらしい。

起きたらちゃんと説明しないとな。と俺は思いながら

仮眠をとることにした。

なんだかんだあって、結局、野宿である。

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