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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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マガルヴァナ

俺たちは静かに思念の部屋へと向かう。

俺の背負われているアルナは早くも息を止めていて、窒息しそうになっていたので

気付いたマイカが

「まだ……早い……五十メクロン(メートル)以内……」

とアルナに教える。

「っぷっはぁ!!早く言ってよぉ」

横を見るとミーシャは再び青い顔をしている。

その背中を叩いて

「大丈夫だって、息を止めて横を通り過ぎるだけだろ?

 部屋に入ったら扉閉めちゃえばいいわけだし」

「う……うん。でも幽鬼は嫌いだよ……」

「タカユキ様……人間は……幽鬼……苦手……」

マイカが俺の顔を見て小さく呟く。

ああ、何かそういう話を前にも聞いたことがある。

天敵だとか言っていたな。

そう言えば魔族であるアルデハイトが機械人(マシーナリー)を妙に嫌ってたし

ドラゴンのライグァークも苦手そうだった。

そういう関係が各々の種族同士であるのかもしれないな。

と思いながら通路を歩いているとマイカが

「ここから……息……止める……」

と皆を見回しなから言う。全員息を思いっきり吸い込んで、口を閉じて

静かに進んでいく。

そのまま通路の突き当りを曲がると、おお、居るわ。

扉の方を剥いた全身羽飾りだらけのインディアンの呪術服のようなものを着た

青く透けた人型の物体が、地面から数センチ浮かんで揺れている。

目を閉じているアルナ、動じないマイカはいいが

はっきり見てしまったミーシャは、

恐怖で息を噴出しそうになり俺の背中に隠れた。

ゆっくりしていると誰かが噴出しそうなので、俺たちは静かに

だが素早く、そいつの後ろの思念の部屋の扉まで進む。

そいつの横を通り過ぎるとき

「ワレ……契約終エタ……ダガ……許シガ……マダ……ナイ」

という男女や大人子供の声の混じった多重音声みたいな呟きを聞く。

もしかしてねお前も何か、もう死んだ菅のせいで苦労してんのか……。俺もだ。

とそれを聞いて、謎の共感が起こった俺はそのまま通り過ぎようとしたが

ミーシャが恐怖から息を噴出してしまう。

同時にその音を聞いたアルナが「な、なんでしゅか!?」

と背中で声をあげる。

一瞬、こちらを地球のポリネシアの部族のお面のようなものがついた顔で

見つめた透けているそいつは、

顔を合わせてしまい、恐怖で口を大きくあけたアルナの

まさにその口の中へと吸い込まれるように入っていった。

その様子を見たマイカが、珍しく冷や汗を垂らしながら

「……タカユキ様……まずい……早く……アルナを置いて……部屋に……」

「え!?置いていっていいのか、そりゃダメだろ」

「……はやく……いいから……したがえ……」

マイカに急かされるように、俺は思念の部屋の扉を開け

そしてへたり込んでいるミーシャを引っ張って部屋に入れ

背中で唸っているアルナをどうしようか迷っていると

マイカが素早い動きで縄を解き、俺から引き摺り下ろすように

アルナを通路に置くと、俺の背中を強引に押して思念の部屋に入れ

素早くドアを閉めた。

同時に部屋の中に電気が点き

「ゴライホウ、オマチシテオリマシタ。カイスウハ、ニカイメデス」

という機械的な合成音のアナウンスが響く。

「……あぶなかった……身体……渡してしまった……」

恐怖で失神し白目を剥いて、泡を吹いているミーシャを介抱しながら

マイカは額の汗を拭う。

「置いていっていいの?早く、助けたほうが良くないか」

「アルナなら……死ぬことはない……だけど今は……近くに居ちゃ……ダメ

 ……スガ様に……対処法訊こう……」

あくまで心配な俺と対照的にマイカは、諦めた顔でミーシャを介抱しながら

俺を急かすように、真っ白な部屋を見つめる。


ミーシャのことはマイカに任せて

俺は菅のことを考えて呼び出そうと努力する。

出て来い……いいから出て来い。お前のせいで俺の仲間が

やばいことになってるんだ……。

はよ出て来いはよ。


再び部屋の奥で椅子に座った思念体のスガが出てきた。

今度は足元まである紋章の描かれたローブ姿で

以前呼び出したときよりも、少し見た目が若い。三十代ぐらいに見える。

しかも隣には、なぜかセーラー服を着た美射も一緒である。

「……いや、お前を呼んだ覚えは無いんだが……」

とツインテールを揺らしながら駆け寄ってくる美射に文句を言うと

美射は素早く俺の右腕に自らの腕を絡めて

「やっとここが、空いた」

とゆっくり歩いてくるローブ姿の菅の方へと声をかける。

「菅君。但馬が、困ってるみたいだよ」

「うむ。鈴中先輩そのようですな。マガルヴァナか」

「マガルヴァナ?」

「自分の使役していたある幽鬼族を封じ込めた式神です」

「……???」

「人間の国を創ると必ず良からぬ事を考える(やから)が出てくるのですよ」

「……犯罪とか、政治家の汚職みたいに?それが関係あるの?」

「その程度なら法で裁けばよいですが、国家の乗っ取りを企んだり

 我々の見えないところで、人々を知らないところで支配したりするような巨悪です」

「話がよくわからんのだが」

「マガルヴァナはそういう輩を、

 問題なく私的に懲らしめるため、私が使役していました」

ああ、何となく分かったぞ。

立場ができて動けない菅の代わりに、そいつらを懲らしめる役割だったのね。

確かに脅しつけるのは、幽霊みたいなあいつになら適任かもしれない。

「私は反対したんだけどねー」

美射がいきなり口を挟む。

「なんでお前が反対できんの?っていうかお前何なの」

美射がこの世界に着ているという話は一度も聞いていない。

関われるわけがない。

それに今居るこいつもあくまで俺が作り出した思念体のはずだ。

「夢に出てきてない?私が」

「……出てるけど……二回くらい」

「そっか。なら、いつか分かるよ」

満足そうに微笑んで、美射は口を閉じた。

相変わらず腕は絡めたままである。

はああああああああ????まてええええ。ちゃんと答えろ。

俺にとって、今の情報は凄く大事なことのような気がするんだが。

俺は頭を抱えるが、そんなことお構い無しに菅が話を進める。

「マガルヴァナに取り憑かれた少女は、

 どうやら私の子孫のようですな。流れ人に近いほどの身体的能力ですか……。

 ああ、失敬、頭の中を少し見せてもらいました」

「ふーむ。困りましたな。

 どうやら生前の私は、死ぬ前に彼への契約を解いてやれなかったようです。

 そうすると新しい契約を、誰かが結びなおしてやらねばなりません」

……うん。もう好きにしたらいいよ。

話にはまったくついていけていないが、

アルナを早く助けないといけないのは間違いない。

背後ではマイカの介抱により意識を取り戻したミーシャが小さく唸る。

振り向いてその様子を見た美射が、

「あ!但馬、あなたさぁ……」

美射が頬を膨らませて、上目遣いにこっちを見る。

「な、なんだよ」

「ちょっと女の子の裸とか下着、見すぎてない?」

「は!?」

「魔族や妹ともキスしたでしょー。あの子に身体も拭いてもらったわよねぇ……」

なんで知っているんだ……ああ、お前も頭の中見たとかか……。

すげぇな。なんだこの部屋。裁判所か何かか。

全部不可抗力なのに、俺にどうしろって言うんだ。

しかもアルデハイトのは人工呼吸である。

なんでキスに分類されてるんだ。さらに言うとあいつは男である。

いや、魔族の性別は分からないが、前に平たい胸板を見たから

男のはずだ。うう……自信なくなってきた。

いや、声とかハスキーで男っぽいんだが……。

「私には指一本触れないで、それはないんじゃないかなぁ……」

美射は寂しそうな表情で下を向く。

「いや……腕はお前がよく絡ませてただろ」

「そういうことじゃなくてさぁ……」

「どれも望んだわけじゃないんだが……」

「ホントぉ……?」

美射は上目遣いで訝しげに俺を見上げる。

「本当だよ。望まない誰かを求めて、傷つけるよりは

 何もしないほうがまだマシって前に話さなかった?」

「女として異論はあるけどもー。但馬のそゆとこも好きよ……」

複雑な表情の美射はそこで口を閉じる。

俺たちの話が終わるまで、わざわざ待っていたらしい菅が

苦笑いしながら口を開ける。

「で、マガルヴァナのことですが……」

「あ、すまん。どうすればいいのか教えてくれ」

「間違いなく、ローレシアン王国の西側の彼の故郷へと帰るでしょう」

「というか、もう帰ってると思います。

 アルナさんの身体は強靭ですから、彼を王都の封印から解き放つには充分でしょう」

「おい……それって……」

「はい。追いかけて、捕まえるしかありませんね」

おいおい、城でゆっくりさせてくれよ。と思いながら

仕方なく俺は菅に尋ねる。

仲間の危機である、俺の事情とかより、

早くいかなければならんだろ。

「どこへ行けばいい?何より、捕まえた後はどうしたらいい」

スガは俺の背後でミーシャを介抱し続けるマイカを見て

「彼女に訊いて下さい。探索に自ら行く場合は、彼女も必ず同行させてください」

「マイカ?」

「ええ。博識で中々役に立つでしょう?」

「でしょうって言われてもな。お前と何か関係あるの?」

「すいません。その質問はロックレベルが上から二つ目なので

 まだ答えることができないんです」

申し訳無さそうに菅の思念体は頭を下げる。

うーむ。つまりこいつと縁があるのか。

それが分かっただけでもよしとしよう。

「最後に何か質問はありますか?」

菅が俺に尋ねてくる。少し考えてから

「ライグァークと戦ってたって本当?」

と訊いてみる。予想外に菅は笑いながら

「ああ、お互い、中々いい運動になるんですよ。

 公務しすぎて身体が鈍ったら、南海諸島の無人島でよく手合わせしてました」

「……軽く言うなぁ。俺も何か戦わせられそうなんだけど……」

「先輩も、もう少し強くなったら、あいつが居てよかったと思う日がきますよ」

「そうかぁ……永遠にこない気がするけど……」

あんな怖い生き物はもう沢山である。

「では我々はここで」

「女の子の裸を見るときは目をふさいでよっ」

微笑む菅と、舌をチロッと出して

気弱そうにアッカンベェした美射が俺たちの前から消える。

マイカは立ち上がり

「終わったか……」

と俺の顔を見て一人頷く。

そして俺はそのマイカの太眉が印象的な顔を見ながら気付く。

「マイカが全部知ってたなら、ここ来る必要なくないか?

 お前と俺が解決すればいいだけだったんじゃ……」

「物事には……手順……ある……運命も……同じ……」

頭をブンブンと横に振ったマイカは答える。

「今の流れが……たぶん……最短……違えれば……混迷する……」

そしてマイカは、寝たまま唸っているミーシャを背負うように俺に促すと

「ロックカイジョシマス。マタノオコシヲ、オマチシテオリマス」

アナウンスが響き、扉が勝手に開く。

追い出されるように真っ暗になった思念の部屋から外へ出ると

俺は驚愕する。

すぐ横の通路の壁に大きく穴があき、アルナはすでに居なかった。

通路には脱ぎ捨てられたネグリジェと下着が散乱している。

おそらく裸で逃走したのだろう。

これ……早くも美射に怒られる案件じゃないかと一瞬思ったが、

頭から振り払い、そんなことよりもアルナの身を案じて、呆然と俺は

通路に開いている穴を見つめていた

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