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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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50/1587

青く透けるペット

黒塗りの二台の馬車に分かれて乗り込んで、王都中央城まで進む、

小雨の中、日が暮れていき

街灯や店の明かりが少しずつ点いて行く。


ザルガスは「ミノに言ってやんねぇとならねぇ」

と憤りながら、ミノとナバを引き連れ、後部の馬車に乗り込んでいる。

俺はミーシャとセミーラと同乗した。

「人間の男もいいもんだねぇ」

頬を赤らめながらうっとりとした表情のセミーラが外を眺める。

俺は彼女とミノに何が起こったか察してしまい、

セミーラを連れてきた責任を若干感じるとともに、

大人たちの問題なので関わらないで置こうと思った。

ミーシャは俺の隣で不思議そうな顔をして

うっとりしているセミーラと、シリアスな顔の俺とを見比べている。

やがて妹は、それにも飽きたのか、俺に話しかけてくる。

「今日は帰ったら、もう夕食食べて寝るだけよね?」

「そうだろうな。さすがにもう何にも無いだろう」

「しばらく、ゆっくりしたいよ」

「俺もだ」

いわゆるフラグを振りまいているような俺たちの会話だが、

たぶん本当に何も無さそうな気がしている。

むしろこれ以上、何かあってたまるか、である。

ローレシアンに来てから半月ほど、

雨期に入ってまだ七日で、

俺たちはこの国のために、でたらめな量をすでに働いている。

しばらくゆっくりさせてもらいたい。

馬車は人通りの少なくなってきた前方のメインストリートを

馬車の天井に設置されている大きなライトで照らしながら

スピードを上げつつ城へと向かっていく。


巨大な城門を潜り、菜園を抜けて、馬車の停止位置まで来ると

俺は一人の大男の拍手で迎えられる。

輝くような金髪を逆立てて、燃えるような赤い瞳をした

その2メートル近くありそうな精悍な男は、

筋肉で筋張った両腕の先の手を打ちつけながら

俺たちを見回す。

背後では案内役の城鎧の女性兵三人が困った顔をしている。

「はっはっは!!無事なご帰還を祝福しますぞ!」

ザルガスがすぐに近寄ってきて、俺の耳元に囁く。

「第一王子ヴァルガナルです。

 領地を放り出して、ここに居る意図はわかんねぇが、

 一応失礼の無いようにしててください」

「わかった」

と俺は小さく返して、ヴァルガナルの様子を見る。

「どちらがタジマ様かな?あなたか?」

とヴァルガナルは長身で見下ろしながらミノを見て、首を横に振られ

さらにザルガスを見て、訊ねる。

「いや、旦那はあそこに居られます」

ザルガスは、俺を指差す。

「おーおー、ライグァークを追い払ったと聞いていたから

 どんな美丈夫かと思えば、まだ青年ではないか!?」

俺は身長差が三十センチくらいはありそうな

ヴァルガナルを見上げて、じっと観察する。

……うん。間違いなくうざいな。相当めんどくさそうな男である。

長旅を続けてきた今は関わりたくないタイプである。

「あ、どーも。タジマといいます」

と俺は一応手を差し出す。無視するのも失礼である。

ヴァルガナルは差し出された俺の手をしばらく眺めると

その手を思いっきり握り返した。

相手を圧倒する怪力である。ただ残念ながら俺はそれよりも遥かに力が強い。

はぁ、俺じゃなかったら骨折れてるぞ。と思いながら少し力を入れ返す。

自身の怪力にまったくたじろがない俺に、焦ったヴァルガナルは

俺に握られて真っ赤な指の跡がついた右手を離した。

仕事したことが無いから分からないが

こういうのをパワハラというのだろうか。

いや、何か違う気がするな、怪力ハラスメントというか……。

と思いながら、俺はこの大男を見上げ

「すいません。部屋に行ってもいいですか?」

と静かに訊ねる。

「お、おお。良いぞ……いや、良いですぞ」

ヴァルガナルは顔を真っ青にしながら、俺に巨体を避けて道を譲る。

二人の間に素早くザルガスが入り込んで

「旦那は疲れてるんですよ。失礼があったらすいませんねぇ。

 政治に関するお話は、俺が聞くようにいわれてます」

ヴァルガナルに話しかけフォローをしていた。


俺たちは女性兵士に自室へと、案内される。

背後ではヴァルガナルとザルガスが話し込み始めた。

「私、あいつきらーい」

ミーシャが頬を膨らませる。

「確かに威圧的な人だったな」

「偉そうだよ。マグラムール王子もあんな嫌な感じはしなかったよ」

黙っていたがミーシャは相当嫌だったらしい。

妹がここまで人に対して文句を言っているのを俺は見たこと無い。

いや、アルデハイトには言っていたな……人ではないが。

俺たちは今度は思念の部屋には連れて行かれずに

ストレートに自室へと案内された。

兵士に礼を言ってから、扉を開けると、

ネグリジェ姿のマイカとアルナが

床でボードゲームをしながらダラダラしている所だった。

「こらーっ!きさまら!職務を全うしろーっ!」

何故か鬼軍曹になったミーシャが二人を指差しながら怒鳴る。

「ああ……よく帰ったな……えらいぞ」

マイカは相変わらずの傍若無人っぷりでこちらをチラッと見て

それだけ言うと、ボードゲームに視線を戻す。

対照的にアルナは「ごめんなしゃーいぃぃぃぃぃぃ!!」

と必死に謝りながら何故かネグリジェを脱ぎ捨てて、下着姿のままメイド服を探し始める。

「こらーっ!!青少年のためにも健全な格好をしろーっ!!」

そのアルナの姿に激怒したミーシャがさらに怒鳴ると

今度はパニくったアルナが下着も脱ぎ捨てようとして、俺が必死に止める。

「いや、着てていいですから……頼むからお前も静かにな……」

俺は口に指を当てて、ミーシャに静かにというジェスチャーをする。

「だって……」

ミーシャは顔を逸らして頬を膨らませている。

全裸で身体を拭いたお前が言うな。というか……本当に勘弁してください。

何度もいいますが、本当にそういうサービスシーンはいいですから。

俺は心からロ・ゼルターナ神に祈る。


しばらく本気で落ち込んでいるアルナを言葉で慰めてから、

落ち着いたところで、

パジャマに着替えた四人で低いテーブルを囲んでソファに座る。

そして一通り、南部の第二王子領で何が起こったか

二人に、というか主にマイカに説明していく。

「そうか……タカユキ様……そしてミーシャ……大変だったな……」

ネグリジェ姿のマイカはジッと俺の瞳を覗き込む。

「何で私は呼び捨てなんだよっ、さんをつけろ、さんを!」

ミーシャは立ち上がりそうになって、隣の俺に押さえられる。

マイカはその言葉にはまったく動じずに、

何か気付いたように目を見開いて、部屋の扉側を見た。

「ああ……起きたのか……いちおう……覚悟しておけ……」

「……?」

すると部屋の外の通路にゾッとするような恐ろしい気配が通り過ぎていくのが分かる。

ここは1フロア全て俺たちの部屋ということもあり

通路には一切衛兵は立っていない。

客人以外で誰かが通路を通り過ぎることはありえない。

マイカ以外の全員が鳥肌を立てて、女子二人は俺にしがみついた。

「なに……いまの?」

ミーシャがマイカに訊ねる。

「戦いで……強化されたタカユキ様の……帰還に……反応して……主を探し始めた……」

「もしかして俺を探している?」

「そう……でも、見つかっても……たぶんダメ」

「え?」

「あれは……ペット……スガ様の……」

菅、お前は城の中で何をやってるんだ……。

「幽鬼っぽい雰囲気だったんだけど……」

ミーシャが顔を青くしてマイカに訊ねる。

「だいたい……あってる」

アルナは俺にしがみついて完全に怯えきっている。

いや、俺が誰かにしがみつきたい。

ライグァークや"凶"とは完全に異質な恐怖を感じたぞ……。

あんなのがこの迷路のような城の中に居るとか冗談じゃない。

「もういいよ~もう大変なのはいいよぉ~休ませてよぉ」

涙目のミーシャが情けない声をあげる。

「大変な……問題がある……」

マイカが真面目な顔で俺たちの顔を見回す。

「我ら……夕食がまだ……」

その言葉に反応し、グーッと大きくお腹をならすアルナと同時に

恐ろしげな気配が不意に戻ってきて、部屋のドアを断続的にノックする。

コツコツコツコツ。コツコツコツコツ。コツコツコツ。

ぎゃー。もうやめてぇえええええ。

ホラーもエロももう充分である。

いい加減、ゆっくりさせてくれえええええ!!

五分後に気配が去るころには、俺の隣のアルナは泡を噴いて気絶していた。

ミーシャも青い顔をしてガタガタ震えている。

「……思念の部屋……行こう……スガ様に訊けば……解決策あるかも……」

「その前に何か食べたいよぉ……」

ミーシャがお腹をさする。

「じゃ……厨房行ってから……思念の部屋向かう……所要時間……1ダール(時間)半」

「ううう……耐えられるかなぁ……」


俺は着替えると

アルナを背中に縛り付けて背負い、震えるミーシャの手を繋ぎ

そしてマイカの先導で、恐る恐る部屋から出て

厨房へと向かう。

「道は覚えたのか?」

「だいたい覚えた……遊んでいた……わけではない……」

マイカはニヤリと笑うと、複雑な王城の廊下を

自分のテリトリーのように進んでいく。

「あ……やばい……そこの通路に……」

マイカは俺たちを脇にある小さな暗い通路に誘う。

しばらくそこで息を潜めていると、目の前を

派手な羽飾りを全身につけ、恐ろしげな顔型のお面を被った

人型の生き物が飛ぶように通り過ぎていく。

「全身が青く透けていたんだが……」

「うむ……幽鬼に……近い……」

ミーシャは歯をガチガチ言わせて震え始めた。

顔面蒼白で白目を剥いている。余程今のアレが怖かったらしい。

どうすればいいか、慌てていると、マイカが

「すぐ……抱きしめろ……私もやる」

と言うので、二人で抱きしめるとミーシャの震えが何故か止まる。

「た、助かった……怯え死ぬかと……ありがと」

正気を取り戻したミーシャは涙を拭うと立ち上がる。

「行こう。早く何とかしないと、他の人が危ないよ」

「でも……腹が……減っては……戦はできぬ……」

「うん。まずは食べ物だね」

マイカも立ち上がると、再び廊下に戻り、厨房を目指して歩き始めた。

ミーシャは元気を取り戻したようで、そのすぐ後ろを颯爽と歩いていく。

途中で焦った様子で城内を走る白鎧の兵士たちと何度かすれ違う。

「あれのせいだろうな……」

「たぶん……そう」

マイカは短く答えると、良い匂いがする前方の通路を指し示す。

「この先……だ……」

俺たちはマイカに続いて進み、人気の無い食堂に入り

そのまま厨房へとお邪魔して、すぐに食べられるものを

袋に詰めれるだけ詰めてもらう。

マイカはいつのまにか料理長と知り合いになったようで、

喜んで、手早くやってくれた。

乾パンやソーセージをかじりながら

俺たちは今度は思念の部屋を目指す。

食べ歩きは行儀が悪いが、今はそうも言ってられない。

その最中も兵士たちと何度もすれ違う。

思念の部屋へと近づくにつれ、

次第にそれも少なくなる。

分岐の無いあとは思念の部屋に向けて

進むだけといった通路に入って不意にマイカが

「あ……ダメだ……待ってる……」

と呟いた。俺はすぐその意味に気付いて問う。

「え?まさか思念の部屋の前で?」

「そう……あそこに……向かっているのを……気づかれた……」

「どうする?」

「……息を止めて……ゆっくり進めば大丈夫……だと思う」

と言いながらマイカは俺の背中で相変わらず気絶している

アルナを困った顔で見上げる。ミーシャもそれに気付いて

「どうしようか、置いていくわけにもいかないし……」

と俺の顔を見る。

「起こそう。怖いなら、目を瞑ったまま、俺の背中に乗ってて貰えばいい」

「……わかった……そうしよう……」

マイカは俺の背中から解かれて降ろされたアルナの

胸の中心あたりをコツンと突っつく。同時にアルナが息を吹き返したように

目を覚ました。ツボでも突っついたのだろうか。

「あれ……私……あれ?」

事態の飲み込めないアルナに今の状況を説明すると、

再び気を失いそうになったので

マイカが再び胸のツボを突いてむりやり起こす。

「……わかりましゅた……息を止めて、耳を塞いで、目を瞑りましゅ……」

とひとりネグリジェ姿のアルナは

皆の説得に納得して、俺の背中に再び紐で括りつけられる。

我々はゆっくりと思念の部屋へと続く、通路を進み始めた。

真っ暗な、窓の外は小雨が降っている。

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