王都帰還
「グリーンバラスト城を復興するように、アドバイスしておきましたぜ」
リームスとの話を終えたザルガスが歓談する皆の輪に加わり俺に話しかけてくる。
「グリーンバラスト城?」
「第二王子領土の東端にあるミルバーン城近くの廃城のことです」
「廃城なのか?」
「はい。あの城はスガ様がご存命のときに建てたらしいんですが、
ゴブリンやオークの勢力圏に近すぎるということで
スガ様の死後に廃棄されたんですよ。
モーラからこっちくる前に教えてもらいました」
「ふーん……何で建てなおしたほうがいいの?」
「王子たちには元々それぞれに色がつけられた居城が与えられていました。
ラングラール様には"ホワイト"リール城という感じにですね」
「ああ、分かった。そういうのを勝手に捨てるのは良くないっていう話か」
「そうです。多分、俺たちには分からない、何か深い意味があるんですよ。
幽鬼の森に近すぎるホワイトリール城にしてもね……」
ザルガスは伸ばしっぱなしの髭を撫でながら頷く。
俺も少し考えてみたが、なるほど分からん。
もし意味があるとすれば、敵地に近づけることによって
お前ら王族が身体張って自国民守れよ。と菅が言ってるとしか思えない。
しかし、そんな防衛的に意味の無いことだけだろうか。
ま……いっか。
俺の手を握り締め続けているミーシャを連れ
皆に声をかけ、早速王都へと帰還することにした。
俺たちは、そのまま城を出て
ほぼ晴れている空から天気雨を浴びながら、装甲車に乗り込む。
なんと今度は三台である。
詰め込まれた前回とは違い、ゆったりと乗れるスペースがある。
昼食がまだなメンバーたちには携帯食や高級酒も大量に与えられた。
どうやら、リームスが気を利かせてくれたらしい。
ザルガスはその様子を見ながら
「生殺与奪を旦那に完全に握られましたからね。そりゃあね、やるでしょうよ」
意地悪な顔をして煙草に火をつけニヤついて、煙を吐き出す。
手を振るリームスや重鎮たち、そして兵士や家臣団一同に見送られながら、
乗車した俺たちは王都の方角へと北上する。
装甲車は煙を上げながら、荒れた道を北上していく。
ザルガスは俺とミーシャと同じ車に乗り込み
二台目にミノとセミーラ、三台目にナバが一人で乗り込んでいる。
「うちの長老は今回頑張りましたから、ゆっくりさせてやってくださいな」
ザルガスは助手席から俺たちに話しかけてくる。運転席には兵士が座る。
「ナバさん、兄さんの見えないところでだいぶ頑張ってくれてたんだよ」
「そうだったんか……」
「罠の設置から、"凶"の捕獲のときのミノの補助。
ゴルスバウ軍への反抗時に、クラーゴン司令への敵側の弱いところの指摘。
そしてやられたミーシャさんに毒が全身に回らないように止血まで、
よくがんばってくれましたぜ」
「旦那とあのクソ魔族野郎が戦功ツートップだとしたら、三番目は爺さんですわ」
ザルガスは満足そうに髭を撫でる。俺は反省する。
そうか、知らないところで頑張ってくれている人が居るから
成り立っているんだな。ナバが居なかったら
ミーシャも毒矢を喰らってすぐ、あっさりと死んでいたかもしれない。
「次はミノとザルガスとセミーラで
最後が私かなぁ……何か足引っ張ってばかりだったよぅ……」
「いやいや、ミーシャさんはよく戦えてましたぜ。
視野の広さと弓の腕はたいしたもんだ」
ザルガスが前方を向いて笑いながらフォローする。
「強くなりたいなぁ……」
「無事でいてくれればいいよ」
俺はミーシャに声をかけた。その言葉に妹はコクンと小さく頷き返した。
「しかし、あのくっせぇ装置とやらだけは、きつかったですな」
「そうだね。私もあれはあんまりだと思った」
"凶"の再生能力を弱めるために、不潔な病原菌の中に放り込んだというあれである。
「確かに、やり方としては酷いけど、俺は仕方ない気もするな」
アルデハイトの欠席裁判にならないように一応気を使う。まだ奴は帰ってこない。
「うーむ……まあ、こっちにほぼ怪我人が出なかったのは
あの腐れ魔族とクラーゴン司令の作戦勝ちとも言えますな……」
ザルガスは微妙な言い回しでむりやり納得した後に何かを思い出し
「あ!旦那、サーニャさんが"今度二人でお食事でもどうですか?"って。
絶対伝えてくださいって俺に言ってましたぜ。
顔真っ赤だったし、ありゃあ、惚れてるわ」
「だめ!!絶対ダメ!!私が許さないからねっ!!」
ミーシャが隣で座っている俺の膝上に上がりこんで
振り向いてニヤついているザルガスとの間に壁を作る様に両腕を振り回す。
うん、好意はありがたいけど、しかしなあ……こう、なんていうか
全裸で獣のよに暴れている彼女のイメージが
まだ……こうなあ……残っているというか……うん、確かに美人だけどな……。
しかし下着喰ってたしなぁ……。
と、何とも言えない気持ちになりながら、
俺はアタフタしているミーシャを膝上に乗せたまま、窓の外を見る。
小雨は降っているが、ほぼ晴れていると言ってもいい天気だ。
そうだ。訊いておこう。
「雨期はもう終わりなの?早くないか?」
「いや、数日後にもいっかい、でかいのが来ますぜ」
「まあでも短いからね。あとは今みたいにパラパラ降るだけだよ」
「そうなんだ」
なら安心か、雨の中で活動するのは
俺にとって物理的な影響はほぼ無いとは言え、心理的にしんどかった。
できれば早く終わって欲しい。
その後も和気藹々と雑談を続け
スピードを上げた装甲車は半日ほどで南部の関所を通り抜け
王都中央山南部の潜水艇がある湖まで到着する。
「お腹減ったあー!」
装甲車から降りたミーシャが両手を伸ばして、背伸びする。
別の装甲車から降りてきたナバが
「どうぞ。俺は年寄りだから、あんまり食べねぇでもいいからよ」
リームスから貰った携帯食料と酒の入ったリュックをミーシャに渡す。
「ありがとう。何か色々ごめんね」
「これくらいいいってことよ。
王都に帰ったら旦那が快適な暮らしをくれるだろうからな」
老練なナバは甘くない笑顔をミーシャに向ける。
「うふふ……」
ミーシャはやり辛そうに頭を下げて、俺の方へと駆けてきた。
「兄さん……頼むよ」
ナバの方を見ながら、俺に話しかける。
「大丈夫、大丈夫。大老ミイさんに頼んでみるよ」
俺はナバの隠れた功績をしっかり表に出そうと心に決めた。
タラップから乗り込んだ潜水艇はゆっくりと王都へと上がっていく。
俺たちはナバから貰った携帯食をかじりながら
部屋の中の白黒のモニターを見つめる。
三つの部屋に乗り分けているのは
何とミノが、セミーラと二人だけの同室をわざわざ希望したからである。
半日間、同じ車の中で話していて仲良くなったらしい。
何かを察したザルガスが
「異種族に手ぇだしても、ロクな結果にはならねぇぞ」
とミノに忠告して、ミノは恥ずかしそうに頭をかいていた。
「アルデハイト、また王都中央軍と無駄に戦ってたりして」
モニターを見ながらミーシャがニヤニヤする。
「いや、さすがにもう無いだろ」
俺の予想が当たっていたようで、潜水艇は何事も無く
二時間ほどで最上部の王都まで浮上していった。
俺とミーシャ、ザルガス、ナバがすぐに潜水艇から降り
三十分ほど待っても降りてこないミノとセミーラを待っていると
「すまねぇ、すまねぇ。二人とも寝過ごしてた」
「ごめんねぇ」
適当な言い訳をしながら
顔がテカテカしているミノと肌が艶々しているセミーラが
タラップを伝って潜水艇から慌てて出てきた。
ザルガスは二人のその様子を見ながら
「はぁ……知らねぇぞ。面倒見切れねぇわ」
となぜか大きくため息をつく。隣に立つナバは
「御頭、わけぇうちは何でもやってみたらいいじゃねぇか」
と微笑みながら、ザルガスの背中を軽く叩く。
傘をさしたザルガスは、ナバと煙草を分け合って火をつけると、
「迎えが来たみたいですぜ」
港から伸びる王都のメインストリートを
人を掻き分けながら走ってくる二台の大きな黒塗りの馬車を目を細めて指差す。
小雨が少し、強まってきたので
俺はリサから貰った虹色のレインコートを羽織って気付く。
そう言えば、アルデハイトにこのレインコートをまだ渡していない。
というかあいつ、いつ戻ってくるのかなと多少不安にもなったが
好き勝手飛び回るアルデハイトを心配するのも損な気がして、
しばらく忘れることにした。
辺りは日が暮れつつある。




