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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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心ある機械からの説教

俺とマネキンもどきは下降する床に乗って城内に入った。

……そこは、いわゆる城内の正面玄関の隣接する広間になる場所だと思われるのだが

外と同じくすべてが逆さまである。シャンデリアこそ上方についているが

足元の透明な床がなければそのまま入った瞬間、

底まで落ちていって転落死してもいいような構造だ。

「驚かれたでしょう。人の住むような構造ではなかったために

 我々が、多少手を加えさせていただきました」

「我々……?」

「ああ、ご紹介が遅れましたわ。私、機械人(マシーナリー)のリサと申します」

全身銀色のマネキンもどきは機械人であると名乗った。

……初遭遇である。とりあえず俺も名乗っておこう。

「但馬孝之といいます。どうも」

「活躍は我々の耳にも入っていますよ。どうぞよろしく」

丁寧に頭をさげてからリサは透明の床の上を歩き出す。

俺も足元を確認しながらゆっくりとついていく。

「ああ、穴など空いていませんから、ご心配なく。

 滅多にありませんが、他種族のご来客の方も安心してすごせる様にはしてあります」

リサは振り向いて、少し微笑んだような雰囲気を見せると

再び奥へと歩き出す。

逆さになった階段の裏に上手く降りられるように設置された

階段状の透明な床をリサの背中を見ながら降りていく。

この城が逆さでなかったころなら二階と呼ばれていたであろう場所に到着した。

さらにリサは階段を降りて行く、俺も続く。

そのままずっと降り続け、どうやら最下層に来た様だ。

「どうぞ。先端の観測所です」

逆さの扉を開けて、逆さまの部屋へと入る。

ここは、どうやら雨雲の下に突き出していた逆さまの塔の先のようだ。

窓からは下界や、他の城の塔の様子が見える。

透明な床によって平坦になっている場所に置かれた木机にリサは

近くの棚から取り出したティーカップを置いて、金属製のポットからお茶を注ぐ。

「どうぞ。他種族の方でも飲めるものですわ」

「あ、どうも」

俺は恐る恐る一杯飲んでみる。……紅茶だ。前の世界で飲みなれた味。

リサは穴の空いた銀色の顔で俺を見つめる。

「あなたは、我々を怖がりませんのね」

リサは俺に対して、不思議そうな言葉を口にする。

俺は改めてリサをマジマジと見つめてみる。

うん、客観的に外見だけ見ると確かに怖いわ。

何で喋れているのかわけわからんし、銀色のマネキンボディだし。

でも、人は決して見た目が全てじゃないのを俺は知っている。

うちの地元で、俺の同学年の圧倒的に美しい姿の山根鏡歌は、

大人しい子に対して取り巻きを使って、いじめを主導したり、

人格的には結構なクソ野郎だったからだ。

その度に何度も俺と山口が止めたが、数年ごとにぶり返すように標的を変えて続けていた。

心の良し悪しと、見た目とはまったく関係ない。俺が山根から学んだことはそれだ。

リサの暖かい雰囲気でこの人……いや、人と言っていいのかはわからんが

この異様な風体の機械人は、嫌な性格ではないというのは直感的に分かる。

「見た目が全てじゃないでしょ?」

ティーカップをもった俺は、リサに問いかける。

「ふふ。一概には言えませんが、大体合っていますわ。

 外形に拘ると、本質を見落とします」

「頭いいっすね……」

「我々の思考はプログラミングとディープラーニングですから。

 生物の脳が持つ有機的な思考力とは違うと思いますわよ」

なるほど何言ってるかわからんが、割と誠実に答えてくれているのだけは理解した。

とにかくこのリサは話が通じそうである。

「ご迷惑じゃなかったですか?」

「いえ、ライグァークさんも大人しくされているので問題ないです。

 ガーディアンも引っ込めましたわ」

「よかった」

そこで俺は思いついたことを訊いてみる。

「城内に機械とかないんですね。マシーナリーっていうからもっとあるかと……」

「補助的な移動のための床と外部に待機させてある防衛装置以外は、

 ほぼ、我々の機器は置いていません」

「何人くらいいるんすか?」

「今の時期は私のみですね。学習のために新人を呼ぶことはありますが」

リサしかいないのか。アルデハイトはレインメーカーを

意図的にマシーナリーが動かしていると言っていたが……。

「一人で操作されてるんですか?」

「あははっ、お連れの魔族の方がそうおっしゃったのね」

リサは不意に笑い声をあげる。機械人も笑うんだ……。

「我々は操作できませんよ。自主的にこの遺跡を破壊から守っているだけです」

リサは「うふふっ」と笑う。

じゃあ、つまり、レインメーカーは勝手に動いて、

この位置に留まっているということか。というか今なんて言った……。

「守っている?」

「魔族の方々や、ドラゴンさん達からですよ」

リサはそれだけ言うと、黙って、空になったティーカップにお茶を再び注ぐ。

「私から、質問しても良いでしょうか?嫌なら答えなくても良いですよ」

俺はお茶を飲みながら頷く。

聞きっぱなしっていうのも悪いだろうし。

「貴方は、ローレシアン王国を支配された菅さまと、

 同じ世界から来たというのは本当ですか?」

ちょっと待て、何で知っているんだ。

「その通りですけど、何で知っているんですか」

「我々の情報網は、この世界の隅々まで張り巡らされています」

そうなんか……。俺は絶句する。

「もう一つだけ質問をよろしいでしょう?」

リサはその穴の空いた銀色の頭で俺をかしこまって俺を見つめる。

「いいですよ」

「ありがとうございます。

 孝之様はネーグライク国を侵攻から救ったと思うと、

 今度は侵攻側のローレシアン王国に深く関り、さらに道中で魔族やオーク、

 そしてゴブリンたちを配下に加えられていますが……」

そこでリサは言葉を区切ってから



「貴方は、この世界をどうしたいのですか?」



と、はっきりした口調で俺に訊ねてくる。

う、いきなり本質的な質問をぶつけられて、俺は言葉に詰まる。

「ゆっくり考えてください。我々、マシーナリーが、必ず知りたいことです。

 あの魔族の方がここまで戻るまで、あなたの元の世界の単位で

 およそ、二時間二十六分かかります」

リサが地球で使われている時間の単位を知っていることに、まず面食らったが、

すぐに振り払って、俺は質問の答えを考え出す。

確かに考えたことなかったな。

流れでここまで来てしまったけど、俺がどうこうしたいというよりは

そうせざる得なかったから、知り合った人たちの願いを叶えてきたというだけだ。

俺自体は、誰かを支配したいとか、この世界をどうにかしたいとか

そういう欲望は最初から無い。

ただ、人として筋は通さないといけない。

それは中学までの野球部や、友達たちとのつきあい、

そして、うちの両親から学んだことだ。

「なな、リサさん」

「はい。孝之様、答えが出ましたか?」

「俺さ、この世界をどうにかしたいとは思ってなくて」

「……」

「ただ、俺が嫌じゃないなと思った人たちを守りたいとは思ってる。

 それが答えです」

今の俺にはそうとしか言えないだろう。

何か理由があってこの世界に来た訳ではなく、

ただの成り行きでしかないからだ。

「孝之様、それでは答えになっていない上に、

 他の人格にいいように利用されるだけですよ」

リサはきっぱりと言い切った。

「孝之様の人格に問題がないことは、我々も把握していますが、

 強大な力を持つ貴方様の判断力や視野を、目に見える範囲だけに限定されますと

 それ以上の視野を持つ、知能の高い他人格に簡単に利用されます」

「……」

「強大な力の持ち主には、それ相応の責任があります。

 例え、それが望まずに手に入れたものだとしてもです」

「はっきり申し上げますと、今の貴方は、あの魔族に利用されています」

そうなのか、いや、それに関しては異論あるんだが。

「あいつも必死なんだと思うよ。以前に菅に手痛くやられたらしいし」

「それは我々も理解していますが、しかし

 巨大竜を騙して利用し、他国を破壊させるという作戦には賛同しかねます」

リサは淡々とその思えを口にしていく。

アルデハイトのやろうとしていることも筒抜けのようだ。

「むずかしいな。今更止めさせるわけにいかないですし」

「必ず、後悔する時が来ます。

 "王道とは常に、賢く広い視野をもった人間による、他者への溢れんばかりの慈悲"だからです。

 あれの考えていることは、我々、知的生命体の道を外れた外道であり邪道です」

ぐうの音もでない。リサの言っていることは間違いなく正しい。

どうやらさっきから俺は、この心ある機械に説教されているようだ。

「じゃあ、代案はあるのか?」

苦し紛れに言ってみる。

美射と出席する部活合同会議とかでよく聞く言葉である。

「ライグァークに今から真実を語りましょう。私も付き添いますので、

 彼も必ず、貴方様に非の無いことを聞き入れてくれると思います」

ううむ。リサは、師匠を俺がしかたなく殺した経緯すらも知っているんだな。

「……質問はもういいのか?」

「質問の答えは、今出ないのなら、いつでもかまいません。

 貴方様の考え抜いた末の答えならば、どんなものでも我々は受け入れます」

リサに何も考えていない、腕っぷしの強いだけのガキなのを思い知らされて

俺は、うな垂れながら、リサの背中を見つつ、

レインメーカーの上部へと上がっていく

"強大な力の持ち主には、それ相応の責任"か……。

心にグサッと突き刺さった気がするわ……。

ホールへと上がり、透明な床の上に乗っている丸く区切られた

アスファルト片に二人で乗ると、それは再び上昇していった。

豪華な刺繍の入ったカーペットが敷かれた天井に

丸い穴が空いて吸い込まれるように

中へと入っていく。


再び、レインメーカーの外部へと出ると、

ライグァークは城の脇に取り付いたまま、いびきをかいて寝ていた。

さっき周囲を取り囲んでいた数百体のロボットたちは一体も居ない。

リサの言う通り、引き払ったらしい。

「どうしたらいいかな」

隣で毅然と立っているリサに訊ねる。

「孝之様の心の通りに話しかけてください。補足は私がいたします」

俺は恐々とライグァークの巨大な顔に向けて話しかける。


「ライグァーク!!謝りたいことがあるんだ!!」


俺のやたら響く大声に、目を見開いたライグァークは

隣にリサがいるのを確認してから、うざったそうに口をあける。


 ……なんだ。あの魔族ならまだ来ておらぬぞ


うう。こええええええええ。やっぱりこええええええ。

全身がガクガクと震え始めた俺の手をリサが握ると

不思議と震えが止まる。

「振動を同期させて吸収しました。お続けください」

なんかよくわからんけど、助かった。

リサに軽く頭をさげて、俺は話を続ける。

「ガーヴィーを殺したのは本当に俺だ!!"凶"じゃない!!」


 ……いまさらもう、その手には乗らぬぞ……


ライグァークは

俺がさらに何か罠を企んでいると思っているらしく、興味が無さそうに目を閉じた。

「剣を習っていたんだ!!でも習い終わると、殺して欲しいって頼まれて……」

聞いてくれそうもないライグァークに俺は次第に声が小さくなっていく。

目を閉じたままのライグァークを諭すようにリサが語りかける。

「この流れ人様が仰っている事は本当ですわ。

 第一浮遊城、"ウェザーリポーター"に乗っている観測士から先月、報告がありました」

ライグァークの大きな左耳がピクピク動く。聞いているようだ。

「樹海の主ガーヴィーは、自ら望んでこの方に殺されました」

「本当だ!!師匠は、長く生き過ぎたって言ってた!!」

俺は再び、声を張り上げてみる。


 ……そうだとしても、我の気がまだ済まぬのだよ……愛する友が急にいなくなったのだ……


ライグァークは大きな顔で半目を開けながら、こちらを見つめ口を開く。

つまりストレス解消にまだどこかぶち壊したいわけか。

リサは俺の顔を見て、そしてライグァークの巨大な顔を見てから

何かを素早く呟き、そして

「いずれ孝之様と貴方が、決戦をするというのはどうでしょうか?」

といきなり提案する。

慌てる俺の視線の先でライグァークの顔が気だるそうに


 ……まだ弱い、相手にならぬ……


とそれをあっさり拒否する。

「聞くところによると、菅様との決着がついておられぬとか?」

目を閉じかけたライグァークに向けて

リサが衝撃的な発言をする。あいつ、これと戦ってたんかい。


 ……あの痴れ者めが……先に逝きおってからに……


何かを思い出して苦悶した顔になったライグァークは空へと

「ビギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

といきなり怒り狂った様子で吼える。

俺はリサから手を離して思いっきり両耳を押さえた。

足元では、逆さの城全体が振動している。

それに対してまったく動じないリサは再び話しかける。

「この方は、菅様と同じ世界のご出身です。

 元の世界では菅さまと同じ学校に通い、一つ上だったとか……」

よく知ってるな。と思いながらも

キーン……と耳鳴りが酷い耳を俺は軽く叩く。


……何、それは本当か……


ライグァークの興味を引いた様だ。

両目が煌々と輝き始め、真っ赤な巨大口からは炎が漏れ出した。

「この方が菅様並みに強くなられることは、私が保証いたします」

「どうでしょうか。この方が充分に強くなられたら

 貴方様の元へ赴いて、菅様の代わりに決戦をするというのは。

 我々が、決戦場の設営などは、責任をもってサポートいたしますわ」

「貴方にとっては仇討ちと、因縁の相手との決戦という

 二つの目的を同時に達成できることになります」

リサは焦らずに言葉を区切り、ゆっくりと説明していく。


……待つのは気に食わぬが、まぁ、よいだろう……機械人は嘘がつけぬからな……


ライグァークが大きな目を見開いて口を開け、なんと了承した。

喋りながら口の端からは燃え盛る炎が噴出し始めている。

「代わりにと言うのもなんですが、

 今回はあなた様の居住地まで、このまま、お帰りになってもらえませんか」

リサがライグァークに向けて頭を深々と下げたので、俺も真似して下げてみる。


……分かった。機械人にそこまで言われては引き下がろう……

 だが、約束を努々忘れるでないぞ……


リサは、無言のまま再び頭を下げる。

大きな翼を広げたライグァークは逆さの城壁の横腹を軽く蹴って

黒雲の中、南側へと飛び去っていった。

俺はその場にへたり込む。上手くいった……。

リサは黒雲の様々な方角を向いて、独り言を呟いている。

どうやら通信のようなことをしているようだ。

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