王都ローレシアン
港を出ると、眼前には広大な城下街が左右に広がっていた、
建築用法も様々で、レンガの家、から鉄筋コンクリのような低いビル
そして端の方には和式っぽい木造の家まで見える。
港から中央の城まで伸びる広いメインストーリートには
土砂降りの雨にも関わらず様々な人々が行き交う。
馬車から徒歩、子供から老人までほんとうに様々だ。
異種族は、ぱっと見居ないが、アルデハイトのように擬装した魔族や
聞いたように姿を変えた機械人雑ざっているのかもしれない。
俺たちは小さな港から出て、遠くに見える巨大な真っ白な城郭を目指して歩き出す。
レインコートと靴を失くしたアルデハイトには
ルーナムが予備のレインブーツとレインコートを渡した。
「凄いな……。みんなそれぞれに好き勝手な建物なのに調和してる感じがする」
俺はメインストリートの左右の建物を見回しながら呟く。
様々な店屋や事務所が居並ぶ両脇はカラフルだ。
「スガ様のご威光でそうなりました。
一応建築基準はあるのですが、基本的には行政は関与しません。
ですが、民が結果的にスガ様の"多様性を尊重する"意図を汲み取ったようです」
ルーナムの言ってることは半分くらい分からんが
うちの高校の後輩は、その後この世界で結構えらい大人になったらしいな。
と俺は解釈した。
「旦那、俺にはこの街にスガ様を尊敬してる感じがしますわ。
じゃねえとこんなに面白い街にはならねぇ」
レインコートのフード越しに横を歩くザルガスも頷く。
もう街中なので、元盗賊団たちも思い思いの位置で
好き勝手にローレシアン王都を見物しながら歩いている。
「ここの正式名称ってなんだっけ?」
ミーシャがみんなに尋ねる。
「ああ、王都ローレシアンというそのままの名前ですよ」
ルーナムが答えて、遠くから走ってくる数台の黒塗りの大馬車に目をとめる。
「迎えが来たようです」
「流れ人タジマタカユキ様と、そのご一行でございますね?」
馬車から降りて駆けてきた
真っ白な鉄鎧を着込んだ細身の女性兵が俺たちに訊ねる。
「そうだ。この方がタジマ様である。くれぐれも失礼の無いようにせよ」
ルーナムは俺を指し示し、そして背後でこちらの状況を見つめている元盗賊団や、
御者席に座るメイドたち、そしてボーっと周囲を眺めているアルデハイトを
さらに見て
「彼らは全てタジマ様の大事なお仲間である。こちらにも礼を欠かすな」
と釘を刺す。
白鎧の女性兵はビシッと敬礼をして
「了解いたしました!ルーナム第三王子補佐官!」
そして、いそいそと俺たちを黒塗りの三台の大馬車の中へと
それぞれに案内し始めた。
セミーラが若干気になったが、馬車から降りてきた彼女は
メガネやマスクでよく変装していて、
ぽっちゃりとした大柄な女性にしか見えなかったので安心した。
中へ入ると広いスペースにフカフカの座席が並び、とても座りやすい。
ドラマとかで見たリムジンの内装のようだ。
俺たちの馬や馬車たちも全て兵士が乗り込み、中央城へと連れていってくれるらしい。
ルーナムはアルナを誘って残るようなので馬車の窓から顔を出して訊ねる。
「いかないのか?」
「我々はアルナの母親へ会いに行くのと
シンタロウ様のお墓参りを済ませてから、向かいます」
「ここまでくれば、もう安心でしょうから」
ルーナムがレインコートのフード越しに微笑む。
ほんとすいません、主に俺とアルデハイトが、大変ご苦労をかけました……。
「ごめんなさい!でも母さん、会いたいだろうから……」
「いってきなよ。二人ともゆっくりしてきて」
「ありがとうございます!」
レインコート姿のアルナはフードを脱いで頭を下げた。
隣でルーナムも頭を少し下げた。
三台の黒塗りの大馬車は城へと静かに走り出す。
「ふーっ、長かったねぇ。少しゆっくりできればいいんだけど」
隣の席のミーシャが座席に身体を沈める。
「なんだかんだで一人も欠けずに王都についてよかった」
後部座席のザルガスが髭を触りながら、静かに呟く。
「……これから……タカユキ様……これからが……大変」
ミーシャの隣のマイカがレインコートのフードを脱ぎながら呟いた。
ザルガスとモーラとミノを挟んで座っているアルデハイトがつまらなそうに
「おそらく、すぐに戦乱の起こっている南部へと狩り出されると思いますよ。
とはいえこんな人間の野蛮国、ほっといて行かないのも、良いと思いますがね」
と放言をして、ザルガスに殺気の篭った目で睨まれ、モーラとミノが
「まぁまぁ抑えて」とザルガスを止める。
「我等魔族と新しい国たてましょうよー。タカユキ様ならそれができますよー」
アルデハイトは放言を続ける。
「そのくらいにしとけ。とりあえず様子見よう」
「軍隊よりもこわい竜いるんでしょ?」
アルデハイトの放言を止めた俺にミーシャが訊ねる。
「らしいな」
そうだ、誰にも話していないが、仇の俺を探し回っているという巨大竜だ。
怒り狂って八つ当たりで城一つ潰したらしい。
しかしよく考えたら、城一つ潰したということは
潰したのはその竜だとしても、間接的に俺のせいで、人に迷惑かかってるということだよな……。
話を聞くと、どうにかできるような代物ではないらしいが
それでも人の道として放っといていいもんなんだろうか。
と俺は腕を組んで難しい顔をして考え込む。
窓の外では土砂降りの街並みが通り過ぎていく。
「なに考えているの?」
ミーシャが顔を覗きながら訊ねてくる。
「んー夕飯何がでるのかなって」
怖がらせないようにごまかすと、ミーシャは嬉しそうに
「きっと凄いのだよ。兄さん、流れ人だしー」
と膝の上に甘えるように乗ってきた。
「ごうかなお夕飯……それはロマン……ロマン……それは……みはてぬ夢……」
よくわからん表現でマイカもミーシャに同意した。
三時間ほど馬車は広大な城下町の大通りを走り続け、
馬車内の俺たちもいい加減眠くなって来たころに、
真っ白な城壁をもつ中央城の正門へとたどりつく。
「ホワイトリールの城門の二倍くらいあるよ……」
窓際をマイカと変わってもらったミーシャが目を見開いて驚く。
「話には聞いていたがここまでとは……」
ザルガスたちも窓に顔をくっつけて外を見つめている。
巨大というかもはや、巨人のための門のような正門を馬車は潜っていく。
「大きくした理由があるんですよ。
たぶんマシーナリー絡みでしょうね。あーやだやだ」
眠そうなアルデハイトは俺の居る前部座席に乗り移ってきて、
馬車の天井を見つめながら煩わしそうに呟いた。
よくわからんけど、何か重い理由がありそうだな。
と俺が思っていると、扉の開いた城内へと馬車がそのまま乗り入れる。
武骨な石道を過ぎると、いきなり左右が菜園に変わる
色とりどりの野菜や果物が飼育されている。
あれ、ここ光が入ってるのに雨降ってないぞ。
窓際のミーシャが振り向いて教えてくれる。
「よく見えないけど、菜園の天井は透明な板になっているみたいだね」
そうなんだ。どういう仕組みかはわからないけど、
菅が何か凝った城を創ってたのは、次第に理解してきた。
菜園を過ぎると、再び石畳になり、その大きな通路の中心で三台の馬車は停まる。
前部と後部の右側の扉が開けられ、
さきほどの白鎧の女性兵士が部下と共に俺たちに声をかける。
「お降りになってください。
長旅でお疲れでしょうから、城内に皆さまのためのお部屋をご用意しました」
「会見とかはどうなってるんでしょうか?」
ザルガスが女兵士たちに問いかける。
「明日、すぐに行われる予定ですが、なにぶん南部のことで立て込んでおりますので
明言は控えさせて頂きます……」
「了解です。というわけです旦那」
「わかりました。皆をお部屋に案内してあげてください」
俺の言葉に女兵士たちは頭を深く下げて、
馬車から次々に降りてくる仲間たちをそれぞれに分かれて案内しだした。
しかしこの世界に来てからよく頭を下げられるなぁ。
みんなから尊敬されることなんて何ひとつしてないのに。
マイカが大馬車内から、彗星剣ルートラムとミーシャの大弓と矢筒を取り出して
きて俺たちふたりにに渡す。
「いらないと……おもうけど……一応……もっていけ」
「お、おう。ありがとな」
俺たちは意図が分からずにマイカから受け取り
それぞれに腰や背中に装備した。
と俺は思いながら、腕を組んでスキップしているミーシャと
後ろからソロりとついてきているマイカと
女性兵士から城内の奥へと案内されていく。
入り組んだ通路を抜けて、階段をあがり、人気の無い廊下を進む。
通路のガラス窓からは土砂降りの城下街がよく見える。
もうけっこう歩いた。若干不安になってきたので訊いてみよう。
「遠くないですか?」
「タジマ様には特別室がご用意されています」
そしてミーシャとマイカを見て
「お二人はここからのご同行はできれば……人を呼んでお部屋に案内させますから……」
と心底困っている顔をする。
「……つれてけ……われら一心同体なり……」
「なり!!」
ミーシャは絡ました腕の力を強くした。
女性兵士は困った顔をしてよくわからん抗議をした二人を見た後に
そして俺の顔を見てくるので
「この子は俺の義兄弟で、この子はシンタロウ・スガさんの関係者だから
心配しなくていいよ」
と通じるか分からんが、一応言ってみる。
「……わかりました」
女性兵士は何とか納得したようで、再び前へと進みだした。
一心同体になったつもりはないんだが、
ついて来たいというこの子らを無下にはできんだろ。常識的に考えて。妹と仲間だし。
しかし長い。こんなに長い距離歩かされる意味はあるのだろうか。
楽しそうなのは俺とデート気分のミーシャだけである。
「おとなしく……したがえ……面白いもの……たぶん、見られる」
マイカが後ろでボソッと囁く。
「う、うん?」
「そろそろ……つく」
前方の通路行き止まりに幾重にも重なった
緑色に発光する鉄鎖で厳重に封鎖された扉が見えてきた。




