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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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32/1587

クラーゴン

関所の城門を潜ると、数名の兵士にさっそく呼び止められる。

すぐにルーナムが応対するために馬を降り、

話し込みだした。

周囲を見回すと

同じように兵士から止められている旅人たちがいる。

雨期だからなのかもしれないが、それほど多くはない。

ミーシャにこっそりと尋ねてみる。

「あれが憲兵?普通の兵士と変わらないけど」

鎧の色こそ赤ではないが、ラングラールの配下の兵士たちと

出で立ちはほとんど変わらない。

「いや……憲兵は見たらはっきりわかるよ……」

ライオネルから降りて手綱をもっているミーシャが怯えながら呟く。

ということは今のところ、まずい事態にはなっていないようだ。

ルーナムと話し終えた兵士たちは、全員に氏名を聞き、

馬車内を一通り調べたあと

「通ってよしっ!!」

と土砂降りの空に向けて大きく号令をかけた。

俺たちの一団は高い木柵で区切られた関所の奥へと進む。

「厳重なんだな」

「いまはゴルスバウがいるからね。とくに厳しそうだね」

敵対勢力がいるから仕方ないか。と思いながら

俺は木柵に広く区切られた区画を観察する。

木造平屋建ての大きな建物が数棟と

二十メートルくらいありそうな高いと物見塔がひとつ建っている。

中から顔を穴の空いた黒い頭巾で隠した兵士たちが数名駆け寄ってくる。

「憲兵だ……」

ルーナムがすぐに前に出て、事情を話し始める。

今度は短く済んだその話の後に、ルーナムに俺とザルガスが呼ばれ

一番奥の建物へと案内される。


建物の広い玄関を潜り、

レインコートを脱ぐと、やたら入り組んだ廊下を案内される。

この構造は、たぶん攻められたときの防衛的ななんちゃらかなと思いながら

大人二人についていくと広い部屋に出た。

奥の窓の手前に置かれている作りのゴツい机に座っている

メガネをかけた険しい表情の五分刈りの男が立ち上がり、

俺たちに近づいてくる。勲章をつけた軍服はまさにザ・憲兵隊幹部といった感じだ。

「あら、ルーナムじゃなーい」

う。オネェだ。このしゃべり方はオネェの人だ。

引き締まった四十男の見た目に、似つかわしくないオネェ言葉でその男は

嬉しそうな表情で、いきなりルーナムと親しく喋り始めた。

「久しぶりだな。クラーゴン」

「久しぶりも何も、二ラグヌス(年)ぶりよ。さすがに避けられているのかと思ったわ」

「いや、そういうわけではない。若様の面倒を見なければならなかったのだ」

「ふーん。このボーイが流れ人様?」

「ああ、タジマタカユキ様だ」

「かわいいわねぇ、流れ人じゃなければ

 適当な濡れ衣被せて、弱ったところを食べちゃいたいわ」

ぞぞぞっ、と俺の全身に鳥肌が走る。

「冗談ですよっ。あははは」

「……」

そしてクラーゴンはザルガスの顔を見つめる。

「あなた。元レッドミラブの一員でしょ?何してるのこんなところで」

「いえ!自分はタジマ様の一番弟子であります!」

直立不動でクラーゴンの目を合わせない様に天井を見て

ザルガスは何かをごまかす。レッドミラブ?聞いたことないぞ。

「まぁいいけどね。別に罪ではないわ」

「ところで、ルーナム。

 私んとこに魔族を仲間にしたとか、ミルバーン城事件への関与疑惑とか

 色々、あなたたちの悪い噂が流れてきてるんだけど……」

「な、なんのことかな、クラーゴン」

「まぁ、憲兵部隊長の私にだって分かるわよ?

 我々の国法は、あくまで"人のための法"だってことはね」

そして俺の前に来て

「おそらく、この子は世界の様々な形を作り変えてしまうわ。

 我々のあり方も含めてね。それはスガ様が以前やったことだから誰だって分かるわよ」

「でもねー。私の今の仕事は残念ながらローレシアン王国の憲兵長なのよね」

「……見逃してはもらえぬか」

冷や汗をかいているルーナムの顔をクラーゴンはニヤニヤと眺め、

「ねぇ、取引しない?」

と微笑んだ。窓の外では雨が降り続いている。


「と、取引とは?」

「私、飽きたのよねー。関所の憲兵長なんて詰まんないじゃない」

「そういうことか、どうしたいか教えてくれ」

ルーナムは動揺をすばやく収める。クラーゴンは相変わらず微笑を絶やさない。

「うふふ、そうね。南のゴルスバウとの戦線が酷い事になってるのは

 あなたも知っているわよね」

「……それで良いのか?もっと良い条件でも呑めるぞ」

「激しい戦場に居てこその私だと思うの。

 汚らしい戦場に咲く一輪の、三思の月に輝いたミュカスマ草……それこそ私よ!」

「分かった。ラングラール様とランハム様に連名で推薦状を書いてもらう。

 少し、机を貸してもらっても構わないか?」

「喜んでっ。ペンはそこよ」

机に座り書状を書き始めたルーナムを一瞥するとクラーゴンは

俺たちの前に椅子をもってきて座るように促し、

自らも椅子をもってきて座る。

「事情聴取と言う名の雑談をしたいんだけどよいかしら?」

「はいよろこんで!」

ザルガスが再びカチコチになりながら天井を向きながら答える。

「いいすよ」

俺も逆らったら面倒そうだったので合わせる。

「これでも昔は大隊指揮官でね。各地を転戦してたんだけど

 下手に出世しちゃって、気付いたらこんなとこに閉じ込められてたわけ」

「大変ですね」

「ま、やさしいのねぇ」

クラーゴンは微笑んでメガネのズレを直す。

「私の読みでは、あなた達もいずれ南に来ることになるわ。

 きっと面白いものが沢山見れるわよ」

「質問よろしいでしょうか?」

「どうぞオピキュアンさん、あ、今はザルガスか」

悪戯っぽく笑いながら、クラーゴンはザルガスを指差す。

「……ゴルスバウとの戦線は現在どうなっているのでしょうか?」

「面白いことになってるわよ。見る?」

そう言いながら、クラーゴンは地図を棚から出してきて

小さな机を引っ張ってきて、そこに広げる。

そこには、ローレシアン南部での

相手方の勢力と、味方側の損害が日付と共に細かく記載されていた。

勢力圏の違いも色分けされている。

「居ても立ってもいられなくなって、こんなものを作っちゃったってわけ」

書いてある字が数字以外ほとんど読めない俺にもわかる。

ローレシアン側の劣勢だ。城さえ獲られてはいないが

領地が虫食い状にかなり削られている。

「これは……一ラグヌス(年)後には丸ごと獲られますな」

ザルガスが髭をさわりながら唸る。

「でしょうね。相手方に"凶"という戦士が出てくるまでは

 こんなに酷くはなかったんだけど……」

まただ。"凶"。ゴブリンたちの話にも出てきた。

偽者の救世主とか流れ人とか言っていたな。

「ゴルスバウ自体の勢いもだいぶ落ちてきて、本来ならもう

 ローレシアン八宝使うほどの戦ではなかったはずなのにねぇ」

ふと地図の東部を見るとミルバーン城の記載も克明だ。

おそらく二日前の俺らのことまで書かれている。

「ああ、そこね。少し前に魔族"二名"が戯れに、

 城を解放したのではないかと云われてるらしいけど……」

俺の目線の先にあるものに気付くと

意地悪な微笑を浮かべてクラーゴンは俺の顔を見つめる。

「ある筋の情報によると、真実は魔族一名とあと"何か"だと聞いたのよねぇ。うふふ」

「もう一度、質問よろしいでしょうか?!」

遮るようにザルガスが質問を被せる。俺は目線でありがとうと告げた。

「どうぞ」

クラーゴンは無表情で答える。

「東南部近辺で、火の帝王ライグァークの活動が活発化していると聞いたのですが、

 本当でしょうか?」

ライグァーク?どっかで聞いたような……。

「ああ、超大型ドラゴンね。あなた、ガーヴィーって知ってる?」

うお、師匠の名前だ。いきなり出てきた。

「はい!草原地帯に隣接した樹海の主ですね」

「不確定だけど、そいつが最近、何者かに殺されたらしくて、

 その仇を怒り狂って、探し回ってるという話よ」

まじかあああああ。いや、あれは致し方なく……。

俺だって師匠殺したくなかったに決まってるじゃないか……。

凹んでいる俺に気づかずに、二人は話を続ける。

「ドラゴン二体はどんな関係だったのでしょうか?」

「夫婦とも親友とも云われているわ。正確には不明だけどね」

そこでルーナムが書状を書き終わった。

「よし、クラーゴン。これをホワイトリール城に急ぎ届けてくれ。

 お二人がすぐに推薦状を王都へと送ってくれるはずだ」

「ありがとねぇ。これで戦場へと戻れると思うとウキウキしちゃうわ」

クラーゴンは書状にキスしそうになり、慌てて綺麗に畳んで

机の引き出しに収めた。

そして部屋の扉を開け、二名ほどの憲兵を呼び寄せると低い声で

「うおっほん!では、東部憲兵長の権限において命ずる。

 ルーナム第三王子補佐官たち一行は問題なし、検査無しで通してよい!!」

ルーナムはクラーゴンに深々と頭を下げ、俺とザルガスも真似をした。


何とか関所に入ったときと変わらないまま出られた俺たち一団は

皆一様に胸を撫で下ろしながら、王都へと向かう。

「さみしかったああああああ」

と何故かライオネルの上で泣くミーシャを宥めながら

俺は土砂降りの雨の中を進んでく。

昔関所で余程のことがなんかあったんだろうな……。

怖いので聞かないけど。

しかしやっぱりルーナムには迷惑かけたな。

切り抜けたからいいようなもんだけど

軽々しくアルデハイトや俺の力を使うと大事になりそうだ。


そうこう考えているうちに

広く南北に伸びる数十メートルほどのとても高い崖が遠くに姿を現す。

崖の上からは、何本も大きな滝が流れているのが見える。

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