表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/1568

脱走

「ハーディーだ」

「タジマです」

翌日朝早く、教育施設に送られる馬車の中で

俺とおっさんは始めて名前を教えあった。

おっさんは隣国の村で教師をしていた人らしい。

村から遠出して釣りをしていたところ、

たまたま付近を訪れたゴルスバウ王国の人狩り隊に捕まったそうだ。

そして半年もあの牢と強制労働を行き来して

昨日とうとう出所できることになったということだ。

二人ともまだボロを着て、足首には重い鉄玉がついたままだ。

「だがタジマよ」

とハーディーさんは真面目な顔をして

「むしろこれからが本番だ」

と俺を見つめながら小さな声で話す。

「どういうことですか?」

中々覚めない夢に俺はとまどいながら尋ねる。

「彼らは思想教育と言う名の洗脳を囚人に施す」

「本当ですか……」

「ああ。そして洗脳してからは兵士として戦場に送り出すんだ」

「まずいじゃないですか」

「そうだ、だからな……」

ハーディーさんはごにょごにょと俺に計画を告げる。

「……わ、わかりました。やってみます」

馬車は朝日の中を、森林地帯に差し掛かった。

「すいませーん!!」

「なんだ」

俺の声に、馬車内の角で俺たちを見張っている警備兵が反応する。

「そこの窓から、森の中にでっかいドラゴンがみえたんですけど」

「なにっ!!どのような形だ」

「黒い鱗と燃えるような真っ赤な眼玉でした」

「ライグァーク……」

顔色の変わった警備兵が呟く。

「火の帝王だ!!俺たちを狩りにきたんだ!」

ハーディーさんが大げさに驚いてみせ、その言葉に警備兵も動揺を隠せない。

「ちょ、ちょっと待て、御者に確認する」

警備兵が後ろを見せたそのとき、ハーディーさんが手刀で軽くその後ろ首を叩く。

即座に気絶した警備兵の顔を確認すると、

その腰にあった両刃の剣をぬきとり、素早い剣さばきで

俺の足かせを脚から外した

「すごっ、何ですかそれ」

聞くまでも無く、ハーディーさんから馬車の外へと蹴り出される。

同時に俺の目の前の地面にその剣が投げられて突き刺さる。

「一緒に逃げないんですか!」

そう訊く俺にハーディーさんは笑顔で馬車の後部から手を振った。

御者は後部での騒動に気付いていないようで、

俺からどんどん遠ざかっていく。

「逃がしてくれたのか……」

俺は地面から剣を抜くと手に持ち、わき道から林道へと入っていった。


森の中はうっそうとした木々がどこまでも広がり、

太陽光がその間から気持ち良さそうに降り注いでいる。

俺は何となくだが、目印になるような木に剣で印をつけていった。

子供のころ、村の森で遊ぶときによくやった方法である。

とはいえ、戻ったって仕方ないんだが。

とにかくおまじないのように目印をつけながら、俺は歩き続けた。

裸足の足元は森の草木でボロボロになるはずが

傷一つついていない。

夢だからか不思議と疲れもあまりしない。

俺は一日中、休みもせず、何も食べずに森の中を歩き続けた。

そして、ぽっかり開けた場所に小さな滝と池、

そして小屋がある場所を発見した。


コンコンと小屋のドアをノックしてみる。

誰もいないようだ。

ドアノブをまわすと、ドアが音も無く開き

「おじゃましまーす……」

俺は中に入っていく。

室内には、小さなキッチンと、奥には書斎と綺麗なベッドがあった。

書斎の本を手にとって読んでみようとする。

読めない。少なくとも日本語や英語ではない。

アルファベットも使われていない。

「あら、お客さんかい。珍しい」

女性の声に振り向くと、ふくよかな五十くらいのおばさんが立っていた。

金髪でショートカットの頭には魔女がかぶるような大きな帽子をかぶり

身体にぴったりの紫のローブ姿である。

「あ、どうも、迷ったんですけど、どこ行けばいいか教えてくれますか?」

おばさんはしばらく値踏みするように俺を見つめると、

「とりあえず、何か食べていくかい?」

と優しい顔で提案してくる。

俺はとくにお腹はすいていなかったが、おばさんの話にのることにした。

悪い人ではなさそうだし、俺も人に聞かないと行き先が分からない。

キッチンのテーブルに並べられた椅子に座って

食事を待っている間、おばさんはずっと喋り続ける。

「私の魔術を破ってこの小屋にたどり着いた子は久しぶりだよ」

「はぁ……」

「どんな運命をもっているんだろうねぇ」

「……」

変な人かなと不安になりかけていたときに

料理ができあがる。

キノコの入ったスープと、よく焼けたパンとジャムの瓶が添えられていた。

「毒なんて入ってないからね。ささ、食べて食べて」

おばさんは、俺の向かい側に着席すると

ゆっくりと食べ始めた俺の顔を頬杖ついてジッと眺める。

「ふーむ……1人ではないのか……」

また独り言を喋り始めたおばさんを見ないようにして俺は食べる。

意外と旨い。

「四人……いや、少なくとも五人だね」

「その剣は?」

おばさんは俺が壁に立てかけておいた抜き身の剣を指差す。

「人のです。借りてきました」

脱走してきたと正直に言うのもどうかと思い、一応ウソが無い程度に答える。

「そうか……」

「武術や、物を振り回した経験は?」

「……一応、運動くらいなら」

俺は中三までは野球部である。

「ふむふむ。行くあてはある?」

「……いえ」

あるわけがない。

はやくこの悪夢覚めないかなと思いながら答える。

「あなた、しばらく私からローレシアン剣術を習いなさい」

おばさんは、俺の顔を真剣に見つめながら言い放つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] どういうことだハーディー 一人残って、異常がないふりをして時間稼ぎしようってこと? 何故初対面の人間にそこまでしてくれる それとも別の事情があるのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ