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トーキング フォー ザ リンカーネーション  作者: 弐屋 丑二


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雨期

「今、魔族がそこにいたんですかい!」

ザルガスは俺の話を聞いてすぐに手下へと呼びかける。

「おい、ミノ!」

「へい、御頭!みんな行くぞ!!」

ミノはライガス他三名を連れて酒場をすぐに出て行った。

席へと戻ると意識を戻したミーシャが

「あ、あれ?さっきのあいつは?」

と訊いてくる。

「去っていったよ」

「それは?」

小さな黄金の笛を指し示してミーシャが尋ねる。

「あいつが置いていった。吹いたらすぐくるとか言ってたな」

「……吹いてみない?戻ってくるかもよ」

「いや、少し様子を見よう」

アルデハイトに悪意よりむしろ気弱さしか感じなかった俺は

笛のことはしばらく黙っていてくれとミーシャに念を押して

その黄金の笛をポケットの中へと突っ込んだ。


昼食を全員が済ませたところで

俺が、再び魔族と接触をしたということを全員に伝達される。

そのことを伝えられたマイカは今度は

「……うん……そんなことより、雨……くる」

と曇り始めた天候を見上げ、心配し始めている。

「雨期だ……」

同じく空を見上げ、肩を落としたミーシャは、

馬車から白いレインコートの様なものを出して羽織り始める。

「雨期?雨がいっぱい降るの?」

日本で言ったら梅雨みたいなもんかね。

「水棲族……元気、なる」

マイカはそれだけ答え、出発の準備をすばやくし始めた。


白いテカテカしたレインコートのようなものと

ゴムのような物質でできたレインブーツを全員装着して

俺たち一行は町を出て、西の王都の方角へと道を進む。

もちろん俺の分も馬車に用意されていて、少しサイズが大きかったが

とりあえずミーシャに言われるがままに着た。

まだ空は曇っているだけで、雨は一滴も降っていないが

道行く人たちも殆ど似たような格好になっている。


一時間ほどそのまま進んでいると雨がゆっくりと空から落ちてきて

すぐにバケツをひっくり返したような土砂降りになった。

見回すとレインコートのフードの下の顔は皆うんざりしている。

「どのくらい続くの!?」

雨の音で遮られるので、俺は馬上のミーシャに大声で尋ねる。

ライオネルを俺の近くに寄せたミーシャは

「半ワンハーくらい」

「ワンハーって?」

「大体、十二分の一ラグヌス(年)」

つまりその半分だから、半月ってことかと俺は大雑把に解釈する。

「雨は嫌だなぁ……」

そんなに嫌かなぁと思いながら俺は歩き続ける。

台風が近づいてきて学校休みのならないかワクワクしたり

梅雨のときに、坂道の脇の水路を流れていく大量の雨水が何か非日常という感じで

好きだった子供だったのだ俺は。

水泳も嫌いじゃないしな。

泳ぐのは下手だと山口からはよく言われるが。

地球にいたころを思い出しながら歩いていたら、

先導しているルーナムの乗った馬の足が止まる。

近寄っていく俺たちに、ルーナムは馬を寄せてきて

「何かあったようです」

と前方の小さな川にかかる橋を指差す。

ミーシャが後方の二台の馬車や元盗賊団たちに一時停止を伝えにいっている間に

俺とルーナムは、人だかりができている橋へと近寄る。

人だかりの中を、馬を降りたルーナムと進んでいき、

橋の欄干から下を見てみると、どうやら子供が一人落ちて、

濁流の中、何とか橋脚にしがみついている耐えているようだ。

母親らしき女性がレインコートを脱ぎ捨てて「助けてくれ」と

周囲に泣き叫んでいる。

しかし周りの人々は首を振るばかりでどうしようもなさそうだ。

……これは流れ人である俺の出番なのではないか。

と俺はつい仏心を出してしまう。

人を押しのけてこちらへと走ってきたミーシャに

さっきの黄金の笛を預け、

「役に立つか分からんけど、俺に何かあったら吹いてみて」

そう言付けた。

周囲の人からロープを借り、服を下着以外全部脱ぎ

そのロープを体と橋の欄干にしっかりくくりつけ

準備運動をしてから欄干からゆっくり下へと降りていく。

濁流に入った、ああやっぱりか、流れは強いが冷たくない。

こっちにきてから異常に身体が強化されているのは、いい加減分かっている。

俺は橋脚につかまった子供に上から投げられたロープを固く結ぶと

橋上へと上げるように叫んで、無事に子供が引き上げられていくのを見届けると

自分も登ろうとロープに手をかける。

その時だった、濁流の中から飛び上がった

巨大な海老のような形状をした青い生物が俺の伸びているロープを

鋭いハサミで切り、

そして態勢を崩した俺は、濁流の川の中へと呑まれていく。

……調子に乗ったからかああああああ。と思ったのもつかの間、

俺は水を飲み、意識を失う。



次に意識を取り戻したのは、さっきの橋の上だった。

「げっふ、あれ……?」

水を吐き出したあと、周りを見回す俺を取り囲んでいた人々や

元盗賊団や、ルーナム、アルナマイカ、ミーシャがホッとした顔をする。

そして俺は俺の身体にまたがっているアルデハイトに気付いた。

全身を雨に塗れて真っ赤な顔の彼は

「よかった……」

と俺の胸の心臓あたりに当てていた両手を外し、体から降りる。

「なんでお前が?」

「お仲間が笛で私を呼んでくれたのです」

「こいつ、すぐ空から飛んできましたぜ……一瞬で旦那を水から救い出しやがった」

微妙な表情のザルガスが腕を組みながら言う。

周りの元盗賊団も何とも言えない顔をしている。

そして仏頂面で、物凄い怒った雰囲気のミーシャが

苛立った様子で自らのレインコートのフードを脱ぐと、

いきなり俺に顔を近づけ

全力で唇にキスをした。

「んんーっ!」

「おい!魔族だかミ族だか知らないが!兄さんの唇は私のものだ!」

「あ、え、ちょ……」

あの、どうなっているんでしょうか……。

「人工呼吸してた……うまかった……」

マイカが冷静にアルデハイトを指差しながら、自分の言葉にウンウンと頷く。

ああ……そういうことなのね。

息が荒れていて、真っ赤な顔のアルデハイトは

「いかがでしょうか?ご気分は悪くないですか?」

俺にかがみこんであくまで献身的に尋ねる。

「うん……ありがとう……。ちょっと馬車の中で話そうか……」

助けてもらっておいて、何だけど、こうなんというか

この色んな胸のモヤモヤはなんだろうね。……うん。


感謝を告げる親子に応対するのもそこそこにして

心配するルーナムさんや皆には、馬車内で休むから

気にしないで進んでくれと頼む。

身体も冷えるし、大雨のなかにずっと皆で居るのはよくない。

アルデハイトと俺から離れないミーシャを

マイカが御者をする大馬車の中へと連れて行く。

中には、ザルガスとモーラ、

さらには盗賊団最長老らしいナバという白髪で無口な男が待っていた。

話し合いの間、ミーシャの馬のライオネルは

ライオネルと相性がいいらしいミノに乗ってもらった。


大雨が馬車の天井に打ち付ける音を聞きながら

俺たちは話し始める。


「まずは、助けてくれてありがと」

アルデハイトはタオルで雨でクシャクシャの髪を拭いながら

「いえ、私の使命ですから」

と答える。ザルガスたち三人は、ジッとアルデハイトの様子を観察している。

ミーシャは座った俺の背中に抱きついて

背中越しにアルデハイトをジッと見つめる。

「あのロープを切ったでかい青いのは何?」

振り向いてミーシャに尋ねてみる。

「シュプリンだよ。水棲族でいう馬とか犬みたいな感じだね。

 雨期が近づくと、野良で川を昇ってきて悪さするのがいるんだ」

「……そうか」

この世界には知らないことがまだまだ多いようだ。

「で、さっき聞き忘れたけど」

「はい」

「あなたは、どっから来たの?」

「ローレシアン北部領のさらに北部のマカブルスという町からです」

ナバの耳打ちを聞いたザルガスが

「魔族の町だそうです」

と俺に告げる。

「ふむふむ。やっぱり、誰かからの命令的な感じ?」

「いえ、我々は完全民主主義の合議制ですから、

 魔族議会の多数決による決定により

 客観的な判断で、能力的に妥当な私が派遣されました」

「……?」

ん、いま民主主義と言ったか。

しかもなんか公正で平等みたいな話してたのは

高二の俺にも何となく分かる。

「もしかして、意外と進歩的な感じ?」

「はい。争っていては、少ない我々の数が更に減るだけですから。

 法と議会で我々は国家を運営しています」

うむ。小さいが民主主義国家だったとは……。

俺はアルデハイトを見て、唸ってしまう。

そこでナバに再び耳打ちされたザルガスが

「騙されたらいけねぇて言ってます」

と俺に告げる。

それを見たアルデハイトは頭をかきながら、

「人間たちとは、権利意識の違いがありますからね……」

と俯きながら答えて

「差別的になるといけないのですが、

 王政による支配に慣れた人間たちと

 我々、民主主義の魔族の人権や権利意識は大きく差があります」

「なんだこらあ!てめぇ、大人しく聞いてたら

 分けのわかんねぇこと、さっきから抜かしやがって!」

ザルガスが珍しくぶち切れて立ち上がり

モーラとナバが二人で止める。

あまり魔族に良い思い出はもっていないのかもしれない。

俺も別に高校の公民の授業を真面目に聞いては居ないが

中世的な封建主義の世界観と、民主主義的な世界観のギャップは

なんとなく分かる。

「タジマタカユキ様でしたよね」

「なんで知ってるんだ」

「申し訳ありません。事前にツテを手繰って調べました」

アルデハイトは仲間から抑えられているザルガスの方をまったく見ずに

話を続ける。

「空に浮かぶ冷徹な三思の月の様な雰囲気がありますが、

 朝日を待つ希望の匂いも確かにする、すばらしいお名前だと思います」

出た。俺の名前例えられシリーズである。

今のところ例えに使うモチーフが被っていないのが凄い。

「タカユキ様は、おそらくこの星よりも文明の進んだ世界から

 いらっしゃったのでしょう?」

「んー、多分そうだと思うよ。この世界を全部は見てないけど」

「ならば話が早い。我々の国へとおいでください。

 きっと心地よいと思いますよ」

そこでザルガスの握り締められた拳が、アルデハイトの頬めがけて飛んでくる。

それを見もせずに、あっさり左手で受け止めると

アルデハイトは、力を入れて簡単に押し返した。

ミーシャの背中にまわした腕の力が少し恐れから強くなる。

そこで俺は熱くなっているザルガスにはっきりと言う。

「ついていく気はないから安心してくれ。

 話が聞きたいだけだ。今はアルデハイトの話を聞いてやってくれ」

アルデハイトは俺に座ったままうやうやしく頭を下げ、

ザルガスは「……わかりやした」と口を結んで、

モーラとナバの後ろに下がった。観察に徹する気になったようだ。

そこでモーラが尋ねる。

「アルデハイトさんは、旦那が魔族の国へといかなかったら

 ずっと着いてくるんですかい?」

「……」

とても長い沈黙が流れる。

そこで俺はアルデハイトが

俺以外にそもそも、まったく興味をもっていないのに

なんとなく気付いてしまう。

もしかして下等生物の人間は眼中にないので聞こえないのか。

「おい、アルデハイト。モーラがきいてるぞ」

「ん、ああ。何て言われました?」

「タジマの旦那が魔族の国へいかないなら、

 ずっと俺たちに着いてくるんですか?」

アルデハイトは整った顔を顰めて考え

「そういうことになりますね」

と俺の方を向いて答えた。もうモーラに興味を失ったらしい。

もしこいつの性格が標準的な魔族に近いのなら

根っから体育会系で、真っ直ぐな菅がぶち切れて

魔族をシメまくったであろうことも容易に想像できる。

確かに、外見も含め、能力的に遥かに上の種族に

こういう態度をされ続ける人間側はたまったもんじゃないだろうな。

しかし、俺は元体育会系とはいえ、どっちかというと不真面目だったし

来るもの拒まず、使えるものは使うタイプなのだ。

「よし、決めた」

いきなり立ち上がった俺を皆が見つめる。


「助けられた恩もあるし、お前もついてこい」


顔を向けられたアルデハイトが頭を再びうやうやしく下げる。

「ただし……」

「はい」

「一緒にいるからには、この一団に居る人間の名前と顔を全て覚えろ。

 あと他の人間とも、バカにせずにちゃんと話をしろ」

あからさまに不服そうな顔をしているアルデハイトに、

「そうしたら俺は、魔族を悪くは扱わないと約束する」

とさらに告げる。

「そう言われては仕方がありません。承りました」

アルデハイトはため息をつきながら、了承した。

土砂降りの外では遠くから激しい雷の音が聞こえ出した。


ルーナムがこれ以上は雨で進行不能という判断を出したのだろう。

俺たち一団は、王都への道を逸れ、

近くの大きな街へと入っていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公以外の人間にこんな態度取ってたら、そりゃ嫌われるわw でもマーシャの部族に対しては親切だったんだよね? なにか理由がありそうだな
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