夕食
俺、ミーシャ、ザルガス、ルーナムと
ルーナムから呼ばれたアルナで、
ランハムと夕食の食卓を囲む。
一般の家庭でも使われているような使い込まれた
細長い質素な食卓にローソクが何本か立てられている。
神にお祈りを捧げているみんなの横で
手を合わせて小さく
「いただきます」
と呟くと、ランハムが
「それ、それよ。マサキ様も食べる前によう、しとりましたわ」
ランハムが皺だらけの顔をくしゃくしゃにして喜んだ。
「懐かしいのう。若いわしが出会ったころは
マサキ様は五十を越えとったが、瞳がまだ、青年のようでのう」
ランハムは、食事をもってきたメイドに目で礼をしてから
「さあ、どっちからマサキ様のことを話すかね。わしか、それともタカユキ様か」
と俺をジッと見つめる。
俺の隣の隣の席では、すでにアルナが凄い勢いで食べ始めていて
俺の隣席のミーシャが微妙な顔でそれを見ている。
ルーナムとザルガスは俺たちの会話に注視しながら
夕食に手をつけ始めた。
「俺からいいですか?」
「うむ。ありがたく聞かせていただきます」
ランハムは俺の方を向き、目を閉じて聞き入り始めた。
俺はルーナムにホワイトリール城の食堂で話したのと
ほぼ同じ話を聞かせた。
彼が一学年下の後輩だったこと、
小さな町に住む同じ一員だったこと
野球と言うスポーツのエースピッチャーだったこと、
努力家で、とても爽やかないいやつだったことを
自己紹介代わりに俺の話も交えて、丁寧にゆっくりと話し終えた。
目を見開いたランハムが思わず、ナプキンで溢れる涙を拭きながら
「年取ると、涙腺が弱くなっていやだな」
と俺にくしゃくしゃの笑顔で笑いかける。
俺は何と言葉をかけていいか分からない。
始めて聞いたザルガスは髭を触りながら唸っている。
俺にとってはまだ二ヶ月も経っていない話である。
「わしの知ってるマサキ様そのものだと思ってな」
「あれは得がたい人だった……」
日に良く焼けたこの老人は、ワインに口を少しつけると
俺の目を見据えて話し始めた。
彼が若いころ会った菅正樹は、先ほど話したように
もう五十歳超えていた。しかし、たまたまローレシアン北部で
魔族との紛争解決のために一兵卒として従軍していたランハムの
才能を見出してからは、とてもよくしてくれたそうだ。
坊主で無精髭を蓄えた筋肉質な菅は、武器の使い方から
兵士の動かし方、他種族との折衝の仕方、この世界の裏の仕組み
そして女の口説き方まで、丁寧にランハムに教えたという。
「ここで長いこと、作物作って、時々領内の揉め事を解決していたら
殆ど忘れちまいましたけどな」
ランハムはくしゃくしゃの笑顔で俺に笑いかけ、
そして話を続ける。
その後も菅の補佐官、後の副官として、
各地の紛争解決に転戦していたランハムが四十のころ、
このパーシバル城を与えられ、
ミイ・スガ、その他数人とと共に大老の地位を与えられた。
そのころ菅は七十歳をとうに越えていて、
自分の死後にもローレシアンが平和であるように
国家のシステムを磐石にしていくことに専念していた。
ランハムも菅が生きているうちは、王都とパーシバル城を往復して
中央政界に顔を出していたが、その内
高齢だった菅も死に、国葬で王都に埋葬され
国内も治安が安定したので、
父親が早世し、幼いころこの広大な領地を与えられたラングラールの
後見役をしつつ、パーシバル城で食糧生産に専念することにした。
今でも時々、菅のことを思い出す。
「マサキ様は最後まで、一人の爽やかな青年のようでしたわ」
ランハムは再び涙を拭いながら、ワインに口をつけた。
「以上だ。なんか質問はあるかね」
皆を見回す。
ザルガスが緊張しながら
「いいですかい?」
と手を小さくあげる。
「この世界の裏の仕組みとは?」
確かにそれは俺も気になっていた。
ガーヴィー師匠始め、変な生物には沢山会ったが、
意外と地球と同じ物理法則に支配されてそうな感じはする。
人々の暮らしぶりを見て、政治の話なんかも聞くと現実感しかないし。
「ああ。口ではとても言えんような、恐ろしいことが色々あるんよ。
あんたもタカユキ様に着いていく気なら、覚悟だけはしといた方がええよ」
ランハムはごまかしつつ、微笑みながら忠告をする。
「はいっ」
ミーシャが元気良く手をあげて
「どうぞ。妹さん」
「マサキ様は強かったんですか?」
と期待した目で俺と交互に老人を見つめる。
「そりゃあもう、鬼神のように強かったよ。
激戦地ではローレシアン八宝を同時に幾つも、
自らの手で扱い、敵を殲滅してたわ」
「うわー、兄さんもそうなるのかなぁ」
「どうやろねぇ。戦えばいいってもんでもないからなぁ」
またも微笑みながら老人はとぼけた。
俺もついでに質問してみる。
「女にもてたんですか?そういうイメージないけど」
「でたらめにモテとったですわ。
わしが傍でお仕えしていた、中年の時分も言い寄る女が絶えなかったから、
若いときは……おそらく、なぁ」
「奥様も五人おられますよね」
ルーナムがさり気なく補足する。
「そうじゃな。そして子供は大老ミイ様含めて、十人ですな」
うーむ。羨ましいような何というか……。
早くも、わけの分からない女子三人の面倒をみさせられている
俺と天と地ほどの差があるというか。
「やはり、ラングラール様の戦術的なご指導はランハム様が?」
「そやねぇ。色々教えさせて頂きましたわ。
つまりマサキ様の弟子がわしなら、孫弟子が若様やねぇ」
質問したザルガスが納得して唸る。
確かにラングラールは変態だが、戦は上手かった。あくまで変態だが。
よし、いい機会だし聞いてみよう。
「ラングラールとメグルスのことはどう思ってるんですか?」
ルーナムがあからさまに顔をしかめてそむけ、
ミーシャが二の腕の鳥肌を触る。ザルガスはかなり聞きたそうな顔だ。
アルナは何も話をきかずに、相変わらず食い続けている。
「ぶっ」
ランハムは予想に反して、噴出しそして
「あっはっは!!」
部屋中に響く声で大笑いしだした。
「タカユキ様は面白いな!!ルーナム!!……お若いからかなぁ」
「ええ……」
答えに困っているルーナムを見つめたあとランハムは
「元民間人であることや、蓄積される"穢れ"の問題、そして八宝使用者の生存率の低さから
色々言われてはいるが……」
「わしは早く結婚したら良いと思いますがな。王家にも常々そう言うておりますよ」
「……」
ランハムはどうやら好意的に二人を見ているようだ。
対照的にルーナムは黙ってしまった。
「何よりメグルスがかわいそうでしょう。早く王族として迎えてやればよい」
茶目っ気のある顔でランハムは、ルーナムを見つめる。
「……考えておきます……」
居心地悪そうにルーナムは、呟いた。
「おいしかったー……すぴーっ」
食べ終わると、いきなり幸せそうな顔で
居眠りを始めたアルナをランハムは見つめ
「この子をどう思います?」
と俺にまっすぐな目を向ける。
「いや……まぁ、なんというか、よく食べるなぁと」
ルーナムに昨日のことを言っていいもんか、視線を向けると頷いたので
ランハムにメイドたちの人払いを頼んで
昨日体育館もどきの武道場で起こったことを、声を潜めて詳しく説明した。
これは、始めて聞く話であるザルガスとミーシャも、驚きながらも、
聞き漏らすまいと耳を傾ける。
「そうですか……。確かに隠しておいた方がよいかもしれませんなぁ。
どれほどのものかまだ未知数ですが、もしマサキ様ほどの力があるとなぁ……」
「厄介ごとに巻き込まれるね」
ちょうど食べ終わったミーシャも深刻そうな顔をしてウンウンと頷く。
「流れ人の子供たちって、親の才能受け継がないんですか?」
俺は再び聞いてみたいことをランハムに問うてみる。
「ほぼ次世代で才能は消えますなぁ。
二割程度の才能を受け継いだと云われる大老ミイ様ですら、
"ローレシアン奇跡の子"と讃えられていますから」
ランハムは、眠り込んだアルナを眺め
「もしも何かの間違いで、ほぼ、そっくり才能が受け継がれていたら
まぁ、他国や他種族がアルナを狙いますわな。戦力のほかにも研究対象として」
ランハムは真面目な顔でアルナを見つめる。
そこで時間もちょうどよくなったので、夕食はお開きになり、
俺たちはそれぞれに割り当てられた城内の自室へと帰っていく。
当然俺にはミーシャとマイカもついてくるのである。
寝入ってしまったアルナは、ルーナムが気を利かせて
空いたミーシャの部屋へと連れて行った。
「さっきまで……星空……見てた……ほし……すごい……みろ」
自室に入った俺たちはマイカから促されて、ベランダへと出る。
おんぶがマイブームらしいミーシャが俺の背中で
「うわー、綺麗だねーっ」
と感動の声をあげる。
不思議と重さは感じないので俺はミーシャの好きにさせつつ
晴れ渡った夜空を見上げると、
物凄い数の大きな流星が夜空を斜めに横切り続けている。
かなりこの星に近いな。ぶつからないかな、
とか地球にいたときのネットで知った浅い知識で、
俺はその大流星群を眺めながら考える。
「高いとこ……いいな……そこ、わたしに……かわっていけ」
羨ましそうにじーっと、俺の背中を眺めるマイカにミーシャは
あっかんべーをした。




