体力的才能
翌朝、起きてから
俺たちはメイドたちに手伝われて正装した後に、
ルーナムからホワイトリール城の玉座の間に案内される。
アルナとマイカはその後すぐに、メイド達の待機室へと一旦帰っていった。
「兄さん、ドレスって重いんだねぇ……」
青い布地に赤色の刺繍が施されたドレスの裾を引き摺りながら
ミーシャが文句を言う。
俺も真っ白のタイツに真っ赤なスカートの貴族服を着せられ
かなり不自然な格好だ。
「我慢しよう。毎日これじゃないだろう」
途中で俺と似たような格好をしたザルガスも合流して
城の三階奥へと執事服を着てモノクルを片目にかけたルーナムが案内していく。
長く広い、壁に数々の装飾品がかけられている廊下の先には
巨大で重厚な木製の扉があり、「つきました」とルーナムが
声をかけると内側からゆっくり開いていく。
中に入ると、奥の玉座にまで敷かれた真っ赤なカーペットがまず目に付いた。
そこを四人でゆっくりと進んでいく。
室内は朝日を宗教画らしきものが描かれたステンドグラスが
反射して幻想的な雰囲気だ。左右の奥の壁には等間隔で厳しい兵士たちが並ぶ。
「ようこそ。我が城へ。昨日はお世話になった」
ルーナムが右胸に腕を引き寄せて頭を下げたので
俺たちも一斉に真似をする。
頭をあげると、一段上の玉座に座ったラングラールが微笑んでいた。
その一段下の向かって左側には、これまた真っ赤なドレスを着たメグルスが控えている。
その腰には立派な剣を携えているのを俺は見つけた。
普段から警護役なのかもしれない。
「メグルスさん、まともな格好してるの始めてみた」
ミーシャが俺に囁く。
「さすがにな……」
そりゃ、一応正式な会見の場っぽいのにエロい格好はダメだろ。
ルーナムが一歩進み出て、口を開く。
「若様。昨晩、私がお話はつけました」
「そうか……で、何と?」
「正式に協力してくださると、気持ちよくご快諾いただけました」
ラングラールは玉座から立ち上がり、俺たちの方へと歩み寄る。
「ありがたい。我が国はこれで蘇る」
一人ずつ握手を求める。全身に鳥肌をたてながらも
ミーシャも何とか手を握った。
玉座に戻ったラングラールにザルガスが手を上げて発言を求める。
「なにかな?」
「知ってるかもしれませんが、ザルガスっていいます」
「もちろん覚えているよ。森では貴殿にも樹精討伐にお世話になった」
「ありがとうございます。我々はこれから王都へと向かうのですよね?」
「そうだな。明日には発ってもらいたい。すでに連絡はしてある」
「王国とのパイプ役っつうと変かもしれないですが、
俺たちがちゃんと王国との交渉できるように
ルーナムどのを貸してもらえませんかね?」
「ふふ。そう言うと思っていた。すでにルーナムにも許可を与えている」
ラングラールはルーナムを指し示し、ルーナムは頭を下げる。
「もちろん、ただで貸すわけではない。この私が君たちの正式な後ろ盾という形にはしてもらうぞ」
「ええ。才能豊かなランクラール王子にならば、我々も喜んで。ね、タジマの旦那?」
「うん。それでいいよ。助かります」
よくはわからないが、とりあえずここは
信頼できそうな大人たちに任せるのが良いだろう。
「ではすまないが、これで会見終了だ。
私はこれから、遠征で失った兵たちの遺族への保障を話し合わねばならぬ」
ルーナムが一礼をして、俺たちも真似をしたのを見届けると
素早く退出していく。
俺たちもそれに続いて玉座の間から出て行く。
「王子様っていそがしいんですねー。お城に居るときは遊んでるだけかと思ってた」
廊下を歩きながらミーシャがルーナムに話しかける。
「ええ。若様は村七百、城五十の巨大な第三王子領を管轄していますから。
寝る間も惜しんで、領土の運営、防衛、経済などに日々頭を使われています」
ルーナムが自慢気に胸を張る。
「ここだけの話、王子には超無能も居るって聞いてますがね?」
ザルガスから意地悪な質問を投げかけられたルーナムは毅然として
「まぁ……確かに酒色に耽っているお方もおられますが、
ラングラール様は間違いありませんよ」
一瞬メグルスのことが頭に浮かんだが、空気を読んで俺は黙る。
「……その超無能がゴルスバウ国と対峙してるんでしょう?
何でも大老ミイ様が手を回して何とか保っていると。貴国も大変ですなぁ……」
「……」
来たばかりなのにやたらと王国内部事情に詳しくなったザルガスの言葉に
ルーナムは表情を消して黙ってしまった。
しゃあねぇ、フォロー入れとくか。
「ルーナムさん。不快に思ったらすまない。
ザルガスは俺たちや配下の安全のために、少しでも情報が欲しいんだよ」
「タジマ様……」
複雑な表情でルーナムは考え込む。
その後ろではザルガスは恥ずかしそうに頭と髭をかいている。
ミーシャが俺に微笑んで、
「明日までに一日あるんでしょ?私たちは何してたらいいんですか?」
と助け舟を出した。ホッとした顔のルーナムが
「私としては、アルナとマイカをお仲間の方々に紹介してもらいたいと思っています」
と歩きながら答えた。
昼過ぎに
城内二階の大きな日当たりの良い部屋に集められた十五人の元盗賊団
そして俺たちは、ルーナムによってアルナとマイカに引き合わせられた。
「あ、アルナでしゅ!これからよろしく!」
「でしゅー」
「かんでんじゃねーぞ、ぎゃはは」
「よろしくねー!!」
まずは壇上で挨拶して緊張でかんだアルナが屈強な男たちの洗礼を浴び
「マイカだ……きさまら……よろしくだ……」
「ふと眉かわいいねーっ」
「マイカちゃん結婚しようー!!」
「よろしくー!!」
スローでローテンションのマイカが意外とすんなり終えた。
ザルガスは壁の端によりかかって、微笑みながら煙草をふかしている。
壇上のルーナムが元盗賊団たちに問いかける。
「二人に何か質問のある人」
パーマで二つ分けロンゲのミノと呼ばれる浅黒い筋肉質な男が立ち上がり
「ふたりはタジマの旦那専用の娼婦なんですか!?」
と真面目な顔でボケる。全員ウケけている中で
「こらーっ!ころすぞーっ!」
「あぁ?なんだ小娘。旦那の妹だからって容赦しねぇぞ?」
ミーシャがいきなり立ち上がり、ミノと全力でガンを付け合う。
二人は放っておきルーナムがあっさりと
「そうですね。二人は娼婦ではないですが、
タジマ様の身の回りを世話してもらいたいと思っています」
とそれに近いことを認めた。たぶん他の男たちに手を出させないためだろうなと
俺は気付いたので、若干言いたいことはあったが、あえて黙っていた。
「ほらぁ!大体あたってたじゃねぇかぁ」
ミノが呆れながら手を広げて、全員がミーシャに大笑いしながらブーイングした。
「兄さんは私のものだーっ!」
何故か俺の手前に立ちはだかり、所有権を主張するミーシャに困りながら
「わかりました。二人ともよろしく」
と俺が壇上に昇り、二人の手を取って、ミーシャ以外の全員から拍手が起こる。
ミーシャは背中に飛び乗って「がるるるる」と全員に唸っていた。
そして解散ということになり、俺は自室に戻った。
もちろん当然のようについてくるミーシャ、マイカ、アルナ付きである。
元の世界にいたときは男友達と遊ぶのが楽で
つきまとう美射一人でもかなり手を焼いていたのに、三倍である。
しかもモテているかというと微妙に違う。
色んな事情でついてきてしまっている女子たちだ。
うむ。こんなときこそ。美射で養ったテクニックを使うときかもしれない。
何かをやってもらうのだ。
「マイカさん」
「……なんだこのやろ……タジマ様このやろ」
盗賊たちの無頼な口調がうつってしまったらしいマイカに
「ザルガスのところに行って、元盗賊団たちの全員の顔と特徴、あと馬車の操縦を習ってきて」
「……わかった……うま……すき」
マイカは素早い動きで、風のように部屋から出て行った。
野球部、漫画部と副部長を歴任して培われた俺の観察眼によると
マイカは言われたら完璧にこなすタイプだ。
目的はこちらが常に作ってやればよい。そうしたら勝手に伸びていく。
問題は、再び机の上の皿に盛り付けられたフルーツに
涎を垂らすアルナと、その周りを「がるるる」と唸りながら
うろついて威嚇しているミーシャである。
どうすべか、と元の服へと着替えながら考えている俺の部屋の扉を
先ほど発言したロンゲのミノがノックする。
「どうした?ミノ」
「みんな元気が有り余ってるんで、城内の武道場で組み手とかどうすか?」
「いいね。行こうか」
部屋に居てもヒマなだけである。
「決着つけたる!」
「あぁ?やんのかガキ」
再び目前でガンをつけあいながら歩いていく二人の後ろから
俺と「ぐーっ」とお腹を鳴らしているアルナが続く。
「終わったら、何か食う?」
うんうんと物凄い勢いで頷くアルナを見て俺は微笑んだ。
武道場は、小中高の体育館そっくりな作りだった。
唖然とする俺は歩き回って全体を見回る。
用具入れ、壇上、窓の位置、機械の放送機材こそないが、ほぼ一緒だ……。
どう考えてもこれはスガの発想だろう。しかしここまで再現するとは……。
「あいつ、もしかして帰りたかったのか……」
呆然と呟いている俺の後ろからバンダナ姿に戻ったミーシャが
「変な武道場だね。でも木でできてるから転んでも痛くは無さそうだ」
と声をかけて
「はいやーっ」
足を高くあげたあとに、正拳突きをする。
首をコキッコキッと鳴らしながら
ミノの方へと行き、それぞれの武術で組み手を始めた。
二人ともいい感じで互角である。
流れるように手足が打ち合い、受け流す。
素人目にも何か訓練を受けたのだろうなとということは分かる。
ミノは分からないが、ミーシャは遊牧民の村で教わったのだろう。
二人の周りでは、でたらめな型で残りの元盗賊団が組み手をしている。
よし、これでしばらくミーシャは静かになるな。
メイド服のままで、角に座り込んだアルナはボーッしている。
放っといてもいい気がするが……そこで俺はルーナムさんから言われた
"マサキ・スガの体力的才能をアルナがもっとも色濃く受け継いでいる"
というような言葉を思い出した。
「アルナさんは、武術とかは?」
「なっ、ないでしゅよ。ないないっ」
フルフルッと首を振り全力で否定するアルナに
俺は腰を落とした正拳突きの仕方を見よう見真似で教え、
「ちょっと、俺の拳に向けて、全力でやってみてくれない?」
腰を落とし、両手を重ねて、アルナの方へと向ける。
「……一回だけですよ……」
お腹を再び「ぐーっ」と鳴らしながら
やる気のないアルナは立ち上がり、腰を落とし
俺の重ねられた掌へと全力でパンチを繰り出した。
ズンッ!!
体育館もどきの武道場全体に物凄い衝撃が響く、
痛みも、怪我もなかったが
足元を見ると木の床が少し俺の足の形に沈んでいるではないか。
ミーシャと元盗賊団たち全員がこちらを呆然と目を見開いて眺めている。
パンチを繰り出したアルナは何が起こったのか分かってすらいないようだ。
ちょうど様子を見に入ってきたルーナムが、
慌てて俺たちの方へと近づいてきた。




