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菅正樹の子孫

「わっ、わたしもついていきましゅ……」

外に出ようとした俺とザルガスにアルナもかみながら慌ててついてくる。

「んん。ルーナムさんには三人だけでと言ってあるが……」

青髪の少女メイドを見つめ、眉をひそめるザルガスに俺は

「流れ人の孫らしいぞ。アルナ・スガというらしい」

「……ふーむ。そういうことか。思ったよりあの執事もやるな……」

ザイガスは髭をさすって、しばらくアルナを見つめた後に

「とにかく、行きましょう。地下の会議室まで歩かねばなりませんからな」

ザルガスは手招きすると、すぐに広い廊下の奥へと早歩きしだした。

三人で長い螺旋階段降り、通路を通り、そして螺旋階段を降り

階段をさらに降り、廊下に出て、一階のホールに出て

さらに階段を数十段降りると、ひんやりとした石造りの地下階へと出る。

複雑すぎてもはや俺の頭では、この城の構造を把握できない。

たった数時間で一人で案内できるようになったザルガスは、

いったいどんな頭をしてるんだろうと思いながら、俺はついていく。

後ろではアルナが目を回し気味にフラッとした。

俺はさっと手をとると手を引いて歩き始める。

たぶん食べすぎだろう。職業メイドとは一体何なのか……。


地下室の通路をかなり歩くと、大きな扉が見えてきた。

ザルガスがそれを左右に強く押し開ける。

石造りの広い部屋の中に、大きな長机がひとつ奥へと伸び、

ズラッと左右に並んだ椅子の、右側中心部で

スーツを着たルーナムが座り、本を読んでいる。

俺たちに気付くと立ち上がり、そして手まねきをする。

さらに俺に手をひかれてついてきたアルナをチラッと見て、微笑む。


ルーナムの座っていた椅子の近くの数個を俺たちは持ち上げ

ルーナムと三人でひざ付き合わせる形に並べる。

ルーナムは会議室の扉に素早くカギをかけた。

「失礼がたくさんあったでしょう?不慣れゆえに私が代わってお詫びいたします」

椅子に四人で座ると、まずはルーナムが俺に頭を下げた。

色々言いたいことがあったが、まぁいいかと

「いやいや、むしろ面白かったですよ」

と俺は受け流す。となりではアルナが申し訳無さそうに俯いている。

「そうですか……」

ルーナムは微笑みながら黙った。

「で、ルーナムさんや。もう旦那も英雄スガさんのことは知っちまったらしいぜ。

 その子が孫っていうのもな」

ザルガスがニヤニヤしながらルーナムを見つめる。

「ふむ……」

ルーナムはおそらく言うなと言われていた事を全部漏らしたアルナに

特に怒る様子も無く。冷静に俺たちを見つめる。

そしてゆっくりと口を開いた。

「何から話せばよいですかな?」

ザルガスがそれにすばやく返す。

「全部だな。どうしても言えないこと以外、全部話してもらおう」

「分かりました。長くなりますが、みなさま、眠くはないですか?」

すでに隣でウツラウツラと前後に揺れていたアルナがハッと起きて

「ねっ、ねむくないでしゅよっ!私を寝かせられたら大したもんですっ」

と何故か半目で座りながら胸を張る。

「寝てていいよ。いいですよね?ルーナムさん」

「そうですね」

「すいませ……ぐーっ」

速攻寝始めたアルナに、俺はため息をついて、他二人の大人は微笑んだ。

少し雰囲気が緩んだ会議室内でルーナムが穏やかな口調で話し始める。


マサキ・スガが、ここローレシアン王国に現れたのは九十ラグヌス(年)前のこと

当時、今のネーグライク程度の小国だったローレシアンを、

彼は十ラグヌスほどの瞬く間に

今に近い領土を持つ、豊かな大国に変えてしまった。

人々は彼を讃え、王室は鋭敏な彼を中心に回り始めた。


「そんなに凄かったのか」と俺は朴訥で真面目な菅を思い出し

首をかしげ、話を再び聞く。


ローレシアンの領土を確定させると、

彼は数人の達人たちと共に外の世界へと旅に出た。

十ラグヌスほどの期間、世界を回った彼らは

そこで「ローレシアン八宝」という八つの超強力な古代兵器を見つけ

本国へと移送した。

それらは古代に他種族が創ったものであるということ以外には

厳重な取り扱い方しか伝わっていない。


「その一つ、獄炎剣は見られましたね?」

とルーナムが俺たちに確め、二人で頷く。アルナは幸せそうな顔をして寝ている。


帰ってきたスガは、さらに十ラグヌスほど子作りと国内の安定に専念する。

複数の妻に六人の息子と、四人の娘をもった彼は

もっとも才能をもった娘の本家と、

そしてそれ以外の分家に子孫たちの家を分け、自らの死後は

本家に権力と資産を集中して継承させるように王家に言付けた。


「それでアルナが苦労してるのか……」

出来が良い子供に財産とか継がせたんだろうな。と俺は思う。

「アルナは、彼のお父上が四十七のときのひとり娘さんですね。

 お父上は一ラグヌス前にお亡くなりになられています」

とルーナムが付け足す。そしてさらに

「隠していてもいずれ分かると思いますので、今伝えますが……」

「ラングラール様にもスガ様の血が入っておられます」

「まじで!?」

変態だがあくまで金髪長身イケメンリアル王子のラングラールと

坊主でジャージ姿の菅のイメージがまったく俺には合致しない。

というか脳が考えることを拒否しつつある。


スガの子供たちをローレシアン王家が放っておくわけもなく、

本家の長女ミイ、分家の長男タカユキ、そして末子のシンタロウ以外は

皆王家へと嫁いだり養子に行き、スガの血筋はほぼ

ローレシアン王族に取り込まれた。

ラングラールの祖母はスガの娘である。


「ちょっと待て。ルーナムさん。スガの息子に俺と同じ名前が……」

それどころか美射の名前まである。ルーナムは、天井を見上げて

「我々国民には有名な話なのですが、前に居た世界で尊敬していた先輩たちの名前を

 思い出してそれぞれにつけたそうですよ」

「寂しかったのか……」

「かもしれません」

そりゃ何十年も異世界で戦ったり、旅をしていたら

故郷が恋しくもなるか。と俺はなんとなく考える。


本家の長女ミイは、一般人から婿をとり子供を生み、政治にもかかわり

国民全てから尊敬を受ける本家スガ家は未だに繁栄している。

六十七になる今も大老の一人として首都で存命である。

タカユキは今から四十五ラグヌス(年)前の

二十のころに他国へと旅に出て行方不明になり、

風来坊だったシンタロウは中年になったころに

やっと一人娘であるアルナをもうけた。


「うーっ、何か壮大な歴史だな……」

俺からしてみたらまだ数ヶ月前に

後輩で野球部エースであるスガと会ったばかりである。

だんだん頭がこんがらがってきた。となりで寝てるアルナも菅の孫だし……。


その後十ラグヌスは何事も無く平和な時代が過ぎていたのだが……。


そこで今まで黙っていたザルガスが、ルーナムの語りに割ってはいる。

「で、ゴルスバウ王国が、ここ十ラグヌスで急激に台頭してきて

 英雄スガの作り上げた、広大なローレシアン王国の領土が少しずつ食われ始めていると」

「はい……」

「そして焦ったローレシアンは、各地に討伐隊を派遣して

 自国の国力を必死に取り戻そうとしているわけだ」

「耳に痛い話ですが、その通りです」

「しかも、それらはかなり強引なので周辺国の尊敬も次第に失ってきているんだろ?」

「……」

ルーナムは黙り込む。図星だったようだ。

たしかにラングラールのネーグライク国への攻めは予告もなく強引だった。

幽鬼の森も本来は軍隊で越える様なところではないのだろう。

だが、犠牲をだしても急がなければいけない理由があったとしたなら、それも頷ける。

ザルガスは俺を見つめて、手で指し示し


「そして奇跡の旦那のご登場だな!!ローレシアン王国は

 現状を一気に打開できる最高の人材を手に入れたわけだ!」


と豪快に笑う。俺はどんな反応をしていいのか分からず苦笑いするしかない。

「ええ、ほとんど代わりに説明していただいてありがたいですが……」

ルーナムは言葉を濁す。

「どうしたんだ?まだ何かあるのかい?」

ザルガスは促し、ルーナムが小さく呟く。


「……おそらくゴルスバウ帝国にも流れ人が居ます……」


「んがっ、もう食べれないよぉ……いっぱい、いっぱいだよ……すぴーっ」

座ったまま寝ているアルナが、いきなり寝言を言い放った。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか主人公にまとわりついていた、 幼馴染の女の子じゃないだろうな そうだとしたらあっさりこちら側に寝返りそうだが
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