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アルナ

高い城門を潜り、そして建物の開いている巨大な扉から

メインホール内を通り抜けて、螺旋状の階段を昇った俺は

赤いカーペットが敷かれ、立ち並ぶ明かりで照らされた広い廊下を

メイドのアルナに腕を組まれたまま、引っ張られて進む。

せいぜい同世代くらいの女子の力と歩幅だし、

この世界に来てからやたらと鍛えられた俺には

べつに痛くもないし、早すぎることもないんだが、

こう何と言うか、接待とかそういう役割的には全然ダメなんじゃないか

この子は……という疑問が頭の中を過ぎる。

いや、別に十七で地球では高校生なので

社会でちゃんと働いたこともないし、そういう仕事の内容も知らないけど

どう考えても、これは無い気がするな……。

そんなことをずっと考えながら、引っ張られ続けていると

さらに階段を何回かあがり、ネーグライクに続いてまたも

高層階の部屋の前に案内される。

「タジマ様、こっ、こちらです……はぁ…はぁ」

息切れしながら、部屋の鍵を開けるアルナに

「ありがと。もういいよ」

と俺は手を横に振り、帰らせようとする。

「いえ!!ずっとついていろとルーナム様からは申し付けられています!!」

アルナは青い髪のショートカットを振り乱しながら頭を下げる。

「お、おう……わかった。とりあえず部屋の中でゆっくりさせてくれないか」

俺はその綺麗に清掃された大きな部屋に入り、

フルーツが派手に盛り付けられている机の近くに

ずっと着込んでいたプレートメイルと腰の剣を置いた。

重くは無いけど、やはり硬いものをずっと身体につけていると

何となく気が重かったんだな。と部屋の中で思いっきり両腕を伸ばす。

「……」

そしてそこで部屋の端で突っ立って、じーっと

机の上に盛り付けられたフルーツを眺めているアルナに気付き、

「……机の上の果物食べる?」

と聞いてみる。

「いっ、いえ!!とんでもないです!怒られます!」

とフルフルッと顔と手を横に振ったアルナのお腹がいきなり"グーッ"と鳴る。

「……どうぞ。一人で食べたくないから、二人で食べようよ」

俺は別にお腹は減ってないが、椅子に座り、

真っ青なミカンのような果物の皮をむき出した。

するとアルナも申し訳無さそうにゆっくりと隣の椅子に座る。

一口食べると貪るように一気に果物を食べだしたアルナを眺めながら

この子は絶対にメイドに向いてないな……と俺は思う。


とりあえず、食べ続けているアルナはおいておき、

俺は窓を開け、テラスへと出てみる。

真っ暗闇の中にキラキラと光る広いホワイトリール城下町の夜景が一望できる。

ラングラールかルーナムか分からないが、気を使って良い部屋を回してくれたのかな。

と俺は思って、部屋の中のアルナを振り返ると、

盛り付けられた果物を食べつくす勢いで、まだ貪っている。

よほどお腹がすいていたのだろう。

もう真夜中だし、ラングラールとの

俺たちの今後についての会議とか、正式な会見とかそういうのは明日だろうな。

そういえばミーシャは大丈夫だろうか……。

ザルガスさんたちは大人だから多分心配が無いけど、

ミーシャは……寂しがってないかな。と若干心配したが

まぁあいつも俺と会う前は遊牧民の集落で鍛えられていたはずだし

しばらくほっといてもいいか。と思いなおす。

そして再び、部屋の中を眺めると、果物を食べつくし

お腹をパンパンにしたアルナが

幸せそうな顔をして椅子で眠り込んでいた。

俺は、部屋から薄い毛布を探してきて彼女にかけてやる。

完全にメイド失格だが、別にまともな奉仕も求めてないので

まったく何とも思わない。むしろ静かにしてくれて助かる。

手持ち無沙汰なので、部屋の中を調べて回る。

寝室とここリビングが仕切られて、トイレに

そして何とシャワールームまである。

この世界って中世ヨーロッパぽいと思っていたら

意外と技術があるみたいだ。

恐る恐る蛇口を捻ると、高い位置に固定されたシャワーヘッドからは

ちょうど良い温度の温水が流れてきた。

石鹸とバスタオルやタオルもあるようだ。

「そう言えば、ここ数日お風呂に入ってないな」

俺は呟いて、自分の体の臭いを確めてみる。

武器を振るい、走り回り、汗もかいたのに、不思議と殆どしない。

とはいえ、やはり清潔にしておくに越したことは無いな。

俺は静かにシャワールームの扉を閉めて

服を脱ぎ、シャワーを浴び始めた。十分くらいかけて全身を綺麗にして

さっぱりしてバスタオルで拭こうとしたところで

いきなり、シャワールームの扉が開き、びっくりして見つめると

全裸のアルナがその先で腕で、胸や股を隠しながら、フルフル震えながら立っていた。

「お、お体、お、洗いしましゅ……」

緊張でかんだらしいアルナに一瞬気をとられたが

とにかく、俺は素早く扉を閉めて

「いや!!ほんといいっすから、ほんとすいません!いらないっすから!!」

扉の向こうへと全力で叫ぶ。

「いえ……ルーナム様からお前だけはタジマ様にあらゆることをしろと……」

アルナは何かを扉の向こうでブツブツと呟いている。

「服着てください!!すぐに!!」

「……はい、しゅいません……」

扉の向こうでゴソゴソと服を着ている音を確めると

俺は安心して、バスタオルですばやく身体を拭いて、服を着た。

扉をあけると、その前に座っていた涙目のアルナが正座して、俺に頭を下げる。

「不快にさせてすいません……」

「いや、ほんと頭あげてください。全然問題ないですから」

もはや俺はこの何をするか分からない女子に対して敬語である。

「ほんとに……?」

「気にしないでいいですって」

「大しゅきぃ……!」

何故か俺は思いっきり抱きしめられた。もういいよ。好きにしてくれ。

ミーシャよりはるかに凄いわこの子。こんなん俺の地元にもいねぇよ。

ナチュラル暴走モンスター女子だよ。

そして俺は、この子の身の上話を何時間も机に向かい合って聞くはめになる。


「そうっすか、名家の分家として苦労されたんですね」

引き続き俺は、敬語でこの子話を聞いている。

さっき食事係りの人が、豪華な夕食を部屋にもってきて

それももうとっくに食べ終わった。

お腹一杯のはずのアルナもまた、だいぶ食べた。

「そうなんです。ご本家さんはお金持ちなんですけど、うちは貧乏で……。

 このお仕事も、やっと親切なルーナムさんから紹介されて……」

「ちなみにご本家さんは、どんなおうちなんですか?」

「ローレシアンの英雄のお孫さんがいる家です……」

「ふーん。その英雄様はどんなことしたお方なんですか?」

「ローレシアン王国の危機を救ったお方です」

「その英雄様の名前とか、面白そうなお話ってあります?」

その話自体には別に興味は無い、むしろ俺はもう寝たい。

ただ適当に会話を繋げて、この子が眠くなるのを、ひたすら待っているだけなのだ。

そういえばザルガスがあとでルーナムさんと話がどうたら言っていたことを思い出したが

もう夜遅いし、おそらくは立ち消えになったか、明日にするんだろう。

「……」

いきなりアルナは黙り込む。しまった、適当に訊いていたことに気付かれたか。

と慌てて焦る俺を気にせずに、

「私が言ったって、絶対に秘密ですよ……」

と前置きしたあとも、かなり迷い、そして意を決して


「私の祖父でもある英雄の名前はマサキ・スガ様です。

 ……私はアルナ・スガと申します」


いきなりよく知った名前が出てきて、

眠気でぼうっとしていた頭の中を金属バットで思いっきり

叩かれたような衝撃が走り、俺はアルナを二度見したあとに、さらに絶句して

頭の中が真っ白になる。

マサキ・スガって……菅正樹、公立櫻塚高校のエースピッチャーで

山口や俺の学校の後輩の名前だよな。

いや、待てよ。たまたま他人で名前が同じってことも……。

うん。そうだ。そうに違いない。あいつまでも来てるわけが無い。

俺は恐る恐るアルナに尋ねてみる。

「その英雄マサキさんって、もしかして、

 "地球"ってとこからきた、"流れ人"だったりします?」

「……はい」

アルナはコクンと頷いた。

うわぁー、ほぼ確定じゃねぇか。あいつだ。

「ちょっと、待ってて」

混乱して顔から湯気が噴出しそうになってきた俺は話を整理しに

ふらふらとテラスへと出て行く。


1.高校の後輩、菅正樹がこの世界に来ていた

2.菅正樹はローレシアン王国の危機を救った

3.菅正樹はアルナのおじいちゃんである

4.他にも菅正樹の孫が居る


なんじゃこりゃー!整理してもさっぱり分からん。

つまりは菅は俺よりはるか昔にこの世界に来ていたことになる。

テラスで悶々と頭を抱えていると

部屋の扉がノックされて、アルナが応対しに出て行く。

「ん、お世話ごくろうさん」

「旦那ぁ、ルーナムさんが呼んでますぜ。旦那?」

小奇麗な格好をしたザルガスが、変な雰囲気を察知して

首をかしげながら部屋の中へと入ってくる。

「ザルガス……俺の元いた世界の知り合いが……この国に昔来てて……流れ人で……」

「あぁ……知っちまいましたか」

すぐ理解したらしいザルガスは部屋の扉を閉め、俺に顔を近づけると


「旦那で二人目です。この国に協力する流れ人は……」


と囁き、再び扉をあけ、俺を部屋の外へと誘う。

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